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動く砦


10輪の車輪が自重に押しつぶされ地面に深くめり込み、ビクともしなくなった鉄の巨体・80ナルル(センチ)蒸気魔導砲。

そんな失敗作、木偶の坊がついに息を吹き返す!


多くの野次馬や見物客が固唾をのんで見守る中、鉄塊は ・・・・

"ゴォォォォ・・・ッ!"と大気を震わせ、側面から噴き出す大量の蒸気を撒き散らしながら、ゆっくりと稼働を始めた。


全長50ラヌル(メートル)のその巨影は、まるで地中から蘇った古代恐竜のように、白い霧の中をゆっくりと押し出されていく。


蒸気が渦を巻き、霧が光を乱反射する。

その巨体は幻想的な白の世界を切り裂くように前進した。



「「うっおおおおっ・・・おお!! すごい! 動いたぞっ!」」

「「うわぁぁぁぁ・・・まさか! まさか!」」


見物客、野次馬の叫びは歓声ではない。

驚愕と恐怖が混じり合った、むき出しの声だった。


巨塊の前進。地を揺らす轟音。

鉄塊が放つ、得体の知れない"生き物めいた"動き。


その迫力に、人々の表情は一変する。


恐怖に泣き叫ぶ子どもたち。

歓声を上げ狂喜する者たち。

逃げ惑う者、立ち尽くす者・・・.

人々の反応が渦のように入り乱れた。


そんな中、操縦席で立ち上がったラトナの瞳は、興奮と高揚で燃えるように輝く。


「・・・見ろ! この失敗作が・・・ついに最大戦力へと変わる時が来たのだ」

拳を握りしめ、震える声で叫ぶ。


「いける!・・・いけるぞ! うっふふふ」


子供のようにはしゃぐ師匠ラトナの姿を、アユリーナは横目で見つめながら、少しだけ呆れたように息を吐いた。

400年という歳月を生きてなお、

ラトナの胸の奥には、いまだ色褪せることのない"子ども心"が残っているのだ。

いや、それどころか"子供のまま"だと言ってもいいだろう。



"特大魔結晶"が生み出す莫大な魔導力によって、蒸気魔導砲の自重は大きく軽減されたのだ。

さらに蒸気力と魔導力が10輪の巨大車輪へと伝わり、

その鉄塊は・・ゆっくりと、しかし確実に 大地を震わせながら回転を始める。


だが、技術的限界というべきか、その速度は決して速くはない。

とはいえ、それは"欠点"ではなく"許容範囲"・・・・

むしろ、この兵器の本質は速度ではないのだ。


その巨塊、その頑丈さはまさに"動く砦"といってもよいだろう。

全長50ラヌル(メートル)にも及ぶ鉄の塊は、

まるで城壁そのものが地を歩き出したかのような威容を放ち、

上部からの狙撃は、まるで天守閣から放たれる矢のように狙いを定める。

敵にとっては逃れようがない一撃となるだろう。


もはや・・80ナルル(センチ)の魔導砲を撃つ必要すらない。

この鉄塊そのものが、すでに"兵器"なのだ。


「ふっふふ・・この動くシタデル砦だけで、力押しができるかもしれないね」


ラトナの口元はつり上がり、愉悦を隠しきれずに呟いた。

それは400年生きた魔導士の"子どもの笑み"そのものだったかもしれない。


-- -- -- -- -- -- -- -- -- --


イルモ解放戦線のトップ、イルモ市宰卿(市長)の正当後継者たるユラークもまた、

その蒸気魔導砲を目撃し・・・ラトナ同様に歓喜に酔いしれていた。


白き蒸気をまとう鉄の巨体!

まるで地獄の悪意をそのまま形にしたような姿! 逃れようのない威圧。


しかも、その巨体は我らの敵・バベル聖教軍へと迫る"切り札"となるだろう!


ユラークの眼光が鉄の巨影を射抜く。

その表情は、歓喜に歪む悪役の笑みそのものだった。


「素晴らしい・・! ラトナ様は、なんと恐ろしく素晴らしいものを造ってくださったのか!」


その声には、畏怖と興奮が入り混じっていた。



白い蒸気がゆらめき、80ナルル(センチ)蒸気魔導砲の巨大車輪が大地を踏みしめる。

ラトナは静かに印を切り、巨砲の進路を南へと向けた。


そう、その先にあるのは、ユラークたちの故郷・イルモ。

バベル聖教軍に奪われ、圧政と恐怖に縛られた町。

そこに残された住民たちを、解放するための旅路なのだ。


ラトナは小さく息を吸い、静かに告げた。


「行きましょう。彼らの故郷を取り戻すために・・・この砲を造ったのだから」


ユラークたちの協力の元・・ヴァラウの町をラトナがもらい受けた以上、

イルモ奪還は・・・彼らとの約束であり、義務なのだ。





◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇


いよいよ、その時が来た。

長く準備を重ねてきたイルモ奪還作戦が、ついに決行されたのである。


ラトナとアユリーナ、そしてユラーク率いる解放戦線の幕僚たちは、

すでにこの80ナルル(センチ)蒸気魔導砲の操縦室に乗り込んでいた。

そう、この操縦室は今や事実上、この軍隊の本営、本陣となっていたのである。

 


ちなみに・・この操縦室はすでに密閉式に改造されていた。

これで魔導砲撃時の爆風が内部へ吹き込む心配はない。

アユリーナ君の懸念も、ようやく払拭されたと言えるであろう。



操縦席に座るラトナの周囲には、立体映像のパネルが次々と浮かび上がる。

魔力圧、炉心温度、制御系統・・・数々の数値が淡い光を放ちながら流れていく。


それらの光景を見て・・ユラークたちは思わず息を呑む。

魔導技術の精密さ、その"異質な力"に圧倒され、ざわめきが広がった。


「なんとも不思議な・・!」「これが魔法というものなのか!」


しかし、ラトナは、そんなざわめきに振り返りはしない。

彼女にとって重要なのは、ただひとつ。

システムが示す数値を確実に読み取り、不具合がないことを確認していくことなのだ。


「・・・よし。問題なし。出撃可能だ」


その声は低く、鋭く、

これから始まる戦いへの覚悟をまっすぐに響かせたと・・同時に、ユラークたちの胸に火を灯す。


「「おっおおおお! 奪還作戦の始まりだっ!」」


操縦室の空気が、一気に熱を帯びた。

イルモ奪還・・・その第一歩が、いま踏み出されたのである。


-*- - - - - - *-



アビル鉱山で急ピッチに掘り出された膨大な魔結晶・・・

その結晶を核として、ラトナは400体もの人型魔導兵器(キュウルーラ)を造り上げた。


今、80ナルル(センチ)蒸気魔導砲の前面には、

白い蒸気を背景に、巨躯の兵たちがずらりと影を落とし・・並んでいる。


その威容を見渡しながら、ラトナは静かに、しかし確かな満足を胸に抱いた。


「我が愛しきキュウルーラたちよ・・・

 今こそ、我らの力を示す時。

 ルシャーナ帝国の名を、再びこの地に取り戻すのだ」


その声は、白き蒸気を押し広げるかのように、響き渡った。



もちろん、イルモ奪回の戦力は彼らだけではない。

ユラーク率いるイルモ解放戦線の兵たち・・・

傭兵を含めておよそ600名がすでに集結していた。

可愛いルジャン君、男装のナディラもその中に含まれている。


白い蒸気が揺らめく中、

ラトナの軍勢は、静かに、しかし確実に"戦いの形"を整えつつあった。



--------------------  To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




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