イルモの戦い(3)
「やめろ! なんだこの黒い・・ぐわぁぁぁぁ」
「魔族だ! やはりやつらは魔族だ!」
三方向から一斉に攻め寄せてきた戦線の一角、南部戦線。
この方面の聖教軍が・・ほぼ壊滅した。
ラトナの放った束縛魔導・黒い腕(触手)によって・・聖教軍兵士の数割が絡めとられ無力化、残りの者は恐慌状態、雪崩のように敗走したのだ。
南部方面の安全は確保した。残りは東部と北部・・・
「よし、南方に展開しているキュウルーラたちを東部方面に回す。敵の背後を突くぞ。ふっふふ・・」
まだまだ油断はできないものの・・
戦況はおおむねラトナの描いた筋書き通りに・・動いていたのである。
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一方、聖務長にして聖教軍司令官のカルザンは、南部方面から攻め込んだ2000の兵が、謎の魔法!? 異界の妖術によって壊滅したという報を受け取った。
「なに!? やはり魔族どもだな。我らの知らぬ呪法を使ってくる!
だが、我ら聖教軍には女神・バベル公姫が共についておられるのだ。
恐れるなかれ! 我らの誇りを示すのだ!」
カルザンの咆哮は・・兵士たちの動揺を押しとどめさせた。
敵は・・得体のしれない魔族軍なのだ。その名を聞くだけで兵士たちは戦慄してしまう。
それゆえに・・恐怖が一度でも広がれば、軍隊としての維持ができなくなるだろう。
だからこそ、兵士たちが戦場の熱気に当てられているうちに勝負を決めなければならないのだ!
彼自身の想定では・・かなりの消耗、大損害は覚悟していた。
だが、四隊のうち一隊がこれほど早く壊滅するとは予想外!
カルザンは表情を引き締め、次の手を練るために視線を巡らせる。
戦いはまだ始まったばかりなのだ。
「よし、少々早いが・・第二段階へ移行する。発光信号を上げろ。ここからが正念場だ」
カルザンのその一言は側近たちの背筋を震わせ、即座に行動へと移される。
夜明け前の暗い空へ、いくつもの火矢が弧を描いて打ち上がったのだ。
赤い尾を引きながら昇るその光は、聖教軍にとって"ある種の合図"となる。
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東部戦線と北部戦線。
攻め立てる聖教軍に対し、守るはラトナとユラークの連合軍。
キュウルーラたちは時折・・魔弾を放ち、丸太を振るって聖教兵を薙ぎ倒す。
解放戦線の兵士たちも適度に援護し、戦線は血と火で染まっていた。
もちろん・・ユラークの“魔導ヤリイカ部隊”も奮戦し・・
彼らの放つイカ墨は確実に敵を仕留めていた。
「守れ! 守れ! 下がるな! 守り通せ」 ←(連合軍兵士の声)
「おい! あの丸太には気おつけろ! ゴーレムの一撃は致命的だ」 ←(聖教軍兵士の声)
両軍兵士たちの怒号がこだまする。
損耗は明らかに聖教軍の方が多い。だが数の差は重く、連合軍は徐々に押し返されつつあった。
ラトナの指示により・・南部戦線で戦っていたキュウルーラたちが東部戦線の側面へ回り込むと一瞬、有利な形となったものの・・やはり数の差は覆し得ない。
そんな時! 空を駆け抜ける何本の火矢を見かけたのである。
それと同時に戦場に低く、ほら貝のような号令が鳴り響く。
聖教軍兵士は一瞬、戸惑いを見せた後、即座に戦闘を停止し・・一斉に退却を始めたのである。
「撤収! 撤収! 全軍撤収・・・」
そう、北部と東部の全聖教軍が引き始めたのだ。
そんな様子を天端から見下ろしていたラトナは・・思わず「よし、勝った!」と脳裏をよぎらせる。
しかし、すぐに疑念が差し込まれた。
敵が・・あのまま押し切れば、数の利で勝てた可能性もある
こちらのキュウルーラは既に大きく削られ、味方の息は敵以上に上がっていたのだ。
ラトナは冷静に判断を下す。
「まだ飛びつくな。本陣待機の予備キュウルーラ隊は温存する。今は、戦況を見極める時だ」
「そうですね・・」
蒸気魔導砲の天端から、戦場全体を俯瞰しようとしていたラトナとアユリーナ。
しかし、最前線の兵士たちは違っていた。
戦場の熱気に当てられ、冷静さを失った彼らは、逃げる聖教軍を追わずにはいられない。
それは狩の本能・・逃げる獲物を追ってしまう性なのだ。
しかも・・AIで動くキュウルーラたちでさえも・・・その熱に呑まれていた!
連合軍の兵たちは、敗走!?退却していく聖教軍に対して一斉に追撃を開始する。
「いけ! いけ! いけ! 突撃だ!」
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そんな様子を遠くから観察していた・・聖教軍司令官カルザンは、ゆっくりと口角を上げた。
「いいぞ。思惑どおりだ。"釣り野伏せ"の真価を存分に味わわせてやろう」
退却を装った聖教軍は、ある地点まで下がると突如として反転!
しかもそれと同時に、白い煙幕が一斉にばら撒かれ、追撃していた連合軍の視界を奪い去った。
「見えない・・!? おい、見えないぞ!?」
瞬く間に戦場は白い霧に包まれ、前後左右の区別すら把握できなくなる。
罠の気配を察した連合軍側は後退を試みるが・・・それは叶わない!
そんなことなど許すまじと・・霧の中から反転突進してきた聖教軍と衝突、乱戦状態となった。
「まずい! 罠かっ・・・!」←(連合軍兵士の声)
「がっははっはは・・魔族どもめ! ここでまとめて屠ってくれる!」←(聖教軍兵士の声)
視界を失ったまま、互いの兵士たちは、目前の敵と剣のつばぜり合いを演じることになった。
周囲の状況を把握できない霧の中で・・金属音が鳴り響き、互いの怒号が混じり合う。
数で勝る聖教軍は、徐々に連合軍を包囲していくことになった。
ラトナ・ユラーク連合軍の主力は、ほとんど・・この追撃戦に引きずり出されてしまっている。
本陣に残るのは・・・80ナルル蒸気魔導砲を守備する予備戦力・・キュウルーラ100体のみ。
つまり、これこそが聖教軍にとっての"狙い目"
この状況を作り出すために、カルザンは退却を演じたのだ。
彼は配下の本体2000名に向けて、静かに、しかし鋭く号令を放つ。
「鉄の神輿・・・あの忌々しき兵器を破壊する。
敵は罠に踊らされ、今や手薄となった。
このチャンス、逃すことは許されない。即座に突進せよっ!」
その声は、空気を切り裂くように響き渡り・・・そして突進が開始される。
進路は南方を経由・・・
束縛魔導によって身体を絡めとられた味方兵士を救うとともに・・・あの忌まわしき神輿に突貫するのだ!
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P.S.
余談であるが・・束縛魔導で絡めとられた味方の救出は、結局できなかった。
あの触手は硬く、うねうねし続け、切り裂くにも時間がかかりすぎる。
下手に足を止めれば、作戦そのものに支障をきたしかねない。
ゆえに、司令官カルザンは泣く泣く救出を断念したのである。
「くっ・・魔族どもめ。なんという魔法を使いよるのだ!」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




