夜の囁き ― 焦熱の大地で揺らぐ影
〈帝国領・火裂谷外縁前線キャンプ / 深夜〉
火山灰が降り続ける夜。
赤黒い空気はゆらりと揺れ、まるで大地そのものが呼吸しているかのようだった。
焚き火の灯りが揺れ、兵士たちが交代で見張りに立つ。
レオン(ノエル)は一人、キャンプ外縁の高台に立っていた。
風は熱く、夜であるはずなのに空気は冷えない。
クラリスが静かに近づき、薄い外套を肩にかける。
「旦那様……いえ、ノエル様。
眠ってはおりませんの?」
レオンは火山の影へ視線を向けたまま答える。
「眠れそうにない。」
クラリスは彼の横に並ぶ。
「……影、ですか?」
レオンは短く息を吐いた。
「影は、ここでも“呼んで”いる。」
火山風に混じる黒い囁き声が、ほんの一瞬、耳に触れた。
> ――きこえているのだろう、不死の王。 ――また会える。深き炎の底で。
クラリスの指が、剣の柄に触れた。
「……声が?」
「ああ。
氷鎖峡谷の時と同じだ。
だが――今回は“明確に俺を呼んでいる”。」
クラリスの瞳が揺れる。
「旦那様……
影はあなたを奪おうとしているのでは?」
レオンは静かに首を振る。
「奪うつもりなら、あの夜で十分だった。
今回は――“誘っている”。」
クラリス: 「……まるで。」
レオン: 「まるで、俺に“見せたいものがある”かのようだ。」
焚き火の明かりが揺れ、
“影”が地の底からうねり上がるように見えた。
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「おーい! ノエル様ー! クラリースー!」
イリナが片手にぐでんぐでんに溶けた氷袋を持って駆けてくる。
「水、冷やしてきたヨ! ほらほら、飲んで!!
ただし半分蒸発してるヨ!!」
クラリス(小声): 「……本当に空気を変えるのが得意な人ですね。」
レオンは小さく笑い、受け取った水袋を口に運ぶ。
「助かる。」
イリナの顔が一気に輝く。
「でしょ!?」
クラリス(じと目): 「はいはい、良かったですわね。」
イリナ(むーっ): 「なんでいつもそういう感じなの~!!」
二人のいつものやり取り。
だが――
その瞬間。
レオンの視線は、火山の中心を射抜いたまま動かない。
クラリスとイリナは、気づく。
「あ……また、“見てる”んだ。」
「呼ばれてる。だよね?」
レオンは、静かに頷いた。
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「明朝、火裂谷第二層へ進む前に――
影の発生点を一度探る。」
クラリス: 「危険です。」
レオン: 「わかっている。だがこれは、俺にしかできない。」
イリナは笑わなかった。
「……ついてくヨ。
ノエル様を一人でそういうところに行かせるとか、ないから。」
クラリスもうなずき、微笑む。
「当然ですわ。」
三人の影が、赤い夜に伸びる。
その光景は、
まるで 運命に挑む“英雄の背中” そのものだった。
いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、帝国首都ヴァルハイド・飛行滑空艇格納庫前




