武僧団の脅威
80ナルル蒸気魔導砲の司令室に、突如として警報が鳴り響いた。
前線へと先行していたキュウルーラの数体が、行軍中の敵影を捕捉したのだ。
魔導通信が司令卓へと届く。
―― "敵軍、再び接近。推定1000名以上" ――
その報告を聞いた瞬間、ラトナの口元がゆっくりと吊り上がった。
まるで血の匂いを嗅ぎつけた獣のごとく、愉悦がその瞳に宿る。
「ふっふふふ・・・また来たか。愚かな聖教軍よ!
ますます愉しくなってきたではないか」
ラトナは肩を震わせ、静かに笑った。
新たなる"生贄"の登場に、血が騒ぐのだ。
しかし、状況は完全ではない。
つい先ほど、聖教軍管轄下のミュール砦へ向けて蒸気魔導砲を放ったばかり、
次射の準備をするには、どうしても時間が必要だった。
ゆえに今回の戦いは、キュウルーラたち、そしてイルモ解放戦線の戦士たちに委ねられることになるだろう。
それでもラトナは笑みを崩さない。
「いいだろう。80ナルル蒸気魔導砲・・これを砲台などではなく"動く砦"としての真価、存在感を・・存分に見せてやろう」
その言葉に、ユラークの胸も高鳴る。
巨大な鉄の塊・・蒸気魔導砲は、まさしく鉄壁の壁。
戦場にそびえ立つ一基の城塞である。
ラトナの指示を受け、ユラーク率いるイルモ解放戦線の兵士たち600名が、蒸気魔導砲の側面に設けられた階段を一気に駆け上った。
その巨体は 全高10ラヌル。
頂部に広がる平坦な構造・・城壁の天端は、まさに戦場を見下ろす絶好の射撃拠点なのだ。
この高所から敵軍を狙い撃つことができれば、蒸気魔導砲はただの砲台ではなく、
戦場を支配する砦へと変貌するだろう。
蒸気の唸り、鉄の軋み。
その重々しい響きが、迫り来る戦いの予兆を告げていた。
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ラトナやユラーク、その他幕僚たちは・・80ナルル蒸気魔導砲の天端に立ち、眼下を見下ろした。
そこに広がる状況は・・白き軍装に、まだら模様の上着を羽織る者たちが、大地を震わせながら・・こちらへと突っ込んでくる姿だった。
奴らは・・・ただの兵ではない。選りすぐられた精鋭。
先頭に立つ巨躯の男・ザァクランに率いられた武僧団1000名が怒涛の如く迫る。
彼らの放つ気迫と殺気は、一般兵の域を遥かに超えていた。
まるで戦場そのものを押し返すかのような圧力が、遠く天端に立つ者たちにまで届いてくる。
ラトナやユラークでさえ、彼らの気迫に思わずあとずさりしてしまいそうになる。
「あれは奴らだ! 聖教軍最精鋭・・・武僧団。神力を操る連中だ。奴らによってイルモの町が落とされたのだ! なんと忌々しい」
ユラークの声は怒りと恐怖が混じる。
そしてラトナもまた・・眼下の敵を最強として認めた。
「武僧団とな! たしかに波動を感じる。しかもあの先頭に立つ大男・・ただ者ではないな!」
そう、ラトナが見たその男・・ザァクランは先頭に立ち、まだら模様の上着をたなびかせながら、疾風のごとく駆ける。
人の背丈ほどもある巨大薙刀を豪快に振り回し、その勢いのまま一直線・・80ナルル魔導砲にめがけて突っ込んでくるのだ。
その姿はまさに修羅、戦神!
彼らは馬を使わない。
ただひたすらに己の脚で駆け抜ける。
まるで異世界の僧兵、あるいは弁慶の再来とも言うべき、圧倒的な"歩兵の怪物"たちなのだ。
「「我らは・・女神に愛されし武僧団。恐れるなかれ! 恐れるなかれ!」」
巨大薙刀を振り回し・・雄叫びをあげ突進していく狂気の集団。
武僧団たちにとっては神力、ラトナに言わせれば、"魔導の波動"が肌を刺すように伝わってくるのだ。
だが怯むなかれ!
ここは高台、天端に陣取る我らが有利!
「撃て! 撃て! 撃て! 撃ち払え!」
ラトナの叫びが天端に響き渡った瞬間、キュウルーラたちの腕に仕込まれた隠し銃口が一斉に口を開き・・魔導砲が放たれる。
噴き上がる炎。空気を裂く轟音。肌を焼くほどの熱量。
その凄烈な火力に、ユラークも兵士たちも思わず目を見張った。
そうその迫力、火力の凄まじさは、まさに多連装ロケット砲のごとく。
放たれた弾頭は、赤き軌跡を描きながら武僧団のど真ん中へと突き進み爆裂!
炎が容赦なく彼ら全体を呑み込んだ。
だがしかし、武僧団の動きは止まらない。
彼らは神力・・ラトナの認識から言えば"魔導"を扱う者たち。
神力が噴き出す波動が青白き光となり、武僧団は一斉に"魔導障壁"を展開したのだ。
そして・・キュウルーラたちの雨のような魔導攻撃をほとんど弾き返したのである。
武僧団の損害は軽微・・数名が脱落した程度!
だが、ラトナの胸を最も焼いたのは別の感情だった。
魔法を忌み嫌い、魔導を否定し続けてきた奴らが、よりにもよって"魔導障壁"を使うのか!・・という矛盾。
「笑わせるな! 魔導を否定しておきながら・・結局奴らも魔導を使っているではないか」
その声は低く、鋭く、戦場の熱気を切り裂いた。
キュウルーラの魔導砲が通じなかったことよりも、武僧団が魔導障壁を展開したという事実に怒りを覚えたのである。
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キュウルーラたちの魔導砲は連射できない。
次弾を装填できるまでのわずかな"空白"・・・その間を埋めるように、イルモ解放戦線の兵たちが天端から大量の弓矢を降らせた。
しかし、やはりというべきか・・・武僧団が展開した青白き障壁が矢を弾き飛ばし、ほとんど効果を与えられない。
その防御は鉄壁というべきなのか、眼下から余裕の嘲笑が聞こえてきたのだ。
ユラークが低く呻く。
「奴らめ・・・!」
戦場の空気が一瞬、重く沈むが・・ラトナには、彼女自身の魔導があるのだ。
「・・・となると、次は私たちの番だね。アユリーナ君、行くよ」
「はい、ラトナ様。今回、うちは・・・新魔法を試します。そのための媒介アイテムを作ってきました」
そんな彼女の発言にラトナは口元をゆるめ、戦場とは思えぬほど楽しげに身を乗り出す。
「ほおおぉぉ、いいね・・・どれどれ!? どんなものを作ったのかな♡」
アユリーナは嬉しそうに、胸元のネックレスをラトナに見せた。
銀のネックレスに刻まれた術式が、淡い光を帯びて脈動している。
ラトナから学んだ魔導具づくりの基礎。
その知識をもとに、アユリーナが初めて作り上げた媒介アイテムとなる。
この魔導具に刻まれた術式が、彼女に・・今まで扱えなかった魔導を発動できるようになるのだ。
「ネックレスタイプにしたのだね。これは素敵だ! しかも、かなりの威力がありそうな術式よね」
ラトナのそんな指摘に対してアユリーナは少し照れてしまう。
「はい。ただ・・・かなりの魔力を消費するという欠点が、あるのですよ」
「そうか。それでも十分だよ。アユリーナ君、ためしに撃ってみてごらん」
「はい、ラトナ様」
天端の空気が再び動き出す。
次の一撃は、彼女の手で放たれようとしていた。
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アユリーナの頭上にて、ゆっくりと形成されていく青白き巨大な炎!
人の背丈の3倍はあるだろうか。
見るからに凶悪そうだ。
これが彼女の新魔法・・・"スーパーチャージウルトラ波動魔弾(仮称)w"
通常の魔弾を強化し、さらに巨大化したということになるらしい!?
だが、その巨大化の度合いが常識の範囲を軽く踏み越えていたにもかかわらず、
当の本人は平然とした顔で指先を回し・・淡々と印を切り続けていた。
そう、本人の頭上にて膨張し続ける巨大魔弾が、視界の外らしく見えていないのだ。
または・・新魔法ゆえの緊張で周りが見えていない可能性もある。
どちらにしろ・・灯台下暗しw
周囲にいた者たちは思わず後退し、ラトナでさえ距離を取った。
この巨大魔弾に注ぎ込まれる魔力は常軌を逸している。
これでは到底連射はできないだろうし・・アユリーナ自身も魔力切れとなる。
おそらく一発しか打てない。一撃必殺の技となるだろう。
ラトナは念のため、周囲一帯を魔導障壁で覆い、万が一に備える。
もちろん弟子であるアユリーナの身は案じていた。
だが・・彼女自身も安全確保のために自前の魔導障壁を展開している。
しかもその障壁は、眼下の武僧団が張り巡らせているものよりも遥かに強力。
ラトナが教えた魔導の基礎が、確かに彼女の力となっていた。
ラトナは小さく呟く。
「たぶん、こちらに危険はないだろう」
だが・・これを受ける敵にとっては、脅威どころの話ではない。
破滅そのものが、今まさに形を成していた。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




