第十四章
マリアは手が離せない様子だったので、オータンの店への馬車に一人乗ったルナは、到着した店でブノアトに深い青に金糸の服を渡された。
「はい、出来ているよ。あんたにはきっと似合うだろうさ」
ブノワトは服を広げてルナに合わせて見せた。
確かにあれだけ細々と測られた効果が現れているようだ。その服が自分にぴったりだとルナにも分かる。
ぶわっと胸の中に温かな感情が広がり、彼女は焦った。
──ダメだ。これはあくまでも自身を偽る服。喜んではダメ……。
「ありがとうございます」ルナはいつもの作り笑顔で服を受け取ると、オータンの店を出る。
まだ日は高く、案外簡単に用事を済ませてしまった。
ルナはやや迷ったが欲望に抗せられず、彼女をここまで送ってくれた、バルーシュタイプの馬車の御者に、いくらか銅貨を握らせた。
「行きたいパン屋があるんです。お願いします」
酒のせいか年のせいか赤ら顔の御者のおじさんは快く頷き、数日前に行ったシームの店の前まで彼女を連れて行ってくれた。
シームの店は繁盛しているようだった。
木製の粗末な小屋なのだが、見るからに清潔で、食品を扱っているシームの気概が見える。
ルナは店先に繋がれているアインに手を振ると、店の扉を開けた。
「いらっしゃい! ああ、あの時の侍女様かっ!」
彼はルナを覚えていたらしく、パン職人の顔のまま笑みを零す。
「近くに来たものですから」
「ふふふふ」シームは何やら企んだ様子だ。
「甘いパンだろ?」
「な、なぜそれを!」
目を丸くするルナに、シームはにやりとする。
「オレはこれでもパン職人だ。客の嗜好は見抜けるさ」
自慢気なシームは一つのパンに指をさす。
「このフィナンシェはアーモンドのケーキだ。これならお気に召すと思うぞ」
「甘いですか?」
「甘いさ」
うふふふふ、と二人で含み笑いをしていると、乱暴に扉が開かれた。
「いらっしゃ……」咄嗟に反応したシームの声が固まる。
雰囲気を察したルナが振り返ると、あの時の憲兵達がいた。
チュイ、コトフ……そして……。
チュイはどうやらルナの針の毒が回ったらしく、布で右手を吊っているが、それどころではない。
ヘルトランドだ……『あの男』が今彼女の目の前にいる。
ルナの右手が自然にスカートのウエストベルトに伸びる。




