やっぱし・・戦闘状態
イルモの町から、こちらへと向かってくる一群の影。
白き鎧に白き武器・・バベル教配下の兵士たちであろう。その数・・百十数名あまり。
彼らは、爆音と砂煙という異変に気づき、急ぎ駆けつけてきたのだ。
そして、とんでもないものを目にしてしまう。
鉄分の匂いが漂い、赤く染まった水たまりの中に沈む、同胞たちの無惨な亡骸を・・・
「隊長! これは・・・」
「なんということだ! 全滅!? いや・・生存者を探せ」
絶望的な状況を悟りながらも、兵士たちは必死に周囲を確認し続けた。
わずかな望みにすがるように・・・・
そのすぐ傍では、ラトナに脅され気を失った男が倒れていたが・・黒髪だったせいか、兵士たちの関心が全くない。
バベル教徒において黒髪は人間扱いされないのである。
もちろん、ラトナたちの姿はそこにはなかった。
彼女たちはすでに草むらの奥へと身をしずめ、息を殺して気配を消していた。
ただし・・これは逃げるためではない!
ラトナとアユリーナが狙っていたのは、ただひとつ。
迫り来る兵士たちへの、奇襲攻撃なのだ。
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同胞の亡骸を並べ、死因を調べている兵士たち。
その背後へと、ラトナたちは静かに回り込む。
これから相手にするのは多数の敵だ。正々堂々と挑むなど、愚の骨頂。
敵の背後を狙い、強烈な一撃を叩き込む・・・これこそ正しき戦い方!
先ほどの戦法と同じく・・ラトナとアユリーナは素早く指を動かし、次々と印を切る。
すると・・瞬く間に大量の魔弾が出現し、目前の兵士たち・・・その背後へと一気に襲いかかった。
ズッドドドオオォォォ・・・!!
轟音が大地を震わせ、濃い砂煙が巻き上がる。
いくつかの魔弾は、あえて地面をえぐるように爆発させ、視界を奪う煙幕へと変えた。
敵の目を塞ぎ、数も方向も分からなくさせるための、計算された一撃。
「兵士たちは、きっと"大軍に奇襲された"と錯覚するだろう。
そして・・・うまく逃げ出してくれれば、その背後を突き、さらに出血を強いる」
ラトナは低く呟きながら、ふと400年前の記憶を呼び起こした。
父と共に駆け抜けた、あの戦場の匂い。
彼女は、ここを本当の戦場だと錯覚してしまっていた。
ここで・・敵を殲滅したとしても、戦略的意味はない。
騒ぎが大きくなるだけだ!
それでも・・・目の前に"敵"がいる以上、殲滅したくなる。
それはラトナの無意識に刻まれた、戦士としての本能だった。
やがて、彼女の狙いどおり、兵士たちは迷走し、隊列を崩し始める。
おそらく隊長格の者が倒れたせいで・・統率を失ったからだろう。
しかも視界が聞かないゆえに・・大混乱しているようだ。
「何が起きた!?」
「隊長が・・・なんてことだ!」
「くそっ、どこから攻撃が・・」
「まずい! まずいぞ! 敵に包囲されてしまったようだ」
砂煙の向こうで、悲鳴と混乱が渦巻く。
だが、攻撃の手をゆるめない。
ラトナは、迷いなく魔弾を放ち続ける!
その横で、アユリーナも蒼白な顔で魔弾を撃ち続けていた。
手を緩めることは許されない。
いや、緩めるわけにはいかない。
彼らは・・アユリーナにとって仇なのだ。
親を・・村を焼き、奪い、踏みにじった者たち。
復讐は、果たさねばならない。
砂煙の中、魔弾の閃光だけが、戦場を切り裂いていく。
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その最中、ラトナはふとあることに気づく。
「400年前と違い、敵に魔導士がいないと・・戦いが楽でいいな。
いや、まてよ! おいおい・・奴らの鎧も剣も・・品質があまりにも悪すぎる! ひどすぎる!」
彼女はやはりというべきか・疑念は確信を得た。
400年前と比べ、あらゆるものが退化していることに・・
兵士たちが握る剣も、身にまとう鎧も、信じられないほど脆い。
魔弾程度で、簡単に貫通してしまうのだ。
文明も、文化も・・すべてが衰えてしまっている。
ラトナの視線は、崩れゆく兵士たちの影を静かに見据えていた。
「この世界は・・いったいどうして!?」
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その一方・・あの男!
ラトナが脅しつけたあの人物は、どうやら戦闘と混乱の中で意識を取り戻し、そのまま逃げ出したらしい。
しかし・・運命はいたずら! 時に滑稽!
草むらに身を潜めていたラトナたちと、真正面から鉢合わせしてしまったのである。
「ひ、ひぃぃぃぃ・・・・・!」
その男は叫ぶ! しかし、至近で聞くと妙に甲高く、女の悲鳴のようにも聞こえた。
「んっっ!?」
もしかしたら・・女が男に化けているのか!? 趣味か!? いや、身代わり・・影武者かもしれないな!
ラトナの脳裏に疑念が走るが、その男(!?)は草むらの奥へと脱兎のごとく駆け去っていった。
「待て・・待て待て! ちょっと待て 話を聞きたい」
ラトナが呼びかけても無駄だった。
・・その男(!?)は振り返りもしなかったのである。
あれは・・アユリーナが語っていた市宰卿の身代わり・・俗にいう影武者なのかもしれない。
もしそうであるなら、今後の展開は一気に面白くなるだろう。
影武者を放ち、なんとしても生き延びようとする市宰長ならば、このまま大人しく引き下がるとは思えない。
いずれ必ず反撃に転じ、奪われた町の奪回を狙う。
そう・・イルモの戦いは、まだ終わっていないというわけだ。
(本能寺の変で織田信長の遺体を見つけられず・・明智光秀が焦った状況にも似ている)
一方、敵の兵士たちは、ラトナたちの魔弾によって次々と倒れ、残った者たちは恐慌状態のまま四散していった。
とりあえずの勝利。そして・・お待ちかねの戦利品タイムである。
ラトナとアユリーナは素早く金品を漁る
その姿はどう見ても盗賊そのものだが・・二人の表情は満面のホクホク顔。
「おお、これは当たりだね。大漁、大漁」
「ラトナ様、こちらにも・・・!」
金品はいくらあっても邪魔にはならないからね!
今後のことを考えれば、もっと奪いたいぐらいなのだ。
だが、問題は魔力。
ラトナたちの残存魔力はあまり多くない。
これ以上の戦いは避けたいところだった。
「よし、金子も回収した。こちらも早々に撤収すべきだね」
「はい、ラトナ様」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




