ep.2
理事長室へ着くと副会長がノックをする。
「生徒会副会長の佐々野です、転入生を連れてきました」
「ああ、どうぞ」
「失礼します」
「し、失礼します…」
どんな怖い人が理事長なのだろうと、少しビクビクしていたが中で待っていたのは優しそうな若いお兄さんだった。
(この人が理事長…?)
「伊奈瀬 那月くんだね、初めまして。葉月学園へようこそ、理事長の葉月 美也です。よろしくね」
「あ、は、初めまして。伊奈瀬 那月です、今日からよろしくお願いします」
「うん、挨拶も出来ていい子だね。じゃあ早速だけどこの学園のこと色々説明させてもらうね」
「はい!」
理事長はこの学園の設備のことや生徒のことなど分かりやすく、かつ簡潔に話してくれた。
「……っと、こんな感じだけど今の説明で分からなかったことはあるかい?」
「あ、えっと… 親衛隊?っていうのは…?」
「ああ、それなら副会長の佐々野くんに説明してもらうといいよ。彼も親衛隊持ちだからね」
「副会長はその、親衛隊?の人と仲が良いんですか?」
「仲が良い、は少し語弊がありますがまあ悪くはないですね。親衛隊というのは我々生徒会や風紀委員会、人気の生徒などを慕っている者や恋愛感情がある者などが所属しています。もしかしたら伊奈瀬くんにも出来るかもしれませんね?」
「へ!?僕ですか?こんな平凡に出来るわけないですよ!何言ってるんですか」
『『この子…無自覚なのか…』』
理事長と副会長の心の声が一致した瞬間だった。
「ンンッ、まあ親衛隊はそんな感じかな。中には積極的に交流してる子たちももちろん居るよ」
「私は生徒会の仕事で忙しいので、そういったことはしていませんが真緒や萊… あ、えっと書記や会計ですね。二人は時間を作ってお茶会を定期的にしているようですよ」
「なるほど、そうなんですね」
「那月くんはもし自分に親衛隊が出来たらどうする?」
「え?えっと… 慕ってくれるのは嬉しいですし恋愛感情…はちょっとまだよく分からないですけど、皆さんみたいにお茶会くらいなら…」
「ふふ、そうかい。もし出来たら楽しむといいよ、きっといい子たちが集まるだろうしね」
「そうですね、伊奈瀬くんの周りにはきっといい人たちが集まると思いますよ」
「そ、そうですかね…? ちょっと恥ずかしいな…」
えへへ、と一人照れている僕を理事長と副会長は優しく見つめていた。
「さて、そろそろ職員室へ行っておいで。長々と引き止めてしまって悪かったね」
「いえ!ありがとうございました」
「では、失礼します」
「失礼します」
「うん、またいつでもおいで。次はゆっくりお喋りしよう」
「はい…!」
理事長室を後にし、ふと思ったことを副会長へ聞いてみた。
「あの、理事長っておいくつくらいなんですか?すごく若くてびっくりしちゃって…」
「ああ、理事長は今25歳ですよ。元々先代、今の理事長のおじいさんがやっていたのですが引退するということで今の理事長へと代わったようです」
「そうなんですね、だからあんなに若かったのか…」
「ふふ、疑問は解消されましたか?」
「あ、はい!教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ、私で答えられることでしたら何でも聞いてください」
そういい、またふわりと笑った副会長を見てやっぱり美人さんだなあとどこかぼんやりと思った。
――副会長と二人、今度は横並びで他愛もない会話をしていたら職員室へと着いた。
コンコン、ガラッ…
「生徒会副会長の佐々野です、転入生を連れてきました」
「おー、佐々野か。こっちこっち〜」
手を挙げたのは、煙草… いや、棒付きの飴を咥えている緩く喋る先生だった。
(あの人が担任の先生なのかな…?)
「連れてきてくれてありがとうな〜、伊奈瀬だっけか。初めまして、お前の担任の町屋 涼だ。よろしくな〜」
「あ、はい!よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるとよしよしと優しく頭を撫でられる。
「えと… せ、先生…?」
「お前の髪サラサラで気持ちいいな〜」
「あ、ありがとうござい、ます…?」
「おうおう、大人しく撫でら…「先生、その辺にしてください」
「悪い悪い、ついな〜」
へらっと笑った顔は悪びれる様子もなく副会長の言葉を躱していた。
「まったく…、担任の自覚をもう少し持っていただきたいです」
「持ってんよ〜?」
「そういう所ですよ!」
「ははっ」
「はあ…」
というやり取りを眺めていると副会長が私はこれで、といい足早に職員室を後にしようとしたので咄嗟に制服を掴んだ。
「ッ…! 伊奈瀬くん…?」
「あ、あの!案内ありがとうございました!道中のお喋りすごく楽しかったです」
「ふふ、こちらこそお付き合いいただきありがとうございました。楽しかったですよ」
「また、お喋り出来ますか…?」
「ええ、また話しましょう」
「…!はい!」
とても嬉しそうに笑う顔を見て、思わず撫でてしまいそうになった。
「では、私はこれで」
「ありがとうございました」
「……伊奈瀬はああいうのがタイプなのか?」
机に頬杖をつき棒付きの飴をクルクルとさせている町屋が那月へたずねた。
「へ?」
「だから、佐々野みたいな奴がタイプなのか?って聞いてんの〜」
「ちっ、違いますよ…!」
「そうなの〜?」
「そうですよ!確かに副会長は優しくていい人だとは思いますけどタイプとかそういうのじゃないです」
「……ふーん?」
なんてこと聞くんですか…!と赤らんだ顔をパタパタと仰ぐ那月を見てこれはこれは…と思う町屋だった。




