30-21.ルルシアを助けに来た老人、その後(14) 瓜は食べすぎると、歯茎まで渋い
「あなたの探し物はおそらく私の宝でしょう」
宝? そうか、”石”と言うのは宝石のことか……俺はてっきり、”漬物石”的な、”一般的には価値の無いもの”をイメージしていた。
確かに宝石なら、特徴があるし、数も少ないだろうから探しやすい。
特別なものというのがわかりやすい。
まあ、物語の目的として、定番でもある。
メジャーな物語でも宝石探しは定番で、すぐに思いつく。
例えば美少女戦士だと”幻の銀水晶”とか。
あ、でも、そういや、あれは敵側が探してるやつか……
まあ、でも、宝石探しは定番ネタだと思う。
そもそも、宝石単体に願いを叶える効果が有ると信じられている……というか、貴重さ故に、願いを込める対象として相応しいのかもしれない。
でも、石だと、そういう効果は期待できない気がするのだ。
俺の探し物について、再度訊く。
「そういえば、俺が探しているものを知ってるって言ってたな」
すると、ガスパールが答える。
「あなたの探し物は“石“……ですね?」
石! 本当に知ってるのか。
あんな酷いヒントしか無くて俺は絶望してたのに、俺が知らなくてもガスパールが知ってる。
なるほど。そういうことだったのか!
だったら、即ここに来れば良かった。
でも、そういうことなら、”石のことを知っている重要人物に会え”とか、そういう形のヒントにしてほしかった。
そこで、今頃思いついた。
そういえば、”石”を探す話にもメジャーなのがあった! 凄くメジャーなやつだ。
”ドクロストーン”よくわからない3人組が探している石だ。
一応、俺とガスパールとルルの3人が揃えば、女一人に男二人で、”石”を探すのには悪くないバランスだ。年齢的なバランスは非常に悪いが。
あ、これも、悪役側が探してるやつだった!
俺は悪役側で登場するキャラなのかもしれないなと思う。
まあ、俺には正義とか似合わないからな。
……でも、悪でも無い気がする。
そんな余計なことを考えていると、ガスパールが改まって言う。
「後ほどお渡ししましょう。その前に聞いておきたいことが」
まあ、そんな”特別なお宝”を託されていたなら、聞きたいことはいろいろあるだろう。
ドクロストーンは、後で受け取ることになった。
だが、あいにく俺は、大事なことはだいたい覚えていない。
隠す気が無くても、答えられるかは、わからない。ので、予め言っておく。
「知ってることなら」
「知ってることなら?」
”答えられることなら”という言い方をすると、”知ってるけど答えられない”と思われると嫌なので、”知っていることなら”という言い方をした。
この反応だと、記憶の欠けのことは知らないようだ。
俺が来ることは知っていても、さすがに、俺の記憶の状態までは知らないようだ。
記憶に欠けがあることを伝えておく。
「それが、記憶があまり無いから、答えられることは少ないかもしれない」
「記憶が無いと言いますと?」
まあ、今回は、来たけどすぐ帰るから言っても構わないだろう。
「信じられないと思うが、俺は、実は他所の世界から来ていて、記憶は持って来られなかった」
「竜の世界……ですか?」
驚かないのかよ!! つまり他所の世界から来ることを知っていた。
だが、俺は”竜の世界”から来るはずだった? だとしたら、何か手違いが起きているかもしれない。
とりあえず否定しておく。
「違う。そういうの(竜)は居ないところだ」
「今、記憶は持って来られなかったと言いましたが、”竜の世界”では無いことは覚えているのですか?」
確かに、そう考えるかもしれない。
俺の記憶の状態を、言葉で説明して理解してもらえるだろうか?
「どんな世界だったかはよく覚えてる。竜とかは居ない世界だ。
ただ、世界は覚えていても、ここに来た目的と、自分が何者かがわからない。
だから、俺について聞かれるとあまり答えられないと思う」
「そうでしたか」
続けて、どこまで覚えているか聞かれるのかと思ったが、ガスパールはあっさり納得した。
「え? それで納得するのか」
「あなたは”自分が誰なのか”を忘れていたいのです」
そうか。つまり”俺が何者なのか”、それも含めてガスパールは知っているのだ。
俺を呼び寄せた黒幕なのか?
いきなり”もしかしてあなたが黒幕ですか?”とか聞くのはまずいだろうと思いつつ、ついでに俺の知りたい情報を聞き出す。
「俺が誰だか知ってるのか?」
「知りたいですか?」
質問をすると、質問で返された。
”知りたいですか”と言われると、急速に知りたい気持ちが萎えてきた。
俺の経験上、”知らない方が幸せなこと”というのは、人生にはたくさんある。
フラグ管理的にも、不要な要素は無い方が良い。
短期行でフラグを立てまくる必要は無い。
「……いや、あんまり」
「はっはっは」
ガスパールは、急に笑ったが、晴れ晴れという感じだ。
「面白いのか?」
「知る必要が無いから、知らずに来たのですよ」
なんか気持ち悪いな。
でも、今回のミッションの俺の探している”石”は、ガスパールが持っていて、
ガスパールは、俺がそれを探しに来たことも、俺が何者なのかもみんな知っている。
俺は一体何をやらされるのだろう?
ガスパールにはまったく悪意が見えない。
だが、これで素直に終わるとも思えない。
さらに、別の悪役が現れて、俺が何かをやらされたりするのかもしれない。
そんな気がした。
とりあえず、ガスパールと話をして、ルルが追加で持ってきた瓜は有耶無耶にするつもりだったが、いつまで経っても、ルルが横でじーっと見ている。
これは、俺が全部食って”美味しかった”と言うまで見張る気満々だ。
歓迎だよな? 嫌がらせでやってるわけじゃ無いよな?
……まあ、こんな小さな子を、そんな目で見るのは如何なものかと思う。
ぬう。仕方が無い。
俺は紳士だから、仕方が無い。子供の夢を壊してはいけない。
大変遺憾ではあるものの、口には出さず、遺憾の意を全力で心の中で表明しつつも食べる。
ルルが横で目をキラキラさせて見ているので、俺は美味しいふりをして、全部食べる義務が発生してしまったのだ。
1個、2個……どんどん、きつくなってくる。3個目までなんとか食べる。
4個目……手が進まない。
うわぁぁぁぁぁぁぁ口が渋い。もう体が要らないって拒否反応起こしてる。
”げぇふ”
それでもなんとか、口に押し込む……
まだルルが、じーーーーっと見ている。
「お、美味しかったよ」(低音)
「うん」 ルルシアは満足して去っていった。
……ようやく恐怖の番人が去っていった。
そして俺は思い知ったのだ。
瓜はたくさん食べると、歯茎まで渋くなるということを。




