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ep.34


「あの、白乃…」

「どうしたの?」

「白乃は…えっと…」

「無理して話題出さなくてもいいよ」

「で、でも…」

「俺は那月と居れたら十分なんだよ?那月が俺の腕の中に居るってことでもういいんだ」

「なんでそんなに…」

「那月に執着するかって?それは答えられないな、答えたら那月絶対逃げちゃうから」

「あう…、それは…」

「ほらね、逃げないって言えない」

「…ごめんなさい」

「那月には思い出して欲しいんだよ、俺のこと。ま、難しいと思うけど」

「白乃は、僕とどうなりたいの?」

「言ってるでしょ、一緒に居れたらいいって」

「本当にそれだけ?」

「他に何かいる?要らないよね」


これ以上話してもこの人は何も答えてはくれない、そう感じた。

時折頭を撫でられながら幸せそうな、でもどこか寂しそうな顔をぼんやり眺める。


(僕に思い出して欲しいって…、僕は白乃のこと忘れてる?昔みたいにって言ってたのも引っかかる…)



――僕は、何を忘れてる?



「那月は、昔のことどのくらい覚えてる?」

「え?えっと…、あれ?」


そう聞かれた時に、記憶にノイズが走った。


「昔…あれ…?僕、ぼく、は…」

「那月、思い出さなくていいよ。分かったから」

「ご、ごめんなさい!」

「ほら、落ち着いて。分からないならそれでいいんだ」

「僕、なに忘れて…、なにか何か大事なこと…」

「那月!もう思い出さなくていいから」


思い出そうとしても思い出せない、その苦しさに涙が止まらない。


「ほらもう、泣かないの。大丈夫だから、ね?」

「うっ…ぐす…、ごめ、ごめん…」

「よしよし、大丈夫大丈夫」


大丈夫と言い抱きしめられた腕の中で僕は泣き続けた。


「ねえ、那月」

「……ん?」

「だ…」



コンコン――



「ふふ、時間が来たみたいだね」

「あ、あき…」

「風紀委員だ!伊吹白乃!伊奈瀬くんと居るんだろ!?」

「あ…、風紀委員長」


カチャ…


「那月、行きな」

「え…?」

「俺はあいつに捕まる気はないから、じゃあね。俺の初恋」


そう言い額にキスをされ、頬をひと撫でし白乃は窓を開け飛び降りた。


「!? あ、白乃…!!」

「伊奈瀬くん!?大丈夫かい!?今開けるから」


ガラッとドアが開き、真っ暗な部屋には不自然な光が差し込んでいてカーテンがゆらゆらと風に揺れていた。


「伊奈瀬くん!だい、じょ…」

「白乃…」


窓際にへたりこんで静かに一人泣いてる那月がいた。


「伊奈瀬くん、伊奈瀬くん!聞こえるかい?何があった?」

「あ、あき…白乃…死んでない…?」

「死?いや、ここはそんなに高くないから大丈夫だよ。逃げただけだと思う」

「よ、よかった…」


そう言いポロポロと涙を流す那月を見て、なんとも言えない気持ちになった。


「部屋の電気付けて」

「あ、はい!」

「他の風紀に連絡します」

「伊奈瀬くん、ちょっと身体検査するね」

「あき、の…」

「伊奈瀬くん、落ち着いて。大丈夫だから、ね?」

「風紀委員長、ぼく…」

「うん?」

「白乃のこと、傷付けちゃった…」

「…どういうことかな」

「僕、白乃のこと…思い出せなくて…き、傷付けちゃった…うっ…ぐす…」

「そっか…、伊奈瀬くんは大事なこと思い出したかったんだね」

「でも僕…、ぼく…」

「ゆっくりでいいんじゃないかな?」

「……え?」

「思い出せた時はその時だよ、あ、手首に跡ついてるね。何かで縛られてた?」

「手錠みたいな…」

「少し擦れてるから保健室に行こう」

「……はい」


「ここの部屋のことは任せたよ、伊奈瀬くんのこと保健室に連れて行くからあとは任せた」

「分かりました、気を付けて」

「他の風紀には連絡済みです、生徒会にも」

「ありがとう、じゃあ任せた。行こうか、伊奈瀬くん」

「………」


風紀委員長に手を引かれ部屋を離れる、チラッと振り返った部屋はソファがポツンとあるだけの何も無い部屋だった。


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