イルモの戦い(6)
空気が震え、蜃気楼のように視界が揺らぎ・・世界は変化した。
ラトナが発動させた"幻影陰陽術"
・・それは、とてつもなく生理的にダメな奴を大量に発生させたのだ。
全国の台所で大活躍する天敵の黒き物体・・その名もゴキブリ。
しかも、そのゴキブリはゴキブリであってゴキブリではない!
人間なみの大きさを持ち・・昆虫の域を逸脱した異形。
高速で地面を駆け、人間を頭から食いちぎる肉食の化け物。
影のように蠢き、群れを成し、"カサ・・カサカサ"と不気味な音を響かせながら・・何人もの兵士が食い散らかされていたのだ。
その地獄絵図の光景を目撃した・・聖教軍司令官カルザンは、
戦場の猛者である彼ですら、血の気が引くほどの戦慄を覚えた。
彼は・・剣を握りしめ、震える声で叫ぶ。
「魔族どもめ! なんて化け物を呼び出したのだ・・!」
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だが・・この巨大ゴキブリは存在しない。
兵士が食われている光景も、すべて幻想。
脳が勝手に作り出した"夢まぼろし"にすぎない。
これこそが・・幻影陰陽術。
ありもしないものを・・見せつけてしまうのだ。
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司令官カルザンに立ちはだかる・・巨大ゴキブリ!
人間をむしゃくしゃと食べるゴキブリの群れを前にしても、一歩たりとも退く気などなかった。
それどころか、ただひたすら突破し・・突き進むのみ。
目的は・・あの"鉄の神輿"-(80ナルル蒸気魔導砲)を破壊することなのだ。
配下の兵士が、いくら食い殺されようとも・・心を鬼にして、最終目的を遂行する。
彼は・・己の使命だけを見据えていた。
しかし、そのカルザンとは違い・・巨大ゴキブリの群れを突破するなど、普通の兵士にできる芸当ではなかった。
おそらく・・・いや、ほぼ不可能だ。(*幻影なのですけどね!)
そんな異形・・・ゴキブリを目にしたその瞬間、兵士たちの戦意は音を立てて崩れ、次々と背を向けて逃げ出した。
「化け物! うわぁぁぁ・・・」「ま、まじかよ!」
恐怖は伝染し、秩序は瞬時に瓦解した。もはや戦う者はいない。
そう、士気は完全に崩壊し、軍隊の体を失った。
カルザンは怒声を上げる。
「栄光ある聖教軍の兵士が逃げるとは・・何事か!
最後まで戦え、誇りを捨てるな!」
だが、その声はむなしく響くだけで、兵士たちの意思を変えることはできなかった。
ゴキブリ特有の生理的な恐怖は、軍隊としての秩序すら粉砕してしまっていた。
カルザンは歯を食いしばり、悔恨を滲ませて呟く。
「なんてことだ! くそっ。せめてあの武僧団1000名がここにいてくれたら・・状況は変わっていたものを!」
あの猪武者・・・"ザァクラン"
無謀な突撃さえしなければ、武僧団は健在!
今頃はあの"鉄の神輿"を叩き潰していたというのに・・・!
カルザンは唇を噛みしめる。
だが、過ぎたことはもう戻らない。
今この瞬間、自分が果たすべき役割・・それだけを遂行するしかなかった。
そう・・・
カルザンは逃げ散った兵士たちなど見限り、
たとえ自分ひとりであろうとも突破するのだ!・・と心で決めたその刹那!
周囲の風景が、ふっと消えた。
色も、形も、音も。演劇の幕を引くように薄れていく。
幻影陰陽術の効力が、唐突に断ち切られたのだ。
あの巨大ゴキブリの群れ・・・
兵士たちの士気を粉砕し、戦列を崩壊させた悪夢の化け物たちは、
初めから存在しない"夢まぼろし"だった。
そう、兵士たちは一人も食べられていない。襲われていない。
何もなかったことになっている。始めから存在してなかったことになっている!
カルザンは思わず息を呑む。
理解が追いつかない。
言葉にならない困惑が渦巻く。そして・・あることに気づいた。
「ま、まさか"幻"を見せられていたというのか! あのゴキブリは蜃気楼!?
うっ やられた! 魔族どもめ!」
カルザンが、その結論を得た時には、すべてが遅かった。
味方の聖教兵士たちは恐怖に駆られ、一目散に逃走。
・・しかもあのゴーレムたちの執拗な追撃を受け、敗走してしまっている。
もはや 軍の体を成していない。
立て直しなど、望むべくもない。
「・・ちっ、なんという失態!」
カルザンは、怒りを抑えきれず、手にしていた剣を地面へ叩きつけた。
金属音が周囲に響き渡り、土煙がわずかに舞い上がる。
その瞬間・・ふと、背筋を撫でるような波動、または悪寒を頭上から感じた。
カルザンは息を整え、ゆっくりと真上を見上げる。
目前にそびえ立つ"鉄の神輿"・・80ナルル蒸気魔導砲の頂上に、
黒髪をたなびかせる少女の姿を見た。
カルザンの胸が、わずかにざわつく。
「あ・・あれは!」
見た目はただの少女。
だが、纏う気配は明らかに異質・・・冷たい闇が、周囲の空気を歪ませている。
魔族の首領とまでは言わないものの・・
しかし、それに匹敵するほどの禍々しさがあった。
カルザンは直観し・・恐怖した。
「・・・ヤバい。あれは、ただの魔族じゃない。かなりの高位な化け物!」
彼は懐からナイフを取り出すやいなや、そのナイフに神力を付与し、
あの恐るべき"化け物少女"に投擲した。
距離にしておそらく・・20ラヌル以上。
しかも相手は"鉄の神輿"、80ナルル蒸気魔導砲の頂上に立っているのだ。
だが、神力を付与したこのナイフなら届く。
殺傷性は十分・・・カルザンは、そう確信していた。
だが・・事は思い通りには進まない。
少女の周りに、青白い光の膜がふっと広がった瞬間、
投げ放たれたナイフは甲高い金属音とともに弾き飛ばされ、むなしく落下していく。
そして・・その少女の目線が下を向き・・カルザンと視線が合う。
その瞳は、底なしの闇を湛えながらも、どこか愉悦を含んでいた。
「ふっ・・いいじゃないか!
その喧嘩・・私が買ってあげよう」
冷たい声が、弾むような調子でカルザンの耳に届き・・背筋に、氷のような汗が流れ落ちた。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




