イルモの戦い(7)
80ナルル蒸気魔導砲(鉄の神輿)の天端に立つラトナは、眼下の見知らぬ男・・
一人の聖教軍兵士を冷ややかに見下ろしていた。
奴は・・先ほど自分を殺すためにナイフを投げ放った人物だ。
地上からここまで、約10ラヌル。
常人なら届くはずもない距離を、殺意を込めて投擲してきた兵士。
それは、おそらく魔力・・聖教徒が呼ぶところの"神力"による荒業であろう。
そう、あれは・・決して侮ってはいけない相手だ。
ラトナはゆっくりと天端から男を見下ろし、氷のように冷たい声で告げる。
「ふっふふ、その喧嘩・・私が買ってあげよう
その言葉が空気を震わせた瞬間・・・
ラトナの指先が印を切り、魔力の奔流が走る。
いくつもの魔弾が形成され、光の尾を引きながらその男に向かって飛翔していく。
真上から真下へ・・・
高所ゆえに見晴らしがよく、そして落下速度を乗せた魔弾は、まるで雹のように降り注いだ。
カルザンは即座に危険を察し、
地面を蹴ってバックステップし、岩陰へと潜り込む。
だが次の瞬間・・・
その岩は魔弾に粉砕され、砂塵となって四散した。
「これが・・・報告にあった魔法攻撃か! 当たれば、ただでは済まない!」
カルザンは神力を身に宿し、身体強化によって、魔弾の攻撃をかいくぐるが・・・これ以上、"鉄の神輿"に接近などできない。
カルザンは歯を食いしばり、壊滅した"武僧団"の姿が脳裏をかすめた。
「彼らさえいてくれれば・・・こんなことにならなかったはず!」
だが、そんな後悔など・・あとの祭り、ゴーレムの集団が迫っているのだ。
それに、空からは執拗に魔弾が降り注ぎ、爆裂による面制圧が行われている。
もう無理だ! 鉄の神輿の破壊など・・夢のまた夢。
カルザンは、すべてを諦めたかのように、両手で握った剣をゆっくりと地面へ突き立てた瞬間・・
足元から白い煙が噴き上がり、たちまちのうちに周囲を覆い尽くした。
霧によって、カルザンが視界から消えたのである。
ラトナは、すぐさま男の残した痕跡・・・揺らぐ波動の名残を追おうとしたが、
その消失はあまりにも速く、追跡は瞬時に断念せざるを得なかった。
やがて霧がゆっくりと晴れ、視界が開ける。
そこに残っていたのは、地面へ深々と突き刺さった一本の剣だけ。
男の姿は、もちろんいない。見事に逃げ切られたのだ。
「ふっ 逃がしたか」
風に揺れる黒髪の間から、感情の欠片もない声が漏れた。
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戦況は今や・・ラトナ、ユラーク連合軍に大きく傾く。
南部方面から攻め上がってきていた聖教軍は、幻影陰陽術によって大混乱・・一挙に総崩れとなった。
80ナルル蒸気魔導砲の破壊を試みる聖教軍はもう存在しない。
残るは・・・逃げる敵を叩くのみ。
ラトナは眼下の状況を確認し・・そして静かに判断を下す。
「追撃を開始しろ」
その号令と同時に、キュウルーラたちが地を踏み鳴らし・・
逃走する聖教軍へ向けて無言の進撃を始めた。
同時刻・・・
東部、北部戦線も・・ラトナの放った魔導砲によって戦況が有利に展開・・ユラークたちも一斉に追撃戦へと転じていた。
こうして戦場は、各方面で一斉に"狩り"へと転じていく。
逃げ散る聖教軍をできるだけ多く撃破し、その戦力を削るのだ!
もちろん、80ナルル蒸気魔導砲も前進を開始する。
鉄の巨影はゆっくりと、しかし確実に目的地イルモへ向けて進み始めていた。
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「突進だ! 突進せよ! 」
ユラークの号令が響き渡り、解放戦線の兵たちは一斉に駆け走る。
逃げ散る聖教軍は、もはや軍の体を成していない。
隊列は崩壊し、各々の兵たちは命惜しさに・・散り散りになって逃走していく。
だが、その逃走の向きだけは奇妙に揃っていた。
・・・イルモ方面へ。
やがて、ユラーク率いる"魔導ヤリイカ"部隊と解放戦線の兵士たちは、
逃げる聖教軍を追い立てながら進撃し、ついにイルモの城門へ到達!
その勢いを保ったまま、城門守備兵を蹴散らし、門を破砕する轟音とともに、町の内部へと雪崩れ込んだ。
そして・・
彼らの目に飛び込んできた光景は、まさしく地獄そのものだった。
敗北を悟った聖教軍兵士たちは規律を失い、破れかぶれの暴虐に走っていたのだ。
家々は荒らされ、死体が散乱、所々で火災が発生している。
住民たちの悲鳴が、瓦礫の間を反響していた。
「やめてくれ・・・!」
「殺さないでくれ・・!」
しかも・・・
カルザンが任命していた町の防衛司令官・デーヴァが、その略奪を率先していたのである。
「かまわん! 異教徒どもは人間ではない。すべてを奪ってしまえ、殺してしまえ!」
穏健派のカルザンが不在なのをいいことに、
デーヴァは兵士たちを煽り、好き放題に暴虐を働かせていた。
さらに彼らは、町の中で隠れていた黒髪の者たちを見つけ出してはためらいもなく虐殺! 虐殺!
しかも・・凶行はそれだけでは終わらない。
裕福な住民たちの髪を無理やり黒く染めた上で・・
「お前は魔族だ!」と決めつけては殺害し、金品を奪い去っていった。
完全に好き放題! ここぞとばかりに略奪をしていたのである。
血の匂いと煙が混じり合い、町は完全に狂気の渦へ沈んでいく。
「殺せ! 殺せ! 異教徒に死を与えよ! 女神バベル公姫様に逆らう者に死を与えよ」
そんな地獄、絶望の只中へ・・・ユラーク率いる解放戦線が突入したのである。
まさに、住民たちにとっては天の助けとも言うべき瞬間だった。
「な・・なんてことをしているのだ!」「許せん!」
「叩き切れ・・・」
解放戦線の兵たちは、餓鬼道へと堕ちていった聖教兵たちに容赦なく襲いかかる。
もはや彼らは、規律を失い、盗賊化してしまった者たち。戦う意思など、とうに霧散していた。
迫りくる兵たちの影を見た途端、略奪した金品を投げ捨て、逃げ惑い出したのだ。
だが、その逃走は救いにはならない。
ユラークたち解放戦線の兵たちは、盗賊へと成り果てた聖教兵を次々と捕らえ、討ち取っていった。
降伏の声を上げる者でさえ許さず、その場で処刑されることになる。
ユラークは、それを止めようとはしない。
いや・・あえて黙認している。
兵たちの胸に渦巻く恨みを理解しているからこそ、
そして何より、士気を下げぬためにも、彼は静かに目を伏せていた。
ラトナもまた、特に口を挟むことはなかった。
戦の"習わし"として受け入れるだけだ。
ただひとつ、アユリーナの目に触れぬように、その残酷な光景だけは、そっと遠ざけておいた。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




