第2話 つけ麺の神様
「お腹がすいた…」
正確な時間は分からないが、岩場を彷徨ってから何時間も経ったような気がする。
普段から運動をしていなかったせいか、足もつりそうだ。
「やっぱりここは地獄だ…くそう、地獄なんだ…」
死ぬまでは、大の男が泣くなんて情けないと思って大人になってから涙を流すことはなかったが、今はボロボロ泣いてしまっている。
「くそう…俺は死んじまったんだ…死んじまった…死んじ…うぅ…」
涙が止まらない。自分が情けないというのもあるが、迷子になって親とはぐれた不安から泣きじゃくった幼い頃の記憶がフラッシュバックしていた。
(あの時は、じいちゃんが見つけてくれたんだよな…)
フワッと自分の頭に何か柔らかいものが被さった。
(あの時もじいちゃんの手拭いで涙を拭いたんだっけ。)
頭に被さった柔らかい布を手に取り、顔を前に向けてるとそこには老人が立っていた。
「にいちゃん、腹がすいたのかい?」
にっこりと笑う老人は自分の祖父ではなかったが、頭にタオルを巻いたその老人は、ラーメン好きに知らない者はいないあの老人だった。
「神様…」
俺は思わずそう呟いた。
「神様と呼ばれるほどじゃねぇけど…ほら!念じればつけ麺を出すことが出来るんだ。さぁ伸びねえうちに食いな。」
つけ麺の神様と呼ばれた老人は、笑顔でつけ麺を差し出してくれた。
「ッッ!!!!いただきます!!!」
夢中になってつけ麺を啜る俺の姿を老人は満足気に見ていた。あっという間につけ麺を食べた俺は、老人がまた念じて出した出汁で割ったスープを飲みながら今の状況を整理しようとした。
「たしかにここは地獄なのかもしれないな。」
どんぶりを洗う老人はそう呟いた。
「地獄じゃないっすよ!このつけ麺がまた食べられるなんて!!!」
「ありがとな。ただ、ここはこの世じゃない。そして俺も此処には居続けられない。」
先ほどまではっきりと見えた老人が薄くなって行く。
「山◯さんが透けてる!?」
「その名は言ってはならない…その真名は呟いてはならない…」
そう言って白いタオルだけを残して老人は消えて行ってしまった。
突然現れ突然消えた老人との不思議な出逢い。
しかし、士紋の口に残った割りスープの魚介風味は間違いなく現実であった。
???「対象者 別府士紋 格闘スキル 大勝拳の付与」
無機質な声が響いた。




