400年前の吸血鬼
ラトナは式札を片手に呪文を言い放った瞬間・・・"パチッ!"
鋭い異音が鳴り響く。
そして・・式札は青白い火花を散らし、燃え尽きるように灰となった。
これで、20回目の失敗となる。
「うっ・・」
歯噛みするラトナ。
死の間際に吸血鬼が放った呪いは、あまりにも強力だったのだ。
その残滓は、ラトナが放つ解呪の術をことごとく弾き返してくる。
「頑固な呪いだ。面倒な・・・」
低く吐き捨てるように言いながらも、彼女は冷静だった。
そして隣に立つアユリーナへ視線を向け・・"ニコリ!"と笑い、
懐から出した式札を数枚、迷いなく押しつけた。
手伝ってもらおうという魂胆なのだ。
「アユリーナ君も解呪の訓練が必要だよね」
「えっ!? はい、ラトナ様」
強制参加であるw
とはいえ・・魔導士を目指すのなら、異世界魔導の一つ、陰陽道に触れてみるのも悪くない。
それにアユリーナ自身、この解呪に興味を抱いていたのだ。少し嬉しそうでもある。
そうして二人は並び立ち、同時に呪文を唱え始めた。
もっとも・・・アユリーナの持つ式札は、ラトナのように燃えはしなかった・・・というか、
呪文の発音があまりにも難しすぎて、そもそも唱えきれなかっただけの話である。
「ラトナ様・・これ、痛っ! 発音が難しすぎますよ」
舌を噛んで涙目になるアユリーナ。
「でしょうね! だけど・・慣れと訓練は大事! 継続は魔導なのです」
・・・などと、よくわからない名言を吐くラトナだった。
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そして、もはや"数撃ちゃ当たる"としか言いようのない繰り返しの・・50連続チャレンジの末、
ようやく呪いはほどけた。
式札がふっと光り、空気が震えたのだ。
「やっと・・・成功!」
ラトナに襲い掛かってきていた・・あの呪いを、やっと除去できたのである!
それは吸血鬼が残した・・悪質きわまりない呪い。
恥ずかしすぎて、決して人に知られてはならない呪い。
「やっとか! よかった・・! 本当に解呪できてよかった・・
あれは・・恥ずかしすぎて、もう無理!」
ラトナは胸を押さえ、心の底から安堵の息を吐いた。
そう、彼女は "女として守るべきもの"を、ぎりぎりのところで死守したのだ。
・・・あの男女逆転、性転換の呪いから。
つい先ほどまで、ラトナの身体には・・"あってはならないもの"が生えていた。
その事実を思い返しただけで、彼女の顔は一気に真っ赤になり、唇を"ギュッ"と噛む。
「・・・うっ、あんな姿で生きていけるわけ、ないでしょ!」
怒りとも羞恥ともつかない声が漏れる。
でも、男の人ってあれを・・・ちょっと新体験だった。たまにはいいかも・・w
なんてね♡
だが現在、呪いは完全に解除され、ラトナはようやく・・・
いつもの可愛い(本人談)少女の姿へと戻った。
胸に手を当て、深く息をつく(胸も膨らんで復活!)
「ふぅ。ちょっと不安だったけど、これで一安心ね」
その傍らではアユリーナが心配そうに覗き込んでいたが、
もちろん彼女には“呪いの内容”など一切伝えていない。
師匠ラトナが一時的とはいえ・・美少年wに変えられていたなど、想像すらしていないだろう。
・・・・これは、絶対に墓場まで持っていく秘密だよね。
「あっはははは~ あっはは・・・」
こんな恥ずかしい状況を脱したラトナは、恨みがましい視線を灰と化した吸血鬼の遺骸へと向けた。
「やってくれたわね! よりによって、こんな置き土産を仕掛けてくるとは!
それに、この吸血鬼・・・私の名前を知っていたわよね!?」
そう、たしかに私の名前を知っていた点は、気になってしまう。
だが、この吸血鬼はもはや存在しないのだ。
おそらく200年以上前に、刃を交えた"誰か"なのだろう。
ラトナはしゃがみ込み、灰となった遺骸を慎重に探る。
顔の輪郭どころか、骨の欠片すら残っていない。
誰だったのかを示す手がかりは、完全に失われたのだと・・・そう思った瞬間。
灰の中で、微かな光が瞬いた。
「・・・これは!?」
灰の海に沈む、ひときわ強い輝き。
あの吸血鬼が最後に遺した"何か"が、ラトナの視界に飛び込んできたのである。
ラトナはそれをそっと掴み上げ、指先で灰を払ったが、思わず息を呑む。
「・・・おっと、危ない」
手の中に現れたのは、細身の刀身。
"銀製の短刀"だった。
おそらく、吸血鬼の胸に深々と突き立てられていたのだろう。
無敵と謳われる吸血鬼であっても、弱点でもある"銀の刃"を突き立てられれば動きは封じこめることができる。
ましてやその取っ手、柄に・・・不釣り合いなほどの巨大な宝石・・・いや!
それは宝石ではなく"特大の魔結晶"が埋め込まれていたのだ。
ラトナの表情がわずかに強張る。
"銀製の短刀"と"特大魔結晶"・・・
この組み合わせなら、吸血鬼をただ封じるだけでは終わらない。
意識を奪い、"人柱"として永遠に魔力を奪い続ける。
まさに禁忌の術式、闇の技法そのものだったのだ。
「なるほど・・この銀刃と魔結晶で、あの吸血鬼から魔力を奪い続けたのか! 200年以上も・・」
ラトナは低くつぶやきながら、短刀をそっと傾けた。
その瞬間・・刀身に刻まれた文字が、彼女の目に飛び込んでくる。
そして、ハッと息を呑む。
「・・・これは」
刃に刻まれた名は・・・"ラティリレス ノン レイン"
それは、彼女にとって最も大切な・・・なつかしき我が子の名だ。
「そうか・・レイン! 愛しきレイン! 400年前に、あの吸血鬼と戦ったのだね」
その名を口にした瞬間、ラトナの声が震えた。
長い時の流れの中で薄れかけていた記憶が、銀の刃の冷たさとともに鮮やかに蘇る。
ラトナの瞳に、静かに涙があふれた。
その昔・・400年以上も前のこと。
まだ、本当に若かった頃、一度だけ結婚し・・夫を持った。
だが、その縁は薄く、その夫はわずか半年でこの世を去る。
だが、その短い時間の中で生まれた男の子・・レインは、
可愛く、たくましく、そして賢く育った(※ラトナ主観)
やがてレインは"ラティリレス公家"を創設し、確証こそないとはいえ、
アユリーナにとって、祖先にあたるのかもしれない。
ラトナは銀の短刀をそっと握りしめる。
「レイン・・愛しき我が子よ。
あなたが残してくれたこの短刀は、これからも大切に守り、ずっと手元に置いておくわ」
そう呟くと、彼女はふっと口元に柔らかな笑みを浮かべた。
「ただし、"特大魔結晶"のほうは別。
あれは・・・ありがたく、別の用途で使わせてもらうからね」
静かな誓いと、少しの茶目っ気が混じった声が、拝殿の中を響かせる。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




