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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
40章.戻ってきたおっさん

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40-05.エンバリエがんばる(2)

南側を攻めていた敵を退け、ジェローネがだいぶ西門寄りまで移動してきた頃、西門ではまだその影響は出ておらず、この日から重装兵として投入されたエンバリエが奮戦中であった。


「本当に戦えるのか!」


練習風景を見ていてある程度行けそうなことはわかっていたが、

エンバリエは本当に実戦で戦力になっていた。


ただし、まだ暴れ足りないうちにローテーションで下げられて、本人は大変ご立腹ではあったが。


「なんじゃ! せっかく調子が出てきたところで無理やり下げるとは何事か!」


エンバリエは、久しぶりの実戦で高揚しまくっていた。


「エンバリエ様、まだまだ出番はあります。体力は温存してください」


エンバリエも、本当は理解していた。いきなり飛ばしすぎて、スタミナが削れまくっていた。

観戦しつつ息を整えようと思うがスワレンは奥で休めと言う。


「エンバリエ様、素晴らしい活躍でした。ここは危険ですから、奥で休んでください」


だが、エンバリエは引き下がらない。


「いや、戦い方をよく見ておきたい」


エンバリエの言うこともわかるのだが、ここは時々矢が届くことがある。

スワレンが守っているとはいえ、敵兵の侵入もある。


重装兵には、重装兵としての責務を全力で果たしてほしいのだ。

ローテーションに合わせて、次の出番でより元気な状態で挑むためにも、

休んでほしい。


「その分の力を蓄えてください。午後になれば、皆体力が足りなくなりますから」


エンバリエは、自分にたてつく女に少し不満を持つが、現役を退いて長い自分の体力がどこまで持つかはわからないというのも実感としてあったので、従うことにする。


「わかった。ただし、わしの出番を長めにしろ」


「わかりました。頼りにしてますよ」


エンバリエは、やはりこのスワレンという女は好かないと思いつつ、休息スペースに移る。


それにしても、妙な疲れかたをすると思う。


普通、打撃は腕だけでなく体重をうまく使うことで行う。

素人ほど腰が入らない。

ところが、この重装というのは可動範囲が狭く、腕の力で武器を振る。

打撃で敵を倒すのではない。

動いていると敵の攻撃が逸れやすく、動いている限りはピンポイントで弱点を狙うような攻撃は当たらない。ほぼ、自衛のための動作に近い。


重装は、ほぼ無敵の防御力を持つが、普通に攻撃しても攻撃が中の人間に直接届かないというだけで、弱点自体は存在する。


そして、実際の攻撃は陣地内からの長槍がメインとなる。

エンバリエは、敵が目の前にいると自分で倒したい。なのに、腕の可動域は制限され、その上、散々殴られる。

一歩前進するにも重労働。そして、とにかく息苦しい。

だが、敵にいくら殴られても致命傷にならないあたりは気に入ってもいた。


「なあ、お前らも、そう思わぬか?

 あれだけ寄ってたかって、わし一人倒せぬとは気分良いわ」


元騎士隊のメンバーは、はじめの頃はそう思うこともあったが、続けていると殴られまくるストレスの方が強い。

なので形だけ同意する。


「わずかな練習であれだけ戦えるのは立派です。敵も驚いたでしょう」


「おお、そう思うか?

 なんだ、連合から来た連中は田舎者と馬鹿にしておるかと思ったが、

 なかなか見どころあるではないか。わははは。

 それでこそ命をかける価値があるというものよ」


共に命がけで戦う意思は嘘ではないのだ。

元騎士隊のメンバーは、この言葉を聞いて、エンバリエに対する評価が一気に激変した。


そのとき、エンバリエが凄くイイ顔をする。


元騎士隊のメンバーは心強く思う。


※なんで、イイ顔で心強いと思うのでしょうね?


……………………

……………………


雲行きが怪しくなってきたのは午後になってからだった。


午前中は明らかに敵の士気が低かったが、午後になると敵の重圧が増してきた。

「今朝と様子が変わってきたな」


また被害軽視のゴリ押しが来るかもしれない。

押しが強いと、ローテーションもままならなくなる。

そうなれば、短期間で消耗してしまう。


怖いのはダメージ、疲労の蓄積だ。


「敵はローテーションを狙って入ってくる。押し込め、槍兵!」

「おお!!」


この一瞬を狙って敵がなだれ込んできたところをスワレンがあっさり切り伏せる。

壁に隠れながら攻撃できるので有利ではあるが、この場所に倒れられると邪魔になる。

敵に侵入が止むと、追い立てて砦の外に押し出す。


そこにリーディアがやってくる。


「援軍が到着した。南が優勢になったが、今度は南を攻めていた敵がここに集まっている」


「援軍?」


ランデルに援軍が来るとは想定外だった。


だが、次の言葉を聞いて納得する。


「ベリクハスタの義勇兵だ。規模は小さい」


一気に戦局を変えるほどの援軍を想像したが、そんなことは無かった。

小規模の援軍は想定外とまでは行かない。


ベリクハスタは国境に兵を集めていた。

距離的には、来ようと思えば来ることができる。


だが、兵を集めるだけで参戦しないのも普通。参戦すれば全面戦争になる。

ベリクハスタも全面戦争を望むわけが無いので、まともに参戦するとも思えない。


だから、実際に援軍が来るとしても、国境に集まった本体では無く、

正規軍では無い別の集団であれば、そういうこともあるかもしれない。

むしろ納得できる。

事前に一切話を聞いていなかったので、理解しづらかっただけだ。


ただし、問題もある。

ランデル全体で言えば有利になったかもしれないが、西門に限るとむしろ厳しくなった。


「エンバリエはどうだ?」


「今戦っています。一番左の」


今出ている重装兵の一番左。腕の可動域で苦戦している感じはあるものの、

動きは悪くない。あの僅かな時間の練習で、これだけ動けるのなら凄い。

引退したとはいえ、昔恐れられた猛将だけのことはある。


「うむ。動きは悪くないな」


持久力もなかなかのものだ。

訓練を続けていたわけでもないという割に、朝から戦い続けてこれだけ動けるのは驚異的とも思える。


とはいえ、敵が集まりすぎた。これでは、重装兵の消耗が激しく、

また昨日のような状況になりかねない。


リーディアは急ぎ、ランデル陣地外に陣取るジェローネのところに行く。

普通に敵に近付いたところ、弓による攻撃を受けて、兵を待機させ、ジェローネが敵の様子をうかがっている。

この行動は妙に思えるが、このとき、リーディアはジェローネが矢に反応する姿を見る。


ジェローネが矢を落とすという話は聞いたが、本当に落とすとはあまり信じていなかった。


「ジェローネ」

「リーディア……、いやリーディア様か」


「様はいらない」

「上官が様付けする相手を呼び捨てにするというのは、組織のためにならん」


ダルガンイストに居た頃ならそうだが、リーディアは既にダルガンイストの軍人でも、ランデルの軍人でもない。

だからかまわないだろうと思っていたが、確かに、リーディアに対して様付けする人物は存在する。


「ふむ。確かにそうかもしれん」


「それより要件は何でしょう?」


わざとよそよそしい話し方をするので、リーディアはイラっとする。

それはそうと、矢を落とす話だ。ジェローネが矢を落とすという話は聞いていたが、

確かに自分から矢に反応しているように見える。


この距離であれば、大きめの盾を持っていれば、矢はさほど脅威ではない。

突撃時に一斉に撃たれたら被害は出るが、矢に限りがある以上、そんなに無駄打ちしてこない。

とはいえ、リーディアにはジェローネが矢に反応しているように見えた。


「ジェローネ、矢が見えているのか?」


「ああ、矢の話か。正直自分でもよくわからない。

 防ぐことはできる。見えている気はしないのだが」


これはトルテラの能力に見える。

どうなっている? ルルと同じ能力だ。妻の中にはそのような能力を得る者もいるが、

その他の人物、特にトルテラと親密な関係にある者以外に能力が発言する可能性は低い。

となると、ジェローネにも特別な何かがある可能性が高い。


今回リーディアがここに来た理由もジェローネに会うためであり、もしかしたら、この戦いの重要人物なのではないかと思う。


何も言わないリーディアに、ジェローネが言葉を発する。


「矢が見えているかどうか、それを聞きに来たのですか?」


その通りだ。今重要なのは、その話ではない。

リーディアは思考を中断し、用件を伝える。


「西門に敵が集中しすぎている。

 君の隊で、敵を散らしてほしい」


そんなことを言われても、それができないからここで敵の動きを封じているのだ。

リーディアはそれを理解しているはずなのに、なぜそんなことを言うのかと不信感を持つ。


「これだけの兵力差があって、私はこの隊の指揮に慣れていない。今の練度では無理だろう」


それは尤もな話だ。リーディアにも理解できる。


「大きく迂回して、西門攻めの本体を叩くのだ」


この言葉を聞いて、ジェローネは不信感を抱く。

もちろんジェローネもそれは検討した。


こちらは拠点防御の兵から急編成した歩兵。しかも、既にかなり疲弊している。


軽装の騎兵にでも足止めされたら簡単に挟み撃ちに遭う。

素直にそれを話す。


「挟み撃ちの危険もある。こちらの損害が増えると思うが」


「つついて逃げろ。また、南側に敵をおびき寄せる。

 義勇兵に一度退いてもらい、挟み撃ちにすればよい」


ジェローネも、もちろん、義勇兵との挟み撃ちも考えはした。

だが、部隊の練度が圧倒的に不足している。

練度が高くても実戦ではできないのが普通。そう考えれば、無謀であろう。


ジェローネの率いる部隊は、一時的にジェローネの指揮下に入っているだけであり、

臨時の指揮官に数で揃えた兵が付いているだけ。

組織的な行動がどれだけとれるかというと、ほとんど期待できない。

さらには、合同演習もしたことのない、ほとんど知らない援軍と協力しての作戦になる。


普通に考えて、上手くいく可能性は非常に低い。

疲労の蓄積が命取りになるような戦場で、無駄に走り回るのは下策。


とはいえ、他に打開策も無い。

損害を出さずに敵の一部を再度南側におびき寄せるだけの作戦と考える。


スルベチーオレと、戦闘指揮をしているバームエを呼び、軽く作戦の内容を確認する。


スルベチーオレは、こんな場所で待機させられるのは不服だったので、その計画に乗る。


「伏兵の役は引き受けましょう」


事実上の指揮官であるバームエは何も言わなかったが、

まとまった数の相手と、まともに戦闘をすることはできない。

この規模の援軍ができることと言えば、せいぜい、敵の行動の邪魔になることくらいなので、

敵の注意を逸らす程度の効果があれば良いと考えていた。


……………………

……………………


一方、その頃、ハスクバハル側では、ランデル陣地の南を攻めていたビリジオの隊は、義勇兵の奇襲で大木は被害を受けたため、陣地内に戻り、被害状況の確認と応急処置を進めていた。


カヤハルと正面からやりあっていたのがビリジオの隊だったが、

全力でカヤハルと競っているところで、横から奇襲を受けたのだ。

これは回避が難しかった。


この話を聞いた総大将ロフメイヤは頭を悩ませていた。


勝って当たり前の相手に、何度も痛い目に遭わされているのだ。


その中で、順調に敵を削ることに成功していたビリジオが大打撃を受けて戻ってきた。

「このタイミングに援軍だと? なぜ今になって」

今頃になって援軍が現れたということは、周辺国が次々とランデル側の陣営で参戦する可能性が高くなったことを意味する。

ハスクバハルがランデルを落とせないと判断すれば、次々に参戦する可能性が高い。


普通に考えたら、ハスクバハルに歯向かおうとは思わないはずだが、北ハスクバハルが派兵拒否、ベリクハスタからと思われる義勇兵の出現。そして、トリドールの出現……

確実にハスクバハルが不利になる条件が積み重なっている。


流れを変える必要がある。

ロフメイヤは、即、次の指示を出す。


敵に休む暇を与えてはならない。


「ファーミスに伝えろ。

 ランデル南部に現れた義勇兵を蹴散らせ。続く者が出ないように徹底的にやれ。

 同時に、損耗の少ないゼリエの部隊を、援軍を排除しつつ南からの攻略に向かわせる」


ビリジオの隊の被害と比べると、ゼリエの部隊は損害が少なかった。

奇襲はカヤハルの部隊と戦闘中のビリジオの隊に集中し、

ゼリエの部隊は自由に動けたので、奇襲の被害を受けづらかったためだ。


ビリジオの部隊が被害を受けたため、その補助的な役目を担うゼリエの隊も、ビリジオ隊を支援しつつ、陣地に戻っていた。


戻って、ほんの一息ついたころには、再出撃の命令が届く。


「これだけの人数の兵が集まっているのに、なんでうちの部隊なんですかね?」


そう思うのも無理はない。

攻めてこない敵を相手に、守備が多すぎるように見える。


攻撃部隊から見ればそう見える。

今陣地内に見えている兵は、攻撃部隊の者はほとんどいないのだから。


まともに答える必要は無いが、ゼリエはこう説明した。

「今日の仕事が終わる前に戻ってきたからだ」


それで士気が上がるとは思っていない。

どうせ兵たちも、愚痴で何かが変わるとは思っていないので問題ない。


どう考えても、最終的には勝てる戦。

もちろん、戦えば犠牲は出るだろう。だが、全滅必至で攻める必要はない。


そういう意味では気楽だった。

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