38-14.ランデル防衛戦(9)防衛戦(2)
一方、ランデル側でも、敵が一気に木を伐り始めたことには気付いていたものの、
その意図については測りかねていた。
「それだけの大部隊が来るということか?」
「或いは、大部隊が来ると我々に信じ込ませようとしているか」
本隊の規模がどの程度であるかはわからないが、ダルガンイストの例を見てもわかる通り、遠征に参加できる兵の数には制限がある。人数自体はそう極端には多くないはずだ。
※スワレンさんはもちろん、ラハイテスさんもダルガンイストの軍人の数と、
出撃可能な兵の数を知っています。
問題は、一度に滞在する兵の数ではない。
敵は兵を入れ替えることができる。疲弊した兵を後方に送っても、交代要員がやってくる。
ランデルは、交代要員が居ない。
だから最終的には勝ち目は無い。
だが、同時に滞在する人数はある程度限られるはずだ。
それにしては、広いスペースを作っているように見える。
いったい、何が目的なのか。
※定常的に運べる水や食料等のインフラ都合や、徒歩による移動が多いので、
遠方から兵を集めるのに時間がかかります。
また、兵は無限に働けないので、休息を与える必要もあります。
結局無理なく維持できる規模には限界があります。
無理なく回せる範囲での最大数は、ある程度決まってしまう。
戦力の逐次投入が愚かな行いであることは、この世界でも知られています。
そのため力ずくでランデルを攻め落とすなら、多少無理してでも最大の戦力を
一気に投入するのが正解であることは十分に理解されていますが、
ランデルは孤立しているので、時間をかけて落としても問題無い。
こんな戦いで死傷者を大量に出す価値が少ない。
そう考えるとそこまで増やす必要が無いと判断するのが妥当です。
(それが本当に正解かは別として、そう考えるのが妥当であると判断する人が多い)
……………………
ランデル勢が悩んでいる頃、観戦武官として滞在しているナスカリトマは、ある可能性に気付いていた。
ただし、妙にも思う。
ランデルの戦法は、情報収集部隊が報告しているはずだが、ウルキスタが出撃準備をして、出撃した時期には、まだその情報は無かったはずだ。
ナスカリトマは見たことが無いが、北ハスクバハルでも西部地域には配備されているという噂があった。
攻城兵器だ。重装兵による壁は、敵兵の攻撃に対する壁としての効果は絶大だが、対人戦しか考慮していない。
攻城兵器を重装兵に使われると、一気に無力化される可能性がある。
ナスカリトマは、この戦いを見届けるためにこの場で見ることが許可されているというだけで、基本的にはどちらの陣営にも加担できない。
とはいえ、ランデルが簡単に落ちると、北ハスクバハルの立場は危うくなる。
嫌な予感がしていた。
ランデルも、ハスクバハルに攻城兵器が存在することは知っている。
だが、わざわざそんなものを運んでこないだろうと思っている。
ハスクバハルは重装兵の存在を知らなかった。
今は知っているかもしれないが、知ったのは最近のことで出発時には知らなかった。
いざ、戦闘が始まってから重装兵対策に使いたいと思って運んできても、そのときには20日は経過している。
攻城兵器無しでもランデルは落ちる。
だが、もし早いタイミングで運ばれてきたら?
わざわざランデル攻めに攻城兵器を運んでくる積極的な理由は無いように思えるが、
ナスカリトマの目には、あの木の伐採は、攻城兵器展開のためのスペース確保に見えたのだ。
……………………
……………………
遂に来た。
ウルキスタ本隊が到着する。これで戦力比は3倍を超えただろう。
これだけの数になると、離れていても気配察知で何か大きなものの存在を感じるようになる。
この時代のランデル兵は、こんな数の兵を見るのは初めてという者が多い。
それが敵であれば、恐ろしく感じても仕方が無い。
「あれ全部敵兵か? 何人居るのか数えられない」、「あれが攻めてきて耐えられるのか?」
「陥落しないよな?」、「トルテラ様が来るまで持ちこたえないと」
ランデル兵は、ここに至って、ようやく怯え始める。
こうなることはわかっていたのに、実感できるのは、こうなってから。
ランデル側はこれからが勝負だ。このプレッシャーの中、兵はまともに動いてくれるか。
「はじまってしまえば、周りなど見えなくなる」
この規模の戦いを経験したことのある唯一ともいえる現役軍人カヤハルの言葉だ。
実際はそんなお気楽な話では無いが、どうせどうにもならないので、悩む意味も無い。
敵は、今日着いて、今日総攻撃はしてこないはずだが、明日以降いつ始まってもおかしくは無い。
「堀を満水に、作業道は全部取っ払え」
ラハイテスは、事前に決めていたことを粛々とこなす。
堀を満水にし、作業用に残していた通路も全て取り除く。
完全籠城体制に移行する。
……………………
ウスカゥ王国軍(ハスクバハル軍)の陣地に、ウルキスタ本隊が到着した。
ウルキスタはウスカゥ王国(通称ハスクバハル)の南側の地域。
ランデルとの距離は非常に遠い。はるばる遠征してきたのだ。
総大将はロフメイヤ。実際の作戦実行はジルビス、ファーミスの2人が仕切る。
※先に来たビテフィはジルビス、ファーミスの直接の配下ではない。
参謀、或いは、ロフメイヤの幕僚の1人という感じの関係。
ロフメイヤが勝手に重用している指揮官の一人。
ハスクバハルは、この世界にしては、かなりガチガチの組織を持つが、
それでも、そんなレベルです。
ロフメイヤは、カタイヤと同世代の将である。
引退していてもおかしくはないほどの歳だが、今回の戦闘はそれだけ重要視されていた。
ここしばらくずっと大きな戦争が起きていない。
そのため、実戦経験豊富な将となると、この歳の者になってしまう。
ジルビスとファーミスは若き有望な将として、今回は実戦経験と武勲を立てるために来た。
武官は戦闘が無いと、己の力を証明できない。
ところが、この時代、大きな戦いは発生していない。
滅多に無い戦、やる気満々である。
それを抑えつつ、経験と武勲を与えつつ確実に勝ちを取りに行くのがロフメイヤの任務だ。
ランデルは完全に格下の相手であり、戦闘というより、教育が主目的という感じである。
危険なことは、メラージェにやらせる。
メラージェは、元々ランデルは敵であり、機会があれば倒したいと思う者が多かったことに加え、この戦いで功績を上げると、ハスクバハルから優遇されやすくなるというメリットがあった。
※ランデルは敵と言っても『祖母がランデルは敵と言っていた』くらいのレベルで、
この時代に生きている人は、直接ランデルと戦ったことはありません。
早速、本部ではペイランカとビテフィから、ランデルについての報告を受け、今後の方針を検討していた。
大雑把に言えば、正面は固いが人数押せばおそらく突破可能。
その他は堅固で攻めにくいという情報が届いていた。
ここに到着するまでに報告されていた偵察隊の報告とも一致していた。
相手は、わざとあそこだけに力が集中するよう陣地を作っている。
「ジルビス、重装兵に当たれ。突破できたら、入り口付近の防衛陣地を破壊しろ。
ファーミスは、ジルビスの隊に攻撃が集中しないよう周囲から攻撃」
ロフメイヤは2将による2面攻撃を選んだ。
これは、ランデルを落とすための戦闘ではなく、弱点を探すための戦闘だ。
どこか手薄なところがあるはずだ。
※ビテフィさんが全体的に防御が高いが、本当の弱点はまだ見えていないのではないかと
報告しています。ビテフィさんは、本隊が到着して人が増えたら弱点探してそこを
突いてやろうと思っていたのです。
もちろん、メラージェ軍を遊ばせておく……というわけはなく弱点をあぶりだす作戦なのでメラージェ軍は、側方から攻撃を試みる。
ハスクバハルの兵は陣地からあふれ出すように、ランデル拠点へと向かう。
これだけの兵が出撃準備をすればランデル側も気付くので、西門を例の重装兵が固める。
そこにジルビスの隊が突撃する。
激しくぶつかり合い、ジルビスの兵がまとめて何人か通路から落ちる。
これでは火計で自軍に被害が出てしまう。
ランデルの重装兵も2人転倒する。自力では起き上がれないので、補助が縄を引っ張り、無理やり起き上がらせる。倒れた重装兵の上に乗っかる相手を長槍を持った4人で一気に突き返す。
助走をつけた4人の長槍は、重装兵に乗った敵の重武装兵を吹き飛ばして、その後ろに居た兵にも被害を与え、付近の兵が堀に落ちる。
その間に、重装兵を引き起こす。
「マリー!大丈夫か! 今引き起こすからな!」
「私はマリーじゃないよ!」
「マリー、これで大丈夫だな!」
「私はマリーじゃないよ!」
「マリー!来たぞ!」
「私はマリーじゃないって言ってんだよ!」
※本人たちは真面目に戦ってます。重装兵の声は後ろには届きにくいのです。
……………………
主戦場の西門から離れ北側に移動する部隊が居た。
西門に気を取られているうちに、来たから攻撃をかけ、敵の注意を分散させるか、うまく行けば北側からの突破に成功する可能性も僅かにあるという程度に思っていたが、移動中に弓による攻撃を受ける。
見事にバレていた。ランデルの待ち伏せで、短時間で一気にやられた。
攻撃予定地に到着する前に弓による攻撃で、大被害を出してしまう。
指揮をしていたビテフィも、肩と足を負傷してしまう。
「ビテフィ様!」
「しくじった。まずは身を隠せ」
「ですが怪我が」
「良い、死ぬような怪我ではない、作戦は失敗だ。ここから(物見櫓を)狙えるか?」
「やってみます」
「火矢は全部使って構わん、どうせここから先には進めぬ。
ほかの者は撃ち終わるまで援護しろ」
ただし、ビテフィもただではやられなかった。
撤退時に残した伏兵で、物見櫓を燃やすことに成功した。
物見櫓に見つからないように気を取られ、移動しているところを反対側から攻撃を受けた。
気配察知ぎりぎりの距離に、絶妙な地形があった。
物見櫓が無ければ、だいぶ安全に近付けるようになる。
西門が攻撃を受けている最中に、東側に伏兵が居るとは思わなかった。
※伏兵が居る可能性は考えていましたが、予想外のところから攻撃を受けた
というのが実際のところです。
一方で、ランデル側は、スワレンがこれを読んでいた。
ある程度兵力差があるので、陣地のどこが弱いかを見るために動く部隊があると考えていた。
居なければいないで、そのまま進み、西門攻略中の敵を側面から突くはずだった。
ところが、待機していると、本当に目の前をハスクバハルの兵が反対側ばかり気にしながら通過していくのが見えた。これを、狙い澄まして2斉射。それで十分な効果があった。指揮官は負傷したはずだ。
相手は挟撃を避けるため、負傷者を回収しつつ去っていく。
火矢が放たれるが、ここからでは狙えない。
どうせ届かないだろうと判断し、損害が出ることを避ける方を優先した。
ところが、手練れだったのか2本の火矢が櫓に命中した。
そして不運なことに、ランデル兵が火矢に気付かず、気付いた時には消火できない状況に。
予想外に早いタイミングで、物見櫓が失われてしまった。
これでランデルの北方向に対する見通し範囲がだいぶ狭まってしまった。
スワレンは砦の外から西門へと向かうが、ビテフィの隊の報告でスワレンの隊の接近は知られている。
ファーミス配下の弓兵に狙われ、接近できなくなる。
西門は、とんでもない激戦が繰り広げられていた。
ランデルの重装兵は、連合の元騎士隊。
装備は持っていたが、この装備を実戦で使うのは、このランデル防衛戦がはじめてだった。
ダルガンイスト内部まで敵が迫った場合を想定して用意された装備だったが、それが使われたことは過去に無かった。元々あるけど誰も使わない装備だったのに、リーディアは訓練をした。
あの一見無意味と思えた訓練が今効果を発揮していた。
元々速度重視のリーディアの部隊は、拠点防御向きでは無かった。
だが、敵をここに引き付けるためには、倒せそうで倒せない兵が居る必要がある。
並の重装兵では、敵の長弓で打ち抜かれてしまうが、騎士隊装備の重装は長弓も通らない。
※近距離からの直撃だと貫通すると思いますが、基本的にはほぼ防げるという感じです。
そのかわり、ほとんど身動きができない。
倒れても、ロープと人手ですぐに起こす。サポート役が命懸けで重装兵の補助をしている。
※さっきのマリーじゃないのやり取りです。
重装兵は、敵が見えたら武器を振るが、届いてるかどうかも良くわからない。
当たれば手ごたえはあるが、手が痺れた。
とにかく疲労が激しい。息が苦しい。
こんな戦闘で死にたくない。もっと力を発揮できる場面で戦いたい。
そう思う。
もう、どうにもならない。体が動かない。
そう思った頃に、殴られなくなる。
今まで延々続いた打撃が消えたのだ。汗で目がはっきり見えない。
細い隙間しかないのに汗が邪魔で前が見えないのだ。
防御版が設置され、騎士隊も後退する。
ようやく、鎧を脱げる。
「終わったのか?」
「重傷者はいるか?」
体中が痛い。どこを怪我したかもわからない。
「負傷無し。バリッスもう動いていいぞ」
動いて良いと言われても動きたくない。もう酸欠で気持ち悪い。
「負傷無し?」
「ああ、負傷無しだ」
「血が出てる」
「そんなもんが負傷に入るか」
誰かが何かを言っている。とりあえず大怪我はしていないようだ。
もう、とにかく苦しい。全身が痛い。耳鳴りがする。
バリッスは何度も死んだかと思ったが、大怪我はしていないようだ。
※バリッスは少々失礼な略称で、親密な間柄の人に呼ばれる愛称なのですが、
ランデルの人たちはバリッスという名前の人だと思ってます。
バリッスさん本人は、自分の名前がバリッスだとは思っていませんが、
表記都合で本人の認識もバリッスさんになっています。
リーディアが居たら、怒られるかもしれないが、動けない。
死傷者が出ていないかが気になる。
周囲を見てすぐわかる。
騎士隊の者は重傷者は出ていない。
なんとか、今回の戦いを全員で生き抜くことができた。
勝手に涙があふれた。
目が染みる。
手で拭うと、顔がジャリジャリしている。
汗が乾いて塩が結晶化していた。
【生きている】そう実感できた。
あと何回これを繰り返すのか、この戦いが終わるまで、生き残れる可能性はあるのだろうか……




