38-05.カリオ神殿跡地復活(5)トルテラが戻る予感?
時は、イグニスが来た翌日まで遡る。
この日、竜が出現することになっていた。
そのことはダルガンイストの兵にイグニスが伝えていたので、出現を自身の目で確認しようと、要塞最高指揮官のトーレバーナも城壁下のサークルを見やすい場所に来ていた。
※細かく言うと、竜を見るのに便利な部屋の近くで仕事をしていた。
実際に見える部屋まで移動したのは、竜の気配がしてからです。
「予定通り、来るみたいね」
ここからストーンサークルまではそれなりに距離があるが、それでも竜の気配が分かる。
ストーンサークル付近を警備している兵が感じる気配は猛烈なものがある。
一度は慣れたつもりの兵たちも、腹に響くような巨大な気配に恐怖を感じる。
巨大なものが地面から浮上してくる。
見覚えのある姿だが、襲われたらひとたまりもない。
この場にはトルテラは居ないのだ。
暴れだしたら、誰も止めることはできない。
とはいえ、恐れている姿を見られてはいけない。
周囲にはいろいろな国から偵察に来ている。
その者たちに、竜を恐れているように見える姿を見せてはいけない。
とは言え怖いものは怖い。
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出てきた竜は喋った。
「おい、そこの者、わらわはどのくらいの時間ここに居れば良いのかのう?」
どのくらいの時間滞在するかなど、ただの警備兵には知らされていない。
(滞在予定時間なんて、誰も知りません)
ただ、半日も滞在するような体制は組まれていないので、長い時間では無いということは、この兵にも予想できた。なので、単に、長い時間ではないと答える。
「は、長い時間では無いと聞いております」
すると、竜はさらに話を続ける。
「わらわは今思ったのじゃ。姿を見せろとは言われたが、すぐ帰ってよいものかと」
とても、この竜が喋っているようには聞こえないが、竜から話し声が聞こえるのだ。
この兵は、どのくらいの時間竜が滞在するのかは聞いていないが、あまり短時間でもまずいだろうとは思った。竜を見せびらかすのが目的なので、来てすぐ帰られても困るのだ。
なので、時間ではなく、人々が見たがっているということを伝える。
「その立派なお姿を見るために、人々が集まっております」
「おお、人間にもわかるか! わらわの魅力が!
一番大きな竜は、わらわを妻とするために戻ってくるのじゃ。
待ち遠しいのう。どうじゃ、お主もそう思うであろう」
急に、別の兵に話が振られ、同意を求められたら、並の兵が断るのは難しく、内容をよく考えずに答えてしまう。
「は、もちろん、大変立派で、ディアガルド様がいらっしゃればトルテラ様も……」
そこまで言いかけて気づく。
竜が来る。今話している竜とは別の竜がやってくる。
大変なことが起きた。
竜が2頭出た場合は、兵は避難することとなっている。
「総員退避ー!!」
「退避だ! 2頭目が来るぞ」
すると、先に来ていた竜の興味も後から来る竜に向く。
「わらわがおれば十分じゃ。おぬしが来ても邪魔なだけじゃ」
普通に人間の言葉を話しながら、浮上する竜を邪魔しようと、前足で後から来る竜の頭を踏む。
ところが、止められない。
ディアガルドは、浮上中は無防備になると思ったが、逆に、あまり効いていないように見える。
ディアガルドの体が押し上げられ、やむなく下がる。
『一番大きな竜は、私を妻にするために戻ってくるのよ』
グリアノスはそう言うと、ディアガルドを突き飛ばした。
「何を言うか、このたわけが!!」
※今回は2頭とも機嫌が良いのでじゃれあい程度です
まあ、人間が巻き込まれたら死にますが。
激しい戦いではないが、この程度でも地面が揺れる。
その様子を見ていたトーレバーナは覚悟を決める。
※トーレバーナさんと喋っているのは、領主の娘さんです。
「トルテラ様が戻って来るという話は嘘ではないようですね」
「戻ってくると思っていたのでしょう? その割には包囲が厳重だったように見えました」
「念のため」
「念のため……ですか」
「そうよ」
「どうしますか?」
”どうしますか?”と言われても、そんなことは決まっている。
竜が出た時点で(自称)トルテラの妻たちの妨害をするのは避けた方が良い。
それを知ったうえで”どうしますか?”と言ったことも理解しているが。
「関所の包囲を解くよう指示を伝えてちょうだい」
結局、リーディアの読み通りになった。
なるようにしかならない。
※トーレバーナさんもリーディアの読みは理解しています。
ダルガンイスト兵が妨害する間は後発組の4人がランデルに向かうのは難しい。
だが竜が出れば包囲を解く。それがリーディアの見立てだった。
その見立て通りに、包囲は解かれた。
トルテラ不在の間出てこられなかった竜が現れることで、ダルガンイストは手出しできなくなる。
※ダルガンイストがリーディアを切り捨てたのは、トルテラが不在だったためで、
トルテラが出現する可能性が高ければリーディアの邪魔をしない。
トーレバーナさんの解釈では、女たちの行動を邪魔してもトルテラは現れず、
邪魔するしないにかかわらず、女たちの身に危険が迫れば現れる。
トルテラが再び現れるなら邪魔するのも避けた方が良い。
実際は関所を通さなければ女たちはグリアノスを暴れさせようとしていました。
(すごい脳筋ですね!)
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……………………
城壁下に竜が出たので、ダルガンイストが妨害する可能性は低い。
関所に近付くと、ダルガンイストの兵が道を開ける。
『竜が出れば、ダルガンイストは邪魔してこない』。
リーディアの言ったとおりだった。
無事、連合領を出てランデルへと向かう。
トルテラ不在で一時神殿跡地の力を失っていたカリオ神殿跡地が復活したとなれば、トルテラが戻ると考える。
既にトルテラが戻ると噂されているところに、さらに追い打ちをかけるように竜が出現すれば当然皆信じる。
だから通行させてくれるだろうと言うのがリーディアの読みだが、通行させてもらえなかった場合、ダルガンイストに行って、城壁下にグリアノスを呼び出して暴れてもらう必要があった。
そうなることを知っているので、トーレバーナは、通行を許可するはずだ。
というのがリーディアの読みだった。
どちらにしろ、エスティアにとっては、ダルガンイストに行って実際にグリアノスに暴れさせるかどうかだけの差でしかない。
※相変わらず、脳筋の人ですね
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無事関所を通過できたが、関所通過の翌日に大問題が発覚した。
ハスクバハルによるランデル攻略戦は既に始まっていた。
先に先鋒のメラージェが到着。本体が到着前に戦端が開かれ、現在は既に今回のランデル攻め本体のウルキスタ軍も到着、既にウルキスタも攻撃に参加しているのではないかという状態だった。
※メラージェは辺境と呼ばれる小国家の集まるエリアの1国。
ウルキスタはハスクバハル(ウスカゥ王国)の一地域。
連合の一領に相当するくらい大きな地域。
リーディアとリナも開戦には間に合わなかったはずだが、現在どこに居るのかはわからなかった。
「どうする?」
「どうするって言っても……」
エスティアは護衛部隊の指揮官と交渉し、行けるところまで行こうとするが、
意外なことにあっさり通った。
ランデルの中でも戦闘は限定された範囲内でのみ起きている。
(族長カタイヤを殺すか捕らえるかすれば勝ちなので、中心部の一角のみが戦闘区域)
ランデル中心部から少し離れたところまでは行けることになった。
そこは元々護衛部隊がしばらく駐留する予定だった場所であり、
城下町から出てきた者たちにとっては、既にトルテラが戻ることは確定していると信じられていたためであった。
これはエスティアには奇妙に思えた。
「どうしてみんなトルテラが戻るって信じてるんだろう? 竜が出たから?」
エスティアが疑問を口にすると、テーラが答えた。
「トルテラは私に会うために帰ってくるの」
それはテーラの希望であって理由ではない。
「トルテラがランデルに来るから向かってる?」
エスティアは”何かが動いた、もしかしたらフラグが立ったのかもしれない”と思った。
アイスはエスティアの反応はおかしいように思う。
トルテラがランデルに来ると言うから、ランデルに向かっているのに、
エスティアが妙なことを言いだしたように感じた。
「あ? どうしたんだ、急に。トルテラが来るから向かってるんだろ?」
確かにアイスの言う通りなのだが、数日前まで、城下町の人々はエスティアが町から出るのを妨害していたのだ。
それが急に流れが変わった。神殿跡地が復活して竜が出た。
ランデルに行けるのは戦闘が始まる前のタイミングに限られるはずだった。
だが、戦闘が始まってもランデル郊外まで進むという。
エスティアの感覚では、たとえ竜が出ても、戦闘が始まればランデルには行かない。
ところが、戦闘が始まっていることが分かってもランデルに行くという。
「この感じ、前と同じなの」
「何が?」
「勝手に連れて行かれる感じ」
「エスティアがランデルに行くって言ったんだよな?」
「ええ、それはそうなんだけど、
戦闘が始まったら危ないからランデルには行かないはずだったでしょ?」
「でも、少し離れたところなら安全なんだろ?」
アイスには、エスティアの感じる違和感は無いようだ。
「今までずっと行くなって言われてたのよ?」
「それは知ってる。でも行くって決めたから来たんだろ?」
戦闘が始まったらランデル中央部には近づけない。
目的は達成できないし危険なので、城下町に戻るはずだった。
「戦闘始まったら帰るって言ってたでしょ? ねえ、ルルも聞いてたでしょ?」
「え? う、うん、戦闘が始まったら危ないから」
エスティアには、なんだか、ルルの反応がおかしいように感じた。
「なにかあった?」
「え? えーと、なんだか、トルテラ戻ってきそうな気がして」
トルテラが戻ることが予想できると言っているように聞こえる。
「わかるの? 町の人たちもわかるってこと?」
「町の人たちがどう感じているのかはわからないけれど
……なんか……まだ居ないけど、もうすぐ来そうな感じがして」
「わかるの?」
「そんな気がするだけ」
ルルは、それを実感できるのだ。
「アイスは?」
「俺はわからない。でも、戻るなら森に居ると思うんだよな」
エスティアの感覚も同じだ。
トルテラが戻って来るという感覚は無い。
ただ、機は熟したという感覚があるだけ。
たぶんトルテラならフラグが立ったというのだと思う。
それに、トルテラは森に来るような気がする。
そこでテーラが言う。
「トルテラはもうすぐ戻ってくるの」
「わかるの? テーラには」
「わかるよ。だって私に会いに来るから」
テーラに会いに来るわけではないと思うが、トルテラが戻るとき、テーラとルルにはわかるのかもしれない。
テーラとルルは以前から、この世界にトルテラが居るかどうかがわかるようなことを言っていた。
もしかしたら、本当に今ヨコハマから、この世界に戻ってくる途中なのかもしれない。
エスティアも、だんだんそんな気がしてきた。
”だとしたら、この謎の毛が関係……”そう考えた瞬間、テーラがエスティアの謎の毛を逆撫でする。
エスティアはテーラには人の心を読む能力があるのかもしれないと思って少しだけ警戒した。




