飛行滑空艇ヴァーミリオン・ウィング》
〈帝国領・紅炎上空〉
赤熱した地平を見下ろしながら、滑空艇は滑るように飛行していた。
甲板の前方では――
アリアとミュリオが並んで風を受けていた。
アリアは落ち着いた声で、船体振動の周期を指で示した。
「……やっぱり、前回と同じね。 火の魔石が推力層を作って、風の魔石が揚力と姿勢制御を補ってる。」
ミュリオは興味深げに頷く。
「つまり魔石の“熱膨張差”が推進力……。 でも、あの速度で安定してるのは――」
「――船体骨格内部に、地脈の流れを模倣した魔導回路があるから。」
「おお……やっぱりキミは天才だな、アリア。」
アリアは照れもせず、さらりと続ける。
「ただし欠点がひとつ。 この設計、影の乱流に弱い。」
ミュリオもすぐに理解し、目を細める。
「推進層が乱れると、揚力が崩れる……つまり――」
「――墜落ね。」
その瞬間、
背後から落ち着いた声がした。
「優秀だな。」
振り返ると、
帝国使節団筆頭 ライゼン・ヴァルハルト卿が立っていた。
その隣には黒衣の魔導士 ミュゼ・ファランカ。
ミュゼはアリアを真っ直ぐ見つめる。
「あなた。以前、氷の聖樹で“虚界の波紋”を解析したと聞いたわ。」
アリアは軽く頷いた。
「ええ。あれは“影核”由来の歪みだった。 ……たぶん、炎の聖樹にも同じ現象が来る。」
ミュリオが付け足す。
「影が“火の地脈”に干渉すれば、
噴火の形で外界に噴き出すはずだ。
その前に止めなきゃいけない。」
ライゼンは腕を組む。
「――帝国軍もそう見ている。 だが、我々には“影に対応できる兵装”がない。」
ミュゼが静かにレオンへ視線を向けた。
「だから――あなたたちが必要。
“虚界と影”に対抗できる者。」
レオンは風に揺れる黒髪を押さえ、淡く笑った。
「ならば、共に進もう。」
クラリスが優雅に一礼する。
「旦那様の剣は、必ず影を断ちますわ。」
イリナは星槍を肩に担ぎながら、にひっと笑う。
「いいじゃん!
一緒に燃えるシチュエーションってヤツだね!」
セリオは甲板の端で震えていた。
「ボクは燃えたくないですぅぅぅ……!」
カイルが背中を支える。
「……生きるぞ、セリオ。」
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そして――
アリアが、風の流れがわずかに乱れるのを感じた瞬間。
セリオの肩が跳ねる。
「……くる。
影、上空から――!」
滑空艇に沈黙が落ちた。
影乱流、近い。
空の戦場がもうすぐ幕を開ける。
いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、緊急着陸 ― 火裂谷キャンプ、灼熱の前線へ




