サディスティックな彼女
ラトナの口元が、ゆっくりと弧を描く。
無数の黒き腕(触手)に絡め取られ、必死にもがくルジャン君の姿。
そう、可愛い男の子がもがき・・苦しむ姿を見てラトナの瞳は妖しく細められていく。
「えっと・・サディストじゃないよ! ちょっと興味が湧いただけなのよ。うっふふ♡」
その声音には、隠しきれない高揚が滲んでいた。
それとは対照的に、アユリーナの胸に去来したのは、まったく別の感情だった。
ルジャンに恨みがあるわけでも、復讐の対象でもないのよね。
むしろ、状況次第では味方になり得る人物なのだ
だからこそ、影に絡め取られ、成す術もなく震えるその姿が、どうにも気の毒に思えてしまう。
ラトナの愉悦と、アユリーナの同情。
同じ光景を見つめながら、二人の心はまるで正反対の方向へ揺れていたのだ。
・・・とはいえ、いつまでもルジャン君をこのまま拘束しておくわけにもいかない。
ラトナは小さく息を吐き、束縛の魔導を解くことにした。
どうやら、ルジャン君の属する組織は、 魔法使いを“スカウト”したがっているらしい。
三顧の礼を尽くすつもりで、彼らを迎えたいと考えているのだという。
その情報を聞いた瞬間、ラトナの笑みは別の意味を帯び始めていた。
「とりあえず・・ルジャン君! あなたの属する組織と会ってみることにする。
その者たちをここへ連れてきてくれるかな!? その方が都合が良いでしょ」
長い髪を揺らしながら・・そう告げたラトナに、ルジャンの顔が引きつった。
無理もない!
彼にとってラトナは"本物の魔法使い"であり、恐怖の対象でもあったからだ。
そんな雰囲気を察したのか!? アユリーナが、そっと一歩前に出てフォローにはいる。
「ルジャンさん。お願いできますか? あなたなら大丈夫だと思うの」
柔らかな声が、張りつめた空気をほどくように響いた。
その瞬間、ルジャンの顔色が・・パッと明るくなる。
「も、もちろんです! おまかせください!」
「うわぁ うれしい〜」
にやけ顔になるルジャン・・・手を叩いて喜ぶアユリーナ。
気づけば彼は、アユリーナの言葉にすっかり従う形になっていた。
その様子を見ていたラトナは、肩をすくめて苦笑する。
「まぁ・・・そりゃそうよね。よっぽど私が怖かったんでしょう」
ラトナの呟きは、どこか楽しげでもあった。
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その後・・伝令役となったルジャンはラトナの"魔の手"から逃れるかのように、素早く森の奥へと駆け去っていった。
それでも、その別れ際、ルジャンの視線は終始アユリーナだけに向けられ・・名残惜しそうだった。
これはもしかして・・恋ゆえなのか!?(俗にいう吊り橋効果)
あるいは・・単にラトナが恐ろしくて目線がアユリーナに固定してしまっただけかもしれない!?
その真相は、ルジャン本人にしか分からない物語である。
まぁ・・ともあれ、ルジャンが無事に抵抗組織の隠れ家(秘密基地)!?に辿り着ければ、
いずれ"それなりの人物"がこちらへ姿を見せるはずだ。
だが、別の可能性もある。
ルジャンの報告が"よまいごと"と見なされ、相手にされず放置されるかもしれない。
あるいは、彼自身が裏切り、こちらを抹殺するために、手勢を率いて戻ってくる展開すらあり得る。
途中で彼が敵に捕らえられ、ここに聖教軍が押し寄せてくる可能性もある。
どれも否定はできない。
だが、それでもラトナは静かに腹を括っていた。
「来るなら来るで、その時はその時。対処すればいいだけのことだ!」
その声音には、揺るぎない自信が宿っていた。
-*- - - - - - *-
ルジャン君が・・・その"抵抗組織の幹部"とやらを伴ってくるまで・・・相応の時間がかかるだろう。
そう、しばらくは何も起きないのだ。つまり・・完全に暇になるのである。
「それならば・・うん! ここで役に立つ物でも作っておきましょうか」
そんなラトナの一言に、アユリーナの瞳が期待に揺れる
「えっ、なにを作るんですか!?」
ラトナはゆっくりと口角を吊り上げ・・・どこか楽しげに目を細めた。
「ふっふふ・・・魔導具づくりよ」
それは、彼女がもっとも得意とするもの。
その声には、200年前の魔導文明を支えた魔導士の誇りが宿っていた。
周囲に広がる砂地、荒れ地、土壌のあちらこちらに、黒き砂や、白い破片など・・・
魔導錬成に使える鉱物がいくらでも転がっているのだ。
ラトナはそれらを指先でつまみ上げると、軽く息を吐いた。
「素材なんて、そこら中に・・いくらでもあるのよ。砂でも、石でも、なんでもね」
さらに、彼女の背負う収容バッグには、戦利品の武器や鎧がぎっしり詰まっていた。
ラトナにとっては低品質製品であれど・・素材としては申し分なしなのだ。
「ふっふふ・・こんな粗末な武具でも、錬成すれば十分使える素材になるのよね~」
ラトナは軽く頷く。
200年前の魔導文明を生きたラトナにとって、今の時代の武具はすべて低品質、ガラクタのようなもの。
でも、その低品質ですら、彼女の手にかかれば立派な魔導具へと生まれ変わるのだ。
ラトナは座り込み、砂地に魔力を流し込む。
すると・・白き石英が淡く光りだし、黒き砂が火花を散らす。
「さあ・・・始めましょう。私の魔導具づくりの時間よ」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




