38-17.ランデル防衛戦(12)防衛戦(5)西門攻防戦(3)投石器接近(2)
攻城兵器を破壊するために出撃したラハイテスだが、案の定待ち伏せに遭うものの、無傷で切り抜けた。
戦果は無いが損害も無し。
だが、それで終わりではない。
敵がラハイテスの戻りを狙っているのだ。
ハスクバハル側からは、ファーミス率いるラハイテス攻撃部隊とメラージェの部隊が出ている。
メラージェの部隊は、主力のファーミスの部隊にぶつけるためにラハイテスを追い立てる役割だ。
実際攻撃力が不足気味というのもあるが、手柄を譲るという意味もある。
ラハイテスの奇襲隊がランデル近くまで戻ってくると敵に捕捉される。
最終的にランデルに戻ることはわかっているので、これはさすがに回避できない。
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ファーミス隊にとっては、あまり良い状況では無かった。
ラハイテスの部隊はメラージェ隊に追い立てられてるはずが、追われている様子が無い。
待ち伏せに気付いてあっさり戻ってきた可能性が高い。
仮に気付いて、その時点で引き返してもメラージェの部隊に追われているはずだった。
ファーミス率いる攻撃隊からは、ラハイテスの隊は追われているようには見えなかった。
「負傷者が見当たらない」
「交戦しなかったのか? それどころか、メラージェに追われている様子もない」
これは予想が外れた。
待ち伏せに気付いたのだろう。
ハスクバハル側も、ラハイテスの出撃には気付いており、既に補足していたが、わざと見逃し、消耗している戻りを狙った。
ボロボロの隊にとどめを刺すつもりでいたが、その目論見は外れた。
戦闘した形跡が無い。
おそらく奇襲は実行されなかったことを意味するので、そこに問題は無い。
ただし、挟撃するはずだったメラージュ隊が見当たらないのは誤算だった。
だが、ラハイテス迎撃部隊は既に展開済みであり、ラハイテスの部隊は交戦を避けてランデルに戻ることは不可能である。
「遂に追い詰めたぞ! ラハイテスを討てば大手柄、名を上げるチャンスだぞ」
ランデル攻略戦で大きな手柄を立てられないまま戦闘を続けていたファーミスは、ここぞとばかりに攻め立てる。
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もちろん、ラハイテスも気付く。ランデル近くで待ち伏せを受けることは元から予想していた。
ここで損害を出すのは得策では無いが、戦闘を回避すれば、ランデルから離れる方向にしか逃げ場がない。
連日の戦闘で疲弊している兵に更に放浪生活をおくらせれば消耗が激しい。
ここでランデルに戻らないという判断は難しい。
敵の包囲の薄い部分を突破する決断をする。
「このまま突破してランデルに戻る。目的を間違うな! 我々の目的は無傷での帰還だ」
戦闘をする以上、無傷とはいかないはずだ。
だが、無理をする必要も無い。ここはランデルの拠点から近い。
よほどのことが無い限り、援軍が来る。
よほどのことと言うのは、同時にランデルに夜襲をかけ、全軍をそこに引き付けておく必要があるほど激しく攻め立てる。
それが無いことは見ればわかる。
同時に、投石器が本物である可能性が高いことも分かるのだが。
ラハイテスを殺すための罠であれば、このタイミングでランデル攻めが行われるはずだ。
敵の方が圧倒的多数なのだ。
だが、それが行われていないということは、ラハイテスをおびき出す為の罠では無かったことを意味する。
待っていれば投石器が到着し、相手は有利になるのだ。
ランデルに無事戻っても、戦局は有利にはならない。
だが、ラハイテスがランデルに戻らなければ、もっと不利になる。
ラハイテスの隊の先頭の兵とファーミスの隊が交戦状態に入る。
そして、少し離れたところにメラージェ兵が集結しつつある。ラハイテス隊を見失った部隊が少しずつ戻りつつあった。時間とともに不利になる。
あれが突入してくる前に、突破口を開かないと大損害が出る可能性がある。
「いたぞ、ラハイテスだ!」
矢を射かけられる前に、ファーミスの兵と交戦に入る。
ラハイテスを逃した弓兵の矢は、まだ乱戦に入る前のラハイテスの隊の者に放たれる。
「わ!」、「伏せろ、これじゃ狙い撃ちだ」
乱戦に入った前半分と、矢を避けるために防御の姿勢を取っている、後ろ半分で分断されてしまった。
今度は逆に、味方が射線から外れたラハイテスの部隊の方が矢を射る。
奇襲隊の装備する弓は小ぶりで、この距離で威力を発揮する。
とはいえ警戒して地に伏せた相手に当たるかというと、そう簡単には当たらない。
矢には限りがあるが、敵は迂闊に近付けない。時間稼ぎにはなる。
だが、時間が経てばいずれ包囲されてしまう。
ラハイテスの部隊のうち、先行していた半数程度は敵と混戦に入っているが人数が少ない。
長槍を持たないラハイテス隊は、長槍を持った敵に集結されると分が悪い。
混戦の間は、ラハイテスの個人の技量で戦えても、組織的に行動する長槍兵には対抗できない。
なるべく長く混戦を続けなければならないが、体力はそう長くは持たない。
このままラハイテスが突破すると、部隊の後ろ半分は敵に包囲されてしまう。
時間との勝負だ。ランデルの拠点からも兵が出ているはずだ。
そのとき、長槍兵が長槍を捨てて接近戦武器に持ち替える。
ランデルの拠点からの救出部隊が間に合ったのだ。
「援軍が間に合ったか」
そのタイミングに、わざわざ引き延ばしていた混戦に決着をつける。
ラハイテスをしつこく狙ってきた2人をその場の皆で片づけると、残りの敵兵は撤退していく。
その場に落ちていた盾を拾い、矢に注意しながら、後半部隊と合流する。
そこにカヤハルがやってくる。
「無事で何より、とにかく安全な場所に」
「すまん、奇襲は失敗だ。投石器には届かなかった」
ファーミスの兵は、ラハイテスを討てないとわかるとあっさり退いていった。
一方的に矢を撃ち込める状況であれば別だが、乱戦に入ってしまった上に、カヤハルが出てくれば、ファーミスの側が挟撃を受ける形になる。その状況で戦えば、ファーミス側の損害が大きくなる。
いくら人数に差があるとはいえ、ラハイテスの手勢を10人戦闘不能にする間に自軍に30人の死傷者が出たら意味が無い。挟撃を受けつつ強引に攻撃を続けると、そのくらいの被害が出る。
この時点でラハイテスの隊がボロボロであればラハイテスを殺すか捕まえることができる可能性がある。
そうであれば実行する価値がある。
だが、そうではなかった。
ラハイテスの隊と交戦に入るころ、ランデルの陣地から迎撃部隊が出てくる。
ラハイテスからは気配察知では見えないものの、長槍隊が武器を持ち替えた時点で、敵が背後を気にしていることがわかる。
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ファーミスも引き際はわきまえていた。
いつもは最前線で剣で戦わないラハイテスが剣で戦う姿をはじめて見た。
話には聞いていたが予想より遥かに強かった。
ファーミスでは、逃げに徹しても周囲に護衛の兵が数人いなければ逃げ切るのは難しい技量に見えた。
今も、弓の的にならないように時間稼ぎで混戦をしているだけに見える。
倒し切るのは無理だと判断する。
「ラハイテス……強いな、あの体格で。あれは時間稼ぎだ。
これでは目的は果たせん、退け!」
仕方が無い。息も絶え絶えのラハイテスを討つつもりが、無傷で戻ってきた。
これでは逆に挟み撃ちだ。
ファーミスにとっては作戦は失敗。ラハイテスにとっても失敗。
両者とも気は晴れなかった。
報告するまでも無く結果は総大将のロフメイヤも知っているはずだが、直接報告に行く。
「申し訳ありません、ロフメイヤ様。さしたる打撃を与えることも叶わず、
ラハイテスを逃がしてしまいました」
「退き時の判断、悪くなかった。こちらの優勢は変わらない。
無駄な損害を抑えれば十分。
もちろん、ラハイテスを討てれば良かったが、こちらも損害は多くない」
「それでは出撃した意味が」
「運があれば討てたが、悪い結果では無い。
手柄を優先して損害を出す将よりよほど頼りになる」
「はぁ……」
これは言葉通りの意味であったが、ファーミスにとっては【期待していなかった】と言われたようにも思え、ますます気が晴れない。
実際は、投石器輸送部隊も待ち伏せしていたのに無傷で返してしまっているので、こちらの方が過失が大きい。
無傷のラハイテス隊をファーミスの隊だけで討つのは無理だったというだけの話である。
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総大将ロフメイヤはと言えば、ファーミスの攻めの弱さは欠点だとは思っていたが、この戦いの中で退き時の判断はできるようになったと評価していた。
引き際の読める将はそれだけで十分価値がある。
ランデル攻略戦は、損害を抑えつつ戦えればそれで十分なのだ。
時間が味方になってくれる。
「若いな」
若い将は敵の将の首を取りたがる。
ロフメイヤは何度もファーミスに損害を抑えて敵を疲弊させることの重要性を伝えているのだが、その意図が伝わらない。
ファーミスはラハイテス排除に失敗したと思っていた……が、戦略的にはラハイテス側の方が窮地に追い込まれていた。
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なんとか拠点内に戻ったラハイテスだったが、投石器には全く攻撃が届かないまま、空振りで重傷者が3名出てしまった。
「ダメだ。(攻撃目標に)届かなかった」
「ああ、たいした損害も無かったなら良いではないか」
「良くはない、なんの成果も無く……」
幸い死者は出ていないが、3名の重勝者と疲労だけが残った。
兵力的観点では。
「無駄ではない。それに、成果もあった」
「ああ、投石器はおそらく本物だ」
そう。だからこそ、到着前に破壊したかった。
投石器はおそらく本物であり、到着すれば、20日経たずして陥落が確定する。
”重装兵を無力化するような兵器が20日以内に到着することは無い”
これが20日耐えられる根拠だった。
今までは守りに徹することができたので、本当に投石器であれば、何としても破壊しないといけない。
ランデルの戦力で敵の砦に侵入するのはほぼ無理だ。
あの投石器がダミーであることを祈る……そんなことはおそらく無いだろうが。
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その日は、攻撃らしい攻撃は無かったが、夕方になって、例の物が来てしまった。
敵は、力押しでランデル攻めをする必要が無かったのだ。
あとは、敵の陣地内からでは攻撃が届かないことを祈るだけ。
陣地外に出てきてくれれば、破壊の確率が何倍にも上がる。
陣地内から撃って来るのと比べれば、破壊は容易い。
ランデル側の偵察兵は簡単に投石器の存在を目視できるようになってしまった。
こうなると、ランデルの陣地内に動揺が走る。
「こっちの攻撃が届かない場所から、大きな石を飛ばす武器だって」
「どうやって対抗するんだ?」
「もうダメなのか?」
もう何日も籠城しているというのに、食事はまともだ。
この状況では食が進まないものも多いが、食べ物が無いと言う状況は避けられている。
援助物資が届いているのだ。
「期待以上に支援が得られているようだな」
「期待されてるってことですな」
ランデルが籠城している割に悲惨なことになっていない理由の一つに、物資の援助があった。
どう見ても分の悪いランデルに、ハスクバハルの恨みを買ってでも援助しようという変わり者が居るのだ。
ランデルが落ちれば、支援してくれた者たちの期待を裏切ることになる。
もちろん、期待されているのはランデルの勝利では無く神様を呼び戻すこと。
あの神様を待つ人はそれだけ多いのだ。
ラハイテス自身は、その神様本体とは別の神様を手に入れるために動いているのだが、おそらく、ランデル戦は神様を呼び出す鍵となっているはずなのだ。
ラハイテスは、ランデルが落ちる時には脱出して、亡命先でランデルの民を導かなければならない。
ランデルは母カタイヤが殺されるか捕まるかすれば決着が着く。
ラハイテスには抜け殻の神様と暮らすという野望がある。
だからここで死ぬわけには行かない。
だが、投石器の配備を見過ごしてランデルを去る気にもなれない。
脱出するのであれば、連合からの合流者を先に脱出させるべきだ。
そのための時間くらいは稼ぎたい。
生還を望まなければ、投石器を破壊することができるかもしれない。
そんなことも考えていた。
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投石器は分解して運ばれてきた。
まともに動くように組み立てるには多少なりとも時間がかかる。
ランデルの陣地内から、投石器を組み立てている様子が見える場所がある。
珍しく西門近くまでナスカリトマがやってくる。
ナスカリトマは北ハスクバハルの軍人であり腕も立つ。
そんな人物が戦闘中に西門の内側で暴れたらたちまち西門が落ちる。
なので、ここには立ち入らないことが多いが、今は戦闘中では無い。
ラハイテスから話しかける。
「あれは本物か?」
「見たところ本物に見える。偽物を扱う姿には見えない」
そのくらいのことは、ラハイテスにも判断できる。
今度はスワレンがナスカリトマに話しかける。
「本当に投石器なのか? 軍で聞いてたのと大きさが違うようだが」
「ここを攻撃するには、あの大きさで十分なのだろう」
「知ってたのか」
「実物を見たのははじめてだが、小型のものが存在することは知っていた」
スワレンは投石器を使う必要が出ることを知っていたのかを聞きたかったのだが、ナスカリトマは言葉の意味には気付きつつも、自分があの大きさの投石器があることを知っていると答えた。
ナスカリトマは、どちらにも肩入れしてはいけない。
たいしたことは話せない……はずだが、小型のものであることは話した。
「あれで小型なのか?」
「大型のものは組み立てるために櫓を立てると聞いた」
「それは話して良いのか?」
「いけないのか? 目の前に有るのだから隠す必要無いと思った」
「うむ、そういうことか」
ラハイテスは納得した。
とはいえ、ランデルに観戦武官が滞在したことはおそらく過去には無い。
観戦武官は大国同士の戦いだったら居てもおかしくは無いが、ランデルのような小国には全く無縁の存在だった。
観戦武官は、どちらに肩入れしてもいけない。
それが建前だが、建前以上のことはわからない。前例が無い。
「あの場所からここまで届くのか?」
「私は見ただけでは判断できないが、届くのかもしれないな。
悪いな、良く知らんのだ」
「どちらにしろ知っていても話せないか」
「ああ、だから知らなくて助かった」
「本当に知らんのか」
スワレンがそう言うと、ナスカリトマは少し腹を立てた。
「私は守備隊だ。攻城兵器など知らない」
ナスカリトマは国境砦の守備隊の戦闘頭。攻城兵器など知らなくても仕方が無い。
「スワレン殿の方がよほど詳しいのではないか?」
「私は丘上……要塞の上の町の治安維持。要塞の守備隊では無い」
「部下たちは知ってるだろう」
確かに、現在のスワレンの配下は、元の部下では無く、元はバラバラの所属だ。
とはいえ、ダルガンイストは攻城兵器を持つ必要は無く、攻撃を受けたのも相当昔のことだ。
「ダルガンイストが投石器で攻撃受けたなんて親の世代にも無い。
投石器の存在は知っていても見た目で射程がわかるほど詳しくない」
そんな、誰も見たことが無いようなものを持ってきたのだ。
そこで、ナスカリトマが付け加える。
「石を投げる棒が長くて細ければ小さい石を遠くに飛ばすものだと聞いた。
あれが細いのかどうかは知らないがな」
「なるほど、そういうものか。
役に立つから持ってきたと考えるのが自然だろう」
「それにしても、ランデルを攻めるためにあんなもん運んでくるとはな」
ラハイテスをおびき出す為のダミーではなく、本物の攻城兵器。
それが投石器であることは、確認できた。
重装兵が倒れれば、西門が落ちる。
「組み立てるのにどれくらいかかる?」
これにはスワレンが答える。
「連合のと同じなら1日か」
※無茶苦茶急げば1日
「いや、あれはもうだいぶ組んである。夜のうちに組んでたな。
半日もすれば2~3台動きそうだな」
「ここから見える3基以外に、後ろにもあるのか」
「予備か部品かもしれない」
「相手は半日警戒してりゃ良いってわけか」
今出てあれを攻撃するとやられに行くようなもんだ。
結局、西門が持ちこたえているのは、騎士隊と柵の効果だ。
柵が壊されれば、有利な位置から槍で攻撃できなくなる。
そうなれば、相手は邪魔されずに騎士隊を攻撃できる。
柵でも重装兵でもどちらでもかまわない。
どちらかを破壊できれば決着が着く。
籠城戦を続けるためには、防壁が破壊される前に投石器を破壊しなければならない。
ラハイテスの隊は機動性は高いが、真正面から打ち合うのには不向きだ。
スワレンとカヤハルの隊が損耗すれば、投石器が無くてもランデルは落ちる。
ラハイテスは最後の賭けに出ることにする。
損害を度外視した投石器破壊作戦。
ラハイテスの隊と引き換えに、投石器を何基破壊できるか。




