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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
38章.神殿再建(3)ランデル攻防戦(1)

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38-10.ランデル防衛戦(5)ジェローネ(3)

挿絵(By みてみん)


世界最大級の軍が一夜で敗れた。

それも衝撃的であったが、さらに死傷者数が衝撃的なものであった。


戦闘による死者数は0。

戦闘での敵の攻撃による死者は確認されていない。


また、敵の攻撃によって重傷を負った者もいなかった。


つまり、相手は、兵には全く攻撃を加えていないのだ。


軍学では、どんなに強くても個人が集団に勝つことはできないとされている。

連携した兵が同時にかかれば、どれだけ強い相手でも必ず勝つことができる。


少数の兵で奇襲で大損害を与えることもあるが、単独で一軍を退けるなど聞いたことが無い。


……………………

……………………


その後しばらくすると、老人はランデル兵を従えてダルガンイスト下にやってきた。

いくら小国とはいえ、同盟でもない他国の軍が要塞の真ん前に居座るというのは異常事態と言える状況だった。


そして、竜が現れた。


これ以前には竜は伝説上の生き物であり、ダルガンイストの最大の敵とされていた。

だが、その竜はダルガンイストに攻撃を加えなかった。


このときから、ダルガンイストでは竜は伝説上の生き物ではなく、実際に存在するものとなった。


老人が竜と何らかの関係があることは明確で、老人は竜を従わせているとも言われていた。

伝説の生き物を従わせる存在。


明らかにおかしな存在だった。


ジェローネも多少なりとも混乱したのは確かだったが、それ以上に、その老人に興味があった。


そして、しばらくしたころ、移籍の話が出た。

自ら志願すれば、ランデル軍を警備する部隊に行くことができる。


普通は、軍学校を出て士官となったジェローネが移籍する機会は無い。

学生時代に退学になる者は居るが、一度軍学校から軍に入ると、

今度は逆に厚待遇と引き換えに、辞めるのは難しくなる。


今回は特別だ。

明言はされていないが意味は分かる。

完全にダルガンイスト軍から分離する前段階。


一般兵は、失うものは少ないが、士官であるジェローネは、

これに乗って失敗しても、元の待遇でダルガンイストに戻れない。

軍に戻れるかもわからない。


元々ジェローネは模範的な軍人を目指していた。

軍学校から軍に進んだ時点で、そこらの一般兵より上の待遇を得られる。

実績を積めば、さらに上を目指すこともできる。


この頃のジェローネは、以前とは価値観が変わってしまっていた。

ダルガンイストが居心地の良い場所ではなくなりつつあった。


元凶はあの老人だ。常識が通用しなかった。


あの老人が何者なのかをもっと近くで見ていたかった。


だから、良い機会と思って、移籍を希望した。

上司には一応は止められたが、強く希望すると、移籍は実現した。

※ジェローネさんもエリートで、リーディアさんも一応エリートなので、

 元から少ない優秀な士官が居なくなるとダルガンイストは困るわけですが、

 それでもこのタイミングで、スワレンの隊を切り捨てる必要があったのです。


移籍した先の指揮官はスワレンだった。

ジェローネはスワレンの存在は知っていたが、スワレンは丘上、ジェローネは丘下、

組織的に離れていたので、あまり頻繁に顔を合わせる機会は無かった。

顔と名前は知っているという程度でしか無かった。


だが、この頃には、噂レベルではたびたび名前を聞くようになっていた。

元は堅実な軍人だったが、この頃には城下町の名物になっていた。

老人との決闘で最も健闘する女。


なんだかんだで、ジェローネはスワレンにも興味があった。

ジェローネから見て、非常に器用な女だった。


階級はダルガンイストでは同格だったが、移籍後は、スワレンが上官となった。

ダルガンイストで階級が同じだったといっても、スワレンの方が遥か先輩。

実際のところ、肩書は同じだが元から格上だ。

なので、特に不満は感じなかった。


丘上は昇進が遅い。

丘上と丘下で階級が同じだと、事実上丘上の方が格上になりやすかった。


※ダルガンイストでは丘上は町の治安などを受け持つ部隊、丘下が外国との

 攻防を担当する部隊。

 丘上にもエリート部隊があるが、スワレンはその他の岡上部隊に所属しており、

 昇進が遅い代表格みたいな部隊に所属していた。


一応訓練という名目で、スワレンとは模擬戦をしたが、癖が強すぎる女だった。

さほど強くないように見えるのに勝てない。そんな嫌な相手だった。


ジェローネは並の兵よりは剣の腕は立つ方だったが、先頭で指揮するようなタイプでは無かった。

あくまでも指揮官。自分の命は自分で守れる。

並の相手であれば死なない程度に逃げるくらいのことはできる。


その程度の腕では、スワレン相手に同等の戦いはできなかった。


3試合して1回勝ったが、あれが実力で勝てたのか、勝たせてもらっただけなのかはわからなかった。

ジェローネは正直、1回も勝った気はしなかった。


実際に戦って分かった。

まあ、スワレンは、混戦でもおそらく死なずに帰還できる指揮官だ。

指揮官に戦場で急に倒れられると混乱する。


その心配が少ないのは有り難い。


ただし、ジェローネの受け持つ隊は、頭を抱えるほど使いにくいものだった。

小隊というには大きく、兵種も工兵が多いという寄せ集め部隊だ。

戦闘部隊としてはほとんど期待できない。

ジェローネは丘下の通常編成の戦闘部隊を指揮してきた。

特殊な兵の効果的な運用というのは苦手だった。


それでも、来て早々に雨漏り事件があったりと、トルテラを近くて見る機会が何度か得られたのは収穫であった。

ここに来たのは、スワレンにも興味が有ったが、何よりもあの老人、トルテラに対する興味が強かった。


だが、その幸せは長くは続かなかった。


トルテラが消えてしまったのだ。

元から、あの歳だ。いつ寿命で死んでもおかしくはない。

だが、いきなり消えるというのは想定外だった。


※ピチピチの49歳です! まだ寿命で死ぬような年じゃないです!


寿命で死んだら仕方無い。

それでも、かまわない……と思っていた。

それは自然の摂理であり、織り込み済み。


だが、トルテラはある日突然行方不明になった。


そして、今はというと、ランデル防衛戦に参加するためランデルに来ていた。


成り行き上仕方ないとはいえ、トルテラ不在の中、ランデル防衛のために命かけるのは正直あまり気が進まない部分もある。

だが、自分は軍人であり、自らの意思で望んでランデル軍に合流したことは確かであり、自らの決断によるものである。


だから任務は確実にこなす。


この時点で、ジェローネが最も困っていたのは、ランデルの陣地構築能力の低さであった。

ジェローネが詳しいわけでは無いのだが、ジェローネの隊には工兵が多く、臨時陣地構築には滅法強かった。


もはや、土手改修はジェローネの部隊が主力と言って良いほどだった。


ダルガンイストから移籍した兵の約半数は、元騎士隊。

リーディアの元部下たちだ。リーディアに付いて移籍した。

その者たちは、ジェローネの配下ではない。


それ以外の兵が、ジェローネの部下になったが、よくわからないが移籍した者たちだった。

簡単に言えば、トルテラのファンなのだ。

しかも、工事に来て、そのまま居残ったような兵が多く、工兵が多く混じっている。

ジェローネは元々、完全な普通科の指揮官であり、工兵や兵站要員を運用することは無かった。

が、やったらできた。


もともとスワレンは商家の出であり、戦闘以外も得意だった。

スワレンの配下の中でも、ジェローネの隊は直接戦闘以外の役割が大きい。


今、ランデルが最も必要としているのは陣地構築要員だった。


そのためジェローネの部隊は、ランデル防衛に最も必要とされる人材だった。

ある程度自衛できる程度の武力があり、戦いの流れを読む力もある。

陣地防御やら、戦闘の合間の陣地補強修復などは、ジェローネの部隊にしかできない。

リーディアは戦いは得意だが、陣地構築や修繕は苦手。

おそらくリーディアがここに居たとしても、ジェローネが今、ランデルで一番輝いている人物だったかもしれない。


籠城戦準備からとにかく役に立つ人物だった。


「こんな人材がいるとは聞いていなかった。

 あと30日早く来てほしかった」

 

スバリヤは30日早く来てほしかったと言っていた。


……が、ジェローネは少々不服であった。

ジェローネの部下たちと、スバリヤは意気投合していた。


ジェローネ配下の工兵たちは、スバリヤと話が合う。

ジェローネ本人は戦闘の専門家だが、部下の多くは陣地設営の専門家。


ダルガンイストには大量の一般兵に陣地構築をやらせる技術があった。


※ダルガンイストは基本、防御に全振りした要塞なので、攻撃に出た場合も、

 すぐに陣地作って守りを固めるような、あんまり積極的に攻める気無さそうな

 戦法を得意としています。


それこそが今、ランデルに……主にスバリヤに求められているものだった。


「トルテラ様が戻るまで耐えられる陣地を作るのは本望ではあるのだが……」

ジェローネの隊は戦闘訓練などしばらくしていない。

延々陣地構築を行っている。


トルテラが戻るまでの時間を稼ぎ、あまり戦闘には直接かかわらない。

目的が時間稼ぎであれば、最も都合の良いポジションではある。

だが、それにしても、毎日泥まみれ。


それが部下に伝わったのか、声を掛けられる。

「ジェローネ様? どうか?」


「うむ、トルテラ様が戻るまでの時間を稼ぐのが目的。

 とはいえ、こう毎日土いじりはな」


「はあ、私らは元から工兵ですから、これが普通なんですけどね。

 休みが少なすぎて、開戦前に倒れちまいますよ」


そんなことは言いつつ、酒の加配があるので、兵たちは、今の境遇を案外気に入っているのだが。


※兵の燃料は酒というのがこの世界ではありがちです。

 なので、酒を持ってない国は、軍事力的に弱いことが多いです。


……………………

……………………


ダルガンイストの工兵は、ダルガンイスト流のやり方をするので、通訳的な人物が居たほうが良い。

ダルガンイストは兵が多く、要塞の維持にも人手がかかる。

なので当然工兵を大量に持っている。

そのうえ、普通編成の歩兵も陣地構築を行う。


弓兵と騎兵、騎士は陣地構築はしない。

※非常時には、少しやることは有りますが

 騎兵=馬に乗って戦う兵種。騎士は馬に乗る権利があるだけで馬に乗って戦わない。


ランデル流とは全くやり方が異なる。


そこにラハイテスが様子を見に来る。

「これは壮観だな」


ジェローネは工兵部隊を指揮したことは無かったので、

こんな大規模な陣地構築をしたことは無かった。

しかも、ダルガンイストより遥かに小規模なランデルで、こんな大規模工事をするとは想像したことも無かった。

当然、小隊規模の自身の配下で足りるはずもなく、ランデル兵にも手伝ってもらっている。

「ランデルの兵も、やり方さえ教えれば即使えるようになりました」


「そのようだな。この技術があるなら、ダルガンイストは少数の兵でも侮れんな」


ランデルとダルガンイストでは勝負にならない。

ランデル相手に、そこまで綿密に陣地は作らないだろう。


ジェローネは思った通りのことをこたえる。

「陣地を作られたら、突破は難しいでしょう。

 もっとも、ダルガンイストが少数の兵で陣地戦をする機会があればの話ですが」


これに対して、ラハイテスは無言だった。

「…………」


ジェローネは察する。ラハイテスはジェローネに直接大事なことを伝えに来た。

その内容も凡そ見当は付く。


「なんでしょう?」

「20日持たせてほしい」


この話は何度も聞いた。

理由は20日でトルテラが戻るからだと言われているが、おそらく違うだろう。


「20日耐えれば、トルテラ様が戻ると?」

「いや、20日経って戻らなければ、もう良い」


「もう良いとは?」

「ジェローネ、20日経ったら、部下を連れて城下町に移動してほしい」


思った通りの話だった。スワレンからも話は聞いていた。

わざわざジェローネに直接伝えに来たのだ。


「ラハイテス様は?」


「そのときは私もここを捨てて逃げることになるだろうな。

 誰かが責任をもって逃げ延びた者たちが暮らせる場所を作らなければならない」


ジェローネにとっては、自分や部下の命の方が、ランデルよりずっと価値が高い。

だが、ラハイテスはその後幸せに暮らせるかはわからない。

それでも、生き残らなければならないのだ。


ジェローネはランデルとは縁が無く、部下たちの命を懸けて守るのには抵抗がある。

とはいえ、嫌だからやめますとも言えないので来た。


だが、この話を聞いて、覚悟か決まった。

ラハイテス、この女には、指揮官としての器がある。

ジェローネはそう感じた。


ジェローネはトルテラと共に戦ってみたかった。

リーディア追撃戦では、包囲しているはずが、知らぬ間に本部が陥落していた。

雨漏りのときには、最も遠い部屋を割り当てられた。


もう少し近いところからトルテラを見たい。


今、改めてトルテラが戻るための手伝いをしようと思えた。

20日という期限付きではあるが、それまでの間何とか死者を出さずに耐えたい。

「わが隊は、トルテラ様のためなら戦えます。20日はなんとしても耐えましょう」


「落ちるときは、優先して脱出させる。だが、それまでは耐えて欲しい」


「はい。その時が来るまで必ず」


これが妥協点。

ジェローネは連合出の兵を、ランデル防衛のために全滅させたくは無い。

20日耐えたのち、ここを脱出する可能性が高そうだと思う。


この時のジェローネには、トルテラが必ず戻るという実感は無かった。

それでも20日は耐える。

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