表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/60

呪いの技法


この拝殿は、おそらくアビル鉱山を守護するために建てられたのだろう。


しかし、ここで日々働いていた鉱夫たちは知らなかった。

この拝殿に隠された“真の役割"を・・・


まさか女神像の真下に、吸血鬼が“人柱”として封じられていたなど、

誰ひとり想像すらできなかったに違いない。


かつて300年前、この地では吸血鬼から漏れ出す膨大な魔力を利用し、

魔導具を稼働させていたのだ。

しかし文明は衰退し、魔導具の技術も失われ・・

今ではその魔力すら持て余すだけの、忘れ去られた遺産と化してしまっていた。



「この吸血鬼の役割は、もう終わったのだ。死なせてやろう」


ラトナは静かに、しかし揺るぎない決意を込めて頷いた。

次の瞬間、彼女の指先が鋭く走り、空中に魔導式が刻まれていく。

召喚されたのは・・燃え盛る魔導の炎。

棺ごと吸血鬼を燃やしつくしてしまおうという魂胆なのだ。


-- -- -- -- -- --


青白い炎が、彼女の目前で静かに揺らめいた。

豪奢で装飾過多な棺だけを正確に包み込み、

周囲に火が広がらぬよう。ラトナは細心の注意を払う。

青白い炎は、通常の炎をはるかに上回る火力で、静かに、確実に棺を灰へと変えていく。


ラトナの瞳は鋭く細められていた。

吸血鬼がどれほど厄介な存在か・・・彼女は身をもって知っている。

400年前、幾度となく刃を交えてきた相手なのだ。


「吸血鬼は手強い。魔力は人間を遥かに凌ぎ・・・

 しかも、人の生き血を吸って、眷属を増やしていく」


その言葉に、アユリーナは思わず息を呑み、身構えた。

燃え上がる棺の青白い光が、彼女の頬を不安げに照らす。



その時だった・・!

拝殿全体の魔力が、突如として跳ね上がったのだ。

まるで封じられていた何かが、最後の抵抗を見せるかのように・・・


燃え盛る棺の中から、黒い影がゆらりと立ち上がる。

しかし炎が強すぎて、輪郭は歪み、実体を捉えることすらできない。


これはおそらく・・封印されていた吸血鬼の意識が、炎の中で一瞬だけ蘇ったのだろう。

だが、もう遅い。

その肉体はすでに青白い浄火に包まれ、逃れようもなく焼かれ続けている。


わずかに怯えて後ずさるアユリーナを横目に、・・

ラトナは指先をわずかに動かし、さらなる力・・魔導を注ぎこんだ!

火力が一気に跳ね上がり、吸血鬼を灰へと還すための炎が唸りあがる。


ゴウッ・・・ゴゴゴゴ・・


轟く炎の音。その奥で、かすかな声が混じっていた。

燃え尽きゆく吸血鬼の・・・最後の言葉。


「お・・おまえは・・バベル公姫・・よ、よくも!よくも! 呪ってやる・・!」


炎の中を黒き影が落ちた瞬間、青白い火柱が揺らめき、肌を刺すような熱気が押し寄せた。

ラトナの表情がわずかに強張る。


「ちっ・・私の名を知っていたとは予想外!

しかも、最後の最後で呪いを仕込み・・・あんなことをされるとは!」


このままでは、いくらラトナでもヤバい! 恥ずかしい! 呪殺される。

彼女はすぐさま懐へ手を伸ばし、忍ばせていた式札を取り出した。


呪い対策には・・陰陽道が最適だ。

しかし、ラトナの知識は、あの"峠の茶屋"で手に入れた書籍のみ!

だが、それで十分! 彼女には自信があった。


呪いは発動するより防御する方が容易い。

書籍の知識だけでなんとかできるはず・・・と信じたい。

"ちょっと不安だけど"・・まぁ、大丈夫だろう。


ラトナはすでに、こんなことがあろうかと・・呪い対策として、式札に神聖文字を書き込んでいたのだ。

あとは呪文を詠唱して・・発動するのみ。


初めての試みではあるが・・とりあえず準備万端、備えあれば憂いなし!


ラトナはニヤリと笑った。

しかし、その傍らでは、アユリーナの表情は歪み、焦りが滲む。


そう、アユリーナには呪いが見えるのだ。

師匠たるラトナの身体に、黒く禍々しい残滓が、絡みついていることを・・・

「ラトナ様! 呪いが・・・!」


だが、それでもラトナは平気で笑い、アユリーナには理解できない発音(呪文)を紡ぎ始めた。


「 ꯐꯠꯇꯕꯥ ꯊꯋꯥꯌꯁꯤꯡꯕꯨ ꯁꯦꯡꯗꯣꯀꯎ! 」


ラトナの声が空気を震わせた瞬間、

彼女の手に握られた式札が眩い光を放ち始める。

これは異世界魔導の輝きであり、陰陽道の術式が発動した証。

すなわち・・ラトナの解呪が、今まさに実行されているのだ。


「よし、うまくいける・・のか!?」

  

期待と緊張が入り混じった声。

だが、その直後だった。

ラトナの表情がわずかに歪む。

胸の奥に、冷たい予感が走った。


バチッ・・・!


乾いた破裂音が拝殿に響く。

吸血鬼が放った呪力は、想像を遥かに超えるほど強力だったのだ。

式札はその圧に耐えきれず、一瞬で燃え上がって灰となってしまう。

解呪が失敗したのだ。


「・・・!!」


傍にいたアユリーナは目を見開き、思わず声を失う。


ラトナも一瞬だけ驚いたように眉を上げた。

しかし次の瞬間には、表情を引き締め、静かな冷気をまとった瞳に戻る。


「・・・うん。やっぱり手強い。だが、これくらい、想定内だよ」


その声音には、揺るぎない自信があった。

そう、解呪の式札は一枚きりではない。

ラトナの懐には、まだ何枚もの式札が隠されているのだ。


彼女は静かに次の式札を取り出し、まるで当然のように構え直した。

何度でも発動させればよい。

ただ、それだけのことだ。


「 ꯐꯠꯇꯕꯥ ꯊꯋꯥꯌꯁꯤꯡꯕꯨ ꯁꯦꯡꯗꯣꯀꯎ! 」


ラトナは、この世界では理解不能の言葉(呪文)を紡ぐ。だが・・・

バチッ!


式札は輝きを放つ間もなく焼き裂かれ、黒い灰となって散った。


「ほおぉぉぉ! やるね。楽しくなってくるじゃないか」


悔しさよりも、興味を含んだ声。

だが、まだまだ余裕はある。


"準備万端、備えあれば憂いなし!"


すぐに次の札を取り出し、詠唱したが・・燃え尽きた。

ならばまた一枚・・だが、燃える。

さらに一枚・・燃えた。

燃えて、燃えて、燃え尽きていく。


アユリーナは息を呑み、ただ見守るしかない。

それでもラトナは、口元にわずかな笑みを浮かべた。


「ふっふふ、まだまだ終わりじゃない。

式札の予備なら・・いくらでもあるのよ!」


強気な笑みとともにそう言い放つラトナ。

これまでの人生・・400年の間に経験した危機に比べれば、

この程度のことなど、たいしたことではないのだ。


・・・と言いつつ、その胸の奥では、

ほんの少しだけ不安だったり、恥ずかしかったりもしていた。





--------------------  To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ