第十九章
パン職人シームの死体は街の広場に晒された。
窃盗と、捕らえに来た憲兵に襲いかかった罪だそうだ。
「とんでもない野郎だ」
「死んで当然だ」
「もう他国からエンディミオン街に入る奴を選別しようぜ」
シームの事切れた屍に、エンディミオン市の市民たちが口ぐちに罵声を投げつける。
「犬と並んで晒されるのがお似合いさ」
彼の愛犬だったアインは、喉を剣で割かれて、シームの遺体の傍らの木板に貼りつけられていた。
「ほんとっ、物騒だわね」
買い物に出てこの光景に出くわした、エンディミオン市のある夫人が、ため息をついて晒されたシームの死体から目をそらした。
「エンディミオン市の治安を荒らすからよ……」彼女はシームへの仕打ちは当たり前だと考えている。
だから顔を巡らせて集まる人々の顔を見回した。
誰かとこの話題を共有したかった。エンディミオン市民として、罪人の悪口を一緒に言ってくれる人を探した。
ふと気づく。
集まる人々とは少し離れた場所に、深い青色の服を着た女の子が立っていた。
金と銀色が混じったふわっとした髪の、可愛らしい丸眼鏡の少女だ。
夫人は彼女に近づいた。きっと一緒に卑劣なパン職人への悪口で盛り上がれるだろう。
「本当に、ぶっそうに……」
少女に気安く話しかけようとしたが、舌が冷え固まる。
いつの間にか少女は眼鏡を外していた。
瞳だ。
少女の緑色の瞳は、渦巻く暗黒により闇に塗りつぶされていた。
ぞっとする。
人を見てきた夫人は直感した。
──この子はマトモな娘じゃないわ。関わってはいけない……。
夫人は逃げるように彼女から離れた。




