ep.3
「教科書類はこれな、あとは〜」
「…?」
「ほい、これやる」
手を差し出されなにかと思い受け取るとそこには棒付きの飴が乗せられた。
「これ、先生のじゃ…?」
「いいんだよ、お近付きの証ってことで〜」
「…ありがとうございます」
ポンポンとまた頭を撫でられた。
(先生撫でるの好きなのかな…?)
なんて、考える那月を横目に町屋は生徒たちにどう紹介しようかと頭を悩ませていた。
無自覚なのはこの学園では大変危険なのだが、言っても分からないだろう。
かと言って、実際に経験するとなるとそれはトラウマになりかねないため絶対に駄目だ。
(さっさと誰かのものになっちまえばいいのにねえ。ま、この顔ならそのうち出来るか〜)
「よし、じゃあ教室行くか〜」
「あ、はい」
「伊奈瀬は1-Aな〜」
「分かりました」
「俺が先に入って後から呼ぶから、呼んだら入ってこいよ?」
「はい」
コロコロと先生の飴を転がす音が鳴り響く廊下を二人で歩いて行く。
(先生、飴好きなのかな)
なんて、思っていたら
「ああ〜、煙草吸いて〜」
「え?煙草ですか?」
「ん?ああ、そうそう。俺今禁煙中なのよ〜」
「それで… 飴、ですか?」
「当たり〜、校内全面禁煙だしさあ生徒に煙草臭いって思われるの嫌じゃん?あとは〜、白衣が汚れるのが嫌なのよ〜」
「な、なるほど…」
飴を咥えている理由も飴をくれた理由も分かった所でお目当ての1-Aの教室に着く。
「よし、じゃあさっき言ったこと覚えてんね〜?」
「はい」
「うんうん、じゃあ俺は先に入ってるから呼んだら来いよ〜」
先生がガラッと教室の扉を開けると中からキャーッという声援が上がる。
ここ、男子校だよな…? あ、でも副会長がここの生徒は恋愛対象が男って言ってたような。
それなら納得かも、先生緩そうに見えてかっこよかったし人気なんだろうなあ。
――一方教室では。
「お前ら〜、静かにしろ〜」
「町屋先生今日も気だるげでかっこいい…」
「まちやんイケメーン!」
「先生抱いてください!」
「グフッ、先生×生徒… うまい!!!」
など、色んな声が飛び交っていた。
「はいはい、先生がイケメンでかっこいいのも分かるが抱きませーん。今日はうちのクラスに転入生来てっから紹介すんよ〜。伊奈瀬、入ってこい」
転入生、という町屋の言葉に一気に教室内が騒めきだした。
「え、こんな時期に?」
「かっこいいかな?可愛いかな?」
「友達になれるといいなあ」
「こ、こんな時期に転入生だと…!? 王道転入生来い来い来い…!!」
これまた様々な反応を見せる生徒たちにはあ、っとため息をつく町屋。
教室内の騒めきが外まで聞こえていたので那月は扉を前に入るのを躊躇っていた。
み、皆から期待されてるけど僕平凡だし… どうしよう…
なんて思っていたら目の前の扉がガラッと開いた。
「伊奈瀬?ってそんなとこで固まってどうした、入ってこい〜」
「あ、は、はい!」
パタパタと足音を鳴らしながら先生の後へと続く。
その瞬間あれだけ騒がしかった教室内が一気に静まり返った。
「は、初めまして。伊奈瀬 那月、です。今日からよろしくお願いします」
「はい、よく出来ました。伊奈瀬の席は1番後ろのあの空いてるところな〜」
「はい」
先生から言われた席へ向かっていると好奇の目を向けられる。
それだけ転入生が珍しいのだろう。
「え、やば。美人すぎない?」
「めっちゃ可愛いんだけど…!」
「うわあ、どストライク」
「お、王道転入生じゃない…だと!?だがこれはこれでうまいぜ」
最後の人は何を言っているのか分からなかったけど少なからず嫌悪感は持たれていないようで安心した。
自分の席へ着くと前の席の人がクルッとこちらを向いてきた。
「よっ!初めまして!俺、入江 颯太サッカー部所属な!よろしく、なあ那月って呼んでもいい?」
「あ、入江ずるい!僕は南 絢音だよ。副会長様の親衛隊隊長をやっているよ、よろしくね那月くん」
「入江も南も馴れ馴れしいな!あ、俺は浅見 陽なっちゃんよろしくう!ちなみに腐男子やってます☆」
「「お前が一番馴れ馴れしい」」
前の席の入江くん、隣の席の南くんと浅見くんが僕に声をかけてくる。
「よろしくね、三人とも」
声をかけてくれたのが嬉しくて笑ってみせると三人とも顔を赤らめた。
「不意打ちでの笑顔は反則だろ…」
「同感だね、副会長様の親衛隊隊長の僕でもドキッとしちゃったよ」
「うちの子が!危ない!!いいぞもっとやれー!」
三人の様々な反応に若干戸惑ってしまった。
僕の顔そんなに変だったかな…?次からは気を付けよう。
「あの、三人が良ければなんだけど校内の案内とか頼めたりする?」
「俺は放課後部活があるから無理だけど、それ以外なら大丈夫だぜ」
「僕も放課後は親衛隊の集まりがあって…、ごめんね那月くん」
「俺は何も無いから案内出来るぜ!ムフフなスポット教えてやんよー!」
「「浅見それはやめろ」」
「まあ、とりあえず今日は食堂にでも行ってみる?ご飯美味しいよ」
「あ、うん!じゃあそうしようかな、案内よろしくね」
三人のノリがとても面白くて思わずクスクスと笑ってしまう。
南くんの提案で今日は四人で食堂へと向かうことになった。
お昼休みが楽しみだなあ。
なんて、呑気なことを考えていた那月に待ち受けていたのは――




