花よりベアー
本来なら、逃亡中の元イルモ市宰卿ダルマールを追跡し、拘束、または殺害するだけの簡単な任務だったはず・・
だが、その結果として待っていたのは、天にまで舞い上がる砂煙と爆音、激しい戦闘・・そしてバベル聖教軍の壊滅的損害であった。
イルモの町まで無事に戻ってきたのは、ほんの一握りの兵士たちと・・理解不能な証言のみ。
「・・・砂煙が巻き上がったかと思うと、視界が閉ざされ、しかも雷光が走ったんです。
隊長も仲間も・・・次々と、倒れていきました。だけど敵の正体がわからなかったのです」
その証言は、軍上層部に不穏な疑念を呼び起こす。
取り逃がした市宰卿ダルマール率いる残存兵力が、いまだ潜んでいるというのか!?
それとも、もっと別の・・"何か"が動き始めているのか!?
イルモを占領した聖教軍の司令官にして聖務長カルザンは、接収した市宰館の執務室で報告書を読み返しながら、静かに眉をひそめた。
40歳という壮年の迫力をまとい、整えられた銀髪と、獲物を射抜くような鋭い眼光。
その視線は、紙面の奥に潜む異常性を確かに捉えていた。
「・・・100名以上の損失か。しかも敵の正体すら掴めんとは・・・実に厄介だ」
司令官カルザンは深く息を吐き、報告書を机に置く。
イルモの外で何が起きたのか。
誰がこのような仕業を仕掛けたのか!?
答えは、まだ闇の中だった。
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かつてのイルモの統治者・・市宰卿ダルマールが政務を執った石造りの館は、今や聖教軍の臨時司令部として町全体を睨みつけている。
聖教兵たちはイルモ内を巡回し、住民たちに不穏な動きがないか、目を光らせながら・・聖教軍としての武力を誇示していた。
誰がこの町の統治者であるのかを、思い知らせるために・・・
とりわけ警戒しているのは、黒髪の住民・・・バベル教にとって"魔に取りつかれた者"と断じる存在。
そして・・バベル聖教軍に歯向かう勢力にして、危険な因子!
黒髪を見つければ即座に拘束し、奴隷として連行するか、あるいはその場で処刑しなければならない。
それが、バベル教の冷酷な教条であった。
そのころ・・・
ラトナとアユリーナは、周囲を一望できる山の中腹に身を隠しながら・・お花見ではなく、眼下に広がるイルモの町を観察していた。
それは一種の偵察であり、バベル聖教兵の数や配置を知るための行動でもあった。
まぁ・・もっとも、食事をしながら、ゆったりとしたペースで観察をするのだけどね。
敵の動向をつかむには、どうしても時間がかかるのだから。
「そうそう! 焦っても仕方ありません。こういうのは、腰を据えてじっくりするものなのですよ」
「んっ、そうなのですか!?・・ラトナ様」
「・・・そういうもの・・だよね!?」
そう言ってラトナは、例の"峠の茶屋"で、手に入れた謎めいた魔導湯沸かし器を、収容バッグから取り出した。
(某異世界の小型湯沸かし器にそっくりです。ただし電力ではなく魔力を注ぎ込む仕組みなのだ)
そして・・湯が沸くのを待ちながら、ラトナは手際よくお茶の準備を始めた。
さらに、同じ店で買った菓子を広げ、座古を敷いて腰を落ちつかせる。
ポテトチップスに、かりんとう、そして饅頭までも・・etc.
「これ甘い、これ塩辛い・・こんなの初めて♡」
アユリーナが思わず声を漏らす。
「だよね? さすが異世界の菓子よ」
ラトナもアユリーナも、菓子を口に押し込み・・"パクパク、バリバリバリッ"
思わず夢中。
某異世界風に言うと・・駄菓子類がほとんどです。
比較的安価で楽しんでくれる昭和時代風
中には、これを食べて大丈夫なのかという菓子も混ざっていますw
少しお腹が膨らんだ気もするが・・ご愛嬌♡
「「おいしい、おいしい」」
食べ放題の幸福に浸るのだ。
やがて気づけば、そこはまるでお花見というより・・爆食会と化していた。
パクパク、バリバリバリッ!
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監視と偵察・・そう称して始まった、ラトナたちの穏やかなお花見(爆食会)
しかしその最中、周囲にはふわりと、甘く香ばしい菓子の匂いが広がっていった。
なんとも食欲をそそる、実に美味しそうな香りなのであろうか。
すると何が起きる!?
当然の如く超猛獣・・人の倍以上あろうかという巨大な熊が、この匂いに誘われ姿を現したのだ。
ガオオッッォォォ・・・!
巨大熊の咆哮が響く。静かだった花見の場は、一瞬にして緊迫した空気に包まれた。
巨体が揺れ! 地面が震え! 二人の少女に迫る。
少女たち危うし・・・というわけではなく、ラトナは即座に指をすっと動かした。
-- 束縛の魔導 --
次の瞬間・・・
巨大熊の足元に広がる黒い影が、ゆらりと揺れた。
そこから無数の腕(触手)が、まるでタコの足のように伸びていき 熊の身体へと絡みつく。
「グッルルッ・・・!?」
そう、暴れる巨体、熊の身体をがっちりと拘束したのだ。
「大熊くん! 君はもう動けない。動けないのだよ!」
ラトナの弾むような声が響きわたる。
やがて彼女は片手をそっと顎に添えて短く思案したのち、収納バッグから一枚の式札を取り出した。
それは・・(峠の茶屋で手に入れた)陰陽道の書物を参考にして、ラトナ自身が書き込んだ・・とある効力を宿す式札なのだ。
隣に立つアユリーナは・・興味深げにその札を覗き込む。
「これは・・一体なんですか!?」
その問いかけに、ラトナはニコリと笑った。
「動物を使い魔に変える陰陽術だよ。せっかく熊を捕らえたんだ。
ならば・・あの熊を、私の意のままに操れるか、試してみたくなるだろう?」
そう、これはラトナにとって初めて挑む"使い魔の陰陽道"。
旨く行くか・・出来ないかは・・神のみぞ知る!
「うん、こういうのはね、やってみないと分からないものだよ」
そう告げると、影の腕に絡め取られ、なおも唸り声を上げる巨大熊へとラトナは近づき、その式札をその逞しい身体に貼り付けた。
「さて、始めましょうか。初めての使い魔の術!」
ラトナは静かに息を整え、低く澄んだ声で呪文を紡ぐ。
「 ꯑꯩꯒꯤ ꯑꯣꯏꯌꯨ꯫ 」
するとその凶暴な巨大熊は・・・・・
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




