27-5.樹海観光(3) 山梨名物、吉田うどん
何か食べるなら、今のうちが良いだろう。
そう思い、良さそうな店を探す。
”吉田うどん”と言う看板が目立つ。
”富士吉田”、ここの名物は、うどんだった。
俺は”山梨の麺”と言えば、”ほうとう”だと思っていた。
だが、それは盆地の方の話で、こっちでは違ったようだ。
”ほうとうは”、元々、庶民の味だったと思うのだが、”ほうとう”と書いてるのは、いかにも観光客向けの店が多い。
それと比べて、吉田うどんは、見るからに、地元の普通の店。
こっちの店の方が、本物っぽくないか。
本物……というのは、言い方は悪いが、これが本物の”現地のうどん”。
ほうとうは、名物に仕立て上げられた偽物感があるのだ。
おお! 俺のアンテナに、びりりっと来た。
「ここ、ここ、ここにしよう」
ちょうど人気店らしいところを通ったので、勝手に俺が決めた。
洋子は、なんでこの店を選んだのかと不思議に思う。
「吉田うどん? 名物なの?」
「なんか、本物っぽいから」
「本物?」
「本物の名物」
栫井は本物の名物と言った。
言葉の意味は分かるが、ただのうどん屋に見える。
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入ると、すげー普通のうどん屋だった。
「じゃあ、唯ちゃんはコレ」
うどんと焼き肉の無節操なセットを勝手に指定する。
「おすすめメニューなんですか?」
知らない。はじめて入る店だが、この無節操なメニューが良い。
うどん屋入って、うどん1杯だけ食べると、ダイエット中か、お金ない中高生みたいに見えて寂しい。
とはいえ、ある程度の歳になると、モリモリ食っても良いことが無い。
なので、唯ちゃんがモリモリ食べる役。
「若い子には、うどんだけだと寂しいかなと思って」
「じゃあ、ジン君もそれにすれば?」
ぬう。しくじった。俺も、焼き肉付きだ。
「小泉さんは?」
「私はこれ」
なんか、一人だけ女性っぽいメニューだ。
やせ我慢せずに、肉食えよ、肉!と思ったが、余計なことは言わない。なぜなら俺は紳士だからだ。
どーんと出てきた。これでこんな値段なのか!安ぅ。
ふつうの焼肉定食とうどんのセット。それが、チャーシューメン一杯みたいな価格設定なのだ。
焼き肉は、美味しいけど、定食屋の焼肉定食だった。なので以下略。
うどんは、すごい太麺だが、ほうとうと違って平たくない。
”吉田うどん”。なんか、案山子のうどん屋的な響きだ。
案山子のうどん屋は、埼玉の会社。関東ではメジャーだが、隣接している山梨には無いようだ。
※案山子のうどん屋=山田うどん。首都圏ではメジャーな、うどんチェーン店。
メニューが無節操だが、安心価格のチェーン店で、
もつ煮が食べられるのが魅力(個人の感想です)
ここには吉田うどんがあるから、浸食できないのだろう。
まあ、これと勝負は正直、分が悪い。
”ほうとう”ほど個性的ではない。味的には、こっちのほうが食べやすいかな。
極太うどんはともかくとして、汁が真っ黒。
価格と味のバランス的に、これはリピートしても良い感じだ。
さほど有名では無いが、讃岐うどんに喧嘩売ってるだろ的な、真っ黒な出汁が酷い(誉め言葉)。
ただし、見た目程インパクトのある味ではなく、普通に美味しい。
※ほうとうは、”すいとん”の”うどん”版みたいなものです。
元は庶民の味なのに、再現したらそれなりの価格になりましたという感じのものなので、
リピートして食べたいって感じでも無いように思いました(個人の感想です)
でも、長野(の山梨寄り)に行ったとき、鍋物形式で、鉄鍋で煮込むやつ食べたら、
やたら美味かった。長野は蕎麦よりほうとうだ!!と思いました(個人の感想です)
なるほど、これはうまいかもしれない。
これが、こんな価格で食えるとなると、案山子の侵入が難しいのも納得だ。
※もちろん、店によりますが、価格が安めでうまいです。
樹海に行くときは、是非ともお試しを
富士吉田、都留のあたりに多いです
ただ、既に2時……午後2時、つまり14時。
来るまでに時間を食ってしまった。
このあたりまでくると、富士山がでかい!!
富士山は、けっこう東京都心からでも見えたりするので、首都圏ではメジャーな山だ。
ところが、ここまでくると、とにかくでかい。
ほとんどのタイミングで、霞や雲が出ているが、時折きれいに見えることがある。
3分後には雲に隠れたりするので、本当に運の世界だ。
今の季節は、上のほうだけ白い、富士山の代表的な姿。
8月頃だと、雪が無くて、物足りなかったりする。
実は、富士山は見る方向によって、皆が思うあの形の山に見えなかったりする。
山梨側からだと、だいたい、頂上付近が平らなあの姿で見える。
静岡側からだと、場所によっては頂上付近が平にならなかったりする。
この景色が毎日見られるというのは、凄いことだと思う。
リニア(中央リニア新幹線)ができたら、ここに住んで通勤とかも可能になるのだろうか?
樹海に行くには、富士五湖という湖を超えていく。
河口湖からなので、山中湖は通らないので4つの湖を超える。
3つの湖を超えて、4つめの本栖湖が、目的地って感じか。
富士五胡のうち、山中湖は富士山の東にあり、神奈川から一番近い。
残りの4湖は、北側にある。高速を使うと、北側のルートになるので、山中湖は通らない。
河口湖は、けっこう周囲に人が住んでいる。
普通に周囲に町があって人が住んでるのは、河口湖と山中湖の2つ。
ただし、山中湖は、観光地で、普通に住宅地として栄えているわけではない。
大きな会社の保養所や、大学の施設なんかが多いようだ。
夏に行くと、水温高めで平地っぽいが、山中湖が一番標高が高い。
夏行くと、水温高く……むしろ温い。それが山中湖。
凄く浅い。遠浅で、子どもでもけっこう先まで足が付く。
ただし、少しでも時期外すと、超寒い。それが山中湖。
俺が子供の頃、水遊びしたはずだが、あれはどこだったのだろうか?
大人になってから行ってみても、当時どこで遊んでいたのか、さっぱりわからなくなっていた。
残り3つの湖の周囲には、ほとんど人が住んでいない。
本栖湖は水深100m以上もある深い湖だ。
しかも、いきなり深くなるので、容易に死人が出そうなところだ。
まあ、水温低いし、露骨に無茶な深さなので、あんまり水遊びする人が居ない。
なので、死人の数も控え目だ。でも、それは、単に分母が小さいからだ。
おもしろいのは、この人気の少ない3つの湖は、水面の高さ(標高)が一緒なのだ。
深さは全然違うのに、水面の高さは同じ。
つまり、ほぼ繋がっている。
ところが、互いに分離していて、地上には、間をつなぐ川はない。
地下で繋がっている。
もしかしたら、洞窟みたいなものがあって、本当に繋がっているのかもしれないし、直接つながっているわけでは無いけど、水は容易に浸み込むのかもしれない。
ただ、水面の連動率を考えると、かなりの量の水が、行き来できる気がする。
これだけの水量があるので、浸み込んで少しずつと言う感じでも無いように思うのだ。
富士五湖のいくつか回る。
そして、とりあえず、俺は、店があれば、毎回、信玄餅味のソフトクリームを食う。
単に、そういうルールにしているから。
そもそも、この信玄餅、どのへんが信玄なのかさっぱりわからない。
とはいえ、山梨県は、”武田信玄”と、”ほうとう”くらいしか名物が無い。
あとは、ぶどうと桃、ぶどうに付随してワインくらい。
名前は山梨だが、梨は盛んではない。
なので、名物というと、だいたい信玄餅味だ。
「信玄餅好きなんですか?」
唯が訊く。俺が何度も信玄餅アイスを食べているのを見ているから。
栫井は、こう答える。
「とりあえず、山梨だから信玄餅味かなって思って」
「じゃあ、私も」
「アイス食べるには寒いね」
そう言うと、小泉さん(洋子)と唯ちゃんは、車に逃げ込んだ。
俺には使命がある。謎解説だ。
信玄餅と言うのは、きな粉に黒蜜かけた餅で、アイスの場合、きな粉と黒蜜をアイスにかけたものになる。
べつに、一般家庭でも再現できそうな簡単なものだが、まあ、あまり、メジャーでは無い。
そして、他のソフトクリームより若干高い。
ただ、名物だからと言って、明らかに、ソフトクリームと合わないと思えるようなものでもなんでも入れる風潮がある中、極めてまともだ。
例えば……海鮮系のソフトクリームと比べると、普通に美味いと評価できる。
つまり、俺はこう言っているのだ。
”俺は、こう言うの、嫌いじゃないぜ” キリ
「ジン君、何やってるの?」
「え? 解説」
「解説って?」
「ほら、樹海ファンが増えると嬉しいだろ」
※嬉しいですよね?
「そうなの? 誰と話してたの?」
「うん、ほら、エア旅行番組的な……」
「わかんない」
「何やってたんですか?」
唯ちゃんにまで聞かれて、ちょっと寂しくなった。
俺は樹海に行きたい気持ちに……いや、これから行くから問題無い。
俺は、ついに憧れの樹海に来たのだから!!
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うーん。民家が無くなって、人が減るが……森の規模の割に生き物が少ない。
地図を見ていると”青木ヶ原”の文字が。
俺は富士の樹海と呼んでいるが、青木ヶ原というのが地名らしい。
「おお、これか」
見た目、そんなに特別感はない。
樹海沿いに走る。森の横を通る道。何も無いところには、何も無い。駐車場も無い。
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オーテルの期待が高まる。ついに栫井が、樹海にやって来た。
このときを何十年も待ち続けたのだ。
栫井の神殿は、樹海にある。ここにきたとき、オーテルと話ができるようになる。
ところが、栫井の乗った車は、神殿の場所を通り過ぎた。
『お父さん! 通り過ぎました。お父さんの神殿はこっちです』
※まさかの神殿スルー
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駐車場があるところは整備されていて、散策できる道もある。
車から出て驚く。
「ええ? 寒!」
樹海は標高が高いので、平地よりだいぶ寒い。
さすがにこの季節だと、凍死って感じでは無いが、
こんな気温に対応した服を着てきていない。
普通に観光地だ。
俺は、富士の樹海というのは、こういうのじゃなくて、もっと恐怖を感じそうなものだと思っていた。
「どう?」
なんで、俺に聞く?
なんて答えれば良いのか。
「うーん」
これ、入ったら出られないような森か?
なんか入っても死ななそうだ。
俺は富士の樹海に行っても、死なない気がする。
ただ、死の森だ。大型動物が生きて行くには厳しい。
こりゃ、長期の自給自足は無理だな。
でも、俺は迷って死んだりしないと思う。
こんなの観光レベルだ。
ダメだ俺が死ぬにはもっとすごい森が必要なのだ。
「どう? 樹海の感想は」
想像と違っていた。期待外れだった。
「来なくて良かった。こんなんじゃぜんぜん足りない」
「そういう感想になるの?」
「足りないって」 唯は苦笑した。
唯は、栫井に対して、おとなしくて弱々しいイメージを持っていたが、意外にそうでもないかもしれないと思う。
「うん。なんかもっと、恐怖を感じるような深い森がいいな。
怖くて逃げ帰るくらい。
ここには、それが足りなかった。
観光としては良かったし、参考になったよ」
「そんな森、日本に無いわよ」
そう言って洋子は気付く。日本では無い場所に行く?
「ああ、いや、俺は、もうどこにも行けないから」
「それじゃ、自由を奪ったみたいじゃない」
「俺は自由じゃなくても良いよ」
「なんか引っかかるわね、その言い方」
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妙な船に乗る。
見た目は潜水艦なのに、名前は”潜らん” 潜れよ!! みたいな船だ。
静岡側に抜けると、自衛隊の演習場がある。
山梨側の方が観光地としては楽しめる。
まあ、こんな感じか。
俺的には、樹海が気に入った。
観光地としては。
だが、俺が死ぬには、もっと凄い森が必要だ。
「俺が死ぬには足りない森だ」
「ねえ、その言い方なんとかならない?」
「もう、俺は自由に死ねないから」
「そう、なら良いけど、その言い方もね……」
俺はここで未練が無くなるまで、異世界には行かない。
「もういいよ。帰ろう」
と言っても、もう夕方。
レンタカーはどうせ夜中返せないので、予め2日借りてある。
「まだ帰れるけど。運転しっぱなしで危ないから」
「運転変わろうか?」
「いえ、まだ大丈夫です。でも、家までは、ちょっときついかな」
「やっぱり、日帰りは無理があったみたい」
寄り道しすぎだ。
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プラン変えて、石和のでっかい温泉に。1泊して帰る。
石和というのは、元々温泉の名所だったのが、他の有名な温泉地ほどは有名にならず、普通の市街地に、中途半端に温泉が残った結果、でかい健康センターみたいなのができていて、24時間使える。
風呂入って、仮眠取れる割には安い。
俺はこのところ毎週、泊りで遊び歩いている。
意外に体力的には問題無いのだが。それはそれで、おかしいと思う。
また、樹海の横の道を通る。
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『お父さん! 神殿は、お父さん、神殿はこっちです』
オーテルの言葉は届かない。
※栫井が選ぶ場所なので、栫井の神殿は、観光地みたいな場所にはありません。
石和のでっかい温泉は「薬石の湯 瑰泉」がモデルだったのですが、2023年3月に閉館となってしまいました。読者の皆様には是非とも、あの謎空間の雰囲気を楽しんで欲しかったのですが残念です。
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