イルモの戦い(1)
司令官にて聖務長・カルザンは、風を切り裂くようにイルモの町へと駈け戻る。
行きは精鋭"武僧団"1000名を引き連れ、帰りはわずかな生き残り数名のみ・・
ほぼ全滅・・その冷酷な真実は鋭くカルザンの胸を突き刺した。
今後のイルモ防衛をどう立て直すべきか!?
切り札というべき精鋭部隊を失い・・カルザンの肩へ重くのしかかる。
とにかく,司令官として・・すべき事は作戦の変更だ。
あの魔族軍の異常すぎる大火力相手に、町に防衛線を引いたところで意味をなさない。
城壁も家屋も、まとめて 狙い撃ちにされるだけだ。
そして何よりも、イルモの住民たちの動向が気になる。
占領して日が浅く、聖教庁への反感もあろう。
それに何らかの勢力(逃げた元市宰卿ダルマール残党など)が煽動し、町内で暴動などが発生すれば戦線は混乱、統制は失われる。
それは、どんな軍略よりも恐ろしい"内側からの崩壊"なのだ。
ゆえにカルザンは決断する。
全軍を町から出撃し、夜間奇襲とゲリラ戦へと移行する。
魔族軍は・・強力な火力を有するが、兵数は少ない。
ならば・・
こちらは数で押し切るしかないのだ。
そして、皮肉にも幸運がひとつあった。
あの厄介なザァクランはもういない。
作戦に口を挟み、進行を妨げる者がいないという事実は、カルザンにとって"不幸中の幸い"と言えた。
彼は静かに息を整え、新たな戦略を胸に刻む。
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白い蒸気をまとった80ナルル蒸気魔導砲・・・
その巨体をゆっくりと揺らしながら、平原を突き進む。
その姿は、ただの兵器ではない。
ラトナ、ユラーク、そして連合軍にとって・・・
最強の火力であり、砦であり、城であり、象徴そのもの。
その圧倒的な存在感によって、兵士たちの胸に確かな自信を宿していた。
その周囲には、新設された"魔導ヤリイカ"部隊を含むイルモ解放戦線の兵士600名が円を描くように展開。
さらにそのまた外周を取り巻くは、身長3ラヌルの人型魔導兵器・キュウルーラ隊400体。
鉄のゴーレムたちが外壁のようにラトナたち連合軍を囲み、その陣形は俗にいう輪形陣。
防御に徹し、どこからの攻撃にも備える堅牢な布陣だった。
ラトナとユラーク、そして幕僚たちは、蒸気魔導砲の天端に本陣を構え、遠く霞む目的地・・・イルモの方角を鋭く睨む。
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蒸気の白い尾っぽが、長くたなびき・・巨大な影が威厳を漂わせながらゆっくりと進む。
その光景は、まるで戦場へ向かう"鉄壁の城"そのものだった。
しかしながらバベル聖教軍は奴ら魔族軍を、イルモの手前で絶対に食い止めなければならないのだ。
籠城戦などもってのほか!
城壁など役に立たないばかりか・・邪魔になってしまう。
しかも住民たちの動向も危険視され、前後から挟まれる危険性もある。
そう・・もはや撃って出るしかないのだ
司令官カルザンは一度イルモへ戻ると、
駐屯軍の大半を召集し、8000名の兵を率いて再出撃した。
強敵を迎え撃つための残された時間はわずかなのだ。
イルモに残された聖教軍は1000名ほど。
副司令デーヴァに留守を任せたものの、その戦力は最低限の治安維持と、元市宰卿ダルマール残党・・を警戒する程度しか残していない。
(ちなみに・・元市宰卿ダルマール残党とは、亡き父の意思を継いだユラーク達イルモ解放戦線のことを意味している)
司令官カルザンは、8000の兵を率いて、周囲を一望できる高台へと静かに進出した。
太陽が沈みつつある夕暮れ時、はるか遠くその視線の先に・・・
魔族軍の象徴ともいえる"巨大な鉄の神輿"が、黒い影を地面に落としながら、ゆっくりとこちらへと向かってくる姿を視認した。
カルザンは旗指物をすべて下ろし、兵士たちへ合図を送る。
「いいか!・・・声を出すな。地に伏せて・・ここで一旦休息する。
敵もこの近くで夜営するはずだ。ならば明日は決戦! 今のうちに身体を休めておけ」
その言葉は低く、しかし軍全体を震わせるほどの重みを帯びていた。
兵士たちの緊張は一気に張りつめ、夕闇の静けさが彼らを包み込む。
迫りくる戦いへの覚悟を胸に刻みながら、彼らは短い食事をとり、
やがて眠りへと身を沈めていった。
それから数刻が過ぎ・・時間的にいえば翌日。
空はまだ太陽の気配すら見せず、闇が地上を深く覆う早朝前。
カルザン率いる聖教軍がゆっくりと動き出したのだ。
闇に紛れ、音を殺し、
敵に悟られぬよう細心の注意を払いながら・・・
8000の兵は、あらかじめ定められた作戦に従い、四つの隊に別れ、それぞれの進路へ散っていった。
黒い影が地を這うように広がり、夜の平原に静寂なる圧力が満ちていく。
深い闇は、全てを覆い隠すほど濃く、その闇こそが、聖教軍にとって最大の味方となった。
彼らはこの闇を隠れ蓑とし・・魔族軍の野営陣地・鉄の神輿へと接近する。
そして・・・三方向から一斉に夜襲を仕掛けるのだ。
「どんなに強大な敵であろうと、夜明けの前の眠気、油断には勝てはしない!」
カルザンの低い声は・・兵士たちの闘志を掻き立てたのである。
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一方、襲撃されようとしているラトナ、ユラーク陣営は・・・
静かな夜営の只中にあった。
平原にはいくつもの篝火が灯され、その淡い光がテントの影を揺らしている。
兵士たちは睡眠・休息を取りつつも、見張り員を配置し、万が一の襲撃に備えていた。
そんな中、ラトナはすでに目覚めており、
80ナルル蒸気魔導砲の指令室、ラウンジのように整えられたテーブルにて・・黙々と"何か"を作っていたのだ。
彼女の指先で編み込まれているのは、手のひらサイズの小さなドラゴン。
これは生き物でもなく・・"ぬいぐるみ"でもない!?
完全に"趣味"から生まれた動物型魔導ペットである。
人型魔導兵器キュウルーラの"ペット版"とも言える存在だ。
ラトナはやっぱし・・400年生きても・・女の子!?・・可愛いものが好きなのだw!?
ただ・・・このサイズが問題だった。
極小ゆえに魔導術式の刻印はとてつもなく細かく、指先がつりそうになるほどの作業。
それでもラトナは楽しげに続けていた。
さらにさらに! 彼女の趣味をさらにさらに付け加え・・さらにさらなる大暴走した結果・・・
通常のキュウルーラが魔結晶を一個使うところを、このペットには三個も贅沢に使用していたのだ。
手のひらサイズなのに動力源が、あり得なすぎるほどの高出力。
いわばスクーターにジェットエンジンをつけているようなものなのか!?
そう・・色々と機能を盛り込んだのが原因なのだ。
ラトナは頬をゆるませ、造形を眺めながらつぶやく
「あらゆる機能を盛りに盛り込んだ。性能は良し!
あとはもう少し・・・可愛らしくしたいとこだね。サティたん♡
縫いぐるみみたいに、ふわっとした感じで・・・」
完全に趣味全開。
名前もすでに"サティたん"と決めていたりするw
戦場のど真ん中にいるとは思えないほど、穏やかな空気が流れていた。
だが・・・その時!
指令室の操作盤が、突如として緊急点滅を始める。
赤い警告灯が、明滅しているのだ。
ラトナの指が止まり、瞳が鋭く光る。
「・・・来たか!
こんな朝っぱらから、騒がしい連中だね」
趣味の時間は、そこで終わった。
指令室の空気は、一瞬で"戦場の時間"へと切り替わる。
夜営地の周囲、広大な闇が地上を覆うその中に、
無数のキュウルーラたちが、身を小さくして潜んでいた。
それは・・ラトナが事前に放った"番犬"たち・・・敵の接近を警戒する任務! 早期警戒は重要なのだ。
そして・・彼らは接近する敵影を一早く発見し素早く通報する。
魔導技術を駆使するラトナたちに、完璧な奇襲を仕掛けるのは・・至難の業なのであった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




