40-03.リーディアとジェローネ
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※作中時間が前後しますが、リナさんとラハイテスさんが、約束の品の話をしている頃です。
ジェローネがそろそろ寝ようかと思った頃、リーディアが訪ねてきた。
少々意外だった。
リーディアがランデルに来ていることは知っていたが、この時間まで何もなかったので、こんな時間になって訪ねてくるとは思っていなかった。
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一方のリーディアにとっては、今回ランデルに来た元の理由は、ジェローネと話すことだった。
元の目的はジェローネと話をすることだったのに、その前に一通り回ってから来たので、だいぶ遅い時間になってしまった。
連日の戦闘で疲弊しているところに、この時間に訪れるのはさすがに気が引ける部分もある。
「ジェローネ、少し良いか?」
話しかけられたジェローネは、何の用だろうかと考えつつ答える。
「(リーディアが)来ていることは知っていたが、何か用か?」
「ジェローネ、実は、今回ここに来たのは君に用があってのことだ」
「……私に?」
リーディアがランデルに来た理由ならいくつか思い当たるが、
主な理由がジェローネと話をすることだと聞いても、ピンと来なかった。
ジェローネにはあまり思い当たる節はない。
リーディアとは、そこそこ長い付き合いがあったが、しばらく前から、挨拶以上の会話はない。
今となっては、特別親しい間柄ではないという認識だ。
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もちろんリーディアもジェローネに思い当たるものがなくて当然だと思っていた。
今さらの話だ。
「今さらだが、受勲のときの話だ」
ジェローネは無言だった。
リーディアは話が通じていないかもしれないと思いつつ言葉を追加する。
「巨人退治の……」
「ああ。それはわかる。
勲章を貰う機会など滅多に無いからな」
ジェローネは意味がわからず無言だったわけではなく、リーディアが今さら何を言い出すのか待っているだけだと判断する。
「そうか。私は受勲に値する働きをしたと思っている。
ジェローネも同様に」
…………
ジェローネは相変わらず反応しない。
リーディアは反応を待たずに話を続ける。
「ジェローネがあそこで持ちこたえていなければ、
防衛戦はもっとずっと後ろに追いやられていた。
それで要塞が落ちるとは思わぬが、戦いはもっと無様なものになっただろう」
ジェローネは少々混乱していた。
本当にあのときの話をしている。
内容自体は正しいと思う。
なぜ今そんな話をするのかはわからないが。
ジェローネは、あのときのことを再度思い返す。
あの戦況を考えれば、リーディアの言う通りではある。
ジェローネもそう思っている。
戦闘記録にもそう書かれた。
戦闘記録は少々ねじ曲げて記載されることも多いが、あのときは、
ジェローネが不満に思うようなことは書かれていなかった。
そもそも、あの場に他の指揮官はいなかったので、手柄の横取りもされなかったのだ。
仮に誰も信じてくれなかったことに対して、リーディアが『私だけは信じている』と言うのであれば、状況と合わせて理解できるのだが、戦闘記録にも残っていることに対して、わざわざそれを言いに来るのは不自然に思える。
ジェローネは、意図がわからなかった。
「それを言いに来たのか?」
「ああ」
リーディアは肯定したが、それを聞いても、なぜリーディアが来たのかよくわからない。
「それ以外の用事は?」
「いや、特に無い。……励ましの言葉でも欲しかったか?」
本当に、言いたかったのはこれだったようだ。
今の戦況は厳しいが、リーディアに励ましの言葉を期待するわけもないのでこう答える。
もちろん、意図がわからないという意味を込めて。
「今聞く話ではないと思っただけだ」
「うむ。私の都合だ」
ジェローネは少し考えるが、結局、何がしたかったのかわからない。
普通の女であれば、受勲のとき不快感を与えたかもしれないと考えて、
ずっと心の奥に引っ掛かっていたりするのるかもしれないが、
ジェローネの知る限り、リーディアは、あまりそういうのを気にするタイプではない。
たぶん、リーディアはそんな些細なことは覚えていないだろうと思いつつ、答える。
他に思い当たることがなかったからだ。
「私の働きが受勲に値しないと思ったわけではなかったということは知っている」
「そうか。それなら不要だったな」
「本当に、その話をしに来たのか?」
「ああ。不要だったようだが」
本当に、それが用事だったようだ。
そんなわけ無いと思うが、本人がそう言っている。
「聞いて良いか?」
「ああ、もちろん」
「なぜ今なのだ?」
まあ、生きているうちにということで今なのはそうだろうが、もっと前に言うこともできたはずだ。
今まで言わなかった理由が何なのか。
「なるほど。
確かに、急にこんな話をされても困惑するか。
キャロが受勲の話をしたとき、誤解するような伝え方をしていたことを知った」
今さら知ったということだろうか?
まあ、このタイミングで来たということはそうなのだろう。
この女がウジウジといつか言おうと悩んでいたなどということは考えられない。
言いたいことはすぐに言う。そういう女だということはよく知っている。
「あのとき不愉快に思ったのは事実だ」
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「ああ、すまなかった。君の活躍を軽視したわけではないのだ」
あのときということは、その後なにかがあったのだろうか?
「今は不快には思っていないということか」
ジェローネはそれほど執念深くはない。
時の流れと共に水に流してくれたということだろうか。
「あとから気付いた。
リーディアは、巨人を倒したわけでもないのに、碧薔薇章は嫌だったのだろう」
リーディアは納得した。ジェローネは、あのときリーディアが何を考えたのかをよく理解してくれていたのだ。
「ああ。私は巨人を倒せないだけでなく、助けられた」
理由はジェローネにも想像できる。
ジェローネも、トルテラの強さを見誤っていた。
なので、リーディアが何を考えたのかはあとになって理解できた。
それより知りたいことがある。
「それより、来るのか?」
トルテラのことだ。
リーディアおそらく来るとは思っている。だが、来るとは言えなかった。
他の相手に対してなら、来ると答えたかもしれない。
今いい加減なことを言えば、せっかく話をしに来た意味が無くなってしまうように思えたからだ。
「私はここで待つつもりだ」
※この頃、エスティア達には神殿が建ったことが知らされていますが、
リーディアはまだ知らないのです。
それを聞いたジェローネは、来そうな予兆が無いということか、それとも来るとわかっているから待つのか
どちらの意味だろうかと考える。
「そうか。滞在するのはやめた方が良いだろう。
もうおちるのは時間の問題だ。」
「そのようだな。だが、私はここで待とうと思う」
「君らしいと思う。元部下を見守りたいのだろ」
「人死にを好む神ではない」
一見話が繋がっていないようにも見えるが、意味はわかる。
見殺しにするような神様ではないと言っているのだ。
「それは知っている」
とは言え、この状況でも現れないことを考えると、見殺しにしたくないと思っていたとしても、ここに来ることができない状況に陥っているのではないかと思える。
「君がこのような場所で戦うことになる原因を作ったのには私にも一因があると思う」
「ああ。影響は大きいと思う」
実際にそう思うのでそう答えた。
「許してくれとは言わないが、責任は私にもあると思っている」
「だから残るのか?」
「私はここで何かが起きると思っている」
「そうか……まあ良いだろう」
「なんだ?」
リーディアがここに残る理由の中には自分に対する思いも少しはあるのだろうと思った。
まあ、はっきりと口にすることはないだろうが。
ここで話を終わらせても良いが、リーディアは責任を感じているようなので、こう答える。
「そうだな。さっきの酒がもっと飲みたい。
もう少し味がわかるくらいの量があれば」
まあ、死なずにやり過ごそうくらいの意味合いだ。
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さっきの酒というのは、リーディアが持ち込んだバジーシュ酒のことだ。
ジェローネは、さほど酒の味には興味がないと思っていた。
昔2人で酒を飲む機会はあったが、ジェローネは定番の物を飲むだけで、
美味いものを探し求めているそぶりは無かった。
リーディアも同じだ。
定番の物をいくつか置いていた程度で、味よりも入手しやすいものを選ぶことが多かった。
リーディアはそもそも、味の良し悪しは正直よくわかっていなかった。
偶然手に入れたあのバジーシュはリーディアも祝いの席で飲んだ程度で、
個人用に確保したものは、まだ開けていない。
ちょうど良い機会だ。
「ああ。私物がある。まだ、開けていないものがあるから2人で飲もう」
ジェローネは、リーディアなら既に持っている可能性もあると思ったが、
必ずしも持っているとは思わなかった。
「持っているのか」
「産地から直接入手できた」
その話は有名なので、当然ジェローネも知っていた。
リーディアが既に持っているなら、それを飲みながら話をするのも良いと思う。
だが、別のものが頭に浮かぶ。
バジーシュが無ければ、ますます欲しくなるのに、有るとわかると、他に欲しいものが無いかを一瞬考えてしまった。そして、欲しいものに、心当たりがあったのだ。
だが、本当にそれを口にしてよいものかという思いも同時にある。
「バジーシュには心引かれるが、いや、難しいか」
リーディアは、何か言い出しにくいことがあるのだろうと考える。
「何かあるなら言ってくれ、用意できるものならなるべく努力する」
「そうか。難しいかもしれないが、トルテラ様が戻ってきたらの話になるが、」
トルテラの名前が出た。
「どうした?」
「尻尾を」
わかった。トルテラが消える前、よくやっていた。
絶対に躱せる上級の大戦者にだけ使える大技。
「ああ。対戦したいのか」
リーディアは、ジェローネが決闘で尻尾を解禁してほしいと言ったのかと思った。
ジェローネは、ちょっと言い難かったのだが、そっちに話が行くとは思わなかった。
対戦させられても困る。
「いや、対戦ではない。触ってみたい」
「ああ、そっちだったか」
リーディアはひとまずそう答えたが、よく考えると、ジェローネはトルテラに尻尾を使わせるほど強くはないし、以前、自由に決闘(という名のお遊び)を申し込むことができた頃にも、挑んでいるのを見たことがない。
尻尾は、宿舎のときに兵達が散々触っていたはずだ。あの時触っていないのだろうか?
「触ったことは?」
「無い」
それを聞いて、なんとなく理由を察した。
リーディアとの関係が気まずかったせいで、
せっかく宿舎にいたのに遠くから見守ることしかできなかったのだ。
「そうだったのか」
ジェローネは騎士隊メンバーの影響もあって機会を逃してしまった。
こんな戦いに参加するなら触っておけばよかったと思っていた。
リーディアの言葉を聞いて、話す機会を作れば簡単に解決する問題だったように思えたのだ。
トルテラが帰ってくるとは限らない。今だから言える。
「無理にとは言わないが、トルテラ様が戻ってくるなら、尻尾が良い」
「尻尾か」
「やはり難しいか」
リーディアの表情が変わる。少し元気になったようにも見えるが、機嫌を損ねた可能性もある。
「つまり、この戦いが終わったら、トルテラの尻尾を触るというのだな」
「ああ。だが難しいなら……」
リーディアは突如笑顔でこう言う。
「それは良い」
ジェローネは知っている。この表情は、めんどうなやつだ。
「なんだその反応は」
「ああ。この戦いが終わったら何々するんだと言うとフラグが立つそうだ。
ジンクスみたいなものだ。」
「フラグが立つと?」
「戻ってくる」
※死亡フラグっぽいですよね?
笑顔の理由がわかった。だが、ジンクスと言った。
ジェローネは心配になる。
「ジンクス? 悪い意味なのか?」
それに対してリーディアは答える。
「戻ってきたら、機会を用意しよう」
ジンクスの件はごまかされた。
少々気になるが、リーディアは喜んで知人を死に追いやるようなことはしない。
「良いのか?」
「構わんだろう」
返事が軽すぎるように思える。もしかしたら空手形かもしれない。
ジェローネはそう考えた。
「話はそれだけだ」
「ああ」
「楽しみにしておけ」
楽しみにしておけと言った。空手形ではないということか。
リーディアは約束は守る。
リーディアは、本当に戻ってくると思っているのだろうか?
少し気になる。
「勝手に約束して大丈夫なのか?」
「勝手に居なくなったせいで、こうなったのだ。
それくらいのことは望んでもかまわないだろう。
減るものではない。まあ、触られることはあまり好まないとは思うが。
それでは、私はこれで。体をよく休めてくれ」
リーディアは話が終わると、さっさと戻っていった。
ジェローネは少し考え事をする。
触られることを好まないことを知っているのに、本人の意思を無視して約束した。
まるで自分の所有物のような扱いだ。
だが、リーディアはトルテラが帰ってくると考えているように思えた。
「帰ってきそうだな」
独り言だ。
今までかなり辛い戦いを生き残ってきたのだ。ここで死んだら今までの苦労が水の泡だ。
あと数日耐えればトルテラが戻ってくる。
極度の疲労で食欲も無いが、無理やりにでも食べておく。
……が、不味い。
「冷えたらますます食べづらくなった。暖めなおすか」




