聖務長カルザン
イルモ駐屯のバベル聖教軍司令官にして聖務長・・カルザン。
彼は、ヴァラウへ偵察に送り出した先遣隊のわずかな生き残りから報告を受け、深く眉を寄せていた。
その内容は、どれも耳を疑うものばかり・・・
なんらかの異常事態が発生しているのは間違いない!
未知の兵器。一瞬で壊滅した200名の部隊。
そして、聖教庁の威信を揺るがすほどの惨敗。
カルザンは静かに息を吐く。
その表情には、司令官としての責務と、迫り来る脅威への重圧が滲んでいた。
「ヴァラウで、一体何が起きているのだ!?
やはり魔族の仕業なのか!
それとも報告書に書かれていた未知の兵器・"巨大な鉄の神輿"のせいか・・・」
戦場に漂う暗雲は、カルザンの胸中にも静かに広がっていく。
彼は報告書を閉じ、深い霧の向こうにある“正体不明の敵影”を見据えた。
そう、数々の報告、暗部からの情報から奴らの目的は予測できる。
「そう! 奴らはここに来る。必ずこのイルモに来るのだ」
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カルザンは・・招集した幕僚たちの目前で地図を広げ、
イルモ周辺の地形を鋭い眼光で睨む。
北門の防衛。
城壁上の弓兵配置。
町外れの伏兵計画。
だが・・問題は兵力ではなく、町そのものだった。
占領して日が浅いイルモでは、住民の反発や暴動の危険が常に燻っている。
ゆえに、一万の兵力をすべて前線に投入することなど不可能。
半数、あるいは三分の一は、住民への牽制として町中に割かねばならなかった。
カルザンは地図の上に手を置き、低く言い放つ。
「敵の兵器・・実体が掴めん。
だが・・城壁を破らせるわけにはいかないのだ。
北門を主戦場とする。投射兵器、弓兵を可能な限り集中させろ」
「はっ、ただちに!」
幕僚たちは緊張を隠しきれぬ面持ちで頷き、それぞれの任務へ散っていった。
カルザンは残された地図を見下ろし、静かに息を整えると、別の決断を下す。
この地、イルモの防衛は副司令官デーヴァに託す。
そしてカルザン本人は・・聖教軍の中核戦力でもある武僧団、およそ1000名を率い、北上することにした。
目的はただひとつ。
報告にあった“巨大な鉄の神輿”、そして先遣隊を壊滅させた未知の兵器。
その正体を、この目で確かめることだ。
カルザンは軍服の襟を正し・・静かに息を整えると、揺るぎない声で言い放つ。
「・・・敵の脅威を知らずして、勝利はつかめん!
自ら偵察に出る。武僧団は我に同行せよ。イルモの町はデーヴァに任せる」
その言葉に、幕僚たちは息を呑んだ。
やがて、副司令官デーヴァが、ためらいがちに声を上げる。
「しかし、聖務長殿が自ら向かわずとも・・」
カルザンは視線を地図から上げず、静かに、しかし断固とした声で答えた。
「いや、今回の敵は"普通"ではない。
正体を知らずして、対策は立てられん。
この目で見てくる。それにザァクラン殿も同行する。危険は抑えられるだろう」
その言葉に応えるように、荒々しい顔立ちの大男・・武僧団長ザァクランが豪快に笑った。
「ふん! 聖務長殿は我らが守る。
デーヴァ殿は大船に乗ったつもりでいてくれ」
「だそうだ! 我の心配はいらん。
それに敵の実体を知らねば、何ひとつ始まらんよ」
その言葉は、指揮官としての責務と覚悟を、まっすぐに示すものだった。
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カルザンは決断すると同時に、すみやかに行動へと移った。
敵の姿を見なければ、戦略も勝利も語れない。
それが聖務長としての最初の答えだった。
報告では、敵は 魔族軍の可能性があるという。
あるいは、我々の知識では到底測れぬ未知の存在、または兵器が潜んでいるのかもしれないのだ。
そう、貴重な聖教軍を無謀な戦いで失うわけにはいかない。
その思いが、カルザンの胸に重く沈む。
彼は武僧団長"ザァクラン"率いる精鋭部隊・・武僧団1000名を伴い、敵軍の様子を探るため前へ出ることを決めた。
武僧団・・・
それは聖教庁の主力にして、神力を体内に宿す者たちによって構成された精鋭部隊。
白い軍装に、聖印を象ったまだら模様の上着を羽織るその姿は、
他の聖教兵士とは一線を画す"聖教の象徴"でもあった。
イルモの北部、町から30ジャナルほど離れた聖教軍管轄の前線拠点・・ミュール砦。
その砦を見下ろす高台へ、カルザンたち偵察隊(武僧団1000名)が足を踏み入れた・・まさにその時!
ズトッドドッォオオォォ
空気が震え、腹の底を叩きつけるような轟音が大地を駆け抜ける。
地面が波打つように揺れ、炎の柱が天へ広がりすべてを真っ赤に染めた。
熱風が頬を打ち、兵たちは思わず身構える。
これは・・ただの爆発ではない。
砦を見下ろす平原に、異様な光景が刻まれる。
聖教軍管轄下の砦・・・100名ほどが駐屯し、街道の関所として機能していたミュール砦。
その砦が突然! 跡形もなく吹き飛んだのである。
そう・・・これは偶然ではない。
それは、ラトナたち連合軍が進軍を阻む障害を排除するために放った80ナルル蒸気魔導砲の一撃!
大地を裂き、空を染め、砦を丸ごと、いや! 付近の地形ごと消し去る破壊の咆哮だった。
ミュール砦に駐屯していた兵士たち・・・誰一人として生き残れていないだろう。
「ま、まさかこれが報告にあった奴ら・・魔族軍の仕業だというのか!?」
カルザンの声は震え、喉の奥でかすれた。
歴戦の勇者ですら恐れるほどの惨状が、眼下に広がっていたのだ。
遠くに敵軍の影・・魔族の兵らしき姿、
そして報告書にあった"奇怪な黒き神輿"も確認できる。
あれが・・この破壊の元凶なのか!?
高台に並ぶ武僧団・・・ザァクラン率いる精鋭部隊1000名もまた、爆炎の残光に照らされ、言葉を失い硬直していた。
だが、ザァクランだけは荒々しく吠えた。
「ま、魔族軍のやつら! こんな真似を許すと思うな。必ず報いを受けさせてやる」
低く、怒りを満たす声。彼は確かに恐怖した。
だがそれ以上に・・・燃え上がる闘志が、彼を前へと押し出す。
巨躯の男・ザァクランの背中がわずかに揺らぎ、拳が固く握られる。
その姿に、武僧団の兵士たちは少しずつ気力を取り戻し・・そして同じく怒りを燃やし始めたのだ。
激しく・・激しく・・!
「そうだ! 魔族軍など恐れるに足らん! 我らは・・・女神に愛されし信徒なのだ!」
ザァクランは粗野な男ではあるが・・兵士たちの信頼は高い。
彼の発言によって兵士たちの恐怖は吹き飛び・・・闘志へと変わる。
「「おっ、おお! おっおお・・・! 魔族軍など倒せっ! 我らには女神様がついておられる」」
武僧団1000名の兵士たちは・・・次々と声を上げ、連呼し始めた。
高台の空気は、いつしか震えるほどの戦意に満ち満ちていく。
だが、その無謀な昂りに、聖務長にして司令官のカルザンは眉をひそめた。
兵士たちをたしなめようと声を上げるが・・・誰も聞こうとしない。
武僧団の長は"ザァクラン"。
彼が命じなければ、武僧団は動かない。
そして今、怒りに燃えるザァクランは、カルザンの静止など聞く気もなかった。
「聖務長殿は甘い!
ここで敵に一撃を与え、聖教軍の実力を示さねばならんのだ!」
「ザァクラン、待て!」
「ふん・・待つ気はない!」
巨躯の男・ザァクランはカルザンの制止を振り切り、
配下の武僧団1000名に向けて高らかに命じた。
「・・・突進せよ!」
その一声が、兵士たちを死地へと招きいれることになった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




