マザリン
女魔王w・・・いや、バベル公姫ラトナの鋭い視線が向けられているのは、
アユリーナに命を救われた可愛い男の子、
バベル聖教庁に所属する"祭士見習い"・・マザリンだった。
軍装を身につけているにもかかわらず、どこか柔らかい雰囲気をまとい可愛く見えてしまう。
その佇まいは"人工的な作り物"ではなく、自然体の"男の娘"というべきなのか!?
可愛い顔立ちに、鈴が鳴るような声音。
ラトナ、アユリーナに混ざれば、三姉妹になってしまうほど違和感がない。
そんな彼・・怯えきった祭士見習いの"マザリン"に向けて、ラトナは軽く肩をすくめた。
「安心しな。私はお前を喰ったりはしないよ。
自分の血を引く子孫をいたぶるほど、趣味は悪くないからね」
その一言が、場の空気を一瞬で凍らす。
・・・バベル公姫を名乗るラトナが、マザリンを"子孫"と呼んだのだ。
そう、ラトナには、人から放出される魔力の"質"から、その者の家系、血筋の流れを読み取ることができる。
そして、この可愛い男の子"マザリン"も、アユリーナも、ラトナと同じ系統の魔力を宿し、しかも直系にきわめて近かった。
「まぁ、確信はないけどね・・君の魔力の質は、私の血筋にかなり近い。
ここにいる"アユリーナ君"と同じく・・君もルシャーナ帝国帝室の血を引いているのだろう」
アユリーナは初耳で目を丸くし、当のマザリンは驚愕と混乱が入り混じった表情で固まった。
いや、むしろ「嘘だ」、「ハッタリ」だとマザリンは思いたかった。
"僕に・・・魔族の血なんて、入っているわけがない!"
その否定は震え、声はかすれ、必死の抵抗というより"願い"に近かった。
迷惑で、意味不明で、恐ろしくて・・・理解が追いつかない。
そんな混乱中のマザリンを見下ろしながら、ラトナはゆっくりと口を開き・・あらためて自己紹介した。
「私は・・バベル公姫 ルシャル・ノン・ラトナ。
あなた方が崇める主神の"元ネタ"だよ。そう! 女神とはこの私のことなのだよねw
うれしいだろ!? うれしいだろ!? 本物の女神にあえてうれしいだろ!!」
嫌味を100%にした笑みで、ラトナは可愛い男の子マザリンへとじりじりと迫る。
それに対して・・反発したい気持ちはあるのに、恐怖が勝り、彼の顔は真っ青となった。
今の彼は、ラトナの束縛魔法・・・黒き影に絡め取られ、逃げることもできない。
震える声が喉の奥でつまる。
「あっ・・・わ、だけど女神な、なわけ・・ま、まさか、この魔法は魔族」
マザリンは・・うまく喋れない。あまりに怯えすぎて、見ているこちらが少し可哀想になるほどだ。
それゆえなのか・・かわりにアユリーナが口を開いた。
「えっと、うちって・・ラトナ様の子孫なんですか?! 本当なんですか!?」
その問いに対して・・ラトナは肩を揺らし、余裕の笑みを浮かべる。
「たぶんね。魔法の質が同じだから。
あっ・・それに! ラティリレスの苗字は400年前の我が子レインが創設した公家・・アユリーナ君と同じだよね」
「たしかに、うちの苗字はラティリレス・・アユリーナです」
すると・・その話を聞いたマザリンは困惑、視線をゆっくりと二人へ向け。あわあわしながら言葉を発する。
「ぼ・・ぼくの苗字も、ラ・・ラティリレス・ノン・マザリン。わ、わ・・我が家の伝承では・・し、初代はレインという名の公爵だと聞いています・・・」
その瞬間、ラトナの表情がぱっと明るくなる。
「なんと! すばらしい話じゃないか。
我が子レインの血を継ぐ者だったとは。
つまり・・・"マザリンちゃん"も私の子孫というわけだね」
誇らしげで、どこか嬉しそうな声だったが・・マザリンは到底納得できなかった。
そう・・目の前の少女は、どう見ても十代。
とても"ご先祖様"や"祖母"などと呼べる年齢には見えないのだ。
いや、魔族なら年齢も外見も当てにならないのかもしれない。
だとしたら・・・僕に魔族の血が入っているのか!?
「そんなはずがない。
僕には神力がある。女神に愛されているからこそ授かった力のはず」
すると・・その思考を断ち切るように、あの少女・ラトナの声が耳に届いた。
「ふ~ん、神力ね!
たぶんその神力とやらは・・私の魔導と同じじゃないかな。名称が違うだけなのよ!
それにね、マザリンちゃんは私の子孫。
すなわち・・この世界で言う女神バベル公姫に愛されているんですよ。
それはそれは……大変いとしく、ふっふふ」
柔らかい声なのに、背筋が冷えるほどの確信を帯びていた。
マザリンの胸の内で、常識が音を立てて崩れていく。
自分が信じてきた世界は間違っていたのか!?
神力と魔法が同じ!?
女神に愛されていると思っていたら、その女神こそ魔族の祖!?というか僕の祖先!?
しかもハベル教の主神!?
では、自分は・・・何者なのだ。
「あっ~ なんてことだ」
マザリンは、頭を抱えたくなるほどの混乱し、
足元の大地が崩れ落ちていくような感覚に、表情をどんどん曇らせていく。
そんなマザリンの様子を眺めながら・・・ラトナは、どこか楽しげだった。
(やっぱりサディストであるw この女魔王・・いや、バベル公姫は。)
「そんなに悩むではないぞ。私の孫の孫の孫の孫の・・・マザリンちゃん!」
軽く笑いながら言うラトナに、アユリーナがぽつりと呟く。
「孫々の数が・・とんでもないことになりそうですよね」
指を折りながら数え始める。なにせ、400年前の血筋なのだからなぁぁ。
「それにしても、こんな場所で子孫に出会うのも何かの縁・・
ここにいるアユリーナ君と同様、マザリンちゃんにも魔導訓練を受けてもらうよ。
ラティリレス公家の一族として・・一通りの魔導を学んでもらうからね」
「あらっ、一緒に魔導訓練しましょうね。マザリン君」
アユリーナは嬉しそうに微笑む。
だが、マザリンは完全に打ちのめされていた。
聖教徒として育った彼にとって、魔法とは"汚らわしい悪魔の所業"と教え込まれてきたものだ。
それを学べと言われるなど、価値観の根本がひっくり返る話だ。
しかも・・あの少女、僕のご先祖様にて、女神様と称するラトナは、先ほど・・・
「神力と魔法は同じものだ」・・と断言した。
理解不能!
世界が音を立てて崩れていくような感覚に、マザリンはただ呆然とするしかなかった。
・・・とはいえ、ここから逃げることができない。
不思議な拘束魔法が足元に絡みつき、黒い影が蛇のように彼を縛りつけているからだ。
"どちらにしろ・・あの女魔王!? 女神!? ご先祖様!?の言うことを聞くしかないのだろう"
マザリンは、そんな絶望的な結論へとゆっくり沈んでいった。
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この戦いの戦果は明白だった。
聖教軍・先遣隊200名は、森ごと消し飛び、抵抗の痕跡すら残っていない。
そしてその破壊は、ただの殲滅ではなかったのだ!
"未知なる兵器"という名の恐怖を、聖教庁そのものへ突きつける威嚇の一撃にもなった。
「我らの超強力魔導砲に、震えてひれ伏すがいい・・!」
だが、彼女にとっての最大の収穫は、戦果そのものではなかった。
我が子レインの血を引く少年"マザリン"を捕獲したことなのだ。
「アユリーナ君のおかげで・・いい拾い物をしたよ。ありがとう」
「いえいえ、でも彼・・あまりラトナ様を信用してない様子ですよ」
ラトナは軽く笑った。
「まぁ 仕方がないね。最初は誰だってそうなるのだろうから」
そう、マザリンちゃんは・・ご先祖様に対しての敬意もなく、ただただ疑っているばかり。
まあいい・・いずれ、私の色に染めてやるよ!
なにせ彼は・・"女神バベル公姫の信者"、祭士見習いなのだ。
それはすなわち・・・ラトナ自身の信者ということになるw
その事実が、ラトナの胸に小さな愉悦を灯していた。
「ふっふふ 笑える! 笑える!」
ただし、ひとつだけ問題がある。
彼が・・女神バベルの"真実"を知ったとき、
その落胆と衝撃は、計り知れないものになるだろう。
ラトナは冷たい笑みを浮かべた。
「国を動かす者たちに、清廉潔白など求めてもらっては困る。
皆・・血で赤く染まっているのだから・・」
ちなみにマザリンちゃんは捕虜扱い・・とはいえ、ラトナの子孫である以上、扱いは特別なのだ。
(身内びいきw)
彼が放り込まれたのは・・・
80ナルル蒸気魔導砲内部に設けられた豪華VIP牢屋。
どこかのホテル並みまでいかないが・・十分快適のはず。
彼は・・ラトナの子孫、ラティリレス公家といえども、ここ200年で没落してしまい、貧しい家の生まれになってしまっていたのだ。
ゆえに・・この牢屋のすばらしさ豪華さに戸惑ってしまう。
床は磨かれ、寝台は柔らかく、灯りは温かい。
もちろん、ラトナにとっては・・・"普通"程度の設備なのだが。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




