炎の女神像
ヴァラウの町の中枢、政治と宗教の両方を司る・・バベル聖教庁の聖教館。
町の中央にそびえるその建築は、威厳と壮麗さを兼ね備え、高く伸びる尖塔は、この町の象徴としてひときわ目を引く。
人々は語る。
あの塔は、伝説の巨塔、女神様が住まわれた"バベル"を模したものだという・・
その話を聞いたラトナは、わずかに口元を緩め、静かに笑った。
「うん、私の愛する故郷・ルシャーナ帝国が復活したら・・あの素晴らしき巨塔も再び再建したいね」
その声には、野望を隠そうともしない確かな響きがあった。
ユラーク率いる、キャラバン隊に偽装したイルモ解放戦線の面々・・その数、およそ三百余名。
彼らは荷馬車の奥深くに隠していた武器を次々と取り出し、迷いなく装備を整えていく。
祭りの喧騒が遠くに聞こえる中、彼らの周囲だけが異様に張りつめていた。
金属が触れ合う音だけが、不気味に響き渡る。
そして、彼らの最前線、ラトナが起動させた人型魔導兵器・キュウルーラ十体も準備を完了し・その巨体を揺らしながら進み出る。
目指すはヴァラウの中枢、バベル聖教庁の聖教館!
その巨大な建造物へ向け、解放戦線の影が静かに迫っていた。
本来なら、魔弾の一斉射撃で館ごと吹き飛ばすつもりだった。
だが・・ラトナの心変わりで、作戦を大きく変える。
略奪ではなく支配! この町を占領するのだ。
ユラークは高く腕を掲げ、彼らに向けて叫ぶ。
「・・突入せよ! 城祭長を捕らえるか、または討ち取れ!」
その号令が空気を裂いた瞬間、イルモ解放戦線の総攻撃が、聖教館へと放たれる。
ラトナの野望をかなえるために・・
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聖教館を守る護衛兵、またはその関係者たちは・・恐るべきものを目撃した!
3ラヌルを超える・・人であって人ではない何かが、巨大な丸太を振り回しながら こちらへ突っ込んでくるではないか!
しかも10体以上も・・・
「おいおいおい! な、なんなんだあれは・・」
「シ・・シャレにならんぞ! やばい、やばいって!」
「緊急警報だ。館内に知らせろ!」
それは、現実とは思えない光景!
ありえない現実!
護衛兵たちは一瞬で悟った。あれは無理だ! 守りきれない・・・
「に・・逃げろ!」「うわわぁぁぁぁぁ」
聖教館の正面アプローチを守る護衛兵、十数名は・・恐怖に押し潰されるかのように、あっという間に逃げ散っていく。
だが・・ユラークやラトナにとっては、まだ前哨戦に過ぎない。
聖教館の正面付近を、蹴散らしたに過ぎないのだ。
ここから本格的な戦いとなるはず。
・・・とはいうものの、この町を守る敵の戦力はおそらく少数・・されど油断をしてはならない。
"少数だからこそ強敵"という場面は、戦場では珍しくない。
重厚な扉が押し開かれ、響き渡るのは怒号と、石床を叩く無数の足音。
キュウルーラ十体を先頭にしてイルモ解放戦線三百余名は、聖教館内部へと突入を開始した。
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その時・・
「ラトナ様、あれを・・見てください! 強い魔力を感じます・・」
アユリーナの声が震えた。
彼女にとって、魔力の波動を感じる相手といえば、いつも隣にいる・・師匠ラトナだけ。
なのに! なのに! よりによって、こんな場所で。
魔法を忌み嫌うはずの・・神聖なバベル教の聖教館の中で・・確かに魔導が脈動していたのだ!
当然、ラトナもすぐに異変を察し、視線を鋭く向けた。
「あ、あれか・・嫌な気配だ。ちょっとまずいかも」
それは聖教館のエントランスホールに鎮座する・・等身大の銅像。
どうやら"女神バベル公姫"を模しているという。
だけど本物(本人)に比べ・・かなり肉欲的、胸を強調しすぎだw
そんな銅像を見て、ラトナは苦笑するのだが・・そんなことは、どうでもよい。
問題は、その銅像が・・ただの装飾品ではないということだ。
まるで生き物のように、濃密な魔力を滲ませている。
「まずい、ユラーク殿! 警戒を・・あの銅像、何か仕掛けが・・・」
ラトナの警告が言い終わるより早く、問題の銅像が脈動するように眩い光を放った瞬間、聖教館の空気が濁った。
「・・・来る!」
ラトナは反射的に指を走らせ、素早く印を結んだ。
魔導障壁を展開させるのだ。
アユリーナも遅れながら印を結び、障壁を重ねる。
彼女たちと・・ユラーク、解放戦線の人たちの周りを青白き光・・魔導障壁が包み込んだその瞬間・・轟音と炎が巻き上がった!
ズドォォォォッッッッ
そう、あの銅像から放たれた巨大な火炎弾、火の玉が一直線!
ここにいる人たち全員を、飲み込むかのように・・襲いかかってきたのだ。
炎の奔流が空気を裂き、視界を紅蓮の炎が染めた。
だが・・ラトナたちに傷一つなし!
魔導障壁によって、その火炎弾を弾き返したのだ!
「間に合ったか! 助かった・・・」
まさに紙一重。
あと一瞬遅れていれば、三百余名の部隊は壊滅していたに違いない。
やはり・・戦争は油断大敵! 敵が少数だからといって舐めてはならない。
少数ゆえに何かを仕掛けてくるからだ。
とはいえ・・屋内で火炎弾とは正気ではないな!
ここを丸ごと焼き払うつもりだったのか!?
・・・とはいえ、火炎弾によって、火災にならなかったのは不幸中の幸いだった。
一方、命を救われた三百余名の解放戦線の兵士たちは、初めて目の当たりにしたラトナの魔導に息を呑んだ。
恐れ・・・・だが、それを上回る圧倒的な確信が胸に湧き上がる。
あの少女・・ラトナ様がいれば、勝てる!
バベル聖教庁を倒せる!
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主君でもあるユラークから、これまでの事情を聞かされていたとはいえ、魔法という存在に懐疑的であった。
しかし今、この場で・・彼らは確かに目撃したのである。
炎を弾き返す光の障壁・・人知を超えた力。
彼女は伝説で語られる・・"本物の魔法使い"なのだ。
その事実が、解放戦線の兵士たち・三百余名の心を、ラトナは一瞬で掴み取る。
「「おおおっ・・・・! 」」
それは恐怖ではなく、希望の叫びだった。
しかし、その叫びとは裏腹にラトナは目前の銅像・・その魔導に何か心当たり、引っ掛かりを感じる。
あれは・・たしか・・えっと・・・
「あっ! これ・・私が400年前につくった魔導具だ!」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




