ep.9
「あ?何って…!?」
「どうした、んだよ…」
「やべ…」
泣きじゃくった顔で見えたのは昼休み食堂で挨拶を交わした人物だった。
「なに、してんのって聞いた」
「あ、あはは。嫌だなあちょっとしたお遊びですよ」
「そうそう!学園に慣れたいって言うから!」
「じゃあ気持ちいいことでもしちゃう?みたいなあ」
そう…と言いながらスッと細められた目に耐えられなくなったのか三人はそそくさとその場を離れようとした。
そう、したのだ。
ドッ、ガッ、ゴッ…と音が鳴り響きその場にバタバタと三人は倒れた。
「もう、だいじょぶ…、だから」
「ま、お…せんぱ…」
「……ん」
そこに現れたのは真緒だった。
横たわり動けなくなっていた那月を見て目を細める。
目の前にはボロボロになった制服と見るからに乱暴されたであろう悲惨な光景が広がっていた。
「おそく、なって…、ごめんね…」
「まお、せんぱ…、せんぱ、い…」
安心したのかまたポロポロと瞳から涙が溢れ落ちる。
パンツとスラックスを履かせボロボロになったワイシャツを一応と羽織らせその上から自らの制服の上着をかける。
そうしているとどこからかバタバタと足音が聞こえた。
「風紀委員会だ、って高良?」
「……橘、おそい」
「これでも急いで来たんだよ、文句を言うな。と言うか何故ここに高良が居るんだ?」
「…さん、ぽ、してた、ら見つけた」
「なるほど、そういう事か。それで被害者は…」
「ひっ…」
思わず真緒のワイシャツを掴む。
怖い、怖い、怖い…
「安心して、僕たちは君に危害を加えたりしない」
「ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
そう言いガタガタと震える那月を真緒は抱きしめ頭を優しく撫でる。
「だい、じょぶ…、だいじょぶ…」
「うっ…ぐすっ…」
「何があったのか事情を聞きたいが無理そうだね、高良が来た時何を見た?何があった?」
「……ごう、かん」
たった一言、そう言うと橘はああ、と納得した。
「三人を今すぐ風紀委員室へ連れて行け、ここは僕に任せて後は見回りに戻れ」
テキパキと指示を出し橘はその場に残った。
高良の腕の中で泣き付く生徒は見たことが無い顔だったので多分噂の転入生だろう、そう結論付け話を進めていく。
「高良、その子が例の転入生か?」
「……ん」
「はあ、何故こんな所に。大方散策でもして迷子になったんだろうが初日からこんな目に遭うとは」
「………おこ、らないで」
「怒っていないさ、ただ誰も付いていてやらなかったのか、と思ってね」
チラッと那月の方を見ると泣き疲れたのかとても静かに目を閉じていた。
だがその手は真緒のワイシャツを離すことなく強く握りしめたままだった。
「風紀委員から高良が森へ入っていくのを見たと連絡が入った時は何事かと思ったよ」
「ご、めん…?」
「まあ、でもこうして強姦現場を取り押さえることが出来たからいいものの、…何処までされたか分かるか?」
「…ううん、でも多分、未遂」
「そうか…、落ち着いたら話を聞きたいがしばらくは難しそうだね」
「……一人、に、させたく、ない」
「だがこの子は一般生徒で寮も階が違うだろう、それは無理だよ」
「……でも」
「はあ、鳳たちと相談してみよう。それならいいだろう?」
「……! あり、がと」
「とりあえず、その子を寮まで送り届けようか。僕も着いて行くよ」
「…わかっ、た」
お姫様抱っこをする形で那月を抱き上げ、そのまま寮へと向かう。
腕の中で静かに目を閉じ、コテンッと胸に頭を預けてきたこの小さな子をこの手で守りたい、そう思った。




