第十六章
「それは、辞めろ……だめだ」
「どうしてだい? 憲兵隊長さん?」
ぶるぶるとヘルトランドの肩が震え、二人の部下が心配そうな視線を当てた。
「わかった! 犬でも好きに飼うがいい! 俺たちは知らない!」
ヘルトランドは怒声を上げると、木の床を荒々しく鳴らして踵を返した。
「……知らんぞ」
ヘルトランドが嵐のような足取りで出て行った。二人の憲兵、チュイとコトフも情けない顔で逃げるように追う。
「へ、ざまあみろだ。嘘つき憲兵どもめ」シームは満足げだが、ルナは彼らが消えた扉から目が離せなかった。
何か間違った気がする。何か悪い予感がする。
だが深く考える前に、彼女に歓声が飛んだ。
「ずっげえな侍女様! 助かったぜ! あー憲兵どもを追い出して、すかっとした!」
シームが目を輝かせてルナを賞賛する。
「い、いえ私は……」
「こいつは礼だ、持って行け」
ルナは両手に持ちきれないほど、パンやバゲットを渡された。中には当然、彼女の鉱物の甘いケーキのようなパンも入っている。
「こんなに……」
「なあに毎月銀貨二枚を考えれば、こんなの安いもんだ」
「ありがとうございます、シームさん」
ルナは柄にもなく浮かれてしまい、数秒前の不安を忘れた。忘れてしまった。
彼女は雲の上を歩くような心持ちで宮殿に帰り、たくさんのパンにわくわくした。
だがマリアに目ざとく見つけられ、散々ねだられたので、断腸の思いで半分を渡した。
砂糖のまぶした甘いパンを食べながら、ルナは微かな時間、幸福だった。
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