君の名は・・
ラトナとアユリーナは、イルモの町からできるだけ早く離れようと、人気のない場所を求めて森の奥へと足を踏み入れた。
魔導力で強化された身体は、ただの徒歩とは思えない速度を生み出し、二人の少女は風を切るように木々の間を駆け抜けていく。
その二人の少女の背後を、静かに追う影があった。
ラトナはすでに気づいている。しかし、その人物からの殺気はまるで感じられず、今のところ脅威とは判断していなかった。
それでも、油断するつもりはない。
「十分に・・町から離れたところで、仕掛けるわよ」
アユリーナもまた、影の存在を察していたらしく、迷いなく頷く。
「了解です!」
森を裂く風が二人の声をさらい、追う男の耳には届かない。
やがて、ラトナたちは森の奥、鬱蒼とした木々が途切れた先・・空が大きく開けた空間へとたどり着くと、
二人の少女は振り向き、追跡してくる男を視界に捕らえた。
「よし、始めよう」
その言葉と同時に、ラトナの指先が舞うように動くと、男の足元から黒い影が吹き上がった。
地面を裂くようにして伸び出した無数の黒い腕(触手)・・・
それらは生き物のようにうねり、逃げ場を与えぬ速さで男の身体へ絡みつく。
影に絡め取られた男は、まだ10代後半だろうか。
若々しい顔立ちに、優しげな眼差し、ちょっと背が低く可愛い男の子かも♡
その髪は黒と呼ぶにはあまりに淡く、白に近い色を帯びていた。
この程度では・・おそらく黒髪としての扱いはされていないだろう。
「さてさて・・私たちを追ってきた理由を、聞かせてもらおうか!?」
ラトナの唇がわずかに震え、喜びを含んだ色が浮かぶ。
可愛らしい男の子!?のすぐ目の前で、その口元はゆっくりと持ち上がっていく。
その笑みは半ば妖艶、半ば妖怪めいた歪みを帯び、まるで獲物を前にした山姥のような姿。
今にも噛みつき、骨の髄まで食らい尽くしてしまいそうな危うさが漂う。
対する男の子の方は、もはや冗談では済まされない状況・・・恐怖と冷や汗がまじりあい、心臓の鼓動が鳴り響く。
「ふっふふ、可愛い男の子だね!? 逃がさないわよ」
本物の魔法使いが間近で囁きかけ、獲物を追い詰めるように一歩踏み込んでくる。
足元では不気味な物体! 黒き腕(触手)に絡み取られ、逃げだすことすらできないのだ!
これが・・魔法というやつなのか!
もはや助かる道も、救いの兆しも、まったく見えない。
迫りくる・・長い黒髪の少女。
可憐な顔立ちとは裏腹に、恐ろしいほどの殺気を放っている。
"そう・・・彼女たちは、人の姿をしていながら人ではない。魔族と呼ばれる、恐るべき異種の存在なのだ
・・・と男の子は、震える心でそう確信していた。
そんな男の子にとって、まさに絶体絶命!
もうだめだ! もう終わりだ!
・・・とあきらめた瞬間、その流れを断ち切るように、澄んだ声が静かに響いた。
「ラトナ様、そこまでです。彼は・・・怯えてしまっていますよ」
その声音は、男の子にとってまるで天使のような歌声に聞こえたのだ。
だが実際には、暴走気味の師匠を止めるためにアユリーナが放った、冷静な一言にすぎない。
ラトナは肩をすくめ、子どものように笑った。
「ふふっ・・怯える可愛い子って、つい意地悪したくなるのよね」
それは、あまりにも正直すぎる彼女の本音だった。
そこで、ラトナの暴走を止めたアユリーナが、一歩前に出る。
ここから先の対応は、彼女が引き継ぐことになった。
これはある種の尋問テクニックらしい!?
・・高圧的な人物で心を揺さぶり、次に温和な人物で心を開かせるという・・詐欺師まがりのやり口w
そんなわけで・・アユリーナは表情を和らげ、怯える少年へと優しく語りかけた。
「ねえ・・あなたのお名前、教えてくれる!? お姉さんに聞かせてほしいなぁ」
その声音は柔らかく、安心を誘うような響きを持っていた。
だが外見だけで言えば、どう見ても男の子のほうが年上に見えるのだから・・"お姉さん"という言葉はどこか奇妙で、どこか可笑しい。
それでも、涙目の男の子にとっては・・・
まさに救いの手を差し伸べてくれる"お姉さん"そのものだった。
"あっあああ~ なんて暖かく素晴らしい人なのだ。まるで女神♡ "
・・・てなことで、その安心感から・・彼はつい口を滑らせてしまう(マインドコントロールw)
「じ、自分は・・ルジャン。セディア高家のルジャン・・イルモの史生官をしている。まだ見習いだけどね」
それを聞いたアユリーナは目を輝かせ、わざとらしいほどの声を上げた。
「えぇっ、うわぁ~すごい! 史生官様なんだ!」
その一言で、男の子はすっかり気分を良くしてしまう。
先ほどまで怯えていたのが嘘だったかのように、彼は胸を張り、得意げに、驚くほどあっさりと多くの情報を語り始めた。
(もういっちょ・・マインドコントロールPART2)
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この男の子の名は・・セディア・ノン・ルジャン・・そう名乗った。
イルモ都国の元史生官であり、
バベル聖教軍に奪われた故郷イルモを取り戻すための組織に属しているという。
バベル聖教軍に追われ・・ダルマール市宰卿らと共に脱出したものの、
残念なことにダルマール市宰卿は、その逃避行の最中、不運な事故で命を落とす。
その後は、市宰卿のご子息を後継者として擁立し、イルモ奪還を目指しているらしい。
さらに彼は続ける。
内史官殿の話から"魔法使い"の存在を知り、
ぜひ自分たちの陣営に迎え入れたいのだと・・・
・・と、彼は、まるで堰を切ったかのように、知る限りの情報を次々と吐き出したのである。
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ルジャン君! これは国の官僚として・・史生官としていかがなものかと・・
情報漏洩・・ただ漏れじゃないか!
やはり"見習い"という肩書きは伊達ではないらしいw
もっとも、得られた情報は・・・大したものではなかったのだが。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




