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挿絵(By みてみん)


続・バレンタインデー 2



翌春、俺と漣はそれぞれに希望の高校へ進学することになった。

漣は地元の進学校。俺は東京の高専へ入学する。

自宅から通学できないことはないけれど、片道二時間程かかる為、俺は学校寮に入ることにした。

一年生は全員二人部屋でほとんどが寮生活は初めてだから、最初はお互いぎこちないけれど、他人行儀している暇もない程に授業や実技が厳しく、お互いに協力し合いながら、付き合いに慣れていく。

俺の選んだ機械工学科は一般授業の他に応用技術の実践の為の準備、レポートの提出、繁盛な校内テストなど、中学時代には考えられないハードさで、正直、自信を失うことも多い。

そんな時、頭に思い浮かべるのはいつだって漣の姿だった。


中学卒業と同時に、ふたりお揃いの携帯電話を買い、毎日のように今日あったことをメールする。

それでも足りない時は、電話を掛ける。

掛ける割合は俺が圧倒的に多く、喋るのも俺の愚痴が多いけれど、漣は真面目に聞いてくれ、落ち込んだり、苛立ったりする俺を宥め、励ましてくれる。


土、日にはできるだけ実家へ帰り、漣に会いに行く。

俺たちの住む住宅地から五分ほど歩くた場所に、小高い山がある。

その山頂までの遊歩道は狭く曲がりくねった坂道で、周りの木々や植物を楽しみながらゆっくりと登って行くんだ。

春は桜の花見、夏は虫取り、秋は紅葉と四季それぞれに楽しめる地元の隠れた名所でもある。

だけど今は初夏で、蒸し暑く、狭い山頂もベンチすらないから人影も少ない。

俺と漣は木造の小さな展望台の屋上に並んでしゃがみ込んだ。

ここからは俺たちの街が一望できる。

天気の良い日は遠くの海岸線まではっきりと見渡せ、爽快な気分になれる。


俺と漣は中学の頃から、この場所がお気に入りで、早朝や夜中にも、ふたりきりで寝転んで空を見上げて過ごすことも多かった。


「なあ、漣。高校生活ってどんな感じ?」

「うん、まあまあかな~。中一の時、同じクラスだった木山とバスケ部の矢内がたまたま僕と同じクラスになったんだ。だからそんなに気を使わないで済むよ」

「ふうん」

「まあ、最初の頃はみんな他所他所しいけど、この間体育祭があってさ。あーゆーのってクラス全員の団結意識が高まるじゃん。それで上手い具合打ち解けあって、今はいい雰囲気になってるよ」

「そっか…良かったじゃん」


良かった、とは言ってみても、なんだか素直に喜ぶ気分じゃなかった。と、言うより、わけのわからぬもやもやしたものが渦巻いて、段々と苛ついてくる。

理由はわかっている。

俺の知らないところで、俺の親友が俺じゃない誰かと親しくしていることが、気に入らないんだ。

馬鹿みたいだけれど…マジで悔しい。

…これって嫉妬って奴なのか?


大体、学校生活っていうのは家族といるよりもクラスの仲間といる時間が長い。

気の合った仲間と友情が深まるのは当然だ。

そんなことわかっていたんだ。

だけど、自分で決めた事なのに、今になって、漣と別々の高校を選んだことを後悔していた。


幼い頃、父の転勤で遠くに離れてしまえば、仲良しだった友達も、時間と共にただの知り合いになっていった。

遠距離の友情は続かないって、わかっていたのにさ…。


「あのさ、漣」

「なに?」

「親友…重く感じたりしたら、やめてもいいんだぜ」

「…え?」

「漣には漣の…新しい生活とか新しい友人とかさ…俺よりもっと気の合う奴が見つかったなら、俺に気を使わなくていいから」

「栄嗣…それって、もう僕は親友じゃないって…言ってるの?」

「違うっ!…違うよ。俺…漣と一緒にA校目指してたのに、俺が勝手に裏切って、地元から離れて…そんで漣が中学の連中と仲よくしてるって聞いて、めちゃくちゃ妬いているんだよ。…ったく、自分で嫌になる。こんな器のちっせい俺って、サイテーだよ。漣に甘えて愚痴ばっかだしさ」

「そんな事…ないよ。僕、栄嗣が愚痴ってくれるの、嬉しいよ。だってそれって栄嗣が僕を信頼して、甘えてくれているからだろ?…僕も栄嗣が僕の知らない学校生活を楽しんでいるのを聞くと、すごく辛くなる時がある。栄嗣はきっと沢山の共通の意思を持った友達に囲まれて、勉強して、一緒に生活しているんだなあ~って、考えたりするとさ。僕が栄嗣の親友でいいんだろうか…って、自信失くすよ。でもね、いつだって栄嗣の一番でいられるように、恥ずかしくない自分であろうって思っているんだ。同じ学校じゃなくても、一緒に居る時間が少なくても、ずっと親友同士、気持ちを分かち合いたい…栄嗣の愚痴や言いたいことを沢山聞いて、栄嗣を理解したい。栄嗣の力になりたい。勿論、僕も栄嗣に愚痴とか弱音とか聞いてもらうことになるけどさ。それはお互い様だよね」

「…漣」

「だから、毎日顔を合わせられなくても携帯で声を聞いたりメールしたりしてさ、今までと変わらないでいたいよ。少し大変かなって思っても、栄嗣が大好きだから…僕は栄嗣の親友を辞めたくない。これって僕の我儘なのかな?」

「違う!我儘じゃないよ。…漣…ありがとな。俺、これからも漣に甘えてもいいか?」

「もちろんだよ、栄嗣。だって僕たち親友じゃん」

そう言って笑う漣に、俺はどれだけ救われているんだろう。



二年生になると寮生活は一変し、一人部屋に移る。

相変わらず寮の掟は厳しいけれど、寮生活にも慣れ、同時にふたりでいたころの窮屈さから解放され、誰もが途端に変なテンションになりがちだ。

何処からともなく異性交遊の噂があちこちで聞こえてくる。


学校では二年生からは本格的な自作機械を製作することになる。

テーマを決めて、それぞれのポジションに合わせ、目的の精密機械を工作していくのだ。

ロボット的な機械を製作するには、色々な専門知識が必要になる。だから基本のアクチュエータやデザインは俺の担当で、人工知能や制御システムなど、機械工学科だけではなく、電気や電子工学科や情報科の学生と意見を交換しながら作り上げていく。

講師は目的の作業と期日を示すだけで、ロボットを一から作り上げていくのは俺たちだけで行うことになる。

示された目的に興味があるグループ同士、自然と仲間意識が強くなり、絆も深くなっていく。

電気工学科の山岡大輔とはとくに議論し合うことも多く、制作の事だけじゃなく、プライベートな話でも盛り上がる。

教師の悪口やら、エロ話やら、付き合っている彼女の話など…。

俺は恋愛にはあまり興味がなかったけれど、何事も経験は大事だと、都合よく同じクラスの子に交際を申し込まれ、付き合うことにした。


高専には女子生徒は少なく、貴重な存在でかわいい子はもてはやされたりするけれど、元々男を漁りに来ているわけもない目的を持った理系の女子であり、男っぽい子が多いから、こちらもあまり女子を異性の目で見る時は少ない。

さりとて、彼氏の居ない女子は僅かだ。

校内では一応男女交際は禁止されているし、学生寮も男女の行き来は隔絶されている。それでもこっそり夜這いを仕掛ける奴も多く、それで交際を始めたカップルもいると聞く。


俺も交際を求めて来た女子とはあまり喋ったこともなかったけれど、高校二年にもなればデートぐらいは当たり前だろうと何回か映画や買い物へ誘ってみた。

キスもしたことはしたけれど、そんなに心に残る程でもなかった。


或る日、観たかったSF映画に誘って、一緒に観てからの帰り、カフェで映画の感想なんかを喋っていたら、彼女が突然不機嫌そうな顔をした。

「E子ちゃん、映画面白くなかった?」

「…柊木くんってさ、思ったよりもつまらないんだね」

「え?」

「見た目があたし好みだったから、いいなって思っちゃって、二か月つきあってみたけど、…なんかさぁ、トキメキ感がないんだもの。がっかりしちゃった」

「…」

「悪いんだけど、あたし達、今日限りでつきあうの、やめにしない?」


はあ?つきあうのやめにしない?…は、まだいいとして…。

つまらない?…トキメキ感がない?…それって俺の事?

それって俺が残念な人ってハンコ押されたようなもんじゃん。

ちょっと、ひどくね?そっちから交際を申し込んでおいてさ。


今までそんなことを言われたことがなかったから愕然となった。

高校に入るまでは、俺、クラスの人気者だったんですけど…


唖然となりすぎて言葉がでない俺に、彼女は畳みかけた。

「柊木くんってさ、恋愛したことないでしょ?」

「え?…」

「そんな感じだよ。相手への思いやりとかさ、あんま感じられないんだよね」

「そ、かなあ~。俺、人付き合いが悪いとか、言われた事ないんだけど…」

「イケメンだし、それなりに人付き合いもいいし、割と頼れるし…完璧なんだけどねえ…。心はここに在らず…って感じ。つまり、愛されてる感じがしないの」

「そう…ですか…」


別に君を愛したことは一度もないんだけど、と、言い返したかったけれど、色んなダメージが俺を追い込んでいたので、その後も彼女の一方的な言いたい放題で、別れてしまった。



それを山岡に話したら、大いに笑われてしまった。

「おまえねぇ~、二か月もつきあっててキスだけってさ。そりゃ、愛されてないって思うわな~。ちゃんとセックスしてやれよ」

「だってまだ高2だぜ?」

「おまえ、もしかしたら童貞?…って、俺もそうですけど。まあ、なんやかんや言っても、女子は早熟だし、そういう意味でここは相手にも困らないし、向こうは初めてじゃないだろうから、おまえとやりたがったんだと思うぜ?」

「そうなのか?」

そう言われても、俺はE子とセックスしたいだなんて全然思えなかったんだ。

それを言ったら、山岡は「じゃあ、もしかしたら、柊木は男の方がいいのかもしれないね」と、思ってみないことを言いだす。

「はあ?」

思わず上ずった声を出した。

「そんなに驚くなよ。今時珍しくないし…ほら、おまえのクラスの風間と俺のクラスの本田、あいつら付き合っているんだってさ」

「マジかあ?」

「友達でいる分は良い奴らだけどさ、そういう目で俺らも見られていると思うと、気色悪くなる。…って、言ってる俺が一番ダサいんだけどな。彼女居ないし、童貞だし…」と、山岡は肩を落とす。

ゲイだからって彼らを見下すのは間違っている。けれど、モテないからって卑屈になる必要はないだろうと、俺は山岡を励ました。



同性愛か…

そんなこと考えたこともなかったけれど、山岡から言われて、何故か漣の顔が浮かんだ。

俺は漣をそんな目で見たことはなかったけれど、もしかしたら俺の望んでいる親友という絆は「恋」とか「愛」に近いのだろうか…と。



その後、漣と会っていても、E子との話は漣にはしなかった。

どうしても言う気にはなれなかった。


もし、漣に彼女が出来て、俺がその話を聞きたいだろうか…と、思うと、全く聞きたくないと思ったからだ。





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