40-01.縮んだパンツ
今回は異世界側に戻ってきてしまったおっさん主観です。
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どうやら到着したようだ。
転移は俺の能力だと思うのだが、転移のきっかけは俺には無いように感じることが多い。
実は俺が自力で転移したつもりのときでも、実際には最後の引き金が俺の意思だっただけで、
俺の意思だけでは転移はできないのかもしれない。
そう感じた。
何かしらの仕掛け無しには、俺は転移することはできないのかもしれない。
自由に転移できたら、俺はどこかに逃げてしまうかもしれないから、そういう仕組みになっていても納得なのだが。
いつもの癖で、こんなことを考えてしまう。
もう、俺には転移の方法を知る意味など無い。
俺が無事にこの世界で成仏できれば、今後転移する機会は無いだろうから。
転移は、一度はじまってしまえば、特に俺が何をするでもなく、
予定の場所に勝手に着くように思える。
俺には、目的地を目指して何かをしている自覚は無い。
戻り先の時代は狙ったことがあるが、狙ったところには到着しなかった。
今まで何度も転移したが、転移すると、しばらくの間、相当酷い体調不良に悩まされることが多い。
今回はそれがない。
今回は記憶を失っていないので転移酔いは無いようだ。
まあ、胃がムカムカするというか、多少は気分悪いが、行動不能というほどではない。
転移は一瞬ではない。
これは毎回だと思うが、けっこう時間がかかる印象がある。
今回も、俺の体感でも10時間くらいかかっているのではないかと感じるが、
こっちの世界での時間はもっともっとずっと長いと思う。
俺がある程度、この世界に馴染んでから行動可能になるように感じる。
まあ、こんなことも今回が最後だと思うが。
現時点で帰還アイテムがすべて使用済み。
首の骨という帰還アイテムがあるが、人間の首の骨は7個。
既に7個使用済みだ。
首の骨が揃った状態で地球に転移すると、俺は多分、爆散して面倒なことになるので、もう帰還する機会は無い。
それはそうと、いつの間にかに人間の体に戻っている。
あっちの世界で既に俺は人間の体を失っていたので、こっちに来た時、どんな姿になるのか多少なりとも心配していたが、あっちの人間の体が使えなくなった状態でも、こっちでは使えるようだ。
転移中は、自分の体がどんな形なのかは良く分からない。
……こっちの世界にきても、自分の体が見えないこともあったと思うが、今回は、ちゃんと体が見える。
そして、時間とともに景色もしっかり見えるようになってきた。
見覚えのある景色。
また戻ってきてしまった。
まあ、もともと、この世界の神様になるという条件で妻の願いを叶えたのだが、
俺は既にこの世界には何度も来ていて、約束を果たしに来たというよりは、
撤退したつもりだった場所に再び送られた感がある。
はじめて来たなら、違う気持ちになれたのだろうが、
今はあんまり前向きな気持ちにはなれそうもない。
これからやらなきゃならないことを考えると、頭が痛い。
たぶん、俺が【ちゅうかまん】を倒さなきゃならないと思うのだが、今は【ちゅうかまん】は休眠期っぽい。
俺には……たぶんお互いにだと思うが、俺と中華まんはお互いに、相手の大雑把な状態を知ることができる。
俺が帰る前は活動期だった。俺の不在を知った中華まんは、神殿跡地を破壊しにくるはずだ。
そして、撃退できる者は居ない。
神殿跡地が破壊された後にしては、中華まんの様子がおかしい。
神殿跡地の破壊に成功した感じではなく、こっぴどくやられて回復のために休眠しているように感じる。
あれを撃退できる存在はほとんどいない。
おそらく、ガスパールと俺だけ。
ガスパールはあの時代には居なかった。
もう既に死んでいると思っていたが、オーテルが会ってるから、もっと未来には居たようだ。
どうにかして未来に行ったのだろう。俺が過ごしたあの時代にはガスパールは居なかった。
俺も時間を戻したことが何度もあるくらいだから、ガスパールは未来に行ったのだろう。
中華まんを撃退できる者が不在の状況でこうなるのは妙だ。
そう考えると、少し前の時代に戻ったのだろうか?
或いは、もっと後の時代? 中華まんが消耗する理由が何かあるのだろうか?
既に城壁下のストーンサークルが破壊された後だと、非常に困ったことになる。
あっち側に居る限り、俺が攻め込めない。
城壁のサークルが破壊されてたとしたら、あいつが襲ってくるときに退治すれば良いのだろうが、次に活動期に入るのはいつ頃なのだろうか?
まあ、でも、その前に、女たちをどうにかしなきゃならないような気がする。
地球に戻る前は記憶になかったが、あっちでいろいろ思い出してしまった。
洋子さんの願いを叶えるためとは言え、俺は過去に大きな負債イベントを実行してしまった。
俺はそんなことを望んだわけでは無いが、行った先で、成り行きでルルを将来妻にする約束をさせられてしまったのだ。
まあ、あのときのルルは子供だったから、子供の言う
『大きくなったらパパのお嫁さんになってあげる』
的なやつだと思うが、
父親のガスパールの頼みでもあるから、断るのに苦労しそうだ。
ルルが忘れていてくれれば良いのだが。
そもそも、あれからだいぶ時代が流れ、あいつらも良い年になっている可能性も無くはない……
いや、俺にとって都合の悪いタイミングである可能性が高いのだが。
今はいつの時代なのだろうか?
ルルは置いておくとして、エスティアは何とかする必要がある。
俺は知らなかったが、実は神様は譲渡可能なのだ。
俺の知らないところで譲渡会が発生した。
俺はエスティアに譲渡されてしまったから、たぶん、何かをしてエスティアに解放してもらわなきゃならない。
そう考えると、おそらくは、エスティアは存在しているはずだ。
エスティアの身に危険が迫れば、俺はおそらくその場に召喚されると思う。
だったら話は早いのだが、たぶん、そういうイベントは起きなかったのだ。
開放してもらうためにはエスティアにもパンツを貰えば良いのだろうか?
簡単には解放してもらえない気がする。
それにしても、なんであんなに一生懸命俺を探していたのだろうか?
特に頼まれなくても、俺はちゃんと【ちゅうかまん】を始末するつもりだ。
だから、譲渡の必要なんてなかった。
パンツがお役御免の証拠になっているのだろうが、パンツは強制転移アイテムでもある。
パンツを貰うと、別の世界に行くことになりそうだ。
俺はそんなものを集めているわけではない。
ただ、解放して欲しいのだ。
洋子さんも罪なことをしてくれたものだ。
洋子さんがどう考えたのかは正確にはわからないが、
洋子さんとエスティアでは違うのだ。
洋子さんは俺が死人であることをよく知っている。
既に失った夫が死後に妻の願いを叶えるために一時的に存在していただけ。
俺には人権など無かった。人間じゃないから仕方ないのだが。
洋子さんは、俺が死んだことを知っていた。だから、いつか手放すことを意識していた。
だが、エスティアは行方不明のおっさんを発見して、元の持ち主から譲渡されたとしか思っていないだろうから、俺が寿命で勝手に死んだりするまでは俺を解放しないように思う。
俺には人権が無さそうだが、この世界全般に、男はあんまり人権無さそうだ。
まあ、この世界にはまだ人権という概念がないのだろうけど。
エスティアは特に元から俺を自分の所有物のように扱っていた。
せめて他の女なら……と思うが、テーラは解放してくれなさそうだし、
アイスも無理だろうな。
リナは我慢してしまう子だから、かえってかわいそうなことになってしまう。
ルルとリーディアなら……
解放してくれるだろうが、解放するという決断をするのは辛いと思う。
そう考えるとエスティアで良かったのか。
なかなか解放してくれないと思うが、最後の最後は手放してくれそうだ。
譲渡なんてしなければ、気にせずに済んだのに。
「なんで勝手に譲渡するんだよ」
洋子さんのパンツに文句を言う。
洋子さんに声が届いたりはしないと思うが、本人がいないので、代わりの品だ。
まあ、形見だし、用途として間違っていないと思う。
それはそうと、なんだか少しばかり小さくなった気がする。
俺の世界の女性用パンツは、やたら小さくなる。
こいつは日本から持ってきたものだから、丸めるととても小さいのは、元からそういうものなのだが、
それにしても小さく感じる。
「こんな大きさだったか?」
独り言だ。
広げてみるが、とても小さい。
気のせいではなさそうだ。
唯ちゃんのも確認するが、やはり小さい。
ここの人間にちょうど良いくらいの大きさかもしれない。
パンツが小さくなったのではなく、俺が大きくなったのか?
とりあえず、パンツは本当に転移で運べることがわかった。
もうちょっとマシなものを運びたかったが、まあ、もう転移する機会もないし、パンツしか運べないのだとしても問題ないのだろう。
う~む。
このパンツが小さく見えるのだから、大きいのは俺の方かもしれない。
今まで、ここの人たちが小さいのかと思っていたが……
いや、パンツが縮んだのかもしれない。
ここの人間の体格に合わせてパンツが縮んだのだとは考えたくないが、
俺が持っていくのはパンツで確定していたり2つ必要だったりしていたことを考えると、
パンツがここの人間サイズに変化した可能性もありそうだ。
実用アイテムである可能性がある。
着用可能なサイズに変化したと考えると辻褄があうが、2枚ある意味は何なのだろうか?
俺は妻を2人選ぶことになる?
俺は妻にこれを与えたりはしないだろう……だが気になる。
俺はこれを誰かにあげたりはしないと思うのだが、あげなきゃならない事情ができるのか?
ふと気づく。
全裸の巨大なおっさんが女物のパンツと会話する姿はかなり異様なものだろう。
たぶん、初期状態では、俺は誰からも認識されない状態なので、全裸で魅惑のポーズとかしていても問題ないのだが、俺は裸族ではないので、服を着ていた方がしっくり来る。
服はいつもだいたい同じ場所に置いてある。
それはそうと困ったことがある。
この体、しっぽがないのに、股関節が尻尾つきのときの形に変形している。
尻尾がないのにこの足ははじめてだな……と呑気なことを考えていたが、けっこう深刻だった。
立ち上がるのに苦労しつつ、服を着るが、この服も尻尾があるとき用のもので、尻に大穴が空いている。
これで人前には出られない。
尻尾がないと、止める場所がないが、腰鎧を巻いておく。
無いよりはマシだろう。
俺のために用意されていた服は、しっぽ穴の開いた服に、尻尾鎧。
これで、時間の絞り込みができる。
尻尾穴があると言うことは、俺に尻尾が生えた以降ということになる。
少なくとも時間はそんなに遡っていない。
もともとは尻尾なんて無かったのだが、あるとき急に生えたのだ。
だから、俺が何度かこの世界に来た時、毎回、服にしっぽ穴は無かった。
たぶん、ここで尻尾対応の服は初めてだと思う。
だが、今の俺には尻尾が生えていない。
股関節の形は、尻尾がある前提になっているので、これでは俺はほとんど歩けないと思う。
あの巨大なしっぽの有無というのは、陸上機に付けたフロートくらい、すごい大きさだ。
零戦と二式水戦……零戦は陸上機ではないが、降着装置がフロートと車輪の差という意味で……
この例えじゃわからんか。
滑走路で運用する飛行機にでっかいフロートを付けると水上機になる。
元から水上機を作るなら、機体自体を船のような形にして、翼には、水平を保てる程度の小さなフロートを付ければよいのだが、陸上機を水上機として使う場合は、大きなフロートを付ける必要がある。
そんなでっかいフロートがあると、バランスが大きく変化するので、付いている前提でバランスを合わせる。
この状態で、フロートが無くなると、バランスが崩れて、うまく飛ばすのが難しくなる。
今の俺は、フロートがある前提のバランスなのに、メインのフロートが無いような感じでバランスが悪い。
俺がこの世界に来たとき、尻尾は無かった。
なぜか突然生えてきたのだ。
あるとき尾骨が痛いと思ったら、そのまま伸びて、凄いのが生えてきた。
尻尾が生えてきたとき、最初のうちは、猫の尻尾みたいなものを想像してたのだが、
実際生えてきたのはワニっぽいやつだった。
尾骨が出っ張ってきたと思ったら、あんなのが生えた。
元の骨格だと、あんなのが生えるスペース無いので、股のあたりの骨格がセットで変化した。
小さな尾骨から、あんなに大きな変化が起きるとは……
まあ、現代日本でも、尾骨にはいろいろあったわけだが……
ここでビビっときた。
尾骨? お、おお! 尾骨!!
そういえば、今俺は尾骨を持っている。
そして、ここにつけろみたいな感じで、スポッとはまる。
おお! なんか、黎明期のPCゲームのアドベンチャーゲームみたいだ!
アイテムそれしか持ってなくて、そのアイテムすぐ使うという。
この尾骨は、唯ちゃんが生まれるために必要だったもので、成長したら不要になったものだ。
それを回収して俺が異世界で再利用する……
なんか、俺の尻に装着可能だし、元々、俺の尾骨なのではないだろうか?
そう思っている間にも伸び始めた気がする。
尾骨は早くもくっついてしまったようだ。
うむ。こんな馬鹿げた状態でも、体の変化には、それなり違和感がある。
前はもっと酷かったと思うが、痛痒いのだ。
気を逸らすために石の記憶を読む。
俺の、俺の世界での歴史。
最終的に確定した歴史だ。
俺はこの歴史を主観的に体験することはできなかったのだが、
石の記憶で読むことはできる。
俺が一番最初にまだ人間だった頃より理想に近いものになっている。
この記憶があれば、俺は満足して成仏できるのだが。
結局俺が49歳で死ぬのは変えられなくて、そこに関しては申し訳なく思うが、
あのまま死ねたら幸せだった。
この記憶をご褒美と思って、これから神様をやってくれということなのだろう。
この世界で神様役をする。
それは、俺がした約束だから仕方がないと思っている。




