30-31.ルルシアを助けに来た老人、その後(24)罠に嵌った。 ルルは可愛い
「”最後の手段”か」
「なんでしょう?」
「大芋の酒。寝かせてないやつを、”最後の手段”そう呼んでた」
そう説明すると、ガスパールが答える。
「その呼び方は、はじめて聞きました。酷い名前ですね」
名前も酷いが、味も酷いから仕方が無い。
だが、ガスパールは、その呼び方を聞いたことが無いと言う。
呼び方はいろいろあって、皆が”最後の手段”と呼ぶわけではないが、
まあ”最後の手段”と言えば通じる。
もしかしたら、もっと首都寄りの言葉か、或いは、冒険者だけが使う言葉なのかもしれない。
この世界は、正式名称不明なものも多い。生活圏内で通じれば良いので、呼び方は様々だ。
日本でも、同じ魚を土地によって様々な呼び方をする。生活圏内で通じれば良い。
魔法なんかテキトーな名前が付いてる。
雨除けの魔法を俺は"シールド"と呼んでいるが、色んな呼び方がある。
”雨除け”とか、”濡れないやつ”は良いとして”ヨケ”、”ヨセ”、”ヌレ”なんて呼ばれることもある。
そんな名前で聞いても、よそ者には通じないが、雨が降ったら『”アレ”使え』と言えば通じるので、名前は適当で良い。
”シールド”は、けっこう固い呼び方だ。
軍隊での呼び名だと聞いたので、俺は軍隊に近いことろに居たのかもしれない。
森でもダルガンイストでも軍は雨除けの魔法を”シールド”と呼んでいたと思う。
規格とか決まり事とか、だいたい何でも軍隊発のものが多い。
俺の世界でも一緒だ。
そもそも子供が学校に行くのは新兵の識字率向上の目的が大きかった。
元々良い家の子供は、学校に通い識字率は高かったと思うが、裾野を広げたのは軍隊だ。
俺の国では日露戦争という、鉄でできた巨大な軍艦や大砲を使った大きな戦争が有って、その前後で就学率に変化があった。
15000トンもあるような、重い船で戦った。
鉄は水に浮かない。船の内側は空気なので、水に浮いているが、鉄の船は穴が開くと水が入って沈む。
なので、相手の船に大砲で穴を開けて水を注いで沈める。
大砲というのが、重い弾を、火薬で遠くまで飛ばす装置で、それ以前に予想されていたより遥かに遠くから撃ち合うことが分かった。
武器や道具の発達で、戦い方が大きく変化する。
道具を保守、運用する人が増え、役割が細分化した。
その結果、文字が読めることが重要になったのではないかと思う。
軍は、識字率を重視した。
兵隊になりたい人が増えたのか、国が強制したのかは知らないが、そのタイミングで就学率が大きく上がった。景気悪いと、最後の職は兵隊になるので、保険の意味で学校に行ったのかもしれない。
そして、小学校は4年間から6年間に延長された。
小学校というのは、初等教育の学校で、文字の読み書きや、金勘定ができる程度の計算ができるくらいから、さらにそのちょっと上くらいまで習うようになった。
6年制になったのが、このタイミングなので、これが10歳の壁が小学校で発生するようになった遠因となるわけだ。
小学校が4年間なら、10歳の壁のところまでで小学校卒業になるだろうから。
生活に最低限必要なことは、だいたい10歳までに習う。
この時点で理解できなくても、大人になるまでにはある程度使えるようになることが多い。
ところが、ある一定の子どもは、ここより先の内容は習得できないようになってくる。
大人の限界もここに近いところがあり、10歳の壁までは到達できても、その先には到達できない人が多くなってくる。
学校では、軽々と10歳の壁を超えた実績のある人も、大人になってからテストしてみると、実は超えていないことが判明するなんてことも多い。
習った内容をテストすると、その時は解けるが、身についていないので、大人になってからテストすると、小学生で習うレベルの問題を解ける人は少数派だ。
解けないのが普通。
レベルが低いことを指して”中学生でも理解できる”という言い方をするが、そんなレベルに設定したら、ほとんどの大人は脱落する。
俺の国で、俺の生きた時代は、学歴社会なんて言われていたが、元々子供の学力を熱心に調査していたのも軍だ。
訓練手引書を、新兵のレベルに合わせる必要があったからだ。
軍が必要としてはじめた。
そして、その仕組みは便利だから、今でも軍以外でも使われ続けている。
元は軍が主導したその仕組みを、今でも一般企業も含めて軍以外でも活用しているに過ぎない。
だが、雨除け効果の魔法にシールドと名付けたのは誰なのだろうか?
まあ、どうせ誰か昔の偉い人がカッコイイ名前を付けたとかそんな理由だろうが。
※だいたい合ってます
俺が勝手に名前付けるとしたら、”雨除け”にすると思う。
雨に濡れない魔法を”シールド”とは呼ばないのではないかと思うのだ。
俺の思う”シールド魔法”は、剣で攻撃されたりしたときに、防御したりするようなものだ。
バイクの風防をウィンドシールドと呼ぶので、シールドが雨避け風避けであってはいけないこともないが、単に”シールド”と言うと、俺的には防具の”盾”の意味になる。
なので、”盾”に近い効果の魔法を”シールド魔法”と呼ぶと思う。
この世界では、同じものを色んな名前で呼ぶ。それが普通だ。
ラジオやテレビの放送や、たぶん新聞も無い。
そうなると当然、広域で同じ言葉を使うという機会、必要性が無くなる。
俺の世界でも、言語は国や地域によって異なる。世界中の意思疎通を最優先するなら、言語を統一すれば良いのだが、世界中を情報が飛び交う時代になっても、言語を統一しようという強い運動は起きなかった。
同じ仕様の機械で、世界中の言語が扱えるように拡張された。
元は同じ言語でも、時間と共にバリエーションが増えていく。
言葉とはそういうものだ。
その割に、竜の名前は、好き勝手に呼ばず、名前が固定されていたような気がする。
そう考えると、竜の名前には、”何か特別な意味”があるのかもしれない。
…………
俺はたぶんこの世界に長居はしない。石を探すためにきて、石を見つけたら帰ると思う。
石を取りに来た。その”石”が必要があって俺をここに呼んだのだと思う。
石には何かが入っていて、俺は(竜の)ガスパールだった記憶を思い出すのかもしれない。
「何のためにきたのか。帰っても、俺には妻が居ない。子供も居ない。
もしかしたら、帰らないのかもしれない。
ガスパールの話を聞いて、俺はもしかしたら、”竜のガスパール”かもしれないと思った」
「何故です?」
「ガスパール(テリオス)に石を渡したのが竜のガスパールで、
その石を取りに来たのが俺なんだろ?
竜が人になったのが俺なら、人間になる前の元の竜が居るはずだ」
ガスパール(テリオス)は黙ったままだ。
生まれ変わりとか、そういう概念は無いのかもしれない。
竜の名前について情報を聞いておく。
「ところで、竜のガスパールの名前は、どういう経緯で付いたものか知ってるか?」
「名前のある竜は、特別な存在なようです。
”ガスパール”は、一番最初に飛んできた竜。
名前の付いた竜は”ガスパール”が最初だと思います」
「ああ、確かに、そんな話があった気もする……ごめん。
忘れてるけど聞くと思い出すんだ」
「はい。そのように見えます」
よく観察してるなと思う。
大昔のことを思い出すように、忘れているけれどきっかけがあると思い出す。
今の俺の記憶はそんな感じで、完全に忘れているわけではないけれど、きっかけが無いと思い出せない状態になっている。
「続けてくれ」
「”ガスパール”の名前の意味は、恐らくは、”巨大な親しい訪問者”、或いは、
”巨大な友人”と言ったところでしょう。
恐らく連合内の誰かが付けたものでしょう。
ランデルでも、”ガスパール”は、同じ発音でした」
”巨大な友人”……気になる響きだ。
……………………
巨大な友人。別の言い方をすれば”大きいお友達”となる。
俺の国では、”大きいお友達”というのは、イレギュラーな存在を指す言葉として使われていた。
例えば、対象年齢5歳程度の女の子向けのイベントに、対象外の、”もう少し年齢が上の男性”が居たりすると、”大きいお友達”と呼ばれる。
まず、主催する側からするとターゲットが女児で、その付き添いの大人が居るという状況を想定する。
そのため、元は、そのショーを見るであろうメインターゲットを子供、大人と言うと付き添いできたお父さんお母さんを指す。
ところが、実は、女児向けのコンテンツにある程度の年の男性が感度を示すことがある。
購買力もあって、ちょっと無視できないシェアを持っていたりする。
そのため、商売上は無視できない存在になる。
だが、大きなお友達は年齢的な区分けでは大人の方に入りそうだけど、ショーを見に来ている。
ショーを見に来ている人=お友達。だけど、子供、大人という区分では子供に入らない。
なので、ターゲットよりだいぶ上の歳でショーを見に来た側を指す言葉となっていた。
付き添いの親たちからは変な目で見られる。
俺は、俺の世界で”大きいお友達”だった気はしない。
でも、記憶があまりはっきりしない。
俺は、俺の世界で”大きいお友達”で、こっちの世界でも”大きなお友達=ガスパール”だったりしたら、凄くガッカリしてしまうかもしれない。
その名前で呼ばれるたびに、逃亡したくなってしまうかもしれない。
でも、この”ガスパール(テリオス)”は、自分で望んで、その名を名乗っているのだと思う。
俺の世界での”大きいお友達”の意味を知らなければ、何も問題は無い。
「巨大な友人か」
「はい。ほとんど言葉を交わしていませんが、私にとっては大事な友人です」
やはり、ガスパール(テリオス)は親しみを感じていることがわかる。
もし、ガスパール(テリオス)が、その親しみを感じる相手と再会できたら、素晴らしいシーンになりそうだ。
石を渡したのが竜のガスパール。石を取りに来たのが、竜が人になった神様。
それが俺だとしたら、”竜のガスパールが人になったのが俺”ではないかと思える。
だとしたら、俺が、このガスパール(テリオス)の友人で、今仲良く酒を飲んで話していることになる。
落ちとして凄く美しい。
その流れからすると、俺は、竜のガスパールっぽい。
でも、1つ美しくない流れがある。
ガスパールの名前の意味が、”大きなお友達”だったら、俺は横浜に住んで居た頃、”大きなお友達”と呼ばれる人であった方が、流れが奇麗だ。
こんな完成された美しいオチに、僅かに届かない設定をするだろうか?
それとも、俺は”大きなお友達”として、代々、セーラームーンショー、おジャ魔女どれみショー、プリキュアショーを見続けてきた歴戦の猛者なのか?
いや、それはあり得ない。
そもそも俺はキャラの名前全部言えない。
それ以前に、どの作品が主人公グループ何人構成なのかも知らない。
はじめのプリキュアは2人だ。これは知っている。
何故なら”ふたりはプリキュア”という番組名だったからだ。色が黒と白なことも知っている。
でも、キャラ名は知らない。そのくらいのレベルだ。
そうだ、クレヨン王国とナージャはどこに入るんだ?
俺は番組が放送された順番さえも知らない。
”これでは、何も知らない一般人に等しいではないか!!”
※異論は認めます\(^o^)/
ちなみに、仮面ライダーも何種類あるか知らないから、男の子向けのほうの”大きいお友達”でも無いはずだ。
実はライダーベルトは俺の子供の頃から有った(おもちゃとして発明済み)のだが、微妙に時期を外していて、第二次ベビーブーマーから見ると、仮面ライダーは物心ついた時には過去のものだった。
再放送で見ることはあったが、その時には既におもちゃは売られていない。
そして、ある程度の歳になってから、仮面ライダーシリーズの放送が復活していて、変身ベルトが子供の人気アイテムになっていた。
俺たちの世代は、放送期間の隙間に入ってしまって、あんまりリアルタイムじゃないのだ。
つまり、番組自体は知っていても、子供の頃に、”今欲しいおもちゃの筆頭が仮面ライダーの変身ベルトだった時代”と被っていない。
だから、俺の年代で、子供が居て、子供が変身ベルト欲しがったり、子供の付き添いショーや映画を見ることはあっても、それは”大きいお友達”ではない。
そんなちょっと微妙な年代だったのだ。
だから、俺の年代だと”大きいお友達”は、女の子向けアニメの方がメジャーに感じる。
俺は、”大きいお友達”でも無いのに、この場面を迎えてしまった。
フラグ立てに失敗しているのかもしれない……大失敗だ。もう取り返しがつかない。
なぜ俺は、セーラームーンやおジャ魔女どれみ、プリキュア……そして、クレヨン王国とナージャを追い続けなかったのだ?
俺は選ばれし者、”大きいお友達”では無いような気がする……
俺は、俺の世界で正しく”大きいお友達”として過ごさなければならなかったのに、それをやらなかったかもしれない。
……………………
俺は凄く重たい気持ちで言う。
「俺は、竜だったとしても”大きいお友達”、”竜のガスパール”には、なれないかもしれない」
ところがガスパール(テリオス)はあっさり答えた。
「ガスパールとは別の竜でしょう」
ん?
「理由があるのか?」
「はい。”大鎧”は私が生まれる前からあります。
私が(竜の)ガスパールと話をしたのは(テリオスが)20期の頃ですから、別の竜でしょう」
「ガスパールと会った頃、大鎧は、既にあった?」
俺が大鎧と言うやつなら、ガスパールとは別の竜なのか。
なるほど。
今までの話の流れからしたら、絶対、俺が”大きなお友達、竜のガスパール”だと思ったのに、違うのか!!
「元は、私の妻のシート、テリシアの母親ですが、シートがあなたを
お待ちしていたと聞いています。
ところが、娘のテリシアと”森に飛んでくる竜”を待つことに」
「それが俺か?」
「はい。おそらく」
俺が誰かは知っていて待っていた。それは竜のガスパールではないのか。
「シートとテリシアはあなたを待っていますが、あなたはルルシアの前に現れてしまった」
「ああ」
とりあえず、頷く。
「大鎧は、以前から有り、あなたも以前から居たのではないでしょうか?
あなたは”ルルシアの前にだけ現れる”。数期前のことをあなたは昨日と言いました。
ルルシアが居ないときに神殿跡地に帰ると時間が止まるのではないですか?」
大鎧はガスパールが生まれる前から有った。俺は、その頃からここに居たけど現れなかった?
だとすると、竜のガスパールは、俺を出現させるために、出現させることができる人間を探した?
その方が筋が通りそうだ。ガスパール(テリオス)は、いつから気付いてた?
「いつから(気付いてた)?」
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ガスパール(テリオス)は思い出そうとする。
いつからだろうか? でも、ずっと疑問を感じていた。
「ずっと疑問だったのです。
妻は自分自身が妻として待つことを諦め、テリシアと共に待った。
来ることを知っていたようでした」
「妻? 待っているのは妻になるため?」
「はい」
ガスパールは、シートが、テリシアを使い罠をかけてこの老人をおびき出し捕まえようとしていることを知っていた。
だが、この老人は、”テラ以外”という制限を設けてやってきた。
どんな経緯でそうなったのかはわからない。
だが、ガスパール(テリオス)は、竜が人になった神様と接触することに成功した。
その老人を出現させるカギはルルシアだった。
「そんなこと言われてもな
テリシアは、ルルシアの妹だから年下だよな?
俺の妻って歳じゃないよな」
「はい。それはもちろん。わかっております。
ですが、いずれ年頃になります」
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いずれって、まあ、確かに、あと10年もしたらお年頃だ。
だが、俺はそんなに長期間、ここに残らないと思う。
また10年休眠に入るのか?
だが、おそらく帰るはずだ。俺には何か帰らなければいけない理由があったはずだ。
「俺は石を受け取ったら帰ると思う」
そう答えるが、同時に迷う。帰らないのだろうか?
悩んでいる間にも、ガスパールは続ける。
「シートは、テリシアをあなたに妻として捧げようとしました。
そして、あなたはテリシアでは無く、ルルシアを選んだ」
「は?」
俺がルルシアを選んだ?
「あの子はあなたを慕っています。
命の恩人としてだけでなく、それ以上に」
困った。もしかして、本当に慕われてるのか? 確かに、慕われている感はあった。
でも、俺は、子供というのはそういうものなのかと思っていた。
俺は既に、ルルを可愛く思っている。娘のように。
「俺は帰ってしまうと……」
だが、特別慕われているとすると……俺は帰れなくなる。
「それでも、約束だけでも構いません。ルルシアを妻に」
ルルを? 妻ってなんだ?
よく考えろ。そういう歳じゃない。俺は何歳まで生きる?
あと20年くらいしか生きないと思う。
「俺は、あと40期(20年)くらいしか寿命が無いと思う」
「それだけあれば……」
ああ! そうだ、ここではそういう認識になるのか……
「でも、俺は既に100期(50歳)の老人だろ。ルルじゃ孫だよな」
「孫のようにかわいがってもらえれば」
「いや、俺は帰る」
そう言いつつ、さっきの、不味い酒を飲んだ時の”うわーー”のルルの顔が浮かぶ。
ルルは可愛い。
俺は娘が欲しかったかもしれない。でも、俺と同じ時を歩める妻が欲しかった。
もう今更手遅れだ。
50歳まで会ったことも無い女性と、その後の人生を共にしても、俺の求めていた、人生を一緒に歩む姿は達成できない。
ところがまた、さっきの、不味い酒の”うわーー”の顔が浮かぶ。
でも、娘と共に歩む時間が20年だったら、それは俺の思う親子の姿に近いかもしれない。
いや、そんなことになったら、ルルの人生が。
俺の心に何かが刺さっていることに気付く。
ルルは可愛い。
もう手遅れだ。
銛でも撃ち込まれたかのように感じた。
いや、銛を撃ち込まれた。
俺は帰れない。もう帰れなくなった。
石が仕掛けたのか、誰が仕組んだのか。俺は罠に嵌った。
「罠か……」
「すみません」
ガスパール(テリオス)は知っていたのか……
俺はおそらく、ルルを選んでしまった。
会ってしまった。会ってしまえば俺はもう帰ることができない。
だが、このまま帰らなければ、テリシアと会ってしまう。シートとも。
ガスパール(テリオス)は、シートと顔を合わせて欲しくないと言っていた。
「でも、ルルがどう思っているか、わからないし」
「明日、本人に聞いてみましょう」
いや、酒の席の話だ。歳が合わないし、こんなの犯罪だ。
聞かなかったことにしよう。
……………………
寝床を作る。こういうときに、俺は異世界生活が長かったことを実感する。
藁を敷いて簡易ベッドを作る。
俺はその作り方や、寝心地の良し悪しが想像できるのだ。
寝床を作りながら思う。
今日はいろんなことがあった。
ガスパールが布団を用意してくれた。
「ふとんはこれしか無いので、これを使ってください」
「ありがとう」
「では、私も寝ます」
「ああ、今日はありがとう」
ガスパールは、フラフラしていた。
酔ってテキトーなことを言っただけだ。
そもそも、本人を抜きにして、勝手に話をした。
俺は分別のある大人だ。さらには紳士だ。
だから、子供に釣られたりしない。
…………
俺は余計なことは考えないように努力したが、
不味い酒を飲んだ時の”うわーー”のルルの顔が浮かぶ。
ぐふっ(エア吐血)。ルルは可愛い。
悶絶してると、寝床が崩れて寝心地が悪くなる。
俺は帰れなくなったかもしれない。
孤独な俺に懐いてくれる女の子がいたら、俺はもう、俺の世界に帰れない。
帰れなかったら、どこかの山奥でひっそり隠れて暮らそう。
そう思うと、なぜか槍を持った女に追いかけられるイメージが湧いた。
山奥で暮らすのも楽ではなさそうだ。
※森に隠れて暮らすと槍を持った女に追いかけ回される話は
”9-1.おっさん、また忘れる”参照




