30-20.ルルシアを助けに来た老人、その後(13) あなた、お風呂にする?食事にする?それとも……紳士脱ぎ!
まあ、でも、その前にやることがある。
「川に落ちたから、(井戸水で)体洗ってくるかな」
名無しの老人が妙な事を言った。
「はぁ」
これは正直、ガスパールにとっては、謎の発言だった。
泥を流しに川に行ったら体ごと流れた……が、泥は落ちた。
元々、川には泥を落としに行ったはずだ。
ところが、また体洗うと言っている。
ここまで来ると、家に居るのが嫌なようにも聞こえる。
一方で、流されても自分で戻ってくる。
純粋に、体を洗いたいのだろうか?
キリが無いので、食事を勧めてみる
「先に食事にしましょう。どうせ服が乾くのに時間かかりますから。
濡れた服は脱いで、この毛布でも使ってください」
ガスパールの言葉にルルも便乗する。
「服脱いで。私が洗ってあげる」
言葉はありがたいが、俺の服は大きすぎて、ルルには無理なんじゃないかと思う。
水を吸った布は、相当重い。筋力もだが、身長体重が無いと厳しい。
だが、ルルシアがじーーーーーっと見ている。
「ちょっと、外で着替えて……」
「早く脱いで。私が洗ってあげる」
ぬぅ。ここで脱がないとダメか。
だが、こう凝視されると、脱ぎづらいんだが。
”見られるの嫌”みたいな、そんな態度を見せたらこの子が傷付くだろうか?
そんなことを考えつつ、不自然にならないように最大限配慮し服を脱ぐ。
やはり”マル秘エリア”を、女の子に見せびらかすのは、紳士としてどうかと思うのだ。
たぶん、この世界、デジタル技術が発達していないから、モザイクかからないと思うのだ。
※少々発達してても(モザイク)かかりません!
”秘技、紳士脱ぎ!!”
かなり難易度高いが、”マル秘エリア”がルルの死角に入るように体に捻りを入れる。
が、その瞬間、ルルもにょろっと動いた気がした。
瞬時に毛布を巻き、ルルを見ると、何事もなさそうだった。
気のせいか??
と、名無しの老人は思ったが、一方のルルはと言うと、一見冷静に見えたが頭の中では、新たな”何か”が芽生えていた。
”服脱いで。私が洗ってあげる”。この言葉に嘘偽り無く、ルルは、この老人の服を洗いたかった。
洗うために脱いでと言った。
ところが、脱ぎ始めると、ただ服を脱ぐだけなのに、目が釘付けになった。
なんだかドキドキしてきた。
ルルはそれまで、そんな気持ちになったことが無かった。
そして、急に全部見たくなった。
なのに、ルルの位置からだと、一番大事なところが見えない。女には無いところ。
不自然にならないように覗いてみたけど見えなかった。
一瞬だったけれど、お尻が見えた。凄く嬉しかった。
でも、見えなかったところがあって、ものすごく残念だった。
あと、ほんの少しで見えそうだったのだ。
このときルルは、”見えそうで見えない”という、なんとももどかしい気持ちでいっぱいになっていた。
なんだか、どうしても、見たくなってしまった。
ルルは自分自身で、なぜそう感じるのかがわからないのに、どうしても見たくなってしまう。
そして思った。妻になれば見ても良いのではないかと。見まくっても良いのではないかと。
※ルルシアが勝手に思っただけです
…………
借りた毛布を腰に巻いて過ごす。
この世界の毛布は俺にはタオルサイズだ。
この格好で過ごすのか……
それにしても、腹の贅肉が少ない。いいな、この体。
全然中年太りが無い。脂肪は動かない部分に溜まりやすい。
あまり体脂肪率が高くなくても、歳をとると、腹のあたりに脂肪がたまってくるものだ。
腹の肉だけではない。肌のしわも少ないし、張りもまあまあある。
見える範囲は、そんなに年取って見えないのだが、老人扱いされるのは、よほど顔が老けてるのだろうか?
白髪は多いが、俺は40の頃から白髪多かったし。
鏡は無いよな……鏡は無い……庶民の家に鏡は無い世界だった。
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ガスパールからは、その仕草はおかしく見えた。
自分の体が珍しいのだろうか?
ガスパールには、その仕草が、ちゃんと人間に化けることができているか確認しているように見える。
やはり、竜が人になった神様なのだろう。
ガスパールはそう思う。
ガスパールは、食事の用意をしながら話をする。
「お待ちしてました。ずいぶん前から」
そう言えば、俺が来ることを知っているようだった。
「俺が何をしに来たのか、心当たりがあるのか?」
「私はずっと竜を待っていました」
「ああ、森には竜が居るんだよな?」
そう答えつつ思う。竜と俺は何か関係があるのか?
そう考えると嫌なことを思いついた。このやたら強そうな体。
増水した川に流されても鼻がツーンとするだけで済む生命力。
もしや……森の竜と戦わされたりするのだろうか?
確か、この世界の竜は、人が攻撃してどうこうなるような大きさでは無かった気がするが。
名無しの老人が、勝手にバトルを恐れているとガスパールが問う。
「あなたは竜ですか?」
「え?」
俺が竜を呼び出して戦うわけじゃ無いのか?
俺が竜? そもそも、俺のどこが竜なのだろうか。
この世界の竜は、俺の世界の竜とは違うが、こういう姿ではないはずだ。
顔はわからないが、体は普通の人間だと思う。まあ、サイズがでかいことを除けば。
「どこから見ても人間じゃないのか?」
「普通の人間ではないようですね」
……ヤバい、俺は人間のつもりでいたが、竜に見えるのかもしれない。
「どこが違うんだ?」
ガスパールは何も言わない。心配になってルルに訊いてみる。
「ルル、俺が竜に見えるのか?」
「私、竜を見たことが無いから」
人間では無いが、何の種族かわからないという意味だろうか?
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本格的な話は、食事の後で良い。
今は濁しておいた方が良いかもしれない。どう返すか少々悩んだのち、ガスパールはこう答える。
「人間の男は、その年で、そんなに元気では居られないのですよ」
「ああ、そういう話か」
名無しの男は、あっさり納得した。
あまり嘘をついているようには見えなかった。
大鎧だとすれば、竜が人に化けた者。
竜だった頃の記憶は無いのか、心当たりは無いようだ。
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一方で、名無しの男は黙り込んで深く考える。
この世界では、男の寿命は極端に短い。まあ、女も、俺の世界みたいに90歳くらいまで生きたりはしないだろうが。
ガスパールは、まだ若く見えるが何歳なのだろう?
あれ? 子供作ると、見た目も老けるんじゃなかったか?
もしかして実年齢は超若いのか?
まあ、とにかく俺は明らかにおかしい。
それは、馬車持ち上げた時も感じたし。
俺の世界の俺は、こんなに丈夫じゃ無い。
それに、俺の世界でも、人間が長寿化したのは比較的最近のことだ。
科学の発達で、体を擦り減らすような仕事が減った。
そして、医療の発達で、病気が治りやすくなった。
すると、見る見るうちに長寿化が進んだ。
俺が子供の頃は定年は55歳だった。だから60歳は引退済みのお年寄りで、実際体にもガタが来ていて、入れ歯とかだったのに、今の60歳は入れ歯って感じではない。
健康で長生きは良いが、俺の時代には、60じゃ年金も、ろくに貰えない。
現役を半分引退しつつも、年金はろくに貰えない過渡期だ。
きっと、俺が65歳の時には70歳まで貰えなくなっているのだ。
目の前にニンジン吊るされて、全力疾走し続ける俺の人生は、これから先もずっと続く。
俺のターンは一生来ない。
1人の人間が生きている間に、余生の区切りがどんどん伸びていく。
僅か、1世代、2世代の間に、人間の寿命が急激に伸びたのだ。
急激な寿命の延びは、社会を疲弊させた。
寿命が20年延びる間に、1世代の間隔を20年延ばせなかった。
寿命は伸ばせても、出産可能な年齢は20年延ばせない。
自然なサイクルではなく、強引に、世代交代のタイミングをずらす必要が出てきてしまった。
つまり、寿命70歳で設計された世の中では、老人は、早めに人生退場する必要がある。
だが、その措置が将来的に必要なことが確定していたとしても、実行できない。
老人を見殺しにはできない。弱いものを優先して守るのが良いことと言う常識があるからだ。
だが、常識は変えることができる。
見殺しにしても仕方が無い状況が1度起きれば、常識は、”将来を担う世代を優先するべきだ”と言う流れに変わる。
だから、老人は、ギリギリまで保護されて、ある時突然見捨てられる。
その境界は、生まれた年。
おそらく俺は、その見殺しの対象だ。俺だけじゃない。俺たちの世代。
生まれた時から……
いや、生まれる以前から確定していたのかもしれない。
世代交代の都合、寿命が延びたら、そのぶん、世代の間隔を空けなければならない。
ところが、人間の寿命は延びたが、生殖可能な期間は伸ばせなかった。
仮に伸ばせたところで、対策は難しい。
何しろ、寿命がどれだけ伸びたか結果がわかるのは、その人たちが子供を作って育て終わった後のことだ。寿命の延びが、あまりにも急激に起こったからだ。60歳がお年寄りだった時代の人の子供世代が90、100まで生きるとは思わないだろう。
第二次世界大戦で多くの人命が失われ、戦争が終わったときに生まれたのが第一次ベビーブーム世代。ある意味、人口補充だ。
第二次世界大戦で敗戦国となることは、日本が、第一次世界大戦で真面目に戦わず、ろくに血を流さずに戦勝国になった時点でほぼ確定していた。
その結果、不利な条件で第二次大戦への特別招待状が届き、当然敗戦国となる。
相手は勝てる状況を作った上で、無理難題をふっかけて開戦させたのだから。
戦争へと誘導して、相手が開戦すると、戦争を始めた罪という存在しない罪を作り出すことができる。
それがA級戦犯。しかも事後法で、不遡及原則に反している。
なので、戦争には勝たなければならない。
そして、日本は参加しないわけにはいかない(国際社会に与える影響が特に大きい国、列強国の1つ)ので、戦争には、まともに参加して、戦勝国側の1国として、被害も利益も分担、分配しなければならない。
まあ、敗戦しても、それなりの強さを見せることはできたので、いきなり滅ぼされたりはしなかった。
そこからの復興は早かったが、戦力は米国に依存している。
武力の後ろ盾の無い国は、少々無茶な要求でも拒絶できない。
フランスも、過去に、米国に武器を依存していた時代、痛い目に遭って、それからは武器の米国依存を抑え、自国や、欧州製を増やしている。
そんなわけで、日本も細々と、武器の国産を続けている。
とは言え、戦後ずっと米国依存の軍事態勢なので、米国との当然貿易戦争は、真面目に戦うことすらできずに敗戦する。それが1980年代。
産業が頭打ちとなり、投資が設備から土地に集中した結果訪れたのがバブルで、金余り状態で起きた現象だ。あれは好景気ではなくチキンレース。
企業の業績が悪いのに株価が上がっていったりするのはバブルで、投資先が無いから起きている現象だ。
バブルは弾け、その後にはより酷い状況が訪れる。そして、負債のババ抜き状態になる。
あのときは、貿易戦争で敗れ、設備投資のに使うはずの金が行先を失い、土地バブルが起きた。
そして、それがはじけた時、長い氷河期に突入した。
その結果第二次ベビーブーム世代の労働需要は消失した。
高度経済成長が、もう少しゆっくり行われれば、発動時期は多少変化したが、結果としてそれが起こることに変化は無い。
ただ、それが起きるタイミングは、俺たちの世代にとっては致命的だった。
国にとっても、非常に不味いタイミングで起きた。
よりによって、人口のボリュームゾーンが社会に出る直前に起きてしまったから。
これは俺たちが不幸になっただけで済む問題では無い。
結果として日本は、時限爆弾とも言える巨大な不良債権を作り出してしまった。
もう少し後だったら、時限爆弾の規模がもう少し小さくできた。
俺は、ここに何かをするために来て、俺の世界に帰る。
だが、俺は帰ったところで年金をもらうまで働き続けなければならず、
年金をもらい始めると、何かが起きて、年金は目減りする。
結局、見捨てられる可能性が高い。
俺は帰っても何も無いし、見捨てられるために帰るようなものだろう。
俺の心の居場所は、こっちにあるのかもしれない。
なんか、自分の世界を思い出すほどに帰りたく無くなる。
……………………
だが、味覚的な居場所はあっちに有るんだよ!!
今まさに、それを再認識していた。
俺のために用意してくれた、御馳走だ。
だけど、野性味と塩味しかない。
”食えるだけで幸せだと思え”くらいの味の芋と、野性味の強い野菜を塩で味付けした汁。
同じく、野性味の強い肉と、唯一まともな、甘くないクッキー的なものは、多分高価なので、大量に食ったら悪いと思う。
でかいスカスカの瓜は、これは日本に有ったら、俺は食うかもしれない。
美味くは無いが、適度なまずさが癖になる。
ひさしぶりに食べると、これはこれで良いかもと思う。
ただ、食べた後、口が渋くなるな……アクが強いのか。
「採ってきたよ」
ルルが追加で瓜を4つも持ってきた。
食わなきゃならないのだろうか? もう口が渋いんだが。




