ep.52
名前を呼ばれ顔を上げると、そこに居たのは
「風紀委員長…」
目の前には橘が居た。
「どうして泣いてるのか聞いてもいいかい?……七海に、何かされた?」
「へ!?あ、る、類は関係ありません!いや、関係あるけど…」
「?? どういう事かな?」
「あ、えっと…」
先程まで類へのメッセージカードを作っていたこと、部屋までの帰り道で色々考えてしまい泣いてしまったことを話した。
「そういう事か、良かったよ。また何かあったのかと心配してしまった」
「あ、す、すみませんでした…」
「いいんだ、謝らないで。七海とは、その…」
「もうすぐお別れします」
「そうか…」
その一言を残し橘は何か考えるかのように黙ってしまった。
「風紀委員長…?」
「ああ、いや、すまない。ちょっと考え事をね」
「大丈夫ですか…?」
「大丈夫だよ、心配ありがとう」
「それならよかったです」
「伊奈瀬くんは、その…」
「……?」
言い淀む橘を前に何か言いたいことがあるのかと待ってみるが何も言わずに目線を泳がせていた。
「風紀委員長?」
「あ、いや、えっと…、や、やっぱりなんでもない」
何も言われていないのになんでもないと言う橘を見て、ただただどうしたのだろうと思うしかなかった。
(今伝えたところで、伊奈瀬くんの悲しさにつけ入るだけの人間になるだけじゃないか。そんな事はしたくない…)
少しだけ目を伏せ、ふうっと息を吐く。
大丈夫、僕はきちんと風紀委員長という人間を演じれる。
「呼び止めて悪かったね、部屋まで送っていくよ」
「え、でも…」
「泣いている生徒は放っておけないからね、行こうか」
「あ、はい。ありがとうございます」
「あの、風紀委員長は…、好きな人とか、いますか…?」
「へ!?」
「あ、いえ…、僕今類とお付き合いさせてもらってて…、恋愛ってこんな感じなのかなあって思っているというか…」
「伊奈瀬くんは、七海のことが好きかい?」
「えっと…、正直まだ分からない、です。お付き合いって言っても二週間だけですし恋とか愛とか、僕はちゃんと恋愛が出来てるのかも分からなくて、好きってこれで合ってるのかなあ、とか…」
「……分からなくていいんじゃないかな、どんな気持ちを抱いたとしても。それは伊奈瀬くんにとってとても大事なものになると思うよ」
「そう、ですかね…?」
「ふふ、きっとそうさ。だから大丈夫、素直に七海に伝えてあげて。きっと喜ぶ」
「…喜んで、くれるといいなあ」
キュッと手元のメッセージカードを握る。
ここに、僕の気持ちを書き残して渡そう。
口で伝えないのはズルいって言われちゃうかもしれないけれど。
笑ってさよならを言えるように、ここに全部、詰め込むんだ。
「部屋まで送ってくれてありがとうございました」
「いいえ、見回りのついでだったしね。気にしないで」
「なんか、いつも風紀委員長には助けられてますね、僕」
「ふふ、そうだね。でも気にしなくていいからね?これが僕の仕事でもあるんだから」
「お手間取らせて申し訳ないです…」
「気にしないの、ほら早く戻りな。またね伊奈瀬くん」
「はい、また」
(恋とか愛とか、僕はちゃんと恋愛が出来てるのかも分からない、かあ…。僕に勝算はあるのだろうか)
「……なんてね」
分からないなら分かってもらえばいいだけ、そう思いながら来た道を戻って行った。
「浅見くんただ、いま…」
「なっちゃんなっちゃん!何で俺じゃなくて南なの!?こんなメッセージ来たんだけど!?」
そこには南から那月くんに頼ってもらっちゃった、というメッセージと隠し撮りされて作業中の自分とピースをした南の姿が写っていた。
「いつの間に写真なんか…」
「ズルいズルい!俺も参加したかった!もう!」
「浅見くんごめんね?次はみんなで…」
言いかけてやめた、次なんてものは――
「なっちゃん?」
「あ、ううん。なんでも、ない…」
「? そっか?」
「ごめん、部屋戻るね」
泣きそうな顔を見られないように俯いて慌てて部屋に戻った。




