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挿絵(By みてみん)

3、


二年の夏休みには、漣とふたり、自転車で富士五湖巡りを楽しんだ。

ユースホステルやキャンプ場に泊まり、釣りやラフティングに挑戦したりと、何もかもが楽しかった。

夜、枕を並べて寝るまでの時間、お互いの心を素直に白状しあう。

俺はついに女子とつきあったことを漣に告白した。

漣は黙って聞いてくれた。

「別れてホッとしたよ。別にそんなに好きな子じゃなかったしさ。今は気になる女の子は居ないね」と言うと、漣は「僕もだよ」と、言う。

その言葉に、正直俺は胸を撫で下ろした。


何故だろう。

漣を誰かに取られたくないって、どうしても思ってしまう。

漣は男で、俺たちの間には、友情の絆しかないはずなのに…

それとも…

もっと違う感情が存在したりするのだろうか?



「栄嗣、僕ね、来年受験生なんだよね」

漣はこちらを見つめ、ふと漏らした。

「あ?ああ、そっか、三年生だもんな。普通はそうだよな」

高専は五年生まであるから、ピンとこなかった。

「それでね、一応進路を決めなきゃならないんだけどさ…あのさ、僕、ロボット工学科のある大学を受けようと思っているんだ」

「…え?」

「絶対に栄嗣の影響だね」

漣は愉快そうに笑う。

その声が俺の心を打つ。


「漣…」

「栄嗣に色んな話聞かせてもらって、そんでわからないことも教えてもらって、僕もロボット製作に興味を持ったってことだろうなあ~」

「だって、おまえ、文系だったんじゃねえ?」

「うん、そうだったけどね、真面目に勉強してみたら物理や数学が面白くなっちゃってさ。結構良い点取ったりするんだよ。先生も理系に進学したいって言ったら、応援してくれるってさ」

「…それでいいのか?」

「うん、これからも栄嗣と色んな話をしたい。ほら、共通の話題とか趣味とか持っていたら、ずっと友情が続くっていうだろ?あ、別に無理してるわけじゃないから、栄嗣は全然気にすることないんだよ。どっちかっていうと、未来の目標を見据えることができて、栄嗣に感謝してる。それまでは自分の将来とか真面目に考えた事なかったからさ」

「そっか、漣が俺と同じ機械技術者になるのか…なんか、なんかすげえ…うれしいよ」

「栄嗣の目指すロボット製作に、僕もちょっとでも関われたら…なんてさ、夢みたいなこと思っていると、すごくやる気が沸いてくるんだ…って、ちょ…栄嗣、なに、泣いてんのさ…」


漣の言葉に俺は感動して泣いてしまった。

漣は困っていたけれど、その涙は漣への感謝だったりもするから、止まるわけがない。

嬉しくて、嬉しくて…

毛布にくるまって寝ている漣をギュッと抱きしめた。

漣は「栄嗣って泣くと赤ん坊みたいになるんだね。新しい発見だよ」と、俺の頭を撫でながら笑ってくれた。



三年になり、俺は全国高専ロボットコンテストに出場する為のロボットのデザインと設計作りに取り掛かった。

校内の選抜を得て、校内代表としての資格を得ることになる。

勿論、俺の提案したロボット設計に協力し合うチーム作りから始まる。

信頼できる仲間を得る為に、説明会を開き、強力なサポートメンバーを募ることになる。

俺は先輩らとは組まず、同期の連中と試行錯誤しながら、作り上げることにした。

平岡はもちろん、その他4人との綿密な設計、戦略等を練り、並み居る校内のライバルに打ち勝ち、地区予選に出場する権利をなんとか勝ち得た。


しかし、それからが大問題だ。

設計通りに作り上げることができても、思い通りに動きまわる完全なロボットの完成までは難しく、失敗の度にへこたれそうになった。

思い通りに動かないロボットにヤキモキし、仲間同士の険悪な雰囲気、本気の口げんかなど、何回ぶちきれそうになった事か…。


その度に、俺は漣に泣き事や愚痴をぶちまけた。

漣は少しも嫌がらず、俺を励まし続け、「栄嗣ならやれるよ」と背中を押し、ちょっとした代案を勧めてくれたり、面白い発想を聞かせてくれたりする。

漣の助言や励ましで俺はどれだけ救われただろう。

その度に、漣は「親友だろ?栄嗣が辛い時は、僕が支えになるよ。いつだって僕は栄嗣の味方だからね」と、言ってくれるんだ。


今まで俺はこんなに誰かを必要としただろうか。

漣のように誰かの為に、必死に支えたことがあっただろうか…


俺は…漣の為に何をしてやれるんだろう。



ロボット製作には平岡のクラスの本田もチームの一員として参加してくれた。

本田は制御システムコンポジションに長け、上手い具合にロボットを調教してくれる。

平岡から俺のクラスの風間と付き合っていると聞いていたから、最初は少しだけ意識してしまう時もあったけれど、彼のロボット製作に携わる真摯な姿勢と取り組みに、信頼を置くようになった。


そして、ロボット製作も大詰めを迎えた。

夏休みも返上してのロボットの試運転が繰り返され、俺たちは手ごたえを感じていた。

ある昼下がり、たまたま本田とふたりきりになる機会があった。

ふと、俺はどうしても本田に聞いてみたくなり、心に引っかかっていたことを打ち明けた。


「なあ、本田」

「なに?」

「あのさ、おまえ…うちのクラスの風間と付き合っているって…聞いたんだけどさ。ホント?」

「…」

本田は鬱陶しそうな顔で俺を睨み返した。


「ひやかしとか好奇心…じゃないんだ」

「じゃあ、なんだよ。俺が男と付き合うこととロボット制作に関係があるのか?」

「違うよ。たださ…俺も悩んでいることがあって…」

「…」

「親友がいてさ。すげえ大事な奴なんだ。もし、奴が誰かと付き合ったりしたら、俺はきっとすげえ落ち込むだろうなあ~って、思う。そういうのは変なんだろうか?親友としておかしいのかな?…自分の気持ちが…わからないんだよ。だから…本田がどんなふうに、風間と付き合うことになったのか…知りたいと思ったんだ。気分を害したのなら、謝るよ」

俺の言葉に本田は少しだけ固くなった顔を和らげ、視線を目の前にあるロボットに移した。


「別に謝るこたあねえし…そうだな。俺も…初めは友情だって思ってたよ。一年の時、学生寮であいつと相部屋になって…風間は東北訛りがあってさ。最初何言ってるのかわかんなくて、すげえ、めんどくせえなあ~とか、思ってたんだけど、打ち解けてしまえば気のいい奴でさ。お互いの得意な科目、苦手な科目を教えあって、ヤマ勘が当たった時にはお互いめっちゃ喜んだり…楽しかったよ。あいつはすげえ情に厚くて、思いやりがあって…。卒業しても親友だな…なんてさ、言いあったり…。だけど、なんか…あいつがホームシックでちょっと落ち込んで、泣いてた時があって…なんだかすげえ愛おしく思えて…さ…。友情なのか、それ以外のものなのか…お互いわからなくなって…。怖かったよ。別に俺も風間もホモじゃないからな。男が好きなわけじゃないもの…」

本田は、持っていたペットボトルの炭酸ジュースを飲み干した。


「相手を好きだと理解するまで、何度も話し合ったし、ぶつかり合ったよ。でも…やっぱり友情とは違うんだって…寝てみて、初めてわかったんだ」

「…」

「そう言うことさ」

「…それって…寝てみないと恋か友情か、わからないってこと?」

「相手とキスしたい、セックスしたいって思うのが恋愛で、そうじゃないのが友情…と、決めてしまえば簡単だろうな。…まあ、そんな簡単に割り切れるかどうかは、それぞれだろうけどさ」

「…」


俺は想像してみた。

漣とキスする…できるかもしれない。

漣とセックスする……ちょっと、無理…かもしれない。


腕を組んで考え込む俺を見て、本田は声を上げて笑う。

「おまえ、本気で妄想してる?あはは…。柊木っておもしれえなあ~。超真面目~」

「…笑うことないだろ?結構マジに悩んでいるんだからな」

「そうだな。悩むことはいいことさ。悩まない恋なんて、つまらないからなあ~。俺たちだってこの先どうなるかわからねえよ。でもさ、あいつを好きになったってことは、一生後悔しない。そう信じることが出来る。それって結構上等な人生かもしれないってな…そう、思えるよ」

「ありがと。随分勉強になったよ」

「って、言うかさ。柊木、おまえの気持ちも大事だろうけれど、相手の気持ちがあってこその恋愛だぜ?相手に打ち明ける時は、覚悟しろよ。恋どころか友情も無くしかねないからな」

「わかった。よく考えてみるぜ!」


俺は立ち上がって、飲みかけのコーラを本田に差し出した。

本田は呆れた顔をして、ペットボトルを受け取り「頑張れよ」と、笑った。



俺は制作したロボットに「さざなみ号」と、名付けた。

俺なりに漣への気持ちをロボットに託してみたんだ。

もし、この漣号が全国まで勝ち進んで、良い成績を治められたら、俺は漣の気持ちを確かめてみよう、と、覚悟を決めていた。


地区予選を勝ち上がり、11月も終わる頃、国技館での本選を迎えた。

俺たちの「漣号」は三回戦の準々決勝で敗れたが、アイデア賞に輝いた。

俺たちは絶対優勝だと意気込んでいたから、中途半端な勝敗と、なんだか微妙な賞に、チーム内は変なテンションだったけれど、学校は久々の快挙と盛り上がり、先生も生徒も大喜びだった。

盛り上がる最中、俺は漣の姿を探した。

本選には必ず駆けつけると、俺に約束したからだ。

俺の作った「漣号」を、漣に見せてやりたい。

「漣号」で、優勝したかった。

チームのみんなだけじゃなく、漣の応援があったから、ここまで頑張れたんだ。

「ありがとう」って、漣に言いたかった。


だけど、その日、漣には会えなかった。

テレビの放送や雑誌関係のインタビューなどの関係者で会場も裏もごった返し、身動きが取れなかった。



二日後、学生寮に漣から小さな小包が届いていた。

開けてみると、小さな空の箱の中に、リボンと小さく畳まれたメモ用紙。

箱の中からは微かにチョコレートの匂いがした。


俺はメモ用紙を開いた。



  栄嗣、おめでとう。

  優勝は逃しちゃったけれど、とてもかっこよかったよ、栄嗣も「漣号」も。


  あの日、僕は君に告白するつもりだった。

  この空の箱には意味があるんだよ。

  三年前、君に渡せなかったバレンタインのチョコだ。


  ずっと前から、君が好きだった。

  中学の入学式の時から、栄嗣は僕の憧れだった。

  今もそうだよ。君が好きだ。

  だけど、その一方で、僕は君の親友であり続けたい。

  だから、君の望む「仁井部漣」であろうと、思っているんだ。


  もし、この告白が君の望むものでなかったなら、どうか忘れて欲しい。

  次に君に会う時は、僕は栄嗣の親友の漣でいるから。




「…」


これまでの漣の想いに気づかずにいた俺って…


「アホかっ!」


どれだけの想いで漣は俺を見つめ、親友として付き合ってくれて来たのだろう。


「はあ~…」


自分のふがいなさと、漣の告白の嬉しさに力が抜け、俺はその場にへたり込んでしまった。





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