ep.54
類が転校してからどれくらい経ったか。
僕の日常はいつも通り、って言いたいところだけど何故かさらに生徒会の人たちや風紀委員長から声をかけられることが増えた。
「なっちゃんまた捕まってたね」
「捕まっ…まあ、そうなるのかな…?」
「那月くん嫌なら嫌って言ってもいいんだよ?」
「なんなら俺らが言ってやろうか?」
三人が心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫だよ、話すの楽しいから」
「…ならいいけどさ、無理しちゃダメだよ」
「はーい」
僕の日常はいつも通り、って思い込むようになった。
白乃とのこと、類とのこと。
色々あったけど、今は何もない穏やかな毎日だ。
(今までが色々ありすぎた、って感じかな)
仕方ない、全部、全部。
そう思うことで一つずつに蓋をしていく。
思い出は思い出のまま綺麗に取っておく、それがいい。
多分、きっと。
「ねえ、そういえばもうすぐ夏休みだけど皆は帰るの?」
「俺は帰るぞ、てか帰って来いって言われてる」
「俺は帰りたくないから迷ってる〜、南となっちゃんは?」
「僕は帰るよ、まあ丸々1ヶ月じゃなくて半月くらいかな?予定だけど」
「僕は帰らない、かも」
それぞれの事情を言いながらああでもないこうでもないと話す。
(帰省、かあ。どうしよう、帰ってもなあ…。特に行きたい場所も無いしこのまま寮に残ってるのもありだな)
両親と仲が悪い訳ではないが、二人とも仕事が忙しくあまり家に居ないため悩んでいた。
そんな時に声をかけられた。
「伊奈瀬くん、良かったら家へ来ませんか?」
そう誘われたのはたまたま途中で出会った副会長の光だった。
「副会長様、こんにちは」
「佐々野先輩ちわっす」
「副会長こんにちはー!」
「はい、皆さんこんにちは。それで、伊奈瀬くんいかがでしょう?」
「あ、えっと…、でも僕…」
「帰省しないのでしたら、私の家へどうかと思いまして」
「め、迷惑じゃ…ないですか…?」
「そんなことないですよ。あ、でも兄と弟が居ましてもしかしたらうるさいかもしれませんが…」
「それは全然大丈夫です!ただ、僕がお邪魔して大丈夫かなと…」
「大丈夫だから誘っているのですよ。聞きました、真緒の親衛隊の方達とお茶会したみたいですね? 羨ましくて、私も伊奈瀬くんと何かしたいのです。だから、どうですか?」
「えっと…、じゃ、じゃあ…ぜひ」
ぱあっと笑顔になる光に那月はドギマギする。
「はい!詳しい日程はまたご連絡させていただきますね、連絡先を交換しても大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。えっと…これです」
連絡先を交換し、ではまたと嬉しそうにしながら去っていく光を見送った。
「なっちゃん、副会長とのお泊まり…楽しんで…ぐふっ」
肩に手を置かれ鼻血でも出るんじゃという勢いの浅見から声をかけられた。
「……まあ、大丈夫だと思うけど那月くん気を付けてね。色々と」
何か意味深なことを言ってくる南を見て首を傾げる。
「つまんない寮に残らなくなって良かったな!」
特に気にした様子もなく声をかけてくれる入江。
三人の様々な様子を見て、夏休みが少しだけ楽しみになった。
お泊まりに誘われてからあっという間に日は経ち夏休みに突入する前日、光からの連絡で«一週間ほど生徒会の仕事があるのでその後に帰ります。またご連絡します。»とメッセージが送られてきた。
終業式を終え、一週間後のお泊まりのためにいそいそと毎日準備をした。
結局三人とも帰ることになり、浅見が帰省した今部屋には一人だった。
帰省日当日の朝、浅見が泣きそうな勢いでなっちゃんと離れたくないと駄々をこねそれを入江が引きずりながら三人は家へ帰っていった。
「寮も人が減って静かになったなあ」
いつもどこかザワザワとしていた寮は帰省者が多く、静まり返っていた。
「気分転換に食堂行って何か甘いものでも食べてこようかな」
そう言い、部屋を出て食堂へと向かった。
食堂もパラパラとまばらに人が居るだけでいつもの騒がしさがなかった。
(ウエイターの人たちも夏休みだから少ないのかなあ)
なんて思いながら、タブレットを操作しスイーツの欄を見る。
「甘いもの…甘いもの…。んー、何がいいかな。パフェでも食べちゃう…?」
なんて独り言を言っていたら「食べちゃいなよー」
聞かれていた。
そう、聞かれていたのだ。
――生徒会の全員に。
「あ、へ?え!?」
「こんにちは、伊奈瀬くん。ふふ」
「俺もなんか甘いもの食べるか、疲れた」
「……ん」
「那月くんいっしょに食べよー?」
「生徒会のみなさん…」
「そんな堅苦しい呼び方しなくていいぞ」
「そうですよ、もっとフレンドリーにしてください」
「…な、つき」
「那月くんなに食べるのー?俺っちはねえ…」
な、何が起きているんだ?
まさかこんなタイミングで生徒会の人たちとお茶?することになるなんて。




