38-06.ランデル防衛戦(1)ラハイテスのランデル入り
今度はラハイテスさんの動きを追います。
エスティアさん達が関所を通過する20日程度前の話になります。
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関所前に陣取っていたラハイテスだが、ランデル防衛のためにランデルに戻らなければならない反面、この場所、関所は維持する必要があり、それをどうするか決めかねていた。
トルテラ不在のこのタイミングで一度、他勢力に明け渡せば、もう再び自身の勢力下におくのは難しい。
だからといって、維持できるだけの兵力を残す余裕はない。
僅かな兵を置いて去れば、むしろ敵を呼び込むことになる。
関所の北側、連合領では、ここは空白地に近い扱いであり権利を主張する者はいないが、敵の侵入を防げないようならダルガンイストが管理することになる。
今でこそ、警備をしているのはラハイテスたちだが、元々、ここに関所が無かった時代はダルガンイストが監視していた。
一方で、関所の南側は、連合領外で、バイラッサの領土になっている。
現在は、バイラッサと城下町の間に不戦協定は存在するが、あまり手薄にすると第三国の攻撃が予想される。手薄にすることにより、敵を呼び込む可能性がある。バイラッサとしても他人事では無いので、関所が手薄になった結果、第三国の侵攻が予想されるような状況になるなら放置できない。
関所を突破される=連合内に敵が侵入するという意味になる。
これはランデルだけの問題では無く、連合にも多大な影響がある。
交渉の末、城下町の4軍に留守を任せることになった。
ランデルと城下町の通行には必須となる要衝である。
トルテラ不在の今、城下町とランデルの結束はあまり強くないが、それでも四軍が引き受けてくれることになった。
主に経済的理由からである。
現在、城下町の四軍は、建前上は4領から派遣された軍ということになっているが、実際には予算は受けておらず、完全に自給自足で活動していた。
むしろ大きな利益を得ているのだが、これも、関所の存在によるところが大きい。
関所を手放すわけには行かない。
手薄にすれば、おそらくダルガンイストに接収される。
もともと、連合領外との交易は盛んではないものの、流通経路はほぼダルガンイストを経由していた。
ダルガンイストは敵の侵入を阻止する要塞であり、交易路としては向かない。
通行に大きな労力が必要だ。
※上り下りには大きな労力がかかる。
現在では連合領外との交易は以前の日にはならないほど拡大しており、そのほとんどは、新しくできた関所を利用している。
ダルガンイストとしては、ここを押さえたい。
ところが、領外でありダルガンイストは手が出しづらい。
もともと、竜が建設に関与しており、竜の怒りを買う可能性もある。
※竜は人間の行動に興味を持たないことは知っていますが、
竜が何を気にするかはわからないので、慎重になっています。
実際のところ『トルテラ不在の間に奪われたらトルテラが不快に思うだろう』
とでも言えば、破壊しに来そうな気がします。
特に、強引に奪った後にトルテラが戻る可能性を考えて、監視は付けているが、実効支配を強行していないという状況が続いている。
ランデル戦が終わった後、返してもらう約束にはなっているが、実際のところはわからない。
だが、仮に、そのまま占領されたままになっても、他国よりは城下町のほうがマシだという考えもある。
4軍は事実上城下町に存在する独立した組織であり、町はトルテラ個人が統治している(と考えられている)。
ランデルとは敵対しない可能性が高い。
ランデルは通行可能であれば、実効支配している必要は無い。
戦力はなるべく分散したくない。指揮官を置く余裕も無い。
居留地を、城下町の4軍に任せ、関所に駐留していたメンバーほぼ全員でランデルに向かった。
※関所のすぐそばに、ラハイテスたちの兵舎があります。
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4軍への引き渡しが終わってすぐに出発する。
既に先にランデルに向かった兵も多く、関所を引き払って最後に移動する兵は、元連合兵士が多かった。
ほとんどの元連合の兵にとって、ランデルははじめて訪れる地であった。
ダルガノードに見慣れた者には、そこが中心の街であるとは信じられないほど小さな町だった。
町の大きさにも驚くが、非常に弱そうに見える町の防壁を見ても驚く。
そこは難攻不落のダルガンイスト要塞とは違い。すぐにでも落とされそうな場所だった。
ここで戦って生き残れるのか……と思ったものの、いざ調べてみると、見た目に反して、案外攻めにくいことがわかる。
あの難攻不落の絶壁とは比較にならないが、天然の地形を利用したダルガンイストに対して、こちらは人間の手で作ったもの。
まず最初にやったのは、模擬戦。連合出身の兵を中心に、どこから攻めるか検討させる。
西門に攻撃を集中させるためには、西門以外は攻めにくくしなければならない。
「このくらいであれば、西門で苦戦したら、南北から攻めるだろう」
これはスワレンもカヤハルも同意見だった。
攻めやすそうに見える場所には、迎撃しやすい仕掛けを作ってあるのだが、西門に敵を集中させたいなら、攻めようと思わないような堀が必要になる。
柵より土手だ。これは低すぎる。
柵は燃える。
実際にどこから届くか試すが、周囲の森の木に隠れつつ放った矢もある程度届く。
この弓兵は中弓を使っている。
「これで届くなら、長弓は防げん」
ハスクバハル本体は長弓を持ってくる可能性が高い。
長弓と火矢を交互に使えば、防御板を失い、長弓の攻撃にさらされる。
長弓の射程の問題から、南北の森は、かなり広範囲に木を切り倒さないと、長弓で被害が出ることがわかる。
とはいえ、木を切り倒し運び去るには、相当大きな労力が必要になる。
「これだけの木をどうにかするのは難しいな」
と言っても、手がない以上焼くしかない。
スバリヤとラハイテスは、木を焼くしかないと考えるが、スワレンが待ったをかける。
「それなら、焼かずに撤去する方法がある。
交渉すれば、長弓の良いものがいくつか手に入るかもしれない」
長弓はダルガンイストでも使用するが、あまり流通していない。
そもそも、良い矢がなければ、射程が活かせない。
※基本当たりませんが、近くに飛んでくれば、相手は身を隠す必要を感じるので、制限になる。
南北の森は、かなり広範囲に木を切り倒さないと、長弓で被害が出ることがわかる。
このとき動いたのがスワレンとダイランカラハヤだった。
木は貴重な資源であり、一度切り倒すと、大きく育つのには100期(50年)単位の期間が必要になる。
とは言え、今すぐ切り倒して加工することはできない。
切り倒す余力が無いなら燃やすくらいしか手は無い。
そう思っていたのに、わずか数日でスワレンが話をまとめてきた。
ベリクハスタに20日以内に切り倒して運べば無料で譲るという契約をしたところ、本当に切って運んで行った。
あれだけの人数が来るのだ。
さすが半商人と呼ばれるスワレンである。
※ダルガンイスト軍人だったスワレンさんが、ベリクハスタに伝手があるのは
あんまり良くありませんが、伝手があります。
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人手が集まったのは、現在国境沿いにベリクハスタの軍が集結しているからで、
位置関係としては、ハスクバハルが西から攻めてくると、西にハスクバハル、
東にはベリクハスタと、挟まれた状態になる。
ハスクバハルが攻めてきたタイミングで、あんなのが東側から攻めてきたら、
ランデルはたちまち陥落する。
が、その心配はあまり必要ない。
この地を欲しがっている者はあまり居ない(周囲の小国は欲しがっているが、遠くの大国は欲しがっていない)。ハスクバハルも、わざわざ来ていつでも小国を滅ぼせるという力を見せつけることが目的であってランデルを占領することが目的ではない。
ただ、ランデルが陥落したらベリクハスタ軍が攻めてくるかもしれない。
ベリクハスタはハスクバハルとは敵対しており、ランデルがハスクバハル直轄にでもなると、うれしくない。
敵の手に渡るくらいなら、自分のものにする。
そういうことはするかもしれない。
……………………
ランデルは陣地構築の真っ最中だ。
その中に、30人ほどの人手をかけて堀と壁の補強を行う一団が居る。
連合のダルガンイスト軍から合流したスワレンの部隊の過半数に当たる。
連合から合流した兵にとって今回のランデル防衛戦は不本意なものであった。
トルテラの配下に入ったつもりが、トルテラは行方不明となり、今はランデルで開戦準備を整えている。
ここで命を落とすことになるかもしれない。
工兵部隊出身者も何人かは居るが、多くは普通科(一般的な歩兵)出身者だった。
普通科でも陣地構築はするが、今やってるのは、本格的な陣地構築であり、そんなことを実際に経験した者は工兵ですら、ほとんどいない。
「ああー、戦争はじまる前からこんな目に遭うとは思わなかった」
「おまえは工兵だろ」
「そんなこと言ったって、今は工兵部隊分かれてないから戦闘にも出なきゃならないのかと思ってな」
※工兵は戦闘しないなんてことはありませんが、戦闘を主任務とはしていないので、
戦闘を避けながら行動することが多いです。
「トルテラ様は助けに来るか」
「来なきゃ、俺たち何のために、こっち入ったのかわからない」
トルテラが居るから、ランデル軍に合流したのだ。
トルテラのいないランデル軍で、ランデル防衛のために死ぬ覚悟は無い。
そこに、指揮官がやってくる。
「心配するな、助けが間に合わない時は優先して逃がす。
だから、それまで死なないように、陣地を作れ」
これが救いであった。死なないように陣地を作って、時間を稼いで生き残る。
陥落せずに時間が経つのを待てば、生き残ることができる可能性が高い。
そこに、工事を監督している兵が近寄る。
「ジェローネ副隊長」
「シンディー、あの土は邪魔では無いのか?」
「あとで使うんで、あれで良いんです」
指揮官がジェローネ、工事の監督をしている兵がシンディー。
ジェローネは元ダルガンイストの士官であり、普通科の士官であるため、陣地構築には詳しくない。
工事の指揮をしているのはシンディー。元工兵部隊のベテランだ。
「クレーンが1機しか見当たらないが」
「もう1機は今朝壊れたんで、今晩修理です」
「またか。やはり、(滑車)職人が作ったものとは違うな」
ランデルには、木工の職人は居るが、滑車の技術があまり発達していない。
日頃は滑車はベリクハスタから買っているが、今は、とにかく数が不足しているので、
ランデルで急造されてものも使っている。
これが、動きが重く使い辛いうえにすぐに壊れる。
「あっちと繋げるにはあと何日かかるのだ?」
「つなげるだけなら3日。同じ高さに揃える暇は無いでしょうな」
そんなやりとりをしていると、兵がやってくる。
「中食来ます!」
中間食が届く。
「休憩! 中間食取りに来い」
兵たちが順番に受け取る。
中間食(間食、おやつ)だ。
いつも通りのショロだ。
「ショロははじめて食ったときは美味いと思ったけど、飽きてきたな」
※ショロ:少し甘い芋をベースに、そのときあるものを混ぜた携帯食。
日持ちはしないが1日で痛むようなものでは無い。
「関所(のときの中間食)よりはマシだけどな」
「だいじょうぶですか?」
「ああ、さすがに疲れたな。陣地構築には慣れなくてな」
ジェローネは疲労を感じていた。
ジェローネは普通科の指揮官であり、陣地構築は行うこともあるが、こんなに何日もかけて堀を掘るようなことはしたことが無かった。
シンディーたち、元工兵部隊が居るからなんとかなっているが、部隊の多くは普通科出身者で、工兵は多くない。
とはいえ、ある程度大きな組織には、経験の浅い者をたくさん集めて力仕事をさせるノウハウがある。
それが今役立っていた。
兵は戦争はしたくない。その反面、訓練を実践する日が来ないのもそれはそれで寂しい。
工兵の場合は特に、役に立つ場面があっても嬉しいことが多い。
工兵は、ランデル戦に参加するのは嫌がっているものの、陣地構築に関しては、生き生きしているようにも見える。
スバリヤも、その様子を見て思う。
「やはり組織力か……」
ダルガンイストとは組織力が違う。
同じ人数かけても、ランデルの2倍の速さで同等以上の工事ができる。
何より、ランデルに、陣地構築に積極的な兵はほとんどいない。
スバリヤの構想を実現するのは極めて難しかった。
この兵が、もっともっと早くに欲しかった。そう強く思う。
過去に、ランデルを含むこの一帯が、連合側に付いていた時代、強力な防御陣地が短期間で構築された。
そのときの工法を取り入れたはずだったが、それでも、これだけの差があるのだ。
これは、技術だけでなく気持ちの問題もあった。
長く耐えれば、トルテラが戻ってくる可能性が高いのである。
で、あれば、なるべく強固な陣地を作り、長期間耐えた方が良い。
……………………
夜になると、軽い宴会がはじまる。幸い、周辺国家からの援助があり物資には余裕がある。
※日持ちしないものを優先して消費しています。どうせ消費しないと腐るので。
酒は日持ちしますが、酒を配ると士気が上がるので、けっこう消費しています。
ダルガンイストから合流した兵が話す。
「驚いた。ランデルでは男も作業するんだな」
「こんなときでも無いと、男と共同作業する機会は無いがな」
昼間の作業では、男衆も混ざって一緒に作業をしていた。
「男は力があるよな。連合でも一緒に働きゃいいのに」
「働くのは、死ぬ覚悟のある男だけだ。負けたらどうなるかわからないから」
「惚れるなよ、ぶっ殺されるぞ」
※元連合兵で、ここに来た兵の半分以上は夫が持てない層なので、男見るのが珍しいのです。
元騎士隊の方々は元は夫を持てる層ですが、今はその地位を失っています。
「知ってるか、あっちの林の奥が男衆の水場だ」
「覗きに行ったら殺されるぞ」
「あー、死ぬ前に子供産みたかったな」
「子供産んで死んだら子供が困るだろ」
「あー、そういや、ランデルだと孤児どうなるんだ?」、「知らね」
「誰かしらが引き取るよ」
「連合は違うのか?」
「ダルガンイストは、出るときは一気に孤児が出る。500人出たこともあるって聞いた」
「500人?」、「子持ちの女も戦場に送られたって聞いたな」
※こういう話は、だいたい数字が盛られてます。ただ、孤児が大量に出たのは事実です。
連合とデルデが激しく戦っていた時代です。
実際は、連合領内での戦いの方が孤児が多く出ます。
ハスクバハルはもっと酷く、内戦が何度も起きているので非常に多くの
孤児が生まれました。
「俺、この戦いが終わったら、家帰って夫もらうかな」
「仕事は?」
「漁師だな。漁が盛んなところでな……」
※なんかフラグ立ててる兵が居ますね。
連合出身兵が、なんだかんだで作業をまじめにやっている理由に、酒の加配がある。
なんと、陣地構築中は3杯も酒が出る。
※酒はかなり高価です。兵の士気を高めるために使われることが多いです。
「今日の分は終わりだ」
「酒、2杯しか飲んでないぞ、約束が違う!」
「私も2杯しか飲んでない。見ろ、札あるぞ」
※札=引換券みたいなものです
「おかしいな? 足りるはずなんだが」
「ふざけんなよ!!」
※ダルガンイスト兵は酒の配給足りないと発狂します。
足りないともめるので、必ず行き渡るようになっているためです。
絶対に守られる権利だと思っているのです。
でも、ランデルでは、そこまでの絶対の権利ではないようですね。
「そのくらいのことで怒るな、ズーで良ければ、うちのを分けてやるから」
「ズー?」、「ズーはズーだよ」
※ズー。果実酒。当たり外れが凄い。『ズー』は元は外れを意味する隠語。
現在では、果実酒を指す言葉に変わっている。
年々改良され、現在は外れに当たる率はある程度下がっている。
外れを引くと、苦みが舌に残りっぱなしになる。
……………………
騒がしい兵たちから少し離れたところで、士官が集まっていた。
兵たちは3日交替だが、士官はそうではない。
※3日交替=3連勤+1休日の4日勤務
「ジェローネ殿、良く来てくれた。
こんな人材が味方に居るとは聞いていなかった。あと30日早く来てくれたら」
陣地構築の話だ。
「工兵が優秀なだけで、私の力では……」
スバリヤは毎晩同じ話をする。
「ありゃ、相当気に入られてるな」
「陣地作りは地味だから、話せる相手が居ないんだよ」
※その通りです!
……………………
ジェローネは、元から疲労しているのに、スバリヤの相手をして、さらには部下たちのところに。
「よくやってくれてる。スバリヤ様に褒められた」
「酒も出るし、男も居るし、ダルガンイストより魅力的ですよ」
ランデル攻防戦は、あくまでもランデルの問題であり、元連合出身者が命を懸ける義理は無い。
ランデルの中心部と族長が敵の手に落ちた時点で戦闘は終わる。
全員が殺されたりはしない。連合出身者は、陥落前に脱出する。
「副隊長も運が無い。
勲章持ちが(勲章を捨てて)移ってきたのに、トルテラ様が行方不明で、
こんな場所までくることになって」
「そうでもない。確かに、これで死んだら運が悪い。
が、トルテラ様が戻ってきてくれたら、運が悪いなんて思わない。
お前たちだってそうだろ?」
「そりゃそうだ」
元々トルテラに近付きたくてランデル軍に合流した者が多い。
そして、トルテラが助けに現れると勝手に期待している兵が多かった。
※期待してれば勝手に出ます。本人が望まなくてもそうなる運命なのです。




