40-04.エンバリエがんばる(1)
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翌日は、戦闘がはじまって早々に攻め手のハスクバハル陣営は、予想外の出来事に取り乱していた。
敵の疲弊で昨日の時点で西門は陥落寸前にまで追い込んだはずだった。
昨日は落としきれずに時間切れになったが、ランデルに兵の補充は無い。
多少回復したところで焼け石に水。
陥落は時間の問題。
……と思っていた。
ところが、僅か一夜にして敵が生き返った。
連日の攻撃で、相手の体力と気力を削り、何日もかけてようやくそこまで追い込んだのに、これではこちらの士気に大きな影響が出る。
「何事だ!」
突撃した兵が、押し返される。
橋の上で揉み合って、大量の兵が落ちる。
もはや虫の息であった重装兵がやたら元気になっている。
完全に想定外の状況だ。
「何があった? なんで元気になってるんだ!!!」
今までの疲弊は策略だったのか?
日々消耗させ、遂に明日は押しきれるかと期待していたのにも関わらず、この状況には士気が下がる。
戦力差が歴然であり、勝てるのは確定だった。
今まで、被害を度外視して、重装兵を疲弊させることに注力してきたのだ。
今日こそは突破できる可能性が高いと、すぐ後ろで、突入組が待機している。
穴が開くのは時間の問題ということで、陣地内に突入する兵を待たせてあるのだ。
ところが、これでは数日前レベル。また地獄の攻めを数日間繰り返さないといけない。
重装兵を撃破するまでという制限があったから、それを目指して戦ってきた。
それが、いきなり復活してしまうと、こちらの士気の低下は激しい。
出鼻をくじかれた第一波は、明らかに精彩を欠く。
「下がらせろ、交代だ!」
敵の予想外の反抗で、予定外の人員交代が必要な状況に陥る。
正直意味が分からない。まだ交代準備ができていない。
そう思ったときに、高台に今まで見なかった人物がいるのを発見した。
目立つ鎧をまとった女だ。
敵が急に息を吹き返した時点でおかしいとは思っていたが、恐れていた事態が発生してしまった可能性が高い。
「おい、あの鎧、あいつ、リーディアじゃねーか?」
「なんでトリドールが」
参戦の可能性が低いと思われていたトリドールが、敵方の勢力としてこの戦いに参戦した可能性が出てきた。
※トリドール = 自称おっさんの妻の人たち
それが事実だとすると、今までの計画が根底から覆される。
いや、元々、その可能性は考えられていた。参戦の可能性自体はあった。
だが、トリドールの参戦前に敵を叩き潰すことを前提に計画を実行していた。
その作戦が失敗した場合、圧倒的な兵力の優位が勝ちに繋がらない可能性が出てくる。
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重装兵たちの裏方では、ハスクバハル側から見える以上に余力を取り戻していた。
※たいした余力じゃないのですが、エンバリエさんがハッスルしてるせいです。
「わしは不慣れで、一度に長く戦うことはできんかもしれぬ。
だから、最初から入って、少ししたら退く。それを繰り返せば、結果として長く戦える」
「昨晩打ち合わせで決めたとおりに動いてください」
「予定通り、我らが先に出ます。エンバリエ様は、交代として入ってください」
「まずは、交代の様子を見て覚えてください」
「昨日何度も練習した」
「無理です、本番は敵が邪魔してくるんです!!!」
戦闘開始前の心を休めたいタイミングで、エンバリエが無理なことを言う。
昨日の時点であれば、質がどうこう言う余裕が無く、とにかく交代要員が欲しかったが、
今はリーディアが持ってきた薬の効果で、万全に近い状態にある。一時はローテーションから外れていたメリルも、なんとか復帰できている。
この状況で、実戦での動きを見たことも無いような素人を入れるメリットが無い。
しかも、元騎士隊メンバーではなく、ランデルの重鎮だ。
元騎士隊が全員健在でエンバリエが死んだらどう思われるか。
とにかくやりにくい。
なのにリーディアがなぜか急に重装兵に組み込んだのだ。
歳の割に動けることは認めるが、無茶苦茶だ。
もちろん、ローテーションの要員が1人でも増えれば、休息時間が増えるので歓迎でもある。
だが、一度に出る人数に制限がある以上、誰をどの順で出すかは非常に重要な問題だ。
重装兵をまとめているビオネッタにとっては、むしろ余計な悩みが増えたようにも感じていた。
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その頃、南側の攻防戦では、西門のように明らかな変化には気づいていなかった。
ハスクバハル陣地では昨晩の時点で、西門と南どちらが先に落ちるか競うような話をしていた。
いよいよランデル陥落が迫っている。
ランデルに増援は無い。今いる兵を削っていけば、増強できないのだ。
それに対してハスクバハル側は、まだ十分な余力がある。
西門が陥落しそうなこのタイミングで南からの攻撃も強めていた。
南からの攻撃を続ければ、西門に兵力を集中できないのだ。
仮に、南側を突破できなかったとしても、十分価値がある。
物見櫓の建設に成功し、ランデル陣地内の謎の支援部隊の出現も見えやすくなり、かなり追い詰めているという実感があった。
「西門より前にこっちを突破できそうですね」
「カタイヤの屋敷は、西門よりこちらの方が近いというからな。
突破できれば先に終わらせることができるかもしれぬ」
(フラグ)
ところが、まだハスクバハルの知らない情報があった。
遠く離れたトート森では、カリオ神殿跡地に神殿ができたのだ。
神殿ができ、トルテラがこちらに向かってきていることが伝わると、
国境付近で待機していたスルベチーオレが動き出す。
「おい、今のうちに参戦しないと活躍のタイミングを逃す」
国境の防衛という名目で近くで待機していた軍勢の一部が進軍をはじめる。
ベリクハスタの正規軍は動けないが、義勇兵は動くことができる。
南側の防衛にあたっていたランデル兵たちは、櫓から丸見えで有効な陽動作戦が行えなくなっていた。
隠れて移動して展開することはできるが、短い時間で動きを見破られてしまう。
あの櫓ができてから、厳しくなった。
敵が陽動に乗ってこない。櫓から見える情報で、陽動が成功しにくいのだ。
これでは、兵を休ませる時間が取れない。
人数の少ないこちらが不利だ。
戦闘力の低いジェローネの部隊は、櫓ができてから、ほとんど身動き取れない。
真正面から戦って戦果を挙げられるような部隊では無いのだ。
「西門より先に、こっちが落ちそうだ。
20日まであと僅かなのに」
怪我人が減って、その分元気な兵は増えた。
だが、いつまでも耐えるのは難しい。
ジェローネの隊の兵たちは不安になる。
「本当に(トルテラは)来るのでしょうか?」
「わからんが、20日経つ前にここが落ちたら、結果がわからん」
「まさか来ないなんてことは……」
「そんな心配より、まずは20日間耐えることだ。
こちらの兵の疲弊っぷりは敵も知っている。
連日の攻撃で、堀もだいぶ埋まっている。
私が敵なら、そろそろ仕掛ける」
カヤハルが健闘しており、すぐに落ちる気配は無いが、
また敵の増援があると、今度はジェローネの部隊では防ぐのは難しい。
ジェローネの部隊は工兵が多く、長槍でしか戦果は期待できない。
戦力になるのは、柵の内側から敵を叩くときだけで、敵が柵の内側に
入ってきたら、自衛もままならない。
そして、そろそろ敵が侵入してくる可能性が高い。
ジェローネは、ラハイテス配下の兵も南側に集めようかと考える。
もはや遊撃部隊が行動できる場面は少ない。
であれば、護衛として戦ってくれれば、ジェローネの部隊も、もう少し活躍しやすい。
※敵は北にラハイテスを縛り付けておくために攻撃してきているので、
実際は手の空いている兵は居ないです。
そのとき戦場が動いた。
「東から何かが来ます」
「あれは、ベリクハスタの援軍?
今から参戦? どういうことだ?」
だが、様子が変だ。ジェローネには正規軍には見えない。
「正規軍ではないのか?」
「ハスクバハルと全面戦争は避けたいということですね」
意味はわかる。
ハスクバハルと全面戦争になるのを避けて、義勇軍の形をとっているようだ。
一部正規兵も混ざっているようだが。
50人といったところだろうか。
まともに戦うには不足だが、奇襲は少々の人数の差を簡単にひっくり返すことができる。
練度は低く強くもないが、奇襲を受けた敵は、あっというまに劣勢に立たされる。
ジェローネにカヤハルから指示が出る。
「ジェローネ、半数を連れて追撃できるか」
ジェローネ本人には、カヤハルほどの突破力は無いが、カヤハルがこの場を離れることはできない。
そうなると、今動けるのは自分しかいない。
ジェローネは、少ない兵を率いて陣地の外に出るにはあまり向いていないと思っている。
さらにはジェローネはカヤハルの配下でもないのだが、最善を尽くす。
今、このタイミングであれば、この人数でも相手にダメージを与えることができる。
「半数、付いてこい。武器は遊撃用のものを持て」
援軍はありがたいが、出てくることを先に教えてくれたら挟撃できたのにと思う。
とは言え、先に情報があっても実際に最適のタイミングで動けるとは限らないのだが。
そもそも、撃って出る兵は、今までずっと守備で戦っていた兵たちだ。
この短時間で動けるほどの体力が残っていない。
やはり思うほどの移動速度は稼げず、十分な追撃はできなかった。
スルベチーオレは、ランデル陣地までやってくると、カヤハルと話をする。
「クルタのスルベチーオレだ。義勇兵を連れ、助太刀いたす」
「クルタのスルベチーオレどのか。助太刀心より感謝する」
「これより、敵を追ってさらに侵攻する」
たったそれだけの、言葉を交わすと、敵が退いて行った西門方向へと進んでいく。
ジェローネはそんな話は聞いていないが、以前から参戦の話はあったのだろうと考える。
このタイミングになったのは、何かしらの進展があった……あるいは、リーディアが来たからか。
とりあえず、ジェローネが散々苦労していた、物見櫓が破壊された。
それだけで、だいぶ助かる。
スルベチーオレの部隊は、一時は櫓を占拠したが、選挙した状態を維持できないと思うと焼き払った。
あの邪魔な櫓が無くなったことで、ジェローネはだいぶ守りやすくなる。義勇軍に感謝する。
だが、そのタイミングで伝令が来る。
「こっちを攻めていた軍が、西門に集結しています。
至急救援に向かってください」
義勇兵の参戦で南側から敵を排除することに成功したが、それはそれで良くないこともある。
一気に追い払ってしまったため、敵の攻撃が西門に集中してしまったのだ。
「西門に敵が集中してしまった。これから西門へ向かう」
ジェローネの率いる隊は西門方面に向かって移動を開始するが、砦の外で戦う準備をろくにしていない状態で出てきたので武装も貧弱。
さらには突如、ジェローネが指揮することになった都合、まったく不慣れという、まともに戦えるとは言い難い状態だった。
そして、数的にも圧倒的に不利。まともに真正面からやりあえるような状態ではない。
ランデルは兵を失うと急速に不利になることを考えると、作戦の幅はほぼ限られてしまう。
ここから見ても明らかに、西門付近に敵が集中している。
ここからでは見えないが、西門の負担は大きなものになってるだろう。
ジェローネは、部隊を率いて西門方面に接近するが、敵が固まっていて、進めない。
あの数に、中途半端に仕掛けて反撃されたらこちらは全滅だ。
ここでスルベチーオレの義勇軍と合流する。
スルベチーオレが攻撃したがっているのを、副官が止めているところだった。
「思ったより敵が固い。どうにかならんのか」
「スルベチーオレ様。この規模で突っ込むのは無謀です。
我らがここに居るだけで、ハスクバハルは戦いにくくなるのです」
ジェローネは思う。
スルベチーオレは素人。だが、副官が居るから戦えている。
自身の力で戦局を左右するような兵力は無い。
であれば、せめて敵が動きにくくなるような場所に陣取る。
下手に動いて無駄に損害を出すことは避けたい。
今できるのは、西門に集中してしまった敵の目を引き付けることくらいだ。




