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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
38章.神殿再建(3)ランデル攻防戦(1)

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38-15.ランデル防衛戦(10)防衛戦(3)西門攻防戦(1)

挿絵(By みてみん)


ハスクバハル側の陣地では、ロフメイヤが戦闘の様子を遠くから観察していた。

ランデル側が想定外の戦法を使っていたのだ。

重装兵による、人間の壁。


想定外……実際は事前に話を聞いていたが、それはここに到着する直前のことだった。

それでは遅いのだ。


出発前に知っていれば、予め効率の良さそうな装備を持ってくるだろうが、今回は用意していない。


【専用の武器が無ければ押し切れない】ということは無い。

だが、効果は限定的。


現状、とても押し切れそうな様子は無い。

このまま攻めるのは悪手でしかない。


「あれはダメだ」


様子見に攻めてみたが、連合の装甲兵(騎士隊)が、完全に想定外の防御力を持っていた。

あれを突破するのは骨が折れる。


たしかに、ランデルに一部連合の兵が合流したことは知っていたが、あの重装兵は、要塞内に敵が侵入した際に作る人の壁。

通路が極端に少なく狭いからこそ役に立つ。

それ以外の場面ではさっぱり役に立たない兵を、ランデルに置いているとは思わなかったのだ。


そのうえ、信じがたいほどに練度が高い。

1期(半年)以上は訓練を積まないとああは動けないだろうと思う。

ロフメイヤ自身も若い頃、重装を試したことがあるが、ほとんど身動きできなかった。

装備の価格的にも、非常に高価で、その割ほとんど活躍の場が無い。

通路が1本しかないとき、その通路を塞ぐのに使える程度で、ダルガンイストのような要塞内では有効かもしれないが外では全く実用的では無いと判断したが、あれを運用する技術が存在するのだ。


「そうとう練度が高いな」

「は。連携が良く、押し切れないようです」


見ているそばから、兵が橋から落ちる。

大怪我をするような高さでは無いが、あれでは無理に押し切るのも難しい。

せっかく重装兵を転倒させても、起き上がらせてしまう。


「重装兵が倒れても、起き上がらせることができるのか」

「縄で引っ張っているようです」

それは見ればわかる。

事前に準備して、実戦で上手く動いているから驚いたのだ。

どう見ても、急ごしらえの悪足掻きには見えない。


現場も相当混乱していた。

重装兵の弱点は事前に知らされていたのだが、それが通用しなかったのだ。


連合の重装兵には矢が通らない。

だが、あれは立っているだけで体力を奪われる。


ただの壁であれば、避けて別の場所を狙うが、重装兵なら倒してしまえば道が開ける。

立っているのがやっとなので、そのうち、動けるものが減ってくる。

そう聞いていたが、数が減らない。


----


見かねたロフメイヤが撤退指示を出す。

「何度倒れても、起き上がる。退け、対策無しでせて目も無駄だ」


「撤退ですか?」

「注意しつつ、ゆっくり退くよう伝えろ。それと、ゼリエをジルビスの撤退の援護に」

「ここが手薄になりますが」

「かまわん。ランデルはそんなに兵を持っておらん」


…………


実際ランデル側に、追撃や、奇襲隊を編成する余裕はなく、ハスクバハルの陣が襲撃を受けることは無かった。


とはいえ、この戦いでは、予想外の損失を受けた。

なんと言っても、敵の動きを観察するために同行させたビテフィが負傷した。

ただし、その後、北側の物見櫓焼失が確認された。

戦果はあったが、指揮官のビテフィ以下主力級の兵が負傷した。

これから活躍させるために視察を兼ねて行かせたのに、そこに伏兵が居たのだ。


ファーミスの部隊は、ビテフィの隊を追撃してきた一隊と交戦。これを食い止め、ジルビスの隊への側面からの攻撃を防いだ……とファーミスは認識していたが、実は、別の方向から監視していた兵の情報を総合すると、ファーミス率いる兵に対して、ランデルの兵は1/3しか居なかったことが分かった。


「そんなはずはありません。大隊規模だったはずです」

「複数の監視の報告が一致した。それに、ランデルがその数の兵を出すのは難しい」


これは単純で、ランデルは全力で自陣を守るか、攻撃に兵を割くのであれば、全力でジルビスの隊を攻撃する必要がある。

ところが、ファーミスの隊を引き付けるだけで、ジルビス隊への攻撃を優先しなかった。

少ない兵で、多くの敵を釣った。


「そんなバカな……実際に、大隊規模の兵が居たのを確認した」

これは事実で、ファーミスの配下も同じ証言をしている。


実際には中隊規模の部隊がファーミスからは大隊規模に見えるように偽装した。


ロフメイヤの知る限り、ファーミスは有能な指揮官だ。

経験は不足しているが、平凡な将に騙されるほど無能では無い。


「あの別動隊の指揮官はスワレンと言ったか、喧嘩を売ったという本人だな。

 いったい何をした?」

※たぶん計略とかは使ってないです。筋肉で何かしただけだと思います。


ファーミスは、大隊規模の相手と交戦しているつもりで用心していたが、戦っている相手はスワレン率いる、せいぜい中隊規模の部隊だった。


地の利を生かして、ファーミスの隊の側面に回り込もうと画策していたスワレンの行動を、ファーミスは多数の敵に包囲されたように錯覚した。実は偶然だった。


お互いに、思ったように作戦が成功しなかったため結果的には、どちらにも大きな損害は無かったが、ファーミスがスワレンに気を取られている間にジルビスの部隊は見事にすり減らされた。


----


もう一方のジルビスの隊は、見てすぐわかる程度に消耗していた。

死人は少ないものの、即作戦行動可能な兵が少なく、立て直しの必要が発生した。


「申し訳ございません。僅かな数の重装兵を無力化できませんでした」


「うむ。結果は残念だが、あれは対策せねば倒すのは難しいことが分かった。

 兵に治療と休養を。お前もだ。体を休めつつ、あれを突破する作戦を考えろ」


ファーミスは、少ない兵に翻弄され、ジルビスは簡単に突破できそうな壁を突破できずに損害を受けた。

両名共に、次こそはと意気込む。



強引に攻めたわけでも無く、様子見で当たっただけでこれだけの被害が出るとは思わずロフメイヤは思わず漏らす。

「ルベイオが見て居れば、わしは笑いものになっておろう」

古くからの戦友、ルベイオはそろそろ若い者に経験を積ませるべきだと言って今回の出撃を辞退した。

ルベイオが居たところで、いきなり落とせるとは思わないが、損害はずっと少なくて済んだだろう。

無理だと思えば退く。


将の経験不足。相手が歴戦の猛者だったわけではなく、こちらが弱かった。

ロフメイヤはそう感じた。


2日後に、長槍での第二次西門攻撃。

これは長引くほどに、ランデル側の弓による攻撃で負傷者が増える。

さらに2日後に鈍器による、重装兵無力化を狙うが、これにはランデル側が無数の長槍で応戦。

油をまいて火を放てば、燃えてる間はこちらからの攻撃ができず、火が消える頃には重装兵の壁が作られ、意味が無い。


……………………

……………………


ランデルの陣地内では、燃えてしまった北側の物見櫓の再建をしているが、ハスクバハル軍に、やたら射程の長い長弓兵が居て、攻撃してくるため、作業が思うように進まない。

見張り台(物見櫓の台座部分)からの中弓で牽制はできるが、命中は期待できない。


どうせ十分な数は用意できないので長弓は用意していなかった。

見張り台の上からなら中弓で十分だと思ったのだが、敵はそれより射程の長い弓を持っているのだ。

あの弓の数が揃うと、籠城戦で厄介なことになる。


ラハイテスは、この時点で長弓の必要性を感じていた。


……………………


そうこうしているうちに初交戦から10日経過してしまった。

ラハイテスは焦りを感じていた。ラハイテスが不得意な防衛戦であることに加え、

敵陣周囲の木を伐り倒し、警戒網も完成されてしまった今となっては、ラハイテスの奇襲がほとんど効果を発揮できない。


ラハイテスは西門以外から攻めてくる敵を撃退する役に回っていた。

ラハイテスが得意とするより戦域が狭く、敵に大打撃を与えるに至らない。

それなり役には立っているのだが、兵の数の割に戦果を挙げていないのは確かではあった。

誰かに責められたわけでは無いが、ラハイテスとしては、自分が引き起こしてしまったこの戦いで、活躍できないのは申し訳なく感じていた。


あるとき、ジョシュアと顔を合わす。

狭い拠点の中なので、姿を見る機会は度々あるが、話す機会はなかなか無かった。

ジョシュアは顔を合わすなり言う。

「すみません。お役に立てず」


「戦ってほしいとは思っていない。

 気持的には今すぐ脱出して欲しいところだが、今は無理だ」


「はい。戦いではお役に立てないことはわかっています」


おそらく敵は、逃げる者をしつこく追うことは無い。

だが、逃げるとすればランデルが陥落したとき。

ジョシュアを連れてラハイテスも亡命することになる。

そのタイミングであれば、安全に逃がすことができる。

だが、問題は、ジョシュアがそれを望まない場合。

逃げないと言い出した場合にどうするか。


ジョシュアはランデルの地とは縁の薄い者。

わざわざ名指しで殺されることは無いが、ここが戦場になれば命を落とす危険はある。

それもラハイテスの悩みの種になっていた。


ジョシュアが滞在しているのは、ランデルの中央部。

敵は、カタイヤを殺すか捕縛すれば勝ちになる。

ここに敵が押し寄せるのだ。


ちょうど、2人揃ってやって来る。

※ラハイテスさんが来たことに気付いて出てきたのですが。


「母上、姉上、今日も何とか凌ぎましたが、長くは持たないでしょう」

ラハイテスがそう切り出すと、姉のカルエハヤスが答える。

「そんなことはわかっている。お前のせいで、私の人生が台無しだ」


カルエハヤスがひとこと言うのを待つとすぐに、カタイヤがカルエハヤスに言う・


「戦の話をする。カルエ、お前は夜番を見てこい」

※ハヤスの方が名前に近いので「カルエ」で切ると次期族長の意味が強くなります。


「戦の才能が無い私が、夜番見て回っても抜けがある」

「かまわぬ。労ってやれ」


「姉上には申し訳ないことをしたと思っています」

ラハイテスが言うとカルエハヤスはこう返す。

「私に何の相談も無く始めおって」


カルエハヤスは、この状況に至ったことに大変腹を立てていたが、カタイヤが悪いと思っているので、ラハイテスに言っても仕方ないと思っていた。


当然勝てる見込みがあるから始めたはずの戦だが、カルエハヤスにはさっぱり勝ち筋が見えなかった。

カルエハヤスは自分には戦の才能が無いと言う自覚があったので、どうせ自分には戦局は見えないのだろうと思っていた。

※いえ、戦に詳しい人から見ても、勝ち筋無いです!


カルエハヤスが何を考えているかは、ラハイテスにはなんとなくはわかっていた。

ラハイテスとカタイヤが何かをして勝つと思っているのだ。


ランデルが落ちれば、ラハイテスは脱出し亡命する。

だが、姉のカルエハヤスは見逃されないだろう。

運が良ければ、そのままランデルの新族長として生かされるかもしれない。

実権を持てるかは疑問だが。

運が悪ければ、命を取られることになる。


それが、族長の家に生まれた者の定めだとしても、なるべく避けたい。


「母上、隠し玉、そろそろ出さぬと、ここは落ちます」

ラハイテスがそう言うと、カタイヤはこう返す。いつも通りだ。

「そんなものは無い。

 私は言ったはずだ。竜を連れてこいと。

 それが人の姿をしておっても構わぬ」


トルテラを連れてこいと言っているのだ。

連れてくる方法があるのなら、ラハイテスはもっと早くに連れ戻す方法を試している。

知らないから実行できないのだ。


「まだそのようなことを……何か知っているのなら教えてください。

 兵も消耗しています。そう長くは持ちません」


「竜が会いに来ると手紙に記してあった。お前も知っているはずだ」


相変わらず根拠は手紙だと言っている。

だが、会いに行くかもしれないと書かれていただけで、確実に会うことになるとは書かれていなかった。


結局、あの手紙と、ラハイテスの存在が、竜が現れる根拠になってしまっているのだ。


兵には20日間耐えろと言っている。その20日と言うのは、ラハイテスがランデルが耐えられるのはその程度だろうと思った日数であり、トルテラが戻ることとは何の関係も無い数字だった。


このままでは何もせずに20日が経過し、ランデルが陥落する……

ラハイテスは、このときそう考えたが、その考えは甘かった。


……………………


観戦武官として滞在中のナスカリトマは、ランデルの予想外の奮闘に驚きつつも、そろそろ兵が限界に近付いているように感じていた。

もちろん、まだまだ粘るだろうが、そろそろ無理が効かなくなってきている。


「悲惨な戦いでは無いが、見てるだけというのは辛いものがあるな」


「はあ、でも、思った以上に強固ですね。

 このまま持ちこたえるなんてことは」


「無いな、それは。どうせ勝てるから真面目に攻めてこない。

 ランデルはそれを利用してるだけだ。

 それにしても、ロフメイヤの動きが鈍い。そこまで耄碌してるのか」

※ロフメイヤさんは、ナスカリトマさんから見て、凄く偉い人です…が、様付けしないのですね。


「ジルビス様とファーミス様は?」

「アレはダメだな。足りないのは経験では無いのかもしれないな」

「では何が?」

「はじめから器では無かったのかもしれないな」


実際のところ、一兵卒に過ぎない、補佐役の2人にはわからないが、それにしても、数倍の兵力差が有りながら、西門以外の場所では、まともにやりあうほど接近できていない。

西門は弱そうに見えて、毎回耐える。西門は避けて別の場所を攻めてもよさそうなものなのに、別の場所に兵力を集めて一点突破を試みる様子が無い。


それにしても、西門以外では、カヤハルとスワレンに軽く防がれているように見える。


「カヤハル様とスワレン様が特別に優れていると?」


「予想外だった。一対一なら勝てるだろうが、同数の兵で勝てる気がしない」


「ナスカリトマ様で無理なら、バッカで対抗できる者が何人居るか」


ナスカリトマ自身も戦闘に限ればバッカで有数の将だという自覚はあった。

ただ、勝つことは不可能ではない。

「有利な場所で戦うか、条件が同じであれば倍の兵力を集めれば良い」


もちろん、どっちが強いと言うのはあるだろうが、ナスカリトマは計算できる軍人だ。

勝てる戦いをすればよい。


仮に、将来ランデルとやりあうとしたら、どうなるか。


カヤハルはそう遠くないうちに引退するだろうが、スワレンはまだまだ先がある。

今は不戦協定が生きているが、10期後ともなればわからない。


ナスカリトマは正直、スワレンとは戦いたくないと思っていた。

軍人として、あれだけの強さを持っていながら、軍人では無いように見える。

戦うと、何かとんでもないことをしそうに見える時があった。

戦い方そのものは、非常に堅実なのにもかかわらず、そう感じることがあった。


「戦いが避けられなければやるしかないが、正直スワレン殿とは戦いたくない」

「ラハイテス様は?」


元はラハイテスに興味が有ってきたのだが、思ったほどラハイテスは目立った活躍をしていない。


「私もちょっと測りかねてる。

 あんなものか? 聞いていたのとだいぶ違って見えるな」


…………


陣の中は自由に見て回って良いことにはなっているが、大きな陣では無いので、一周回るのにたいした時間はかからない。


食事の時間だ。

「水が不足しないのは正直助かります」


「日持ちしないものを先に食べると、残るのはコレなんだよな。

 食べられるだけマシなのはわかっちゃいるんだが、飽きるな……」


保存食は基本、水分が少ないものが多い。滅多に補給を受けられない。

なんとか保存食で凌いでいるが、味的には優れたものでは無い。


「自分も、こればっかりは飽きますね」


ナスカリトマは呟く。

「隊長殿たちは、もうちょっとマシなものを食べてるのかな」


外とは一切の連絡手段が無い。

食料の補充も無いので、最初に持ち込んだ保存食を食べ続けている。


「ま、食事に不満が出る間は、まだまだ元気な証拠」

「はあ、もちろんわかっております」


この日は夜襲も無く、夜の間は平穏だった。


……………………


この日の夜遅くに、深刻な情報がもたらされるが、まだこの時点では、ランデルの拠点内の者は誰も知らなかった。


一方で、ランデル拠点の外に居る者たちは、そろそろ情報を知るものも増えてきていた。

いくら機密と言っても、噂は広まる。

ベッケンも噂としては聞いていたが、実際にそれが存在していることをその頃知った。


「どうするランデル……いや、ラハイテス。阻止できるか?」


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