ルジャンは見た! -あの女神の本当の姿を-
ラトナに対して啖呵を切った聖教軍兵士たち・・
だが、その勇ましさとは裏腹に、場の空気が張りつめていた。
恐るべき魔獣・・いや、巨人!・・その数は10体
全長3ラヌルを超える巨体が、巨木の丸太をまるで小枝のように振り回しながら迫って来るのだ。
兵士たちは恐怖を押し殺し、必死に声を張り上げた。
「陣形を整えろ!」「槍を突き出せ!」
「我らには真なる女神、バベル公姫様がついているのだ。恐れることはない! 」
そんな叫びを聞きながら、ラトナは小さく、しかしどこか呆れたように笑った。
"バベル公姫がついている"・・とは、よくもまあ、本人を目の前にして そんなことを言えるものだ。
「ならば・・見せてやろう。そなたたちの言う"真なる女神"の力とやらを」
その声は低く、しかし確かな威圧を帯びていた。
ラトナの指先が迷いなく動き出すと・・・
その動きに呼応するように、アユリーナもまた静かに指を動かす。
2人の魔導が、音もなく空気を震わせ始めた。
一方・・聖教軍の兵士たち、数十名。
彼らの視線はラトナたちではなく、目前で丸太を振り回す巨人たちに釘付けになっていた。
迫り来る脅威に意識を奪われ、側面への注意は完全に抜け落ちている。
その死角を、ラトナとアユリーナは容赦なく突くのだ。
十分な距離を保ちながら、音もなく側面へと回り込み・・・
そして、魔弾の射撃を開始する。
聖教軍兵士たちにとって、それは思いもよらぬ方向からの襲撃。
しかも、見たこともない青白い球体が、次々と空を横切っていく。
爆ぜる魔弾。
閃く雷光。
その光と衝撃が、聖教軍の隊列を容赦なく飲み込んでいく。
遠くからその光景を見つめていたルジャンたちは、ただ息を呑むしかなかった。
心の底から震えが走る。
「あれは・・・"戦場を変える力"だ。人の力で抗える領域じゃない」
ルジャンの傍らで、彼と同年代の男・・・おそらくリーダーと思しき人物が、静かに呟いた。
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ラトナたちの魔導攻撃が炸裂し、聖教軍の陣営は一瞬で混乱と悲鳴に包まれる。
そこへ、追い打ちをかけるように、10体の巨人・・キュウルーラが突入した。
兵士たちは、もはや何が起きているのかすら・・理解できなかった。
魔導も魔法も知らぬ彼らにとって、これは現実を無視する超常現象、驚異!
3ラヌルを越える巨人が、丸太を振り回しながら、殺意とともに突っ込んでくるのだ。
その一振りで10名近くの兵士を薙ぎ払い、まとめて吹き飛ばす。
まったく歯がたたない。
抗うことすらできないのだ。
それは戦いではなく、一方的な蹂躙。
「な、なんなんだ・・あの化け物は・・!」
恐怖に声を震わせる兵士。
その横で、別の兵士が絶叫した。
「違う! あれは魔界の魔獣だ! 魔法使いが生み出した化け物だ!」
その叫びを合図にしたかのように、聖教軍の兵士たちは我先にと逃げ出した。
だが・・ラトナは逃すつもりなどない。
"魔導士"の存在を知られた以上、口封じは必然。
10体の巨人が、逃げ惑う兵士たちを容赦なく追い立て、また一人・・また一人と地に伏せていく。
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ラトナとアユリーナにとっての戦いは、ひとまず終息を迎えていた。
収容バックから取り出した例のみかんジュースで二人の喉を潤す。
あとはキュウルーラたちに任せておけばよい。
追撃戦は彼らの任務なのだ。
できることなら・・・一人残らず口封じしてもらいたいところである。
そんなラトナたちのもとに、三つの影が静かに近づいてきていた。
その中にはルジャン、どこか見覚えのある女性、そして・・・ひときわ鋭いオーラ、存在感を放つ男がいた。
そう、おそらくその男性こそ、この三人の中心人物・・・おそらく身分高き人物なのだろう。
年頃はルジャンと同じく、二十歳前後に見える。
だが、彼のまとう空気はまったく別物だった。
黒髪に精悍な顔立ち。鋭い眼光は、見る者を射抜くようで、立っているだけで周囲を圧する。
一言で言えば"悪役"の風格。
その男が、静かに口を開いた。
「私の名は"ナガラン ノン ユラーク"
父に代わり・・イルモ都国の正当なる市宰卿となる者です。
それであなた様を・・"バベル公姫"と、お呼びしたほうがよろしいのでしょうか?」
それに対して、ラトナは微笑を浮かべる。
「そうだね。かつては"バベル公姫"と呼ばれていたけれど・・今は"ラトナ"でいいよ」
柔らかな笑みを保ちながらも、ラトナの視線は鋭い。
相手の一挙手一投足を逃さず、まるで心の奥底まで覗き込むがごとく・・
男は微動だにせず、その視線を真正面から受け止めていた。
二人の間に、言葉より重い空気が流れるのだが・・
その緊張を破ったのは、その男"ユラーク"の傍らに立つ女性だった。
「わ、わたくし・・以前、男装していた時にお会いしておりまして・・
えっと あの時は・・・その、失礼いたしました。わたくしの名は"ナディラ"
イルモ都国の内史官を務めている者です」
そう、あの時・・聖教軍の兵士に追われていた男・・もとい男装していたのが彼女だったのである。
たしかに、女性にしては背が高く・・目つきも鋭い印象がある。
なるほど・・それで男装が似合うわけか!
ラトナは軽く目を細め、ふっと笑った。
「あっ~ あの時の! 無事でなにより。でもちょっと脅かしちゃったみたいだね」
その一言に、ナディラの肩がピクリと震えた。
どうやら、今でもラトナが怖いらしい。
・・・まあ、それはルジャンも同じだが。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




