ヴァラウ事変
その日・・ヴァラウの町は喧噪に包まれていた。
色鮮やかな神輿が揺れ、人々の笑い声と太鼓の響きが町の隅々まで満ちていく。
屋台が立ち並び、のぼり旗が風ではためき、通りは一面、祭りの色に染まっていた。
「わっしょい♪ わっしょい♪」
今日は祝日、お祝いの日だという・・町全体が喜びに沸き立っている。
そんな喧噪の中で、ラトナはふと気づく。
この町・・驚くほど臭くない。
鼻を刺すような悪臭が漂うイルモとは、まるで別世界だ。
人々の熱気に満ちたこの空気さえ・・どこか清々しく感じられる。
ユラークの話では、この"ヴァラウ"は他の町に比べて、ゴミ処理も下水管理も格段に整っているという。
「なんと! ここの住民なのか、指導者なのかは知らぬが、
町の運営というものを理解しているではないか!」
ラトナの心に、わずかな変化が生まれる。
略奪は・・やめておいてやろう。
実に文明的な町ではないか。
しかも、この祭りも悪くない。
なにせ・・この私を讃える祭りなのだから。
その名も"ー女神バベル公姫・降臨祭ー"
ほおぉぉぉ! そんなに私の降臨を願っているのか。
ならば、期待に応えてやらねばなるまい。
「うっふふふふ♪」
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キャラバン隊に偽装したイルモ解放戦線の武装集団・・・・ユラークたち三百余名の一行は、祭りの喧騒を横目にして、静かに、しかし確実に前へと進んでいった。
そのキャラバン隊・荷馬車の奥深く。
黒髪ゆえに人目を避けねばならないラトナとユラーク、そしてアユリーナが、揺れる荷台の中でひっそりと身を潜め、外の様子をうかがっていた。
やがて、その張りつめた沈黙を断ち切るようにラトナが口を開く。
「この町・・ヴァラウの略奪をやめてほしい」
「んっ! 予定の破棄だと!? 楽しみにしていた者もいたが・・・」
ユラークの眼光が鋭くラトナに向けられる。
その視線は、まるで悪役が正義の味方を睨むがごとく・・
だが、ラトナの言葉には慈悲はない。むしろ、露骨な私欲だった。
「楽しみにしていた者は・・他の町で満足させてやればよい。
私はこの町が気に入った! ここが欲しい。帝国復活の一里塚にしたいのだ。ゆえに破壊して欲しくない」
その言葉にユラークは一瞬、息を呑み、その野心を覗き見た。
「この町を領有したいと・・!?」
ラトナはゆっくりと口角を吊り上げ、ユラークを見据える。
そして・・当然の権利を告げるかのように続けた。
「私がこの"ヴァラウ"・・をいただく。ユラーク殿は・・"イルモ"を好きにするといい」
まだ戦いは始まってもいないというのに、すでに戦いの後の分配を語るラトナ。
すでに勝った気になっているのか、それとも図太いのか!? (フラグが立つw)
だが、そんなユラークは、躊躇なく了承する。
「戦いに勝ち、イルモを奪還できるのなら・・ラトナ様の望むままに」
彼は基本的に・・彼女の要望を受け入れることにしている。
イルモの奪回には、どうしてもラトナの・・"あの強力な魔法力"が必要だからだ。
荷馬車の中で交わされた密やかな取引は、やがて訪れる戦乱の行方を、静かに、しかし確実に形作っていく。
その会話を耳にしたアユリーナの表情は、複雑に揺れていた。
彼らが"狩られる側"から"狩る側"へと変貌した瞬間を、
彼女は確かに・・感じ取っていたのかもしれない。
もちろんそうなると・・ラトナの狙いは略奪ではなく、町の中枢を一気に叩き、掌握することへと移っていく。
ユラークは短く頷き、仲間たちへ・・その方針を伝達した。
狙うは・・町の中央にそびえる、バベル聖教庁の聖教館。
"ヴァラウ"の政治を司り、この一帯を統べる城祭長が座す場所である。
「・・まずは敵の中枢を落とす。そこから全てが始まるのだ」
ラトナの発言にユラークもまた、低く応じた。
「了解した。標的は聖教館・・迅速に仕留めよう」
こうして、闇の中で決まった一つの方針が、
町全体の運命を大きく揺るがすことになるのだった。
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ユラークたちが率いる偽装キャラバン隊は、旅人のような無害な顔を装いながら、ゆっくりと町の中央へと進んでいった。
祭りの最中とあって、警戒は驚くほど甘い。
警備兵の姿はまばらで、町全体が浮かれているのだろう。
危機感など全くない。
奇襲攻撃をするには、これ以上ないほどの好機だ!
ユラークは短く息を吸いこみ、鋭い声で号令を放つ。
「よし! 始めよう。イルモ奪回のための作戦・・・開始! 」
その声に応じるように、ラトナも静かに指を動かす。
すると次の瞬間、荷馬車の影が揺れ、彼女の愛すべき人型魔導兵器・キュウルーラ10体が、まるで眠りから覚めた巨人のようにゆっくりと稼働をはじめた。
ラトナは動き始めた巨体を魔導で軽く調べ、静かに呟いた。
「全て不具合なし。いつでも戦える!」
軋む金属音が鳴り響き、隠されていた巨体が一体、また一体と立ち上がる。
その異様な光景に、町の住民たち、または通りすがりの人々は、何が起きているのか理解できず、ただ呆然と見つめるだけだった。
だが、その巨体の影から、不意に現れた三つの黒い影。
ラトナ、ユラーク、アユリーナ。
その姿を目撃した住民たちの呆然は、一瞬で恐怖へと塗り替えられた。
「ひぃ・・黒髪! 黒髪! 魔族だ。魔族がやってきた」
彼ら住民たちは純粋な"バベル教徒" 子供のころからの"バベル教徒"。
黒髪の人間を "魔族"として忌み嫌うよう教え込まれた者たちである。
ゆえに、恐れ、叫び、戸惑う。
だが・・その混乱の中、ユラークの鋭い眼光が住民たちを射抜いた。
それは・・悪役そのものの迫力!
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
住民たちは悲鳴を上げ、泣き叫び・・蜘蛛の子を散らすように、この場から逃げ去っていくのだった。
「・・魔族とは、随分な言い草だな!」
吐き捨てるようなユラークの呟きに、ラトナとアユリーナは思わず苦笑する。
こうして、女神を讃える祭りの町は・・その女神によって戦乱に巻き込まれていくのだった。。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




