ヴァラウの町へ
イルモ次期市宰卿と目されるユラークは、各地に潜伏する仲間たちへ、急ぎの伝令を走らせた。
その内容は決起!
~ 有力な者を味方にした。狼煙を上げよ! イルモ奪回の時だ。~
ユラークにとっての希望、それは・・・
200年を生きたと言う"バベル公姫・ラトナ様"を味方に引きこんだことだった。
しかも、あの憎き敵・・バベル教が崇める女神の"元ネタとなった人物"だというではないか!
つまり、敵・聖教軍が崇拝している女神本人が、我らの味方となったということだ。
「本当なのか!? 本当に女神なのか・・・!?」
半信半疑でありながらも、ユラークの胸奥に漂う"希望"が膨れ上がっていく。
あの魔法力は、あまりにも驚異、あまりにも恐怖・・
まさに神話の中の人物、女神と言われても納得してしまうだろう。
ゆえに・・ユラークの瞳が、静かに、しかも確実に燃え広がる!
「勝てる! これで勝てる。イルモ奪還だ! 父の仇・・バベル教どもに復讐してやる」
彼の鋭い眼光は、聖教軍に占拠されているイルモの町を真っ直ぐに射抜いていた。
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そのイルモの町を覆う影・・
そこに陣取るは、"女神バベル公姫"を奉じる聖教軍、一万余の軍勢。
この宗教を基盤とする戦闘集団の中核には、およそ千名から成る精鋭部隊ー"武僧団"と呼ばれる者たちが立ち並ぶ。
彼らこそが、軍全体の主戦力にして、聖教軍の魂そのもの。
信仰を矛とし、戒律を盾とする者たち。
選ばれし戦鬼・・最強の集団である。
そして、この巨大な軍勢を統べるのは、
聖教軍司令官にして聖務長カルザン。
軍人でありながら、女神に仕える聖職者としての顔も持つ男だ。
この大陸南部には、いまだバベル教に従わぬ者たちが多く暮らしている。
とりわけ・・・黒髪の民。
そう、"魔族"と呼ばれた者たちの残党が、今も息づく土地だ。
ゆえに聖教軍にとって、この地域の要衝であるイルモを制圧することは、避けて通れぬ使命!
黒髪の住民を排し、市宰卿を討つ!
それこそが、バベル教が果たすべき"聖務"、この地を女神の名のもとに浄化するのだ!
「「・・バベル公姫様に、我が身を捧げよ! 女神様、ばんざぁぁーい」」
町に住む人たちの思いはどうであれ・・聖教軍の兵士たちの熱狂的叫びが、イルモの町にこだまする。
聖教軍が捧げる、女神バベル公姫への絶対的信仰。
その声は、まるで祈りという名の呪いのように、町を覆い尽くしていた。
しかし・・その女神の元ネタ、または本人たるバベル公姫・・・
つまりルシャル・ノン・ラトナは、ユラーク率いるイルモ解放戦線とともに聖教軍打倒に立ち上がる!
女神を奉じる聖教軍が、その女神自身に狙われるという・・皮肉を抱えながら。
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ユラークの呼びかけに応じ・・集まったイルモ解放戦線の面々たち。
彼らは・・イルモ都国、ナガラン市宰家に代々仕えてきた家臣たち。
いわば、主君の掛け声に応じて"いざ鎌倉"とばかりに馳せ参じたのである。
そんな家臣たち・・三百数十名の一行は、朝霧の中を静かに北へと進んでいた。
向かう先は、奪還を目指すイルモではない。
その北方にある中核都市、ヴァラウ。
イルモの北部に位置し、バベル教徒が多く暮らす町なのだ。
ユラークたち・・彼らの姿は、どこからどう見ても旅人たちのキャラバンだった。
いまから戦争するような雰囲気はない!
粗末な外套、荷を積んだ十数列の荷馬車、そして武器らしい武器は一切見えない。
だが、その荷馬車の奥には、人型魔導兵器キュウルーラ10体、切り札ともいえる最強の戦力が、静かに息を潜めていた。
もちろん、ラトナもその荷馬車に乗り込んでいる。
やがて、ユラークは伝令らしき者から報告を受け・・そして低く声を上げる。
「やはり・・ヴァラウの町は手薄だという。しかも祭りの最中! 油断もしているだろう。
ならば予定通り略奪するまでだ。バベル教徒の町だ、遠慮はいらない」
その言葉に、ラトナの片眉がわずかに跳ね上がる。
「ほう・・手加減無用というわけね。そして、敵を誘い出す策でもあるの・・か!」
400年前の帝国草創期、戦乱を生き抜いたラトナにとって、略奪は特別なことではない。
この世界は、いまだ中世時代の闇・・力こそが正義、秩序を決めるのだ。
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ヴァラウの住民の大半はバベル教徒。
そしてこの町は、バベル聖教庁にとって欠かすことのできない重要拠点である。
そこを襲撃・略奪となれば、聖教軍が黙っているはずがない。
イルモに駐屯する聖教軍は、必ずヴァラウ救援のために動き出すだろう。
それこそが、ユラークたちの狙いだった。
行軍中の聖教軍を奇襲し、その主力を叩き潰す。
そうすれば周辺の敵戦力は大きく削がれ、イルモ奪還が一気に楽となるだろう。
すべては、町を取り戻すための布石。
バベル教徒からの略奪も仕方がないのだ。
(資金調達にもなるのよね)
ヴァラウの町は、この地方では中堅に位置する都市。
町を囲む城壁は、申し訳程度にしか残っておらず、場所によってはすでに取り払われている。
つまり、この城壁にはもはや防衛としての役割はほとんどなかった。
むしろ市街は城壁の外へと広がり、町と外界を隔てる境界といえば・・
小さな川に架かる、ただ一つの石橋にすぎなかった。
今、その石橋の上を、長い影がゆっくりと流れていく。
そう、それは三百名を超える・・大キャラバン隊の列、静かに途切れることなく町へと向かっていた。
この時点では、誰の目にも分かる無害な旅商人の群れ。
災厄を運んできているとは思えなかったのである。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




