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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
38章.神殿再建(3)ランデル攻防戦(1)

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38-18.ランデル防衛戦(13)防衛戦(6)イグニス特攻(1)

挿絵(By みてみん)


ラハイテスは投石器破壊の最後の賭けに出ることにする。

損害を度外視した投石器破壊作戦。


成功条件は【全ての投石器を10日以上使用不能にすること】


”全ての”という条件が厳しい。

修理に時間がかかる程度に破壊できれば良い。

全ての投石器にダメージを与えしばらく使用不可能にする。

それができれば隊が全滅しても作戦は成功。


ラハイテスの隊と引き換えに、投石器を何基破壊できるか。


3基に見えた投石器が組み立てが進むにつれて、5基であることが判明した。


5基すべての投石器を使用不能にしなければならないが、おそらくそれは不可能だろう。

陣地内に入ることができれば、帰ることを考えなければ、勢いだけで2基か3基程度は破壊できるかもしれない。


敵は、奇襲があることを知った上で待ち構えているのだ。

そもそも投石器まで近づけるかもわからない。


それでも、今出るしかない。


「損害覚悟で出るしかないな」


カヤハルとスワレンは、全滅覚悟でも、全てを破壊するのは難しいと思う。

だが、ほかに手段が無い。


止めれば、投石器が完成し、西門が破られる。

行かせれば、おそらく、投石器破壊の結果にかかわらず、ラハイテスの遊撃隊を失うことになる。


ラハイテスの遊撃隊を失えば、今後ランデルの防御が難しくなる。

とはいえ、カヤハルとスワレンの隊が損害を受ければ、それ以上に防御が難しくなる。

だから、かわりに出るとも言えない。


----


軽い怪我くらい皆していて普通だ。

だが、ラハイテスの部隊は特に状態が良くない。

昨晩奇襲に出て戻ったばかりで疲労も回復していない。

ラハイテス自身も、腕を痛めており、とても万全とは言えない状況だ。


隊の者は生きて帰れる可能性は高くない。

全員が死ぬとは限らないが、ラハイテスの遊撃隊は、この作戦で事実上組織的な行動ができなくなる可能性が高い。

ラハイテス自身、生きて帰れるとも限らない。


それでも行く。


「投石器の組み立てが終わるまで、敵は攻めてこないだろう」

これはこの場に居る者の共通認識だった。


ハスクバハル側から見れば、あの投石器が完成すれば勝ちが確定するのだ。

それがわかっているから、少々の隙を見せても乗ってこない。


このタイミングで、わざわざ投石器を危険に晒すような隙を作る必要が無いためだ。


他に代案が無いので、そのまま実行が決まる。


……………………


ラハイテスは隊の者を集めて作戦を伝え準備をするよう指示をする。


「南側の森から敵の陣地に突入する。

 投石器の配置順で先に縦の3基を各班で攻撃、

 …………

 …………

 可能であれば突入地点から、無理であれば奥地(ランデルと逆方向の意味)に向かう」


作戦内容的に生きて帰るのは難しい。

「1刻(約1.5時間)後に作戦を開始する。装備は昨晩と同じだ」


実際のところ、ラハイテスの隊は昨晩の奇襲で全滅する覚悟で出撃している。

隊の者たちも分かっている。投石器を破壊しない限りランデルは落ちる。


……………………

……………………


作戦内容的には、ラハイテスが死んでもおかしくは無い。

もちろん、ほぼ毎日のように戦闘が起きる。この状況では誰がいつ死んでもおかしくは無いのだが。

それでも一応カタイヤに挨拶をするべきかと考える……が、やめておく。


どうせカタイヤはラハイテスは生きて帰ると思っている。

ジョシュアには……会わない方が良いだろう。決意が鈍る。

ラハイテスが死ねば、ジョシュアの願いは叶わなくなる。


”中途半端に時間が空いてしまった”

そう思ったとき、そこに、ナスカリトマが現れる。


「出るのか?」

「ああ。他に手が無い」


「そうか」

「…………」


ラハイテスが黙ってしまったので、敢えて聞く。

「投石器を破壊できると思うか?」

ラハイテスが何と答えるか知りたかったのだ。


----


”投石器を破壊できると思うか?”

妙なことを訊く。

現状を見れば明白だ。破壊できる可能性は低い。

当然それはナスカリトマもわかっているだろうし、ラハイテスが破壊するのは難しいと考えていることもわかっているはずだ。

さっき言ったとおりだ。他に手が無いのだ。

”破壊は難しい”。そう答えたら、無謀な作戦は中止しろとでも言うのだろうか?


ここは”できる”と答えるべきかもしれないが、

ラハイテスは思っていることをそのまま話してしまう。


「100人の陽動があればな。無ければ運に縋るしかない」


----


これを聞いてナスカリトマは、ラハイテスがどう考えているか完全に理解できた。

良い答えだと思う。

ラハイテスは”100人の陽動があれば成功する可能性もある”と言っている。

だが、実際には100人の陽動は無い。

だから、この作戦が成功する可能性はほとんどない。


それでも、この作戦に賭けるしかない。

できると嘘をつくわけでも無く、できないと言うわけでも無く、可能性が無いわけではないという言い方をした。

それで良いと思う。


可能性が低いとわかっていてもやらなければならない。

軍人にはそういうときもある。


「神様は戻ってくると思うか?」


「それを期待しているが、もう少し先になると思っている」


神様が都合よく助けてくれると思っているわけでも無さそうだ。

ならばナスカリトマの言うべき言葉はこれだけだろう。


「成功を祈る」


その意図はラハイテスにはよく理解できた。

下手に励まされるよりよほど良い。軍人らしい言葉だ。


「そうだな。できれば、尻尾の生えた神様に祈ってもらえるとありがたい」


「わかった。君の信じる神様に祈ろう」


ラハイテスは、少し意外に感じた。

ハスクバハルでその言葉を使うと思わなかったのだ。


※”君の信じる神様に祈ろう”というのはランデルのある辺境域では、

 比較的よく使われる言葉です。宗教が統一されていないためです。


「バッカは神に寛容な土地だったか」

※バッカは北ハスクバハルの東側の地域。ナスカリトマの出身地です。


「動く鎧を見たからな。今ではバッカで一番有名な神様かもしれないな」


確かに動く鎧を見た者はそう思うかもしれない。

ナスカリトマは”君の信じる神様に祈ろう”と言ったが、ナスカリトマの信じる神様とラハイテスの信じる神様は同じではないかと思った。


ラハイテスは少しだけ気が楽になった。

出撃前にナスカリトマと話しておいて良かったと思った。


……………………

……………………


ナスカリトマは、滞在している小屋まで戻って、この作戦について考える。


ナスカリトマの見立てでは、ラハイテスは戻ってくるだろうが部隊は全滅。

(それ以前と同様の組織的行動は不可能な状態になる)

投石器は2基も破壊出来れば上出来。


おそらく、この作戦でランデルの早期陥落が確定する。

戦力を見る限り、そうとしかならないはずなのに、ランデルはまだ落ちないような気もする。


「ベッケン様はどう見ているのか……」


ナスカリトマには以前から疑問に思っていたことがあったが、その疑問が時と共に強くなっていた。

ナスカリトマがランデル入りしたとき、ベッケンも同行していたが、ベッケンは”ランデルは落ちないと判断した”ように見えた。

あれは、何を根拠にそう思ったのか、今でもランデルは落ちないと思っているのかを聞いてみたかった。


砦に居た当時、指示を明確にするためや、判断を仰ぐためにベッケンに相談することはあったが、なぜベッケンがそう考えたのかを知りたいと思うことは今まであまり無かった。



だが、ランデルの陣地内の駐留する間、外部との連絡は遮断されている。


話を聞きたいときには話ができない。

話をしたくないときには、話をする機会が多く発生する。

そう遠くないところでベッケンやゼウラが監視を続けているはずだが、話が聞けない。

なかなか人生はうまく行かないものだと思う。


※実は、この頃、状況が変わってベッケンさんは別の意味でかなり困っています。


========


一方で、ハスクバハル側では、もちろん、ラハイテスの決死隊から投石器を守ることを優先していた。

投石器が完成する前に攻撃してくるはずだ。

正面はもちろん、側面からの奇襲にも備えていた。


今日の日没までに必ず投石器破壊を狙った攻撃が来ると信じていた。

むしろ来てくれないと困る。

実のところ、ロフメイヤは、投石器でランデルにとどめを刺せるとは考えていなかった。

ここは手ごろな石が少なく、遠くから運んでくるので無駄打ちできない。


そもそも投石器の操作員はあんな小さな的を狙ったことがない。


投石器は大雑把な方向と、最大射程が調整できるだけ。

この狭い戦域内では、味方の兵が出ている間は打てない。

そしておそらく外しまくる。


通常の戦闘であれば、その程度の精度で十分なのだ。

大きな石で西門を丸ごと破壊するには射程が足りない。

陣地の外に運ばなければならない。


だから、さほど大きくは無い石を、遠くまで飛ばす。

壁を壊すのが難しいくらいの石でも、人間に当たれば被害が出る。


ただ、その程度だ。


投石機の実力を過大評価した敵が防御網の中に入ってきてくれる方が利益が大きい。

投石器による遠方からの攻撃は、確実にランデルの生命力を削ることが出来る。

確実に当たるものでなくとも、作業の妨害はできる。

投石器による攻撃を続ければ、今日出なくても、いずれは出てくるだろう。


だが、常時全力で警戒を続けることはできない。


できれば、今日出てきて欲しい。

出てくればこっちのものだ。仮に投石器を3基失っても、ラハイテスの隊を全滅させることができれば、その方が利益が大きい。

ラハイテスの隊が全滅すれば、西門ではなく別の場所を攻めようと考えていた。


今までは側面をついても、柵を突破する前に損害が出る。

重装兵は西門にしかいないが、どこを攻めても現れる軽装兵がラハイテスの手勢。

ラハイテス隊がいなければ、西門に加え、南北のどちらかから攻め込むことができる。


投石器で西門の重装兵を無効化できれば良いが、できないかもしれない。

狙った場所に投石できるかどうかは、組み立てが終わって実際に使うまでわからない。

自軍が攻めている間には投石器は使えない。

そのタイミングでは重装兵は隠れてしまう可能性が高い。

投石器では、橋を破壊してしまう可能性もあり、実際の命中率を見ないと何とも言えない状況だった。


だから、投石器に頼るよりは、投石器を何基か失ってでもラハイテスの遊撃隊を潰しておきたい。


ランデルの西門を眺める。

力押しで行けそうに見えるのに、攻め込むと重装兵が邪魔で突破できない。

正直予想外だった。ロフメイヤは、軽装のランデルが重装兵を使うとは思っていなかったし、重装兵があんなに役立つものだとも考えていなかった。

「あれは反則だ」

「何か?」

「あの重装兵だ。あんなものがあると思わなかった」

「はぁ」


ロフメイヤは、西門を守っているのは、連合から来た部隊だと聞いていた。

実際そうだと思う。

だが、あの恐ろしく連度の高い兵をダルガンイストが手放した意図がわからない。


「あの連合の兵。私が欲しかった。

 なぜあの兵をダルガンイストが手放したのかがわからん」


「あれは、連合の騎士隊だと言われてます。

 トルテラの妻の一人、リーディアの部隊だと」


ロフメイヤは、もちろんその情報は知っていたが、よくそれをダルガンイストが許したなと思ったのだった。

ああいう兵はなかなか育たない。ふつうは手放さないものだ。

そんな兵を使ってまで死守する必要がどこにあるのか?

ランデルが落ちるのは時間の問題。

その時間を少し延ばすためだけにあの兵を使うのも理解しがたい。


「時間を稼ぐと何がある?」

「援軍の存在は、今のところ確認されていません」


その通りだ。だとすれば、時間稼ぎに意味は無い。

だが、確実に時間稼ぎをしているようにしか見えない。

何かを待っているのだ。


おそらく、尻尾を持つ巨大な老人。

或いは、その妻と言われる巨大な竜が来る。


このまま籠城を続けても、ランデルはそう長くは持たない。

時間を稼ぐと何かがあるはず。


時間を稼いでも何も起きないのに、何かを妄信しているだけという可能性もある。

ロフメイヤにとっては、士気が落ちないので苦戦しているというだけなのだが。


予定よりも兵を増やしており、物資も凄い勢いで消費している。

恩賞は出るが、ウルキスタにとっては戦費の負担の方が大きく、長引くと、マイナスばかり増えていく。


※ウルキスタはハスクバハルの地方自治体で、戦費はウルキスタ持ちです。

 国から戦費は出ますが、実際の戦費には全く足りない額です。


……………………

……………………


しばらくして外が騒がしくなる。


「ようやく釣れたか」


ランデルの攻撃が始まったのだ。

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