砲撃開始!
周囲に漂う立体映像が、淡い光を帯びてゆらりと揺れた。
その中心・・操縦席に腰を下ろしたラトナは、
静かに息を整えると、指先を鋭く走らせ 印を切った。
すると・・操縦席前面の魔導刻印が眩い光を帯びて起動する。
ラトナは迷いなく立体映像へ手を伸ばし、空中に浮かぶ画面を滑らかに操作し始めた。
この立体映像はタッチパネル式の魔導インターフェース。
200年前に栄華を誇った魔導技術の一端、その技術の片鱗が、今まさに蘇っている。
ユラークをはじめ、ルジャン、ナディラ、そして幕僚たちも・・
その光景を興味深げに、そして畏怖を含んだ眼差しで見つめていた。
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全長30 ラヌルに及ぶ巨大砲身が揺れ動き・・ゆっくりと軋みを響かせながら角度を変えていく。
その先端が指し示すは、バベル聖教軍の先遣部隊。
距離はわずか・・・1.5ジャナルほどだ。
近すぎる!
ラトナは、揺れ動く砲身を見つめながら静かに判断した。
敵を狙うには至近距離すぎて、こちらにも被害が出かねない。
ならば・・・あえて外す。
彼女は標的を、敵軍のさらに奥、500ラヌル後方へと変更した。
直撃はさせない。だが、爆風だけで十分に"理解"させられるだろう。
ラトナの口元に、薄い笑みが浮かぶ。
「全滅させるのは、さすがに可哀想だよね!?
それに、生き残りは必要だよ・・"奴らは恐るべき悪魔の兵器を保有している"と、
泣きながら敵本陣に伝えてもらわねば困るのだから・・」
冗談めいた口調なのに、言葉の奥には氷のような本気が潜んでいる。
ユラークは肩を揺らし、愉快そうに応じた。
「ふむ、確かに。我らを地獄の使いのように宣伝してもらいたいものですな」
その発言に彼女は軽く頷き・・喉の奥でくぐもった笑いを漏らす。
「ふっふふ・・恐怖に染まるであろう敵兵の表情を・・・想像するだけで愉しいじゃないか」
司令室の空気が、じわりと黒い熱を帯びていく。
アユリーナは苦笑しながらも、どこか楽しげに二人を見つめていた。
"この二人、やはり悪役同士だわ" そんな思いが、彼女の胸にふとよぎった。
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ラトナの周囲に浮かぶ立体映像の表示がかわり・・ひときわ強い輝きを放つ文字が浮かび上がる。
-- (すべての準備が完了) --
いよいよである!
ラトナは静かに息を整え、指令室にいるユラークや幕僚たちへ視線を向けた。
そして、外で待機するイルモ解放戦線の兵士たちにも同時に通告を送る。
「これより砲撃を開始する。
外にいる者は・・身を低くし、耳を塞げ!」
その声は、魔導拡声器を通じて外へ轟き渡り、兵士たちの背筋を一斉に緊張させた。
数秒の静寂。そして・・・世界が揺れる。
ドッドドドドゴオオォォォ
大音響が空気を裂き、
80ナルル魔導砲の砲口から、凄まじい白煙が噴き出した。
地面が唸り、空気が揺れ、光が弾ける。
指令室も激しく揺れたが、密閉構造は揺るぎない。
爆風は一切入り込まず、荒れ狂うのは外の世界だけだった。
" よし!・・・弾着確認 "
揺れる床の上で、ラトナは立体映像に映し出された光景を見つめていた。
爆風と炎が森林地帯を呑み込み、赤黒い火柱が空へと伸びている。
自然は無残に焼かれ、逃げ惑う動物たち、そして魔獣までもが黒き影となって走り去る。
その混乱の中に、敵兵の姿も幾人か発見した。
もはや隊列を保つ余裕などなく、ただ必死に逃げまどうだけの群れと化している。
おそらく聖教軍は、爆風で吹き飛ばされ散り散りになったところへ、
追い打ちを掛ける様に炎が襲いかかってきたのだろう。
その結果が・・この壊滅的な惨状。
敵軍は粉砕、大損害をだしているはずだ。そして生き残った敵兵たちによって、この状況を本陣に報告するだろう。
"それは・・まるで火山だ!"
"まるで噴火だ!"
"悪魔の所業! 全てを無に返す"
そんな言葉で、この破壊を語るに違いない。
そう、まさにこれは広範囲殲滅兵器。
半径1.5ジャナルのすべてを破壊し尽くす戦略級魔導砲が生み出した"結果"が、そこにあった。
「・・・もし、200年前にこの魔導砲があったならば、
私の愛する帝国が・・崩れ落ちることなどなかっただろうに」
ラトナは・・誰にも聞こえないような小声で呟いた。
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
僕の名はマザリン。
この聖教軍に所属する祭士見習い。
そう、まだ祭士にもなっていない神官なのだ。
"祭士"とは神に仕える聖職者ということになってはいるが・・事実は違う。
その本質は宗教者ではなく、国家組織に組み込まれた官僚職に近い。
残念ながら・・清貧潔白などという理想とは無縁の存在となっている。
バベル聖教庁が宗教組織ではなく、国家組織となったときから、その在り様が大きく変質してしまった。
マザリンは神官の祭士(見習い)でありながら、その仕事は軍官とほとんど変わらない。
鎧を着込み、槍と短刀を携え、前線へ赴く。ほとんど兵士と変わりはしない。
そしてその日、僕は・・地獄を見た。
ヴァラウの町が"謎の魔族軍"に占領されたという報告を受け、我ら先遣隊は偵察のために出撃をしたのである。
そして・・そこで目にしたのは想像を絶するものであった。
見たことがない鉄の巨大な神輿に・・・整然と並ぶ鉄のゴーレム軍団。
無機質な装甲が鈍く光り、まるで生き物のように蠢く。
あれが・・・魔族軍なのか。
地獄の底から這い出してきた怪物たちが、目の前に出現していた。
恐怖が胸を掴み、息が詰まる。
これは勝てない! まともに戦ってはいけない集団だ。
そう、戦う前から、我ら聖教軍はすでに混乱していた。
未知の異形を前に、兵士たちの動揺は隠しようもない。
ざわめきが広がり、恐怖が隊列を蝕んでいく。
「これではダメだ! 全隊、撤退だ・・・引けッ!」
この軍を指揮する隊長の怒号が鳴り響く。
だが‥遅かった!
奴らからの攻撃が早かったのだ。
突然の閃光! 突然の地響き!
強烈な風が吹き荒れ、耳をつんざく爆音が世界を裂き、炎が一斉に降り注いだ。
あまりにも一瞬だった。
周囲にいた重厚な鎧の兵士たちが、まるで紙切れのように空へ舞い散り、
次の瞬間には炎の壁が襲いかかってきた。
叫ぶ暇もない。
仲間たちは、声を上げることすらできずに焼かれていった。
いったい何が起きた!?
視界の端で、あの鉄の巨大な神輿が火を噴いたのを見たのだ!
そして、世界そのものを砕くような爆裂が引き起こされる。
あれが元凶なのか!?
あの鉄の神輿こそが、悪魔の兵器なのか!?
こんなことがあっていいのか!!
だが・・そんな思考をしている暇はない。
仲間と同じ運命が、今まさに自分自身・・・"マザリン"へ迫っていた。
「まずい! やばい!」
仲間たちとは違い、自分にはまだ叫ぶだけの余裕が残っていた。
だが、それもすぐに終わるだろう。
炎が迫り、視界が赤く染まる。
自分の意識は、そこで途切れた。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




