水守の誓い ― 十二魔導将ヴェル=オルグ
〈帝国東領・ブルーリヴァー峡谷〉
冷霧に包まれた谷の奥で、
帝国第七親衛騎士団はすでに半壊していた。
鎧が砕け、黒水が地を走り、兵の悲鳴が霧に消える。
その中心で、黒曜の翼を持つ男がゆっくりと歩いていた。
――六翼の魔族、十二魔導将第八位・ヴェル=オルグ。
> 『……愚かなる人間ども。
封印を護るより、己の恐怖でも護っていろ。』
彼の足元では、倒れた兵士たちの生命力が影へと吸い上げられていた。
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「師匠! あそこに帝国兵が!」
リスティアが蒼槍を構え、霧の中へ走り出す。
「放ってはおけません!」
レイヴンは剣を抜きながら応じた。
「……ならば、俺たちが救う。」
ヴェイル:「了解。援護する。」
ミュリオ:「やりますけどぉ……あれ絶対ヤバいやつですよぉぉ!!」
ティル=アクエラ:「水が悲鳴を上げています……この地そのものが、泣いています……!」
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霧を切り裂き、レイヴンが前に出る。
ヴェル=オルグがゆっくりと振り返った。
黒い翼の根元から、滲むような光が流れ落ちている。
それは瘴気でありながら、どこか神聖な構造を持っていた。
> 『……ほう。
人間にしては、悪くない眼をしている。
水の理を、多少は理解しているようだ。』
レイヴン:「貴様がこの谷を穢した元凶か。」
> 『元凶……? 違うな。
我は、**“整える者”**だ。
封印が腐れば、流れを変える。それが“虚界の法”だ。』
リスティア:「封印を……壊すことが、“整える”ですって!? それで、どれだけの命が……!」
ヴェル=オルグが微かに笑う。
> 『命など、流れの一滴に過ぎぬ。
お前たちは“個”を惜しみ、“全”を濁らせる。
人間とは、実に非効率な種だ。』
ヴェイル(小声):「理屈っぽいくせに、滅茶苦茶言ってんな……」
ミュリオ:「まさに典型的な“高次存在系イカれ理論”ですねぇ……!」
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ヴェル=オルグが指を鳴らすと、
谷の水面が反転するように黒く染まった。
> 『流れよ、影に還れ。――“深淵波動”』
黒い奔流が走り、地形ごと抉り取る。
その波を、レイヴンが一閃で切り裂く。
「“氷水双閃・封陣斬”!」
蒼白い光が霧を裂き、前方を凍結させた。
ヴェル=オルグは一歩も退かず、その光を観察するように見つめる。
> 『……この力。人の枠を超えているな。
だが、“名”を持つ流派ではない。独自の剣理……面白い。』
レイヴン:「貴様に教えるつもりはない。」
リスティア:「行きます! “蒼槍連突・アクア・スティング”!」
槍が水を裂き、黒水を突き破る。
だがヴェル=オルグが片手で受け止めた。
> 『美しい流れだ。……だが、惜しい。
その心が濁れば、すぐに“影”に染まる。』
リスティア:「そんなこと、絶対にありません!」
「師匠! もう一撃を!」
「任せろ。」
二人の攻撃が重なり、蒼の閃光が走る。
黒翼の一枚が砕け、霧が震えた。
ヴェイル:「やったか!?」
ミュリオ:「ちょ、ちょっと待って! 魔力反応、再上昇中――!!」
ヴェル=オルグの身体が、再び黒水に包まれて再生する。
> 『やはり興味深い……。
貴様らは、“あの時代の光”を微かに継いでいるのか。』
ティル=アクエラ:「“あの時代”……?」
ヴェル=オルグ:「ふむ……知らぬか。
ならば良い。
思い出すのは、我々が“門”を開いた後でいい。」
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ヴェル=オルグが片手を掲げ、空に円陣が浮かぶ。
黒水が渦を巻き、虚界への裂け目が現れる。
> 『この地は既に種が蒔かれた。
封印は腐り始め、流れは戻らぬ。
――我は“炎の地”へ向かう。』
レイヴン:「逃がすものか!」
「“月影陣・絶界封斬”!!」
光が走り、空間が切り裂かれた――
だが、裂け目は一瞬で閉じ、ヴェル=オルグの姿は霧の彼方へ消えた。
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沈黙。
黒い霧が晴れ、帝国の兵士たちは地に倒れていたが、命は繋がっていた。
ティル=アクエラ:「……聖樹の水が、浄化を始めています。」
リスティア:「ヴェル=オルグ……あの存在が、封印を壊していたんですね。」
レイヴン:「奴は“十二魔導将”を名乗っていた。
虚界――あの言葉の意味を、帝国に伝えねばならん。」
ミュリオ:「ヴェイルさん……“十二魔導将”って、いくつあるんですかね……?」
ヴェイル:「十二って言ってたろ。……つまり、あと十一体いるってことだ。」
ミュリオ:「いやあぁぁぁぁぁ!! 聞きたくなかった!!」
谷を包む霧が晴れ、
水面に蒼の輝きが戻っていく。
その光の中で、レイヴンの影が静かに立ち上がった。




