ep.5
――時間は少し遡り那月を職員室まで送り届けた光
「なんです、あの可愛い生き物は…」
無事に送り届けたからと足早にその場を去ろうとした際に、キュッと掴まれた制服に少し動揺してしまった。
少し上目遣いになった顔がこちらを覗き楽しかったという。
私はよく真面目すぎると言われることが多いので、そういった言葉をかけられたことにびっくりしてしまった。
ただただ、キラキラとさせた顔で楽しかったと、また喋りたいと、そう言ってくれたことがとても嬉しかった。
ふふっと、零れる笑みに私自身驚いてしまう。
「役得ですね」
なんて言いながら生徒会室へと向かい、会長へと報告しなければと思っていた。
ガチャッ…
「ただいま戻りました」
「おう、おかえり」
「光くんおかえりー」
「………ん」
各々が反応を返してくれたと思っていたら萊が勢いよくこちらへやって来て転入生はどうだったのかと聞いてきた。
「ねえねえ!転入生くんどんな子だったー?俺っち的には可愛い子がいいんだけどっ」
「大変可愛らしい子でしたよ、この先苦労するでしょうね」
「そんなに良かったのか?珍しいな、光がそんなに褒めるなんて」
「……い、子…?」
「はい、なんと言いますか… 儚い系美人ですね」
「? 写真じゃそんなこと無かったろ?」
「儚い系美人!?やばっ、俺っち会いたくなっちゃった」
「写真と実物とじゃ全然違いましたよ、誰ですあんな写真撮った人は」
「光がそこまで言うとかよっぽどなんだな」
「ねえねえ、かいちょー!俺っちも会いたい!あ、昼休み食堂とか行くかな?ね!今日みんなで行ってみようよ!」
「んー、まあ光がこんなに言う奴は俺も少し気になるな。よし、行ってみるか」
「………さん、せ」
「よーし!じゃあ昼休みね!約束だよ!」
「分かりましたから、それまでには仕事終わらせてくださいね?」
そう言うとはーいと返事をし自分の席へと戻り仕事を処理し始める萊だった。
(会長たちに伊奈瀬くんを合わせる、か…)
そう思った時に、チクリと胸の辺りが少し痛んだ。
……? 何故胸の辺りが痛んだのか分からずとりあえず自分も溜まっている仕事の処理をしようと席へついた。
「んーー!!終わった!」
「お疲れ様です、お茶でも入れますね」
「光くんありがとうー」
「会長と真緒も、一段落したら休んでください」
「ん?ああ、分かった」
「……ん」
給湯室へ行き、四人分のお茶を用意する。
それぞれ好みは違うが、把握しているためいつも通りテキパキと準備を進める。
カチャカチャと食器の音が鳴り響く中で考えるのは那月のことだった。
あの、フォグブルーの髪に自分も触れたいと思った。
なんの躊躇いもなく撫でていた町屋先生が少し羨ましかった。
なんて、考えて頭を振った。
「私にはそんなこと似合いませんし…」
ボソッと呟いた声は誰にも届かない、はずだった。
「何が似合わないって?」
「…え?」
給湯室の入口を塞ぐように立つ男、鳳 雅也がそう返してきた。
「か、会長…」
「今は二人なんだし雅也でいいよ」
「はあ、どうしたんですか」
「帰って来てから様子がおかしいからタイミング伺ってた。転入生と何かあったのか?」
「え?ああ、いえ。そういう訳ではなくて」
「じゃあ何が光をそうさせてんの?」
「なんなんでしょうか、私自身も分からなくて…」
「……もしかして、転入生のこと好きになったとか?」
「え?……す、好き?私が伊奈瀬くんのことを…?」
「違うのか?今自分がどんな顔してるか鏡見て来いよ」
「なんですそれ、雅也は…」
「ん?」
「あ、いえ…。なんでもありません」
「…そ? まあなんかあったら言えよ、幼馴染なんだし」
「ありがとうございます」
そんなに変な態度だったのだろうか、なんて思い返してみるが心当たりがない。
私はいつも通りのはず、ですが雅也がああ言うということは…
一旦考えるのをやめてお茶を持って給湯室を出た。
「すみません、お待たせしました。お茶入りましたよ」
「わーい!光くんのお茶美味しいから俺っち大好きー!」
「……あり、がと」
「いえいえ、これを飲んだらまた頑張りましょうね」
三人が会話をしている所を少し離れた所で見守る雅也。
「あの光が、ねえ…」
ボソッと呟いた声は誰にも届かなかった。




